プレイヤーの希望額を考慮に入れた 配分決定問題

′
′′
が投票する任意の時間 υ′ , υ′′ (υ′ , υ′′ ) において συi = συi が成
り立つ時、σ∗ は定常的部分ゲーム完全均衡 (SSPE) 戦略であると
プレイヤーの希望額を考慮に入れた
配分決定問題
Resource Allocation and Agents’ Demands
いう。
ある SSPEσ = (σ1 , ..., σn ) に対して、σ における期待利得の組を
v(σ) = (v1 , ..., vn ) とする。
2.3
公共システムプログラム
10_25551 横山春樹 Haruki YOKOYAMA
効用関数
プレイヤーの効用関数について以下の2通りを考える。
ケース1
指導教員 武藤 滋夫 Adviser Shigeo MUTO
第 t 期において、提案者 k が過半数の票を獲得した時の
プレイヤー i ∈ N の効用関数を以下のように定義する。
{
1 はじめに
u (x , t) =
i
複数の意思決定主体が利得を配分する状況は社会において多く見
受けられる。本研究では、Baron and Ferejohn (1989) をベースにし
ケース2
{
ui (xk , t) =
に対して希望を持っている状況を仮定し、複数人の配分決定問題に
(xk , O)
(xk = O)
(2)
あり、ケース2における希望額は、プレイヤーにとって合意するた
めには最低限必要な利得と考えることができる。その点ではケース
記号の定義
• プレイヤーの集合 : N = {1, ..., n} (n は奇数であると仮定)
• 提携 ∅ , S ⊆ N (|S | を提携 S におけるプレイヤーの人数と
する。)
• プレイヤー i ∈ N の希望額 : di > 0
• 割引因子 : δ ∈ (0, 1)
• 利得ベクトル : x = (x1 , ..., xn )
∑
• 実現可能な利得ベクトル : nj=1 x j ≤ 1 を満たす利得ベクトル x
• xi ≥ 0 ∀i ∈ N を満たす実現可能ベクトル x の集合 : X+
{
}
• Wi := S ⊆ N | S ∋ i, |S | ≥ n+1
2
1とケース2における希望額は対照的である。以下では、上の (1)
式及び (2) 式で定義された効用関数を仮定して、それぞれの場合に
おける SSPE 及び SPE について分析をする。
分析
3
3.1
先行研究における結果
ベンチマークとしてプレイヤー i の効用を ui (xk , t) = δt−1 xik で定
義した場合の SSPE について紹介する。
命題 1. 全ての SSPEσ において、第1期の提案者 i は以下の最大化
問題の解である yi ∈ X+ を提案する。
ゲームの流れ


∑ 

i

y j 
max 1 −
T ⊆N, yi ∈X+ 
本研究で扱う交渉ゲームを以下のように定義する。毎期 t =
1, 2, ... に自然が等確率でランダムに提案者を指名する。指名された
プレイヤー i は、実現可能な利得ベクトル xi = (x1i , ..., xni ) を提案す
{
n+1
s. t. (i) T ∈ Wi , Wi = S ⊆ N | S ∋ i, |S | ≥
2
プレイヤーが一人ずつ案について投票を行う。投票の順番は結果
に影響しない。 n+1
2 人以上のプレイヤーが案に賛成したら、プレイ
報ゲームであり、展開形ゲームとして表現される。プレイヤー i の
は時間 τ に提案者に選ばれた時に提案する利得ベ
クトルと投票の際に提案されうる全ての案に対してどのような態度
(賛成か反対か)を取るかを規定するものである。
T ∗ ∈ Wi を最大化問題 (3) の解となるプレイヤーの部分集合とす
ム完全均衡戦略であるとは、その戦略の組が全体ゲームを含むゲー
ムの任意の部分ゲームにおいてナッシュ均衡を構成している事をい
う。また、SSPE を次のように定義する。
定義 1. 戦略の組 σ∗ = (σ∗1 , ..., σ∗n ) が部分ゲーム完全均衡である
とする。いまプレイヤー i ∈ N が提案者に選ばれる任意の時間
′
′′
τ′ , τ′′ (τ′ , τ′′ ) において στi = στi が成り立ち、プレイヤー i ∈ N
∑
る。ここで、yi は yii = 1 −
δv j , yij = δv j ∀ j ∈ T ∗ \ {i}, yik =
j∈T ∗ \{i}
0 ∀k ∈ N \ T ∗ を満たす。この案 yi は σ において T ∗ に含まれる全
てのプレイヤーが賛成する。
以上の交渉ゲームに適用する解概念は部分ゲーム完全均衡 (SPE)
と定常的部分ゲーム完全均衡 (SSPE) である。戦略の組が部分ゲー
}
(ii) yij ≥ δv j ∀ j ∈ T \ {i}
ヤー j ∈ N は配分 xij を受け取り、ゲームは終了する。 n+1
2 人の賛成
が得られなかった場合、交渉は次の期に移行する。ゲームは完全情
(3)
j∈T \{i}
る。提案が行われた後、事前に決められている順番によって全ての
戦略 σi =
δt−1 xik − di
0
ケース1における希望額はプレイヤーの効用を最大にする利得で
2 モデル
(στi )∞
τ=1
(1)
第 t 期において、提案者 k が過半数の票を獲得した時の
決めるモデルについて分析する。特に各意思決定主体が自分の利得
2.2
(xik ≥ di )
(xik < di )
し、O = (0, ..., 0) とする。
全てのプレイヤーが案について賛成か反対かの投票を行って配分を
2.1
δt−1 di
δt−1 xik
プレイヤー i ∈ N の効用関数を以下のように定義する。ただ
て、ランダムに選ばれたプレイヤーが配分についての提案を行い、
ついて考察する。
k
3.2
ケース1
プレイヤーが自分の利得に対して希望額を持っているとし、自分
の希望額を得られた時に効用が最大化されるモデルの分析を行う。
ケース1における SSPE は次のようになる。
命題 2. プレイヤーが (1) 式のような効用関数を持っている交渉
ゲームを考える。ある SSPEσ = (σ1 , ..., σn ) が存在して、第 1 期に
提案者に指名されたプレイヤー i の以下のような提案 xi が過半数の
支持を得る。
∑
1. 提案者 i に対して j∈S d j ≤ 1 となるような S ∈ Wi が存在す
る時、提案者 i は xij = d j ∀ j ∈ S となるような xi ∈ X+ を提案
する。
2. 提案者 i に対して
∑
j∈S
プレイヤー i に対して、以下の最大化問題を考える。


∑ 

i

max 1 −
y j 
T ⊆N, yi ∈X+ 
}
{
n+1
s. t. (i) T ∈ Wi , Wi = S ⊆ N | S ∋ i, |S | ≥
2
い時、


∑



(a)di ≤ max 1 −
δv j  が成り立つならば、提案者 i は
T ∈Wi
j∈T \{i}


∑




max 1 −
δv j  の解 T ∗ に含まれる全てのプレイヤー
T ∈Wi
(ii) yij ≥ d j ∀ j ∈ T \ {i}
1. 最大化問題 (4) の解 yi ∈ X+ , T ∗ ∈ Wi において yii ≥ di の時、提案
者に選ばれたプレイヤー i は、最大化問題 (4) の解 yi ∈ X+ を提
j∈T \{i}
j ∈ T ∗ \ {i} に対して xij ≥ δv j 、提案者 i に対して xii = di と
案し、T ∗ 内の全てのプレイヤーが賛成してゲームは終了する。
i
なるような提案
 x ∈ X+ を行う。

∑


(b)di > max 1 −
δv j  と な る と き 、提 案 者 i は
T ∈Wi
j∈T \{i}


∑



max 1 −
δv j  の解 T ∗ に含まれる全てのプレイヤー
T ∈Wi
yi は yii = 1 −
j∈T ∗ \{i}
希望額を債権と読み替えると、ケース1のモデルは破産問題
∑
d j , yij = d j ∀ j ∈ T ∗ \ {i}, yik = 0 ∀k ∈ N \ T ∗
j∈T ∗ \{i}
を満たす。
2. 最大化問題 (4) の解 yi ∈ X+ , T ∗ ∈ Wi において yii < di の時、提
案者に選ばれたプレイヤー i は O = (0, ..., 0) ∈ X+ を提案し、全
j∈T \{i}
j ∈ T ∗ \ {i} に 対 し て xij = δv j 、提 案 者 i に 対 し て
∑
xii = 1 −
δv j となるような xi を提案を行う。
(4)
j∈T \{i}
d j ≤ 1 となるような S ∈ Wi が存在しな
てのプレイヤーが O を支持し、ゲームは終了する。
また、第 2 期以降は提案者に選ばれたプレイヤーは O = (0, ..., 0)
を提案し、全てのプレイヤーが賛成する。
と 捉 え る 事 が で き る 。各 プ レ イ ヤ ー は 各 々 の 債 権 を 回 収 す る
事を目的として、交渉を行って破産者の財産を分け合うと考え
4
まとめ
る。破産問題において、交渉ゲームによって配分を決定する場合
破産問題の例において、破産者の財産によって交渉ゲームにお
のプレイヤーの期待利得と CG 整合解を比較した表を下に記す
ける期待利得と CG 整合解における利得は異なることが分かった。
(player1,player2,player3 を債権者とし、それぞれが d1 , d2 , d3 の債権
CG 整合解において、破産者の財産が増えるに従って債権額の高い
を持ち、破産者の財産 E を分けるものとする)。それぞれのプレイ
プレイヤーから優先的に利得を得る一方で、交渉ゲームでは、債権
ヤーが命題 2. のような戦略をとったと仮定すると債権額の小さい
額の低いプレイヤーから債権を回収する構造になっている。交渉
プレイヤーは CG 整合解による利得より交渉ゲームによる期待利得
ゲームにおいて、提案者に選ばれたプレイヤーは債権額の低いプレ
の方が全体的に高くなる。
イヤーと財産を分け合うため、債権額の高いプレイヤーは提案者か
ら敬遠され、破産者の財産が十分高くなるまで正の利得をオファー
PP
PP
財産 E
PP
PP
債権
P
100
player1 (d1 = 100)
100/3
200/3
300/3
300/3
200/3
player2 (d2 = 200)
る。
100/3
200/3
400/3
300/3
500/3
player3 (d3 = 300)
希望額を提案に合意するために最低限必要な利得として考えた
100/3
200/3
200/3
600/3
800/3
ケース 2 では、割引因子 δ が十分に低く提案者の希望額が高すぎな
200
300
400
500
されない。債権額が高いプレイヤーはその分元々多くの資産を持っ
ていると考える事ができる。そのように考えると、交渉ゲームでは
期待利得
資産額の低いプレイヤーから債権を回収できる仕組みになってい
CG 整合解
い時、提案者のみ希望額以上の利得を得る事が分かった。これは、
player1 (d1 = 100)
100/3
150/3
150/3
150/3
200/3
player2 (d2 = 200)
プレイヤーが第 2 期以降の交渉を低く評価し、交渉が第 2 期以降に
100/3
225/3
300/3
375/3
500/3
進んでも正の利得を得られないと考えるためである。
player3 (d3 = 300)
100/3
225/3
450/3
675/3
800/3
本研究の結果希望額が低いほど正の利得をオファーされやすくな
3.3
ケース2
る。しかし、希望額が低いと均衡における期待利得も低くなってし
ここではケース2で定義した効用関数をプレイヤーが持っている
まう。そこで、効用関数の形はそのままにして各プレイヤーが自分
と仮定し、分析を進める。(2) 式で与えられた効用関数を持つプレ
の希望額を自由に設定し、交渉を始める前に自分の希望額を表明
イヤーを仮定した交渉ゲームにおいて、プレイヤーが正の利得を得
するモデルを考える。戦略に希望額の設定を加える事で、各プレイ
てゲームが終了する SSPE は存在しない。また、割引因子 δ が十分
ヤーは自分の利得最大化のために自分の希望額をどのように決める
に低い場合には提案者に選ばれたプレイヤーのみ希望額以上の利得
か分析可能になる。これによって、交渉における自分の利得に対す
を得る場合がある。
るコミットメントが交渉の結果にどのような結果をもたらすかを考
察する事が今後の課題である。
命題 3. 全てのプレイヤーが (2) 式で定義された効用関数を持って
いる交渉ゲームにおいて、割引因子 δ が十分に低い場合、SPE にお
いて第 1 期に提案者に選ばれたプレイヤーは次のような戦略をと
る。
主要参考文献
[1] Baron, D. and Ferejohn, J. (1989), Bargaining in legislatures.
Amer. Polit. Sci. Rev. 83, 4, 1181-1206.
[2] Okada, A. (1996), A noncooperative coalitional bargaining game
with random proposers. Games Econ. Behav. 16, 97-108.