講義資料(日本語)

輸送拡散現象のシミュレーション
計算応用科学分野
渡邊 威
2014年6月23日(月) 5-6限 0231室
・現象
輸送拡散現象の例を挙げて、これらの例に共通する物理の特徴と性質について
述べる
・数理モデル
ブラウン運動、乱流拡散、物質輸送などについて、数理モデルの説明をする。
・シミュレーション
粒子拡散、熱対流(パッシブスカラー)を例にあげて、輸送拡散現象のシミュレー
ション例について紹介する。
レポート課題
1.本講義で述べた輸送・拡散現象に関して、身の回りで観察
される例を挙げ、その特徴について式、絵、写真、などを
用いて説明しなさい。
2.1.で挙げた例について,その現象の数値シミュレーション
を行う時,その役割や意義について自由に述べなさい。
3.本講義を聴講した感想を述べなさい。
・A4レポート用紙1~2枚程度にまとめる。
・表紙に学生番号、氏名、提出日を記載する。
・提出場所 2号館4階422B室(部屋の前に提出箱を置きます)
・提出〆切日 7月4(金) 17:00
・英語レポート可
Homework (report)
1.Mention about examples of transport and diffusion phenomena
that you can observe in your daily life, engineering systems, etc.
Then explain about their characteristics by using the mathematics,
pictures, painting, and so on.
2.Discuss about the importance/significance for performing
the numerical simulations of examples mentioned in 1.
3.Please give your thoughts on this lecture.
・using A4 size paper and summarizing within 1~2 sheets
・making cover sheet and state your student number , name
and the date of submission
・site for submission: 2号館4階422B室 (insert in the box)
・deadline for submission July 4(Fri.) 17:00
輸送・拡散現象の例
•
•
•
•
•
汚染物質の拡散
火山灰・黄砂の飛来
水蒸気・熱(雲)
熱輸送
燃焼・化学反応流
など
福島第一原発事故による放射性物質の流出・拡散
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム
(System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information, SPEEDI)
原子力施設から大量の放射性物質が放出されたり、あるいはそのおそれがあるという
緊急時に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度や被ばく線量などを、放出源情報、
気象条件および地形データをもとに迅速に予測するシステム
http://www.nsc.go.jp/mext_speedi/index.html
SPEEDIの計算の仕組み(文科省パンフレットより抜粋)
黄砂の飛来
直径4ミクロン程度
環境省パンフレットより抜粋
火山灰の拡散
火山灰: 火山からの噴出物で直径2mm以下の大きさのもの
アイスランド島の火山噴火(2010年4月) ⇒ 経済活動への影響大
桜島の噴火の衛星写真(Wikipediaより引用)
雲の発生
雲粒: 直径1-10μm程度
⇒ 凝結、粒同士の衝突合併を繰り返し 0.2 mm程度まで成長
さらに成長すると雨粒(1mm)になり,重力により落下する.
地球上の雲を概観した衛星画像(Wikipediaより引用)
積乱雲の形成
・浮力により上昇した空気塊が凝結し、雲を作って
消滅するプロセスを繰り返しながら雲頂が高くなっ
ていく。
・凝結の潜熱により雲内は暖められ,不安定な雲
の成長が続く。鉛直方向に空気の性質は輸送さ
れる。
・ 空気、水蒸気の運動 (流体方程式)
・ 温度変化 (状態方程式)
・ 雲粒の成長、変形、合体、分裂 (粒子集団の運動)
粒子と流体、熱が相互作用した複雑な物理過程
読売新聞 平成21年3月15日
気象庁HP:
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-3-1.html
数値予報の発展
:
メソスケールの大気現象の理解の重要性
熱対流
・熱対流の最も簡単な例
薄い流体層の上面に低温熱源,下面に高温熱源を
与える。このとき上面と下面の温度差を ΔTとする。
・⊿Tがある闘値より小さい場合
・⊿Tがある闘値より大きい場合
β
L
熱伝導のみ
熱伝導+対流
⇒ベナール対流という
熱対流
ベナール・セルの形成
熱対流乱流シミュレーション
J. Schumacher, Phys. Rev. Lett.
100, 134502 (2008)
共通する物理とその性質
・ 熱・物質が流体によって運ばれる(輸送・拡散)
・ 多数の粒子群とそれを取り囲む流体、熱が複雑
に絡み合った現象
・ 様々な時間・空間スケールの運動が混在している
1.流体中の粒子系の輸送・拡散のモデルとその
数値シミュレーション
2.流体中の熱輸送のモデルとその数値シミュレーション
“ながれ”が輸送拡散現象に果たす役割を考えてみよう!
“ながれ”の性質 -乱流-
乱流(turbulence)
• 乱れた流れの総称
(⇔層流)
• 流れの不安定性(非線型)
• エネルギーの供給と散逸
(非平衡)
• 高い輸送・混合能力
格子乱流実験の可視化
レイノルズ数Re : 流れの“乱れ程度”を特徴づける量
UL
Re ≡
ν
U : 流れの代表的速度
L : 流れの代表的長さ
ν: 流体の動粘性率
Re >> 1 : 乱流 (車、飛行機、などの周りの流れ)
Re < 1 : 層流 (微生物の運動など)
例: 歩行する人の周りの流れ
U~2m/s, L~1m/s, ν~1.5×10-5 m2/s
Re ~105
・円柱周りの流れ
(種子田定俊著: 画像から学ぶ流体力学(朝倉書店))
Re=1404, 大小様々な渦を含む乱雑な流れ。
後流ではカルマン渦列が形成されている。
D. J. Trriton, Physical Fluid Dynamics, Oxford Sci. Pub. , pp 29
(日本流体力学会編、「流れの可視化」 朝倉書店, p155)
St Christopher and the vortex
A Karman vortex in the wake of
St Christopher’s heels
T. Mizota et al. Nature 404, p.226
乱流の直接数値シミュレーション
流体の運動方程式
連続の式
Navier-Stokes 方程式
∇⋅u = 0

∂
∂
∂ 
 ∇ = i

+ j
+k
∂x
∂y
∂z 

1
∂u
2
+ u ⋅ ∇u = − ∇p + ν∇ u + f
ρ
∂t
u( x , t ) : 流体の速度
ρ : 流体の密度
p ( x , t ) : 流体の圧力
ν : 動粘性係数
・初期条件、境界条件などを状況に応じて適用→ 偏微分方程式の初期値境界値問題
u( x , t ) → u( xl , t h ) = ulh
(h = 0,1,2, )
(l = 0,1,2, ) t h = hΔt = lΔx ・変数の離散化
xl
・偏微分の近似:
差分法、スペクトル法など
乱流中の渦構造 1.
3次元乱流の渦構造
渦度:
ω = ∇×u
渦度ベクトルの大きさの等値面図
ω > ωs
乱流中の渦構造 2.
2次元乱流の渦構造
小
渦度
0
大
1.流体中の粒子拡散
粒子の拡散現象: ブラウン運動
静止した流体中のブラウン粒子の運動方程式
x (t ) :
m:
粒子の位置ベクトル
v (t ) :
粒子の速度ベクトル
粒子の質量
dx (t )
= v (t )
dt
dv (t )
m
= − ζv (t ) + R(t )
dt
粒子
R(t )
流体
速度に比例
する抵抗力
流体を構成する
分子から受ける
ランダム力
ブラウン粒子集団の時間発展の様子
粒子の軌跡(4粒子)
ブラウン粒子の集団の時間発展
(2000粒子)
粒子の拡散現象: ブラウン運動
統計法則:平均二乗変位の時間依存性
(x(t ) − x(0))
2

D = k BT ζ
= 2 Dt
:粒子集団に対する平均を表す
D: 拡散係数
2
D~l T
−1
2
T ~l D
意味:粒子集団の塊がスケールl程度まで広がるのに要する時間スケール
T
l
粒子の拡散現象: 乱流による拡散
時間変動する流体中の粒子の運動方程式
dx (t )
= v (t )
dt
u( x , t )
粒子
dv (t )
= − ζ [v (t ) − u( x (t ), t )] + R(t )
m
dt
R(t )
速度に比例
する抵抗力
u( x , t ) :
位置x, 時刻tにおける流速ベクトル
時間、空間的にランダムに変動(乱流状態)
流体を構成する
分子から受ける
ランダム力
固体粒子の乱流拡散シミュレーション
密度比=固体粒子の密度 / 流体の密度
密度比=400
St = 0.09
密度比=1000
St = 0.22
密度比=4000
St = 0.9
応用例:黄砂の拡散過程, 雲・雨粒の形成過程の解明など
拡散係数の評価
1
2
[
D = lim
x(t ) − x(0 )]
t →∞ 2t
dx(t )
= v(t )
dt
x(t ) = x(0 ) + ∫ v(s )ds
t
0
[x(t ) − x(0)]
=∫
2
t
∫ v(s )v(s′) dsds′
t
0 0
= 2 ∫ (t − τ ) v(s )v(s + τ ) dτ
t
0
∞
D = ∫ v(s )v(s + τ ) dτ
0
拡散係数
dv(t )
m
= − ζ [v(t ) − u ( x (t ), t )] + R(t ) ≈ 0
dt
軽い粒子を考える :
v(t ) ≈ u ( x(t ), t ) + R(t ) ζ
∞
k BT
D=
+ ∫ u ( x(s ), s )u ( x(s + τ ), s + τ ) dτ
0
ζ
(
分子拡散
)
O 10 −13 m 2 s
(
乱流拡散
)
O 10 −1 m 2 s
(温度20度の水、粒子径 = 1μm、レイノルズ数=104 の場合)
熱運動による粒子の拡散力 << 乱流による粒子の拡散力
2.流体中の熱物質輸送
熱対流の基礎方程式
∂T
1
2
+ u ⋅ ∇T =
∇T
∂t
Re Pr
移流項
拡散項
・流体運動の基礎方程式
Ra ∂
∂u
1 2
T
∇ u+ 2
+ u ⋅ ∇u = −∇p +
∂t
Re Pr ∂z
Re
∇⋅u = 0
浮力項
プラントル数
レイリー数
ν
Pr ≡
κ
βΔTgL3
Ra ≡
κν
β :体積膨張率 g:重力加速度 ν:動粘度
レイリーの線形安定論
レイリー数(Rayleigh):
流体中での対流に関する無次元数レイ
リー数が大きくなると対流が発生する。
対流の擾乱が成長も減衰もしないような
臨界状態を臨界レイリー数と呼ぶ。
β ΔTgL3
Ra ≡
κν
臨界レイリー数: Rac
Rac = 657.5
Ra < Rac ⇒対流は発生しない
Ra > Rac ⇒対流が発生する
(k 2 + π 2 )3
RaC =
k2
Ra=700ではk=1.7~2.7程度の波数の
擾乱が発達する
平行平板間熱対流の数値シミュレーション
●領域のサイズ Lx=8 , Ly=1
●格子点の数
Na=160 ,Nb=20
●上下の壁の温度 T1=1 , T2=0
●レイノルズ数 Re=1
●プラントル数 Pr=1
●レイリー数
Ra=600,700,2000,10000
●すべり境界条件(上下) 周期境界条件(左右)
臨界レイリー数より大きい値でのシミュレーション
Ra=700
t=1.0
t=1.0
t=25.0
t=25.0
t=30.0
t=30.0
t=40.0
t=40.0
温度場
8
3
λ = ≈ 2.67 k =
2π
λ
≈ 2.35
速度場
レイリー数を変化させた場合のシミュレーション
温度場
Ra=2000
Ra=10000
速度場
平均スカラー勾配下のパッシブスカラー輸送
パッシブスカラー:
流体により輸送されるスカラー量(温度、
物質濃度など)の変動が流体運動に影響
を及ぼさない
シュミット数 ,プランドル数
=ν κ
SC Pr = O(1) ~ O(10 ) : 熱
( )
SC = O 103
: 塩分濃度
・ 平均スカラー勾配の存在
海洋中の温度 (T), 塩分濃度 (S) の鉛直分布
∇T ≈ 0.04°Cm −1
∇S ≈ 0.01 g kg m −1
平均勾配下のパッシブスカラー場の基礎方程式
スカラー場
θ ( x, t )
の変動が流体運動に影響しない
∂T
2
T
κ
∇
T
+
⋅
∇
=
u
移流拡散方程式
∂t
z
T ( x, t ) = θ ( x, t ) + G ⋅ x
スカラー場
揺らぎ
平均勾配項
G = (0,0, G )
∂θ
2
+ u ⋅ ∇θ = κ∇ θ − Gu3
∂t
T
大規模数値シミュレーション
「スーパーコンピュータ」を利用した並列計算による
大規模流体シミュレーション
計算機A
「京」 CCP2012にて撮影
計算機D
計算機B
A
B
D
C
計算機C
並列計算のイメージ
乱流輸送の大規模シミュレーション
格子点数: N = 20483 ≈ 1010
並列プロセス数: pe=128
使用する総メモリ量:
約2TB(=2000GB)
計算時間: 約5000(h)=208日
浮力項=0
乱流渦による熱混合の様子
乱流輸送シミュレーション結果の可視化 その1
乱流中の渦構造(グリーン)と温度場のシート構造(ブルー)
乱流輸送シミュレーション結果の可視化 その2
乱流中の渦度(z軸方向)(カラー)とスカラー勾配(x-y面)の大きさ(黒)
Structures in 2D slice
case G Rλ = 263
・z-direction
-1
z
・x-direction
x
θ ( x,−π , z )
海洋表面の水温分布
海上保安庁海洋情報部 http://www1.kaiho.mlit.go.jp/
2D slice θ (x, y,0) by 20483 DNS
L
2π
45
2D slice θ (x, y,0) by 20483 DNS
5λθ
L
46
2D slice θ (x, y,0) by 20483 DNS
5λθ
≈ 90η
10η
47
まとめ
• 黄砂、雲、熱、などに共通する輸送拡散現象
粒子の数理モデルとその拡散シミュレーション
(粒子群によるシミュレーション)
熱・物質輸送のモデルとそのシミュレーション
(場の量(温度、濃度など)を扱ったシミュレーション)
• 乱流による粒子群の拡散 (分子拡散 vs. 乱流拡散)
• 乱流による熱輸送 (急激な温度変化、乱流渦との相関)
乱流の輸送能力の有効利用
乱流による拡散の性質
輸送拡散現象の理解
流れの性質そのものを良く理解
することが重要!
⇒ より正確な気象予報、汚染物質の拡散予測への応用
レポート課題
1.本講義で述べた輸送・拡散現象に関して、身の回りで観察
される例を挙げ、その特徴について式、絵、写真、などを
用いて説明しなさい。
2.1.で挙げた例について,その現象の数値シミュレーション
を行う時,その役割や意義について自由に述べなさい。
3.本講義を聴講した感想を述べなさい。
・A4レポート用紙1~2枚程度にまとめる。
・表紙に学生番号、氏名、提出日を記載する。
・提出場所 2号館4階422B室(部屋の前に提出箱を置きます)
・提出〆切日 7月4(金) 17:00
・英語レポート可