2012 年映像情報メディア学会年次大会での発表報告書

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 17
2012 年映像情報メディア学会年次大会での発表報告書
篁
直 樹
Naoki TAKAMURA
情報メディア学専攻修士課程
≡ λ[k]
u[k]
k=0, 1, 2
Rxu[k]
x
x
x
1.はじめに
2年
(4)
ここで,固有値 λ[k]
,固有ベクトル u[k]から成
x
x
近年,ディジタルカメラの普及に伴い,ディジタ
ル画像の色合いを容易に変更できるようになってき
る行列 Λx, Ux および平均 0,分散 1 に無相関化した
ベクトル X[m, n]を式(5)∼(7)で定義する.
た.例えば,新緑の画像を紅葉の画像へ変換するこ
Λx≡Diagonal
( λ[0]
,λ[1]
,λ[2]
)
x
x
x
(5)
とが可能である.しかしながら,画像編集ソフトを
Ux≡(u[0]
,u[1]
,u[2]
)
x
x
x
(6)
用いてディジタル画像の色合いを変換する場合,対
X[m, n]≡Λ
1
−
x 2
U(x[m, n]− μ x)
T
x
(7)
象画像の色合いを参照画像の色合いに近づける作業
対象画像と同様に,参照画像の画素値ベクトルを y
が必要となり,作業を行う人間に画像処理技術が必
[m, n],平均ベクトル μ y および自己共分散行列 Ry
要である.本研究では,人間の技術や感覚に影響を
として定義し,固有値 λ[k]
,固有ベクトル u[k
]
y
y
受けない色合い変換の手法として,ICA を用いた
を求め,それらから成る行列 Uy, Λy をそれぞれ定
色合い変換を提案する.本手法は PCA に基づく従
義する.また,変換後画像についても,画素値ベク
来法よりも,より視覚的に自然な色合いに変換する
トルを x′
[m, n]と定義する.
ことが可能である.
2. 2.ICA を用いた独立成分の抽出
2.画像の色合い変換
PCA では抽出された成分画像は互いに無相関と
2. 1.PCA を用いた RGB 成分の無相関化
なるが,独立であるとは限らない.そこで,ICA
対象画像の位置座標(m, n)における画素の RGB
を用いて独立な成分に分解し,より視覚的に自然な
成分から成る画素値ベクトル x[m, n],その平均ベ
色合い変換画像を得ることを考える.PCA を用い
クトル μ x および自己共分散行列 Rx を,式(1)∼
て無相関化したベクトル X[m, n]に対して,次式
(3)で定義する.
n]
x[m,
R
x[m, n]≡ x[m,
n]
G
x[m,
n]
B
の線形変換により対象画像の独立成分 X[m,
′ n]を
(1)
1 ! !
μ≡
x[m, n]
(2)
MN
1 ! !
(x[m, n]− μ )
(x[m, n]− μ )
R≡
抽出する.
X[m,
′ n]≡WXT X[m, n]
(8)
M −1 N −1
ここで,WX は直交行列であり,次式で示すネゲン
m=0 n=0
トロピーに基づく評価関数 J(W
′ X)が最大となるよ
x
M −1 N −1
T
x
MN
x
x
m=0 n=0
うに決定する.
(3)
2
J(W
′ X)=ΠJXi′
(9)
i=0
つぎに,次式に示す自己共分散行列 Rx に対する固
有値問題を解き,固有値 λ[k
]および固有ベクト
x
ル u[k]を求める.
x
― 61 ―
1 2
1
(10)
SXi′+ (FXi′−3)2
12
48
M −1 N −1
1
1
SXi′=
(X[m,
n]− μ Xi′
)3 (11)
i′
MN σ X3 i′ m=0 n=0
JXi′=
!!
FXi′=
! !(X[m, n]−μ
1
1 M −1
MN σ X4 i′m=0
N −1
n=0
i′
4
)
Xi′
(12)
い.
前処理としての PCA による無相関化後,ICA に
n]は X[m,
′ n ]の第 i 成分を表し,
ここで,X[m,
i′
σ X2 i′, μ Xi′はそれぞれ分散および平均を表す.本手
よる独立成分抽出を利用した ICA を用いた色合い
変換として,次式を提案する.
法では,評価関数 J(W
′ X)の極大値を最急勾配法を
1
x″
[m, n]=UyΛy 2 WY WTX X[m, n]+ μ y
用いて次式より探索し,独立成分 X[m,
′ n ]を求め
(17)
3.計算機実験
る.
=W + ε∇J(W )
(k+1)
X
W
(k)
X
(k)
X
(13)
また,WX は直交行列であるため,更新の度に次式
による直交化を行う.
⇒
WX
1
−
T
W(W
X
X WX) 2
(14)
対象画像と同様に,参照画像に対して独立成分 Y ′
[m, n]を定義し,直交行列 WY を求める.
式(16)を用いて新緑の画像を紅葉の画像の色合
いを参照することで色合い変換(従来法)を行っ
た.また,提案法(式(17)より同様に色合い変換
を行った.従来法による変換後の画像は対象画像の
木々の部分が赤く紅葉し,画像下部の地面部分が紫
がかった色合いへと変換されている.提案法による
変換後画像は空が黄色がかっているが,画像下部の
2. 3.色の線形変換
対象画像の画素値ベクトル x[ m, n ]を変換後画
像の画素値ベクトル x′
[m, n ]へ次式により線形変
換する.ここで行列 A は変換行列を,ベクトル b
ルの確率密度関数がそれぞれガウス性を有している
と仮定すると,各画素ベクトルの周辺分布は 1 次モ
ーメントである平均ベクトルと 2 次モーメントであ
る自己共分散行列により規定される.したがって,
変換後画像の平均ベクトル μ x ′および自己共分散
行列 Rx′と,参照画像の平均ベクトル μ y および自
己共分散行列 Ry とが一致するように変換を行う.
つまり,
1
換されていることが確認できた.
(15)
対象画像,参照画像,変換後画像の各画素値ベクト
x′
[m, n]=UyΛy 2 X[m, n]+ μ y
像と比較すると,より視覚的に自然な色合いへと変
4.おわりに
は移動ベクトルを表す.
x′
[m, n]=Ax[m, n]+b
地面部分は紫がかっておらず,従来法での変換後画
(16)
ところが,実際の画素値ベクトルの確率密度関数
は必ずしもガウス性とはならず,非ガウス性を有し
ている.そこで,その非ガウス性を考慮して,ICA
の独立性の基準であるネゲントロピーを用いた独立
成分の抽出を行う(式(8)).なお,WTX は直交行列
であるため,変換後の自己共分散行列への影響はな
本研究では,画像の色合いを変換するために,ICA
を用いた色合い変換を提案した.本提案法は PCA
に基づく従来法よりも,より視覚的に自然な色合い
へと画像の色合いを変換することが可能である.提
案法は参照画像の色合いを参考に対象画像の色合い
変換を計算機により自動的に行うため,再現性があ
り,画像処理の経験が乏しい方でも容易にディジタ
ル画像の色合い変換を行うことが可能である.
学会発表に関しては,多くの人に興味を持っても
らい,多くの意見や質問を頂くことができた.その
中でも「自然な色合いとは個人の主観で決定される
のではないか.」という質問が印象に残っている.
変換結果に対する評価方法については考えていなか
ったため,研究活動に対する視野が広がったと感じ
る,その他にも学術的な意見を多く頂くことがで
き,より良い発表だったと考える.
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