デフォルトリスクに対するGerber

デフォルトリスクに対する Gerber-Shiu 解析と統計的推測
早稲田大学・理工学術院 清水 泰隆
クレジット・リスクに対する構造的アプローチ (structural approach) では,企業価値を表す
プロセス V = (Vt )t≥0 に対して,ある閾値 d ∈ R を定め,
τd := inf{t > 0 | Vt < d}
をデフォルト時刻と定義し,その期待値的汎関数 φ(v) = E[F (τ )|V0 = v] が興味の対象となる.
企業価値 V のモデルには以下の様な幾何レヴィ過程がよく用いられる.
Vt = V0 exp (ct + σWt − St )
ただし,c > 0, W : 標準ブラウン運動,S: 正の飛躍を持つレヴィ過程 (L´evy subordinator) であ
る.このような下向きのショックのみをモデルに組み込むのは,デフォルトが突然やってくると
いう印象や,価値過程 V の分布の非対称性を考慮してのことであり,近年のレヴィ過程に関する
変動理論 (fluctuation theory) などの発展も伴って,この方面における確率モデルとしては標準
的になりつつある.一方,このような飛躍型の確率過程に対する初期到達時刻の解析には保険数
理の分野で豊富な結果の蓄積があり,たとえば,保険会社の資産過程を Xt = u + ct + σWt − St
とし,破産時刻 τ = inf{t > 0|Xt < 0} の汎関数を考えた Gerber-Shiu 関数:
h
i
Φw (u) = E e−δτ w(Xτ − , |Xτ |)I(τ < ∞)|X0 = u
に対する解析が発展している (Gerber and Shiu [1]).ここで,Xt := log Vt − log d; u := log V0 −
log d; w(x, y) = ̟(ex , ey ) などと変換すれば, τd = τ であり,
E[e−δτd ̟(Vτd − , |Vτd |)I(τd < ∞)] = Φw (u)
と書けるのでデフォルト時のリスクを表す関数として応用でき,その解析には保険数理におけ
る結果をそのまま応用可能である.本講演では,このようなファイナンス的問題への応用を意
識して,(Vt )t≥0 の離散観測
V0 , V∆ , V2∆ , . . . , Vn∆ ,
(∆ > 0)
に基づいた Gerber-Shiu 関数 Φw の推定問題を扱う.この問題では,Φw のラプラス変換を推定
し (正則化) 逆変換をかけるという先行研究 (Shimizu [2]) があるが,今回はフーリエ逆変換を
用いる手法を提案し,先行研究より漸近的により有効な推定量が構成され得ることを示す.
参考文献
[1] Gerber, H. U. and Shiu, E. S. W. (1998). On the time value of ruin; with discussion and a reply
by the authors. N. Am. Actuar. J., 2, no. 1, 48–78.
[2] Shimizu, Y. (2011). Estimation of the expected discounted penalty function for L´evy insurance
risks. Math. Method of Statist., 20, (2), 125–149.