第2号「契約とは」(PDF)

【日本司法書士会連合会】
○ 契約とは
ところで、民法(債権関係)は、「契約」についての最も基本的な法律であるといわれ
ています。
そこで、民法(債権関係)の改正についての細かい内容を解説していく前に、まずは
「契約」というものを、きちんと押さえておきましょう。
例えば、次のようなケースを考えてみたいと思います。
① 鈴木さんは、ある書店で探していた本を見つけたので、その本を買おうとレジに持
って行ったところ、店員さんは本をレジに通しつつ「2000円です」と鈴木さんに告げ
ました。
② 鈴木さんは、財布の中にあった2000円と引換えに、店員さんから本を受け取りまし
た。
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以上の鈴木さんと書店の行動は、民法では、売買の「契約」と位置づけられることに
なります。
すなわち、①の時点で、鈴木さんは書店に対し、「2000円と引換えに本を買います」
という意思を示しているとみることができますし、逆に、書店は鈴木さんに対して、「200
0円と引換えに本を売ります」という意思を示しているとみることができます。そうすると、
「2000円と引換えに本を売る」という本の売り買いについては、少なくとも①の時点
【日本司法書士会連合会】
でお互いの意思が一致していることになりますから、一般的にはこの時点をもって、売
買の契約が成立したということになるのです。
契約が成立すれば、お互いやるべきことをやらなければなりません。先の例では、鈴
木さんは書店の店員さんに代金の2000円を払わなくてはなりませんし、書店はそれと
引換えに、鈴木さんに本を渡さなくてはなりません。
このような、当事者の一方から相手方に対し、代金の支払や本の引渡しといった一定
の行動をしなければならない義務のことを「債務」と呼びます。
逆に、「債務」を反対からみると、当事者の一方から相手方に対し、代金の支払や本
の引渡しといった一定の行動を求めることができる権利ととらえることができますので、
このような権利のことを「債権」と呼びます。
また、鈴木さんが代金の支払を拒んだり、書店が本を渡さなかったりなど、当事者が
債権(債務)を実現しようとしない場合、その相手方は、国家権力の助けを得て、債権
(債務)の実現をはかることができるようになっています。例えば、鈴木さんから代金を
得られなかった書店は、裁判の手続きを利用して、鈴木さんに強制的に代金を支払わ
せたり、契約を結んだことにより受けた損害を支払わせたりなど、といったことができる
のです。
まとめますと、民法においては
(ア) お互いの合意によって、契約が成立する
(イ) (ア)の結果、契約の当事者に、債権(債務)が発生する
(ウ) 債権(債務)が実現されなければ、原則として、裁判所が権力をもってその実現
に協力することになる
ということになります。
ちなみに、(ア)から(ウ)の流れ、特に(イ)と(ウ)の強い効力に着目して、「契約の
(法的)拘束力」という呼び方をすることがあります。
○ 契約を念頭においたルール作り
前号で説明したとおり、現在わが国では民法(債権関係)の改正の作業が進んでい
ますが、国(法務省)は、上で述べた契約の仕組みを強く意識して、いろいろな取引の
ルールを変えたり、再整理したりしようとしています。
ところが、以上のような方針を念頭に置いても、現実の改正作業は、かなり難しいとこ
ろも少なくないのです。
【日本司法書士会連合会】
まず、先の書店の例とは違い、今の日本社会には、上で述べた(ア)や(イ)の部分が
あまりはっきりしない取引も多く存在します。
例えば、先の例における書店がインターネットのウェブサイト上にしか存在せず、本の
発送手配も代金の支払も、すべてインターネット上で完結している場合があるでしょう。
細かい指摘は、これからゆっくり説明していくこととしますが、このような傾向は、取引の
内容が複雑なときに多く見られるようです。
また、上述の(ア)から(ウ)の流れを維持することがふさわしくないケースがあることも、
決して無視できません。
例えば、先の例では、買った本を鈴木さんが読み始めたら、肝心のページが抜け落
ちていて全く役にたたなかった、というような場合です。買った直後であれば、書店で
新しい本と取り替えてもらえるかもしれません。しかし、買ってから時間がたちすぎてい
て、新しい本と取り替えてもらえなかったらどうしますか?こうした部分について救済処
置が不十分なままでは、実際の取引において、みなさんが非常に困った立場に置かれ
てしまうことでしょう。
もちろん、現在、国(法務省)も学者や法律実務家だけでなく、各業界から有識者を
集め、改正によって不都合を生じないよう、長い時間と労力をかけて必死に作業をし
ています。しかし、 検討に漏れや矛盾が生じてしまうかもしれませんし、そのような部
分を見過ごしてはかえって社会が混乱することになりかねません。
現実のお金や物・サービスのやりとりは単純なものばかりではなく、予定外の事柄が
起こることもまれではありません。大きな会社同士の取引から、みなさんの日常生活に
おける取引まで、きちんと役に立つルールが整備されるのか、今のうちから注意を払っ
ていく必要があるのです。