JARI Research Journal 20141003 【解説】 10th ITS European Congress 参加報告 -自動運転に関する欧米の動向- Participation report of 10th ITS European Congress -European and American trend concerning Automated Driving Systems- 鈴木 尋善*1 Hiroyoshi SUZUKI 各セッションはPlenaryを除き,Table 1のよう 1. はじめに 欧州では,ITS協調システム(以下,C-ITS)の 実用化に向けてオランダ,ドイツ,オーストリア なジャンルの分類となっているが,時間的制約上, 自動運転に関連する⑥のみを調査した. 3国のITSコリドー計画を筆頭に,主要各国で同様 の 計 画 が 発表 さ れ ,その た め の 標準 化 作 業も ETSI1)にてほぼ終了している.協調システムの研 究開発が一段落したことを受け,欧州における研 究開発や標準化の興味は自動運転に移ってきてお り,EUの研究開発計画FP7の最終募集Call10でも 多くの自動運転関連のプロジェクトが取上げられ 開始されつつある.ここではこうした潮流の中で 実施されたITS European Congressの概要を主に 自動運転に焦点を当てて報告する. 2. 10th ITS European Congress 開催概要 Table 1 セッションの概要 分類 ① New mobility apps for consumers and businesses- making use of Open Data ② Smart transactions (ticketing, infrastracture usage, insurance, travel, parking, etc.) ③ Multimodal network operation at city, region, national and international level ④ Productivity for transport systems including logistics and public transport ⑤ Towards zero emissions ⑥ From connected to automated vehicles ⑦ Cross-cutting セッション数 19 5 18 12 11 20 4 会議は2014年6月16日より3日間,フィンランド の首都ヘルシンキで行われた.会場はヘルシンキ 中 央 駅 か ら 約 3km ほ ど 北 に あ る Messukeskus, Expo and Convention Centreで,Session数92 3. 主要セッションの内容概要 以下,主要セッションにおける主なプレゼンの 概要を紹介する. (Congressのみ)の会議と併設の展示会が行われ た(Fig. 1) . 3. 1 Opening & PL1 (Open Data enabling new mobility apps) Opening で は ERTICO の Supervisory Board 展示会場 ChairmanよりEU28ヶ国は,ITSを通じユーロで シームレスサービスを行うSingle Marketとして C-ITSの導入を推進していくとし,そのためにも セキュリティやプライバシー,信頼性に関するフ レームワークを統合するとともに,日本や米国と 会場外観 C-ITSで協調していくとした. PL1では官よりEC_DG_CONNECT次局長,ヘ Fig. 1 10th ITS European Congress 会場 *1 一般財団法人日本自動車研究所 ITS研究部 JARI Research Journal - 1 - (2014.10) ルシンキ副市長,民間からはHERE2) とTomTom 3. 3 SIS08 (Towards vehicle and road の計4名のパネラーにより,ビッグデータに関す automation) るパネル討論が実施された.パネル討論は,スマ 米国運輸省(DOT)は米国の車両自動化研究プ ートフォンやPCを介して会場からの質問やコメ ログラムについて紹介した.DOTの役割は,自動 ントを受け,リアルタイムでスクリーンに投影す 交通システムの開発・実用化促進,利益の特定, る方式により行われ,多くの質問やコメントが寄 研究投資と自動化レベルの連邦自動車安全基準の せられた. 確立であると述べた.自動化の研究としてITS JPO主導の車両自動化のためのマルチモーダルプ ログラム計画(2015-2019年)やTRB等での米 3. 2 ES04 国内協調や欧米日3極の国際協調を示すとともに, (From connected to automated vehicles) 米国RITA3)は自動運転を障害者,高齢者,未熟 具体的な研究分野や,現在進行中の11のプロジェ な若年ドライバーに展開していく上で,最終的に クト,2014年度開始の9つのプロジェクトとその Connectivityが 必 要 で あ り , 将 来 は Connected 目標成果を示した.また,これら研究プロジェク Automated Vehicleになっていく(Fig. 2)と述べ トの例として,CACC,エコ信号運用,トラック るとともに,自動化に関しては日本,欧州と3極 隊列走行の内容を紹介した. WGを通じ協調していくとし,Safety Pilotに続き スペインのIDIADA4) は最近の突発加速訴訟に Connected Vehicleの実用展開や自動化のプロジ おけるネガティブ証明の困難さを例に,自動運転 ェクトを実施すると述べた. の評価の難しさについて紹介した.評価には,設 ドイツのContinentalは自動運転の受容性につ 計段階を考慮したテストが必要であることを示し, いて述べ,中国ではドライバーの79%が自動運転 V-Modelテストフレームワークに従った,部品や を歓迎し,ドイツでも76%が長距離では自動運転 システムレベルでのシミュレーション,機能安全, を使いたいとの統計があるように,消費者の多く 試験路テスト,公道テスト等様々なステージでの が自動運転に寛容であり,自動運転は安全,利便, テストの重要性を示した.特に様々な自動運転レ 効率向上に対する社会からの要請であるとした. ベルが交通流に混在する環境での道路適合テスト また,自動運転にはConnectivityが必要であり通 は難しいが,公道自動運転のための最小性能要件 信機器(Cisco)やマップメーカ(Here)とパー は必要であり,かかるテスト評価の方法はこれか トナーシップを組んでいることを示した. ら国際協調で決めていくとした. こ の よ うに 欧 米 とも自 動 運 転 には 最 終 的に Connectivityが必要であるとの意見が主流である. 3. 4 SIS19(Human factors related opportunities 本セッションではITS Japanの内村氏も登壇し, 日本のSIPの紹介と自動運転に関わるグローバル 協調の必要性を示した. and challenges for ITS) イギリスのLeeds大学はエコドライビングのた め の HMI を 開 発 す る FP7 の プ ロ ジ ェ ク ト eCoDrive(2011-2015年,12参加社・機関)の 内容を紹介した.設定したHMI設計の指針となる 「グリーンガイドライン」ではHMI手段としてハ プティックフィードバックが優れていること,断 続的な情報提示が良いこと,より遠方からの情報 提示が良いことなどを示した.ガイドラインをも とに8つの異なるHMIシステムを開発し(Fig. 3), 61の車両に搭載して7カ国12フリートで評価が進 行中である. フィンランドの VTT5)はドライバディストラク Fig. 2 Connected Automated Vehicle への道筋 JARI Research Journal - 2 - (2014.10) ションの重要性とその防止についての活動を紹介 おける自動化に対するヒューマンファクタ観点か した.ディストラクションの要因(車載装置,会 らの課題とその評価,IKA10)から自動運転機能の 話,車外の物体等)を述べるとともに,ディスト 評価方法に関する紹介等が行われた. ラクション運転による事故は NHTSA6)によれば Table 2 に AdaptIVe の概要を示す. 25%,SWOB(オランダ交通研究所)によれば 2 ~25%であること,また VTTI7)によれば運転中の 携帯等ポータブル機器の使用で衝突リスクは 3 倍 になること等を示した.また,防止方策として ESOP(European Statement of Principles)の例 を挙げるとともに,車載仕様のための HMI デザ インの課題項目について示し,タッチディスプレ イは車の振動でディストラクションが生じやすい としてその最悪の例(Fig. 4)を示した. Fig. 3 eCoDrive で開発中の 8 つの HMI Table 2 AdaptIVe の概要 期間/予算 2014-1-1~2017-6-30/25Meuro (内 EU 補助:14.3 Meuro) 参加国 France, Germany, Greece, Italy, Spain, Sweden, The Netherlands, UK 参加機関 ・29 社・機関自動車メーカ: VOLKSWAGEN, BMW, CRF, DAIMLER, FORD, VOLVO, VOLVO_TEC, PSA, OPEL, RENAULT ・サプライヤ:BOSCH, CONTI, DELPHI ・その他,研究機関・大学等 内容概要 ・自動車とトラックの自動運転のための新機能開発 ・高速道路,都市,近接距離シナリオ等をカバー ・自動運転の評価方法の定義と法的フレームワーク記 述 ・部分的および完全自動運転のための様々な機能を有 した 8 台のデモ車両の製作とデモ (乗用車 7 台+トラック 1 台) プロジェクト構成 (Fig.5) プロジェクトは Fig. 5 に示す 7 つのサブプロジェクト (SP1~SP7)で構成される Fig. 5 プロジェクト構成(出典:AdaptIVe Web) Fig. 4 最悪のタッチディスプレイ HMI の例 SP3 の活動に関し WIVW は,Bainbrige の「自 3.5 SIS37(Challenges of automated driving) 本セッションでは欧州 FP7 の自動運転関連の 動化の皮肉」 (自動化が複雑になるほど,逆に人の 統合プロジェクト AdaptIVe の内容が紹介された. 役割が重要になる)をあげて,自動化により,居 モデレータが FP7 の車両・道路自動化ネットワ 眠りや注意散漫,自動化への過信や誤使用,シス VRA8) を 紹 介 し た 後 , テムの未理解が生じるとともに,長期的には運転 AdaptIVe のコーディネータである VW よりプロ スキルの喪失の恐れがあるとした.システムと人 AdaptIVe に との安全で効果的な相互作用のためには人間中心 ーク支援活動である ジェクトの全体概要,WIVW9)から JARI Research Journal - 3 - (2014.10) デザインの必要があるとし,AdaptIVe での研究 それら課題もまだ十分検討されているという状 項目を示し,2014 年 4 月に行ったユースケース 況ではなく,具体項目出しの段階で本格的開発 定義をベースに,今後,具体的課題出しを行い, はこれからである. ユースケースシナリオにてシミュレータや実車で 欧州の自動運転関連の新プロジェクトについて 評価していくとした. は最終日にAdaptIVeが紹介されたのみである. SP7 は自動運転機能の評価フレームワークの開 また,そのAdaptIVeについてもまずは最初のユ 発や自動運転アプリのインパクト解析のための方 ースケースを決めて検討にかかった段階のよう 法を開発する.自動運転機能の評価のためには新 である. しいアプローチが必要である(技術評価には, 米国も欧州も自動運転には最終的に "Event Based Operating" ア プ ロ ー チ と , Connectivityが必要としている. "Continuously Operating"アプローチが使えると 欧州ではSAE分類Level 5の混合交通での完全 した) .また安全インパクト評価については,従来 自動運転は考えておらず,CityMobileのごとく からのシナリオベース評価,事故解析,機能有無 別のモビリティと捉えて進められている. 比較評価等の ADAS での方法があるものの,そも 自動運転の展示に関しては,唯一EUブースで そも自動運転車同士の事故は従来にはないし,自 FP7プロジェクトであるCityMobile2やVRAの 動運転はクリティカルな状況をもともと避けるも 紹介があった程度.主体は交通情報とeCallのサ のであるため,従来とは異なる評価の考え方が必 ービスやそのための装置(特にインフラ側)で 要としている. あった. VW より AdaptIVe における SAE 分類の Level なお,前述した Plenary でのパネル討論のよう 4 までの自動運転機能のシナリオ(Fig. 6)が示さ に,参加者からの質問をリアルタイムでスクリー れ,欧州においては Google のような混在交通で ンに投影する手法は,活発な議論を促進する上で の無人運転は考えていないとした. 有効な方法であることから,今後,取り入れてい くべきであろう. Fig. 6 AdaptIVe における自動運転機能シナリオ 4. まとめ 以下に会議に見る欧米における自動運転の動向 について箇条書きで示した. 自動運転関連のセッションはいずれも盛況で立 見がでたセッションもあった. 技術的に様々な自動運転の研究がなされてはい るが,実用化に向けてはまだ課題出しをしてい る段階である. 取上げられた主な課題は,信頼性,ヒューマン ファクタ,自動-手動遷移,法的問題等である. JARI Research Journal 参考文献 1)ETSI(European Telecommunications Standards Institute):欧州電気通信標準化機構; http://www.etsi.org/ (2014.9) 2) HERE,Nokiaのビジネスユニット;http://here.com/ (2014.9) 3) RITA(The Research and Innovative Technology Administration);http://www.rita.dot.gov/ (2014.9) 4) IDIADA(IDIADA Automotive Technology); http://www.applusidiada.com/en/ (2014.9) 5) VTT(Technical Research Centre of Finland); http://www.vtt.fi/?lang=en (2014.9) 6) NHTSA(The National Highway Traffic Safety Administration);http://www.nhtsa.gov/ (2014.9) 7) VTTI(The Virginia Tech Transportation Institute ); https://www.vtti.vt.edu/ (2014.9) 8) VRA(Vehicle and Road Automation); http://vra-net.eu/ (2014.9) 9) WIVW(Wuerzburg Institute for Traffic Sciences GmbH);http://www.wivw.de/index.php.en (2014.9) 10) IKA(Institute for Automotive Engineering, RWTH Aachen University); http://www.ika.rwth-aachen.de/index-e.php (2014.9) - 4 - (2014.10) JARI Research Journal - 5 - (2014.10)
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