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日心第70回大会(2006)
二言語併用者の言語処理の研究 (IV):
語釈判断課題における第 1 言語と第 2 言語間の双方向的干渉の検討
○大井 京・齋藤洋典
(名古屋大学大学院情報科学研究科)
Key words: 二言語併用者,同形語,語義
と刺激呈示ソフト(super lab pro ver 2.0, Cedrus)が用いられた.
手続 実験は被験者ごとに個別に,國立臺灣大學で実施さ
れた.語釈判断課題の各試行は,被験者の“試行開始”キー押
しにより開始され,日中同形語 1 語と語釈 1 項目が 1 刺激対
として,モニタの画面上に同時呈示された.被験者の課題は,
呈示された刺激対を対象言語として“知っている”か否かにつ
いて,可能な限り速くかつ正確に判断することであった.教
示は,対象言語に関わらず常に日本語で実施された.
課題は,対象言語を日本語とする条件と中国語とする条件
とで実施された.2 回目の課題は,1 回目の実験の翌日以降,
3 週間以内に実施された.対象言語条件の実施順序は,群ご
とに被験者間で相殺された.被験者は,練習試行 10 試行を受
けた後に,本試行 140 試行(前後半各 70 試行)を受けた.
試行の最初に,“Ready?”が,画面の中央に呈示された.被
験者が,“試行開始”キーを押すと,文字列の呈示は停止され,
注視点がビープ音とともに 500 ms 呈示された.その直後に刺
激対が呈示され,刺激対の呈示は被験者のキー押し反応,も
しくは 30s の時間制限によって停止された.
【結果と考察】Figure 1 は,条件ごとの平均既知反応率を示す.
日本語課題と中国語課題の無関連語釈に対する誤反応率にお
いて,両群間に有意な差は認められなかった.この結果は,
両群が課題を同程度に正確に実施したことを示す.
日本語課題において,JL1CL2 群は C よりも J 語釈条件に
おいて高い既知反応率を示したが,CL1JL2 群は,両語釈条
件間に有意な差を示さなかった.中国語課題において,
CL1JL2 群は,J よりも C 語釈条件において高い既知反応率を
示したが,JL1CL2 群は,両語釈条件間に有意差を示さなか
った.これらの結果から,課題言語に関らず,対象言語を L2
とする群は,L1 とする群よりも,未知(No)反応が期待される
固有語釈条件において,L1 からの影響を受けて既知(Yes)反応
の抑制に失敗することが確認された.
両群が,日本語課題と中国語課題において S 語釈に対して
最も高い既知反応率を示した.この結果は,S 語釈のみが,
他の語釈とは異なり日本語と中国語の 2 言語で活性化される
ことから説明される.
なお,中国語課題では語釈と教示が非対象言語である日本
語で実施されたために,日本語を L1 とする JL1CL2 群では,
中国語を L1 とする CL1JL2 群よりも,対象言語である中国語
の活性の低下に伴い既知反応率の低下を示したと解釈される.
100
Known response(%)
【目的】同形語とは表記が 2 種類の言語でほぼ同一の単語であ
る.日本語では漢字,中国語では汉字という共通の起源をも
つ表記で記述される語は,日中同形語と見なされる.本研究
では,その中でも漢字二字から構成されるいわゆる熟語を検
討対象とする.日中同形語の語釈 (意味)は両言語で用いられ
る共通性により以下の 3 種類に区分される: 日本語と中国語
とで共通な語釈(S 語釈),日本語に固有な語釈(J 語釈),そし
て中国語に固有な語釈(C 語釈).日本語と中国語の二言語併
用者が,日中同形語を一方の言語(例えば,日本語)において
適切に運用するには,運用対象でない他方の言語(例えば,中
国語)に固有な語釈の想起を抑制することが必要となる.しか
し,運用対象が第 2 言語(Second language: L2)であり,運用対
象ではない非対象言語が第 1 言語(First language: L1)である状
況下では,L1 の活性を抑制する処理に困難が伴うと予想され
る.
柳瀬・石・増田・小河・李・齋藤(1998)と大井・齋藤(2004)
は,二言語併用者が L1 である非対象言語の抑制に失敗する
か否かを検討するために,日本語単言語使用者群と中国語を
L1 とし日本語を L2 とする二言語併用者群に,日中同形語と
語釈を同時呈示し,日本語として知っているか否かの判断を
求める課題を実施した.その結果,彼らは,L2(日本語)の熟
達度の高い二言語併用者群が,日本語(L2)の語釈に対して単
言語使用者群に相当する既知反応率(正反応率)を示すことと
同時に,中国語(L1)固有語釈に対して,熟達度の低い二言語
併用者よりも低い既知反応率(誤反応率)を示すにも関らず,
L1 の活性への抑制に失敗することを確認した.
本研究の目的は,対象言語に関らず,L1 の活性を抑制する
ことが,L2 の活性を抑制するよりも困難であることを確認す
ることにある.具体的には,中国語あるいは日本語を L1 と
し,日本語あるいは中国語を L2 とする二言語併用者を被験
者として,対象言語を日本語あるいは中国語とする 2 種類の
条件で語釈判断課題を実施する.仮説に従えば,二言語併用
者は,対象言語に関らず,対象言語が L2 であり抑制すべき
非対象言語が L1 であると,非対象言語固有の語釈に対して
高い既知反応率(誤反応率)を示すと予測される.
【方法】被験者 日本語と中国語の二言語併用者 45 名が実験
に参加し,そのうち 24 名は日本語を L1 とする JL1CL2 群で
あり,
残りの 21 名は中国語を L1 とする CL1JL2 群であった.
実験計画 JL1CL2 群と CL1JL2 群の 2 群が,日中同形語 1
語と語釈 1 項目に対して,対象言語(日本語または中国語)と
して知っているか否かを判断する語釈判断課題に参加した.
実験計画は,被験者群と対象言語を被験者間要因とし,語釈
を被験者内要因とする 3 要因混合計画であった.
刺激 大井・齋藤(2004)で用いられた同形語 70 語と語釈
140 項目(S 語釈 40 項目,J 語釈 30 項目,C 語釈 40 項目,無
関連語釈 30 項目)とが,日中同形語 1 語と語釈 1 項目を 1 刺
激対として,
無作為な順序でそれぞれの被験者に呈示された.
語釈項目は,対象言語に関らず常に日本語で表記された.刺
激項目の差異による影響を低減するために,同一の刺激セッ
トが日本語課題と中国語課題とにおいて呈示された.
装置 刺激の呈示には,コンピュータ(Let's note, Panasonic)
80
JL1CL2
CL1JL2
60
40
20
0
I
C
J
S
(J-C-)(J-C+) (J+C-) (J+C+)
I
J
C
S
(C-J-) (C-J+) (C+J-) (C+J+)
Japanese target task
Chinese target task
Definition
Figure 1. Mean known response rate in this experiment
謝辞 本研究は,財団法人交流協会,2005 年度若手研究者
(OI Misato, Saito Hirofumi)
交流こと業の援助を受けた.