公的統計におけるリモートアクセスと秘密保護について ―イギリスの事例

公的統計におけるリモートアクセスと秘密保護について
―イギリスの事例を中心に―
中央大学
伊藤 伸介
欧米諸国では,利用者からの高いニーズに応える形で,公的統計の個票データのアクセスを可
能にするためのリサーチデータセンター(Research Data Centre)が数多く設置されている。その
一方で,EU 域内での国家間の比較分析を可能にするために,国内のミクロデータだけでなく,国
外のミクロデータの利用に対するニーズが高まってきたことから,2011 年以降,EU 諸国において
は,
「国境なきデータアクセス(Data without Boundaries=DwB)」プロジェクトが展開されてきた
(Silberman et al.(2011))。このプロジェクトは,ヨーロッパで実施されている統計調査に関す
るミクロデータを利用可能にするためのリモートアクセスの構築に関する技術的な研究および法
制度的な整備を進めている。
こうした中で,イギリスでも,2007 年 4 月に統計登録サービス法(The Statistics and
Registration Service Act 2007,以下『イギリス統計法』と呼称)が発布され,2008 年 4 月に施
行されることによって,個票データの利用促進が図られてきた。『イギリス統計法』は,「個人情
報(personal information)」の秘密保護に関する条項を規定し,
「個人情報」を利用するために「承
認された研究者(approved researcher)」の資格を取得する必要性を明記している(伊藤(2014))。
イギリス国家統計局(The Office for National Statistics=ONS)は,
『イギリス統計法』に従い,
「承認された研究者」を対象にした個票データの利用サービスを行っている。個票データは,主
として ONS 内部にある Virtual Microdata Laboratory(VML)というオンサイト施設において利用
可能であって,VML 内では,世帯・人口系のデータだけでなく,事業所・企業系のデータやビジ
ネスレジスターのデータも利用することができる。その一方で,VML が ONS にのみ設置されてお
り,VML においては個票データに 24 時間アクセスすることができないことから,オンサイト施設
による個票データの利用については場所的時間的な制約が存在する。
他方,イギリスでは,UK データアーカイブ(The U.K. Data Archive)の内部に,ESRC(Economic
and Social Research Council)の資金援助によって運営されている the Secure Data Service(SDS)
というリモートアクセス施設が設置され,2011 年にその運用が本格的に開始された。現在,UK Data
Service の Secure Access 部門が SDS の機能を担っている。利用者は,UK Data Service 内のオ
ンサイト施設における個票データへのアクセスが可能なだけでなく,大学の研究室からでも
Secure Access のシステムにログインして,個票データにアクセスすることができる。また,個
票データに基づいた再集計やモデル分析を 24 時間無料で行うことが可能である(Afkhamai(2013),
伊藤(2014))。
本報告では,イギリスの事例を中心に公的統計の個票データの提供に焦点を当て,リモートア
クセスを含む個票データの提供における法制度的および技術的な整備状況を明らかにする。
参考文献
Afkhamai, R. (2013) “Statistical Disclosure Control Practice in the Secure Access of the UK Data Service”,
Paper presented at Joint UNECE/Eurostat Work Session on Statistical Data Confidentiality, Ottawa, Canada,
pp.1-7.
伊藤伸介(2014)「イギリスにおける政府統計データの二次的利用の現状」
『ESTRELA』No.241,10~20 頁
Silberman, R., Bender, S., Hundepool, A.(2011) “The Need for Networks on Data Access - Data Without
Boundaries Project and the Workshop on Data Access”, Paper presented at Joint UNECE/Eurostat Work Session
on Statistical Data Confidentiality, Tarragona, Spain, pp.1-12.