資料2-1 人と建物を理解する 岐阜工業高等専門学校 建築学科 講師 中谷 岳史 背景_室内気候 ■室内気候 ・自然界の気象条件は、人間には厳しい ・建築的工夫 ・温和であれば室内に取り入れる ・厳しければ、和らげる ・機械的工夫 ・空気調和機器を用いて室内気候を調整 ・人体の熱感覚に適合した室内気候をつくる。 ・社会的要請 ・省エネルギー ・熱中症、ヒートショックなどの健康問題 日本建築学会編:建築設計資料集成 設備計画6,p87,1969 背景_要求性能の変遷 オイルショック以前 オイルショック~ 2000年まで 快適性 快適性 省エネルギー 快適性 現在 省エネルギー 健康 室内温熱環境の要求性能は、最適化が求められる時代 居住者の要求と適応能力を見極めなければいけない。 目的 ◇省エネルギー基準 一次エネルギー評価 熱的境界の評価は、基本的に熱抵抗 熱抵抗=厚さ/熱伝導率 目的 ◇建築は多様な存在 ◇建築のかたち 機能、様式美、法律 解釈によって、建築形態は大きく変わる 目的 ◆居住者の望む環境を理解し、 自身や周囲の人を観察 大規模な調査をすることで、傾向がわかる ◆建物をつくる 熱は常識的な移動(温度の高い方から低い方) 移動に時間がかかる 見て確認できる項目が多く、経験を積みやすい 居住者の望む環境を理解 期間 : 2003年夏 地域 : 日本 (兵庫県, 大阪府) 調査項目 : 室内熱環境計測 生活時間調査 主観申告 住戸数 総時間 : 62 戸 : 2662 時間 Hyogo Osaka 論点①_住宅のComfort Zoneの検討 背景_政府の省エネ行動指針 エアコン控えめ 扇風機利用望ましい 設定28℃ 室温 [℃] 参考:省エネルギーセンターHP ・行動指針のみで定量的議論がない。 ・何℃まで快適で、どこから我慢できないのか。 背景_論点①_Comfort Zone ■Comfort Zone ・ISOやASHRAEなどの基準に採用。 ・空気線図上に、範囲が示されている。 ・Comfort Zoneでは、滞在者の80%が快適 ・夏用スーツ、椅子軽作業で、24~27℃(湿度50%) 空調能力の設計、運用の目安として、世界中でひろく利用。 用語説明_空気線図 Humidity Ratio [ g/kg(DA) ] 縦軸:重量絶対湿度 25 乾燥空気1kg中の水分重量 高温高湿 20 結露範囲 15 相対湿度100% 斜め線:相対湿度[%] 10 相対湿度50% 5 低温低湿 相対湿度0% 0 10 15 20 25 30 Air Temperature[ C] o 35 40 横軸:空気温度 用語説明_Comfort Zone Humidity Ratio [g/kg(DA)] 25 20 Comfort Zone 室滞在者の80%が許容する 温湿度範囲 15 10 100%(RH) 5 50%(RH) 24℃~27℃ 相対湿度50% 0 10 15 20 25 30 35 Operative Temperature[oC] 40 背景_論点① _Comfort Zoneの疑問点 ■Comfort Zoneの問題点 ・ Comfort Zoneは被験者実験が基になっている。 ・椅子に長時間すわり、室内環境に暴露 ・被験者は自由がなく、温熱ストレスを調節できない ・しかし我々の生活実態は、かなり自由である・・・ 居住者の適応能力を考慮し、快適範囲を拡げて、 空調負荷を減らせないか 背景_論点①_適応 Adaptive principle: If a change occurs such as to produce discomfort, people react in ways that tend to restore comfort (Humphreys, 1998) Ex… 順化 (温熱ストレスが低減するように、身体や心理状 態を調節する) 活動量の調節 (人体の産熱調節) 窓開放 ( 室内空気温度の低下) 冷房 (室内温湿度の機械的制御) 身体周りの工夫や窓開閉、空調機器などで温熱環境に適応 背景_論点①_快適範囲 ? 室温 [℃] 適応行動が豊富な日本の住宅であれば、 幅広い温度範囲を受け入れるのではないか 室温上昇 ▼ 居住者の判断 ▼ 通風を継続 冷房on/off ▼ Humidity Ratio [g/kg(DA)] Psychrometric charts 30 Occupants control zone 25 20 15 10 5 Comofort Zone (ASHRAE 55,2004) 0 15 滞在時の温熱環境 Limit line 20 25 30 35 o Operative Temperature[ C] Nakaya,2008 purpose→method→analysis→conclusion 居住者の滞在温熱環境 30 25 冷房運転後の主観申告分布(全居住者データ) Humidity Ratio [g/kg(DA)] Humidity Ratio [g/kg(DA)] 仮説 実際の居住温熱環境は適応や建物性 能、経済的社会的制約により、高温側に 移行するのだろうか? 20 100%(RH) 15 10 50%(RH) 5 30 25 20 15 100%(RH) 10 0 50%(RH) 5 0 20 25 30 35 15 Operative Temperature[oC] 20 25 30 35 Operative Temperature[oC] 快適範囲よりも、高温側で居住していた。 結果_論点①_集計結果 AC Windows Mean Ta=28.0oC Mean Ta=29.5oC 100 25% Acceptability [%] Relative Frequency [%] 30% 20% 15% 10% 5% 80 60 94.6 40 78.0 20 0% 20 25 30 35 Air Tmperature [ C] o 40 0 Air-Condition Windows 比較的高温環境でも、居住者の8割程度が受容 居住者の滞在温熱環境 Humidity Ratio [g/kg(DA)] 適応により、“これでよし(快適&許容、不満&非許容)”を 保っているのか。それとも冷房運転による環境改変を 30 逸して、不満を内包した状態(不満&非許容)なのか。 25 20 100%(RH) 15 10 50%(RH) 5 0 居住者は温熱的危険域に滞在しているのだろうか。 20 25 30 35 (例えばWBGT29℃以上の厳重警戒域)。 Operative Temperature[oC] • • 冷房運転後の主観申告分布(全居住者データ) Humidity Ratio [g/kg(DA)] 仮説 30 不快&非許容 25 不快&許容 20 快適&許容 15 100%(RH) 10 WBGT29oC 50%(RH) 5 0 15 20 25 30 35 Operative Temperature[oC] 実験室実験で求めた快適温度より、高温高湿で生活 不快と受容が同居 論点②_適応行動の実態 用語説明_WBGT(熱中症の指標) 参考:国立環境研究所HP 気温(参 考) WBGT 35℃以 上 31度以 上 31~ 35℃ 熱中症予防のための運動指針 運動は 原則中 止 28~31 厳重 度 警戒 28~ 31℃ 25~28 度 警戒 24~ 28℃ 21~25 度 注意 24℃まで 21度まで ほぼ安 全 WBGT温度が31度以上では、皮膚温より気温の方が高くなる。 特別の場合以外は運動は中止する。 熱中症の危険が高いので激しい運動や持久走など熱負担の大 きい運動は避ける。体力低いもの、暑さに慣れていないものは 運動中止。 熱中症の危険が増すので積極的に休息をとり、水分を補給。 熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。 通常は熱中症の危険性は小さいが、適宜水分の補給は必要 Humidity Ratio [g/kg(DA)] 目的_論点②-1_適応行動の理解 30 Occupants control zone 25 Limit line 20 15 10 5 Comofort Zone (ASHRAE 55,2004) 0 15 20 25 30 35 o Operative Temperature[ C] 適応行動(冷房 適応行動 冷房) 冷房 温熱的要因(気温など 温熱的要因 気温など) 気温など 適応行動(通風、扇風機 適応行動 通風、扇風機) 通風、扇風機 25 20 100%(RH) 15 10 50%(RH) 5 0 20 25 30 Humidity Ratio [g/kg(DA)] Humidity Ratio [g/kg(DA)] 居住者は温熱ストレスの増大を解消するため、室温 上昇に従い、適応行動を行っているだろうか? 30 (冷房、通風、扇風機) 30 25 AC switch-on 20 15 50%(RH) AC switch-off 5 0 35 15 Operative Temperature[ C] • 100%(RH) 10 o • o WBGT29 C line 20 25 30 35 Operative Temperature[oC] 居住者は冷房をつかって、暑熱環境を調節 一定制御というよりは、危険領域を避けている 目的_論点②-2_気流利用による冷房抑制 ? 室温 [℃] ? 室温 [℃] 適応行動(冷房 適応行動 冷房) 冷房 温熱的要因(気温など 温熱的要因 気温など) 気温など 適応行動(通風、扇風機 適応行動 通風、扇風機) 通風、扇風機 扇風機や通風などの適応行動により、 冷房を使わずに、高い室内温熱環境を快 適に過ごすことができるのだろうか? 30 25 20 100%(RH) 15 10 50%(RH) 5 0 25 30 35 o Operative Temperature[ C] • • 30 Passive behaviour(windows,fans) 25 →AC switch on o WBGT29 C line 20 15 100%(RH) 10 No passive behaviour →AC switch on 50%(RH) 5 0 20 • Humidity Ratio [g/kg(DA)] Humidity Ratio [g/kg(DA)] 結果_論点②-2_気流利用による冷房抑制 15 20 25 30 35 o Operative Temperature[ C] 冷房の前に、自然通風や扇風機を使う。 30℃程度までは効果的 暑熱限界付近では冷房抑制効果ない 結果_論点② 実測で得られた快適範囲を中心に、冷房の開始終了 が行われていた 熱中症の厳重警戒に達する前に、居住者の大部分が 冷房を開始していた 冷房に先立って通風をしておくことで、比較的室温が低 い時点の冷房開始行動を抑制する傾向が確認された。 方法_調査概要 期間 : 2010年5月~2011年5月 地域 : 日本 (岐阜県) 調査項目 : 室内熱環境計測 主観申告 住戸数 : 60 戸 結果_調査概要 • • • 体調を崩すのは、季節の変わり目。夏の終わり 我慢や受容はできるが、不快 梅雨は、不快を感じずに、体調を崩しやすい 結果_調査概要 • 外気温度の変化に追随して、快適温度を調節 結果_調査概要 • 外気温度によって、快適温度が変化 まとめ_夏の居住者 ◆居住者は、暑さ寒さに適応 ◆変化に弱い。体調不良は、季節の変わり目。 ◆暑さにも限界。 扇風機では対応できない。エアコンが必要。 ◆室内温熱環境と居住者の満足度、居住者の健康は、 今後の重要な課題。 建物をつくる ◆基礎理論の理解 ◆経験 基礎理論 ◆熱収支式 壁にエネルギーが入る、エネルギーが出る。 温度が変化する。 につきます。 熱収支 熱抵抗 熱容量 展望 ◆熱の出入りは、比較的単純な現象 ・原理を理解すれば、用語や単位は導ける ・四則演算で十分 ・熱収支から熱貫流率を導けるし、微分方程式も導ける。 ◆経験しやすい現象 ・壁にセンサーを埋め込み、測定 ・簡単な計算で、温度を予測 例えば ・熱抵抗、熱容量の異なる壁を比較 ・実仕様の壁体 ◆理解は行動につながる ・原理を理解すれば、仕様書の記述が理解できます。 ・施工時のポイントが、気づくようになると思います。 以上です。
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