Cheonアルゴリズムの実装に関する研究

神奈川大学理学部情報科学科 2013 年度学士論文要旨
指導教員:松尾和人
Cheon アルゴリズムの実装に関する研究
2010
1
はじめに
情報技術の進歩やインターネットの普及により情報化
浅賀 優人
数とする。
楕円曲線上の離散対数問題は、楕円曲線離与えられた E
社会となっている今日では、電子マネーやネットショッ
の有理点 G, G = αG1 ∈ E(Fp ) に対し、G = G1 + G1 +
ピングなどを気軽に使えるようになり個人情報を入力す
… + G1 (α個) を満足する α ∈ [0, r − 1] を求める問題で
る機会が増えているたため、情報の機密性保持は重要な
ある。
課題となっている。情報を守るためには暗号技術が必要
離散対数問題の困難性は楕円曲線暗号の安全性の根拠と
であり、その中でも公開鍵暗号方式の一つである楕円曲
なっている。楕円曲線離散対数問題は解くことが難しい
線暗号が注目を集めている。楕円曲線暗号は楕円曲線上
問題として知られており、このような楕円曲線離散対数
の離散対数問題を用いた暗号であり、有限体上の暗号と
問題の難しさを利用した公開鍵暗号の総称を楕円曲線暗
同じ強度の暗号が小さい鍵サイズで実現可能である。そ
号と呼ぶ。
2.2 補助入力付き離散対数問題と weak Diffie-Hellman
問題
d を r − 1 を割る正整数とする。rを E(Fp ) の位数と
の為、近年の小型化した電子機器にも適した暗号方式で
ある。
楕円曲線暗号の一種にペアリング暗号がある。ペアリン
グ暗号の登場により、従来実現できなかった ID ベース
暗号や ID ベース署名などが利用可能になった。ペアリ
ング暗号には、weak Diffie-Hellman 問題の困難性を安全
性の根拠としているものが知られている。weak Diffie-
Hellman 問題を一般化した問題に補助入力付き離散対数
問題がある。
補助入力付き離散対数問題を解くアルゴリズムに Cheon
アルゴリズムがある。Cheon アルゴリズムとその改良に
ついては多くの実装実験結果 [2] が知られている。Cheon
アルゴリズムの効率は補助入力パラメータに依存する
が、これら実験は、Cheon アルゴリズムが最も効率的に
なるパラメータに対する実験であり、現実の用途ではこ
のようなパラメータは利用されない。また、実際に利用さ
れるプロトコルは、補助入力付き離散対数問題ではなく
weak Diffie-Hellman 問題である。しかし、weak DiffieHellman 問題に対してより効率的な解法であると知られ
る KKM アルゴリズム [3] は実装されていない。
する。楕円曲線 E 上の3つの元を G, G1 = αG, Gd =
αd G ∈ E(Fp ) とする。
補助入力付き離散対数問題とは、上記の3つの元 G, G1 , Gd
よりα ∈ Z/rZ を求める問題である。
また前節より離散対数問題を用いれば、G, G1 からα が
求められるので補助入力付き離散対数問題は、離散対数
問題が解ければ解くことができる。
weak Diffie-Hellman 問題とは、与えられてるいくつもの
点 (G, [α]G, [α2 ]G, ..., [αq ]G) から [1/α]G を求める問題
である。
また与えられた点には、G, [α]G, [αd ]G も含まれること
から補助入力付き離散対数問題を用いれば α が求められ
る。α が求められれば、α → 1/α → [1/α]G として
weak Diffie-Hellman 問題を解くことができる。
3
Cheon アルゴリズムと KKM 法
本章では、Cheon アルゴリズム [1] と KKM 法 [3] につ
そこで、Cheon アルゴリズムを実装し現実的なパラメー
いて説明する。
3.1 Cheon アルゴリズムの概要
Cheon アルゴリズムは、補助入力つき離散対数問題を
タ設定の下で効率を検討し、さらにその改良を検討する。
解くアルゴリズムである。
また KKM アルゴリズムを実装し、weak Diffie-Hellman
ζ を巡回群(Z/rZ)∗ の生成元 とする。ζd = ζ d とする。
BsGs 法を用いて Gd = [ζdk1 ]G となる k1 を計算する。
次に、同様に BsGs 法により G1 = [ζ k1 +k2 (r−1)/d ]G と
問題に対する効率を議論する。実装と計算には、代数計
算システムの Magma を用いる。
2
準備
て述べる。
2.1 離散対数問題
E : y 2 = x3 + ax + b (a, b ∈ Fp , 4a3 + 27b2 ̸= 0)
なる k2 を計算する。以上から α = ζ k1 +k2 (r−1)/d が得ら
√
√
れる。計算量は O(log r( (r − 1)/d + d)) である。
3.2 KKM 法の概要
Cheon アルゴリズムの BsGs 法を利用してる部分を改
√
良する。c を小さな正整数とする。c 行、c r 列 のテーブ
√
ルを利用し、テーブルから、β k2 ∈ Z/rZ, b = c r となる
を有限体 Fp 上の楕円曲線とする。また r を E(Fp ) の位
ようなものを c 個見つける。そのc個を足せば解答が導
本章では本論文の研究対象である離散対数問題と補助
入力付き離散対数問題,weak Diffie-Hellman 問題につい
神奈川大学理学部情報科学科 2013 年度学士論文要旨
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け、c 個の足し算だけで結果が得られるようになる。計
√
√
算量は O(( (r − 1)/d + d)) である。
3.3 KKM 法の改良
KKM 法では、小さな正整数 c を 4 に設定しており
設定方法を定義していない。さらにテーブルを作成する
際、1 度目の BsGs 法と 2 度目の BsGs 法の部分で同じ c
の値を用いている。
本論文では、最適な c の値の設定を行う。
√
√
1 度目 BsGs 法の部分では (c − 1) r/d + c c r の値が最
小になるようなcをcとする。
√
√
2 度目 BsGs 法の部分では (c − 1) d + c c r の値が最小
になるようなcをcとする。
4
実装と実験
離散対数問題に対する BsGs 法と補助入力付き離散対
数問題に対する Cheon アルゴリズム、KKM 法、weak
Diffie-Hellman 問題に対する KKM アルゴリズムの実装
を行った。
実験は補助入力付き離散対数問題に対して、BsGs 法、
Cheon アルゴリズム、KKM 法を用いた時のそれぞれの
速度を比較する実験を行った。
5
考察
補助入力付き離散対数問題を解く実験では、問題のパ
ラメータによって計算速度に違いが見て取れた。
暗号に使用する場合は、その暗号が解けないよう(解け
使用マシンスペック:Linux processor :Intel(R) Core(TM) ずらい)ように工夫して問題を選択する必要がある。
具体的にはグラフでみるところの BsGs の直線と Cheon
i7-3820 CPU @ 3.60GHz, MemTotal:65888208 kB
4.1 補助入力付き離散対数問題 実験方法
アルゴリズムの近似直線の交点以下のパラメータに設定
補助入力付き離散対数問題を設定し、問題に対して 3
すると Cheon アルゴリズムや KKM 法によって解ける
種類の解法を試しそれぞれ計算時間を計測する。
難易度が下がってしまう。
1 つ目は BsGs 法、2 つ目は Cheon アルゴリズム、3 つ
目は KKM 法で解く。
計算結果は、Cheon アルゴリズムと KKM 法で思ったよ
ランダム素数 p を 40bit から 72bit まで 8bit ずつまで上
げ楕円曲線を作成し、d の値を素数の 1/8∼7/8 の bit 数
となるように設定し、それを 20 回づつ解いた。
4.1.1 結果
実行結果ををグラフに示す。
グラフは、横軸が d の bit 数を縦軸は計算時間 (秒) の底
2 の対数のグラフである。
り差が出なかった。
c を固定した KKM 法の実験では c を適切な値に設定し
た KKM 法の方が速くなっているので c は適切な値を取
るべきである。
実験の中で計算速度が想定と一部逆転してしまってい
るが、これは実験の試行回数の少なさが原因と計算機
Magma のテーブル参照の時間が遅い事が考えられる。
また、実験後 BsGs 法を一部改良することができたので、
そこを改良する事でより良い結果が出せと考えられる。
weak Diffie-Hellman problem に対する KKM アルゴリ
ズムでは、後半部分を無視して計算できるため計算効率
はとても高いと判断できる。
参考文献
[1] Cheon J. H. , Security Analysis of strong Diffie-Hellman Problem , EUROCRYPT 2006, 1-11, 2006
[2] TetsuyaIzu MasahikoTakenaka MasayaYasuda,Experimental
Analysis of Cheon’s Algorithm against Pairing-friendly
Curves, IPSJ Jounal Vol.52 No.9 2652-2661, 2011-09-15
[3] Shunji Kozaki, Taketeru Kutsuma, Kazuto Matsuo ,“Remarks on Cheon’s Algorithms for Pairing-Related Problems,
Pairing-based cryptography - Pairing 2007