ロールレタリングによる看護学生教育への試験的実践(3)

ロールレタリングによる看護学生教育への試験的実践(3)
○大石
武信 1
(1T-time 心理ラボ)
キーワード:ロールレタリング、看護学生
Experimental practice to nursing student education by the roll lettering(3).
Takenobu OHISHI1
1
( T-tine Psychology Laboratory)
Key Words: Role lettering, Nursing student.
目 的
原口(1995)によって考案されたロールレタリング(Role
Lettering:以下 RL)は、文章による感情の明確化やセルフカ
ウンセリング、自己と他者双方の視点の獲得などが効果とし
て挙げられている。そのため、高度な対人関係スキルが必要
とされる看護の教育場面での導入が試みられており、その有
効性が指摘されている(e.g. 下村,2007;關戸,2007)。
大石(2012,2013)では、准看護師としての看護職務経験
やライフイベント経験においても多様性がある者を対象にし
た検討を行った。その結果、従来の研究で指摘されていた内
容を確認することができた一方、入院疾患設定の自由度から
体験振り返り評定の低さが指摘された。
そこで本研究では、入院疾患をあらかじめ設定した条件で
RL を実施した場合の効果や評定の内容を検討することを目
的とした。
方 法
入院疾患設定の作成:本研究とは別の看護学校に通う看護
学生 42 名を対象に「あなたが入院するとしたらどのようなこ
とで入院すると思いますか。3 つまで挙げてください。」とい
う自由記述による内容のうち、最も多かった「骨折」の「回
答から「自分と相手の双方の不注意により交通事故に遭い、
利き手と聞き足を骨折した。命には別条ないが、骨折の状態
などまだ多くの精密検査が必要な段階である。」とした。
対象者:埼玉県内の高等看護科に通う准看護師 48 名。書面
により同意書を得られた 29 名(男 2 名、女 27 名。平均年齢
30.1±10.5。平均准看護師歴 1.8±2.8 年)についての結果を
発表する。
実施期間:2013 年 8 月から 12 月において「人間関係論」
全 12 回の講義中に実施した。
実施方法:まずは「入院患者(入院疾患設定は自由設定)
の役割の自分」から、
「担当看護師の役割の自分へ」という手
紙を書いてもらった。次回に、その手紙を読んで「担当看護
師として」で「入院患者である自分」に手紙を書いてもらっ
た。このやり取りを繰り返し行った。書いた手紙は講義終了
時に預かり、次回講義時に返却して手紙を読み直し返事を書
くこととした。最終講義時に「1.ロールレタリングを体験
することによって変わったこと」。「2.患者としての自分に
ついて感じたこと」。「3.担当看護師としての自分について
感じたこと」の三項目について自由記述をしてもらった。ま
た、想定書簡体験の振り返り票(福島,2005)により RL の
効果を評定してもらった。入院疾患のイメージのしやすさに
ついて1(まったくイメージできない)~7(非常にイメー
ジしやすい)で評定させた。
結 果
○質問項目ごとの自由記述の内容(一部抜粋)
1.RL を体験して変わった点
「書くことの重要性に気づいた」
「自分の気持ちを再確認でき
た」「回数を重ねるうちに整理できるようになった」
2.患者としての自分について
「入院生活の辛さが分かった」
「不安な気持ちを聞いてほしい」
「自分が生活で重要なものが分かった」
3.担当看護師としての自分について
「気持ちの面で信頼関係を築くことが大切だと感じた」
「看護
師として優しくしようとする部分と、仕事の辛さを出してし
まう自分がいた」
○想定書簡体験の振り返り票の結果(評定平均値の高い 4 項
目:Table 1 と低い 4 項目:Table 2 を抜粋)
Table 1 評定平均の高かった 4 項目
質問項目
平均
標準偏差
自分のことは自分で責任を取らなければという気持ちになった
4.69
1.47
ああこういう風に思っていたんだ、と改めて気づいた
4.62
1.42
素直な自分が出せた
4.45
1.27
やってみて自分を反省した
4.34
1.63
Table
2 評定平均が低かった 4 項目
質問項目
平均
標準偏差
自分の問題がはっきりした
3.52
1.43
自分の良い面に気づいた
3.52
1.57
自分の思っている本当のことが表現できた
3.55
1.55
おさえていた気持ちが、外にあふれ出てくる感じがした
3.55
1.40
○入院状況のイメージしやすさについては 4.25(±1.35)で
あった。
考 察
自由記述からは、大石(2012,2013)と同様の内容が報告
され、下村(2007)が指摘する、患者の看護への気づきの効
果が確認できたと考える。
想定書簡体験の振り返り票に結果では、中心化傾向は顕著
なものの、項目全体の評定値では大石(2013)と比較して高
くなった傾向がみられた。このことは、入院疾患設定を設定
し、イメージがしやすくなったことと関連するものと考えら
れる。その一方、入院状況のイメージのしやすさについては
あまり高くなかった。今回の対象者は、大石(2012,2013)
と比較すると、年齢が若く、准看護師としてのキャリアが少
ないものが多かった。そのため、入院疾患設定のイメージ力
が乏しく、その評定が低かった可能性があると考える。この
点については更なる検討が必要であると思われる。
今後は異なる集団に対しても RL を実施することにより多
面的な分析と教育方法を検討していく予定である。
引用文献
關戸啓子(2007)コミュニケーション能力を高める教育―ロ
ールレタリングを導入した演習の試み― 看護展望,32,
1121-1125.