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シ ャマ タデ ー ヴ ァの倶 舎 論 註
-根 品(6)-
本
庄
良
造 親 は 倶 舎 論 第 二 章, 命 根 解 説 の 箇 所 で,
に 倣 ひ, 有 情 の 身 体 の あ り方 を,
(1)
文
先 行 の 論 書 (婆 沙151,
自殺 の み 可,
(4) 両 方 不 可 と い ふ 四 種 に 分 け, 具 体 例 を 示 して い る。 法 憧,
これ に っ き, 殆 ど何 の 資 料 も挙 げ な い が,
大27, 771c)
(2) 他 殺 の み 可,
ウ パ ー イ カ ー (UPと
旭 雅,
(3) 両 方 可,
仏 訳 者 らは
略) は, か な り詳
細 に 経 や 律 典 中 の 説 話 類 等 を 引 い て い る。 本 稿 で は そ の う ち の 未 紹 介1)の
もの を
示 す こ と とす る。 蔵 文 は 時 に 理 解 が 困 難 で あ り, 資 料 比 定 の 叶 は ぬ も の も多 か っ
た。 識 者 の 御 指 摘 を 期 待 した い。
[49]
nirodhasamapattisamapanna
(753, Tu
85a7)
滅 尽 定 に 入 っ た 比 丘 が 死 者 と見 られ, 火 葬 に さ れ た が 死 な な か っ た の で “samjiva”と 呼 ば れ る や う に な っ た,
a5); MN
No.
と い ふ,
50, Maratajjaniyasutta
中 含30,
131「降 魔 経 」(大1,
(vol. I, 33311-3342) に 当 る 経 を 引 き,「 〔中阿
含 〕有 偶 品 第 二 摂 頒 の 降 魔 経 」2)と 呼 ぶ。 さ ら に,「Ksudraka
の ウ パ ー リ の 物 語 (漢 訳 雑 事33,
に, AK
[50]
No.
[51]
言 及 し, 最 後
III, 43a (無 心 定 に入 っ てい る もの には 死 も生 もな い) を 参 照 す る よ うに 云 ふ。
rajarsi
(754, Tu
86a7)
83, Makhadevasutta
jinaduta
遊 女 Amrapali
有 部 律 薬 事6
[52]
第 八 門 第 一 摂碩 」
第 八 門 第 一子 摂 頗: 大24, 370bf)3)に
「〔中阿 含 〕王 相 応 品 第 十 二,
MN
620c10-621
(754, Tu
67「大 天 捺 林 経 」;
に 対 応 す る4)。
87b8)
の鵬 鵡 が 仏 へ の 使 ひ を果 た して 後 死 ぬ と い ふ 逸 話 を 引 く。 根 本
(大24, 26c-27a)
jinadista
大 天 経 」を 引 く。 中 阿 含14,
(754, A:
に 極 め て よ く対 応 す る。
Tu
89b4; B:
-467-
Tu
90a2)
シ ャ マ タ デ ー ヴ ァ の倶 舎 論 註 (本
(A)「勝
庄)
(93)
者 に 授 記 さ れ た 」と い ふ 一 般 的 な 意 味 の 例 と, (B)
固有名 詞 の例 と
を 引 く。
(A)に
就 い て は 「律の 雑 事 」 の Jyotiska
に 紹 介 す る。 有 部 律 雑 事2,
Jyotiskavadana
(gzi brjid, 火 生) の 物 語 を 極 め て 簡 略
火 生 長 者 因 縁 (大24, 210cff);
Divyavadana
No.
19,
に対 応 す る5)。 そ の 概 略 は 次 の や うで あ る。
王 舎 城 の長 者 善 賢 (Subhadra)
の妻 が 妊 娠 した。 仏 は 「男児 で あつ て, 家 族 を繁 栄 させ
(√dyut), 出 家 して 阿羅 漢 と な ら う」と 授 記 す る。 善 賢 の信 奉 す る ジ ナ教 徒 が 仏 語 を 妄
語 に転 じ よ うと,「繁 栄 させ る」と は 「焼き殺 す 」と い ふ こ とだ と善 賢 に 言 ひ, 暗 に 子
殺 しを指 示 す る。 善 賢 は終 に妻 を殺 す が, 火 葬 され た 妻 の 胎 内か ら無 事 男 児 が 生 れ る。
火 中 か ら生 れ た の で火 生 と名 付 け られ る, 云 々。
(B)
に 就 て は, 舎 衛 城 の あ る 大 富 豪 の 物 語 を 紹 介 す る。 省 略 が 烈 し く, 大 意 を
捉 へ 難 い。 資 料 比 定 もで き て い な い。
[53]
Dharmila
(754, Tu
「ダル ミ ラ も, Jinadista
93a3)
と 同 様,
母 親 に よ っ て,
チ ャ ク ラ ヴ ァ ー カ 鳥 (?nur)
の 群 の 中 に 捨 て ら れ た が 諦 を 見 る べ き人 で あ っ た が 故 に 死 な な か っ た 如 く で あ
る」と の み 言 ふ。 資 料 未 比 定。
[54]
Uttara
(754, Tu
93a4)
「盗族 が 王 舎 城 の あ る長 者 の 妻 の 腕 輪 を 奪 は う と両 腕 を 切 り, そ れ を 出 家 者 ウ
ッ タ ラ の 鉢 の 中 に 入 れ た。 彼 は疑 は れ,
阿 閣 世 王 に 礫 の 刑 を 言 ひ 渡 さ れ る が, 舎
利 仏 の 説 法 を 聞 き, 杭 に 繋 が れ た ま ま 阿 羅 漢 果 を 得, 空 中 に 舞 ひ 上 っ た。」と い
ふ 現 在 物 語 と,「舎 衛 城 の 長 者 に 烏 子
(ウ ッタ ラの前 世)
と娘
(腕 を切 られ る女 の前
世) が あ っ た。 あ る 日, 遊 び 疲 れ て 母 親 に 食 事 を 乞 ふ と,『疲 れ て い る か ら 勝 手
に お た べ 』と 言 は れ た。 息 子 は 『礫 に さ れ ろ 』, 娘 は 『両腕 を切 ら れ よ 』と の の
し っ た。 後 に 息 子 は 迦 葉 仏 の 下 で 出 家 し た。」と い ふ 過 去 物 語 を 述 べ る。 未 比 定
で あ る が, Paramatthampanz
(vol. II, 1f) ad
Thragatha
121fの
逸 話 と類 似 す
る。
[55]
Gangila
(754, Tu
次 に示 す や うな 内 容 の,
93b4)
か な り長 大 な 物 語 を 引 い た あ と,「こ こ で は 経 よ り ま
と め て 説 い た。 詳 し くは Avadanasataka
-466-
第 十 摂 頒 の 第 八 話 を 見 よ」と,
同書 第
(94)
シ ャ マ タ デ ー ヴ ァ の倶 舎 論 註 (本
98話
“Gangika”に
庄)
言 及 す る。 実 際 は 引 用 資 料 の 方 が 詳 し い。
ベ ナ レス に ガ ン ギ ラ (gan ga len) とい ふ 長 者 の息 子 が あ つ た。 仏 の説 法 に感 激 し, 出
家 を願 ふ が父 母 の許 し が得 られ な い。 あ る と き 「この世 で は 出家 が 叶 は ぬ か ら, 来 世 に
賭 け よ う」と 誓 願 を立 て, 自殺 を企 て る が不 思 議 に死 ね ない。 そ こ で, 王 舎 城 に, 厳 罰
で有 名 な 阿闇 世 王 あ る こと を思 ひ 出 し, 処 刑 し て貰 は うと人 前 で盗 み を働 く。市 中引 き
ま は しの上 礫 と の判 決 を うけ た彼 が,「早 く処 刑 し て くれ 」と 乞 ふ の を説 し く思 つ た 執
行 人 た ち が, 王 に事 情 を報 告 す る。 ガ ン ギ ラ を呼 び寄 せ 一 部 始 終 を聞 い て大 層 感 激 した
王 は, これ を 出家 させ る。 ガ ン ギ ラ はや が て阿 羅 漢 果 を得 る。
[56]
sresthiputrayasah-kumarajivakadinam
kanam
Yasas
bodhisattvanam
に 就 て は, Gnoli
stu, vol. I, 13918-14518;
101a6ま で)。 以 下,
sarvesam
(754, Tu
ed. The
Gilgit
漢 訳 破 僧 事6
caramabhavi-
97b1)
Manusoript
(大24,
of
128c-129c)
the
Smghabhedma-
に 当 る 物 語 を 引 く (Tu
次 の や う に続 く。
キ ンナ ラた ち が 門 を 開 い て も音 が 聴 えず,
この 人 (Yasas)
が何 人 に も殺 され な か つ た
の は, 最後 身 の 人 だ つ た か らで あ る。 ジ ー ヴ ァカ も, 籠 に入 れ て王 門 に捨 て られ たが 諦
を 智 見 して 死 な な か つ た, とい ふ話 の 詳 細 は, 律 な どの vastu に 於 て 見 よ。 等 (adi)
な る語 に よつ て, bhava-lobataka
(?Pek:
lo bta ka) 等, 最 後 身 の 者 が 諦 を 智 見 し
て, 崖 に 捨 て られ て も死 な な か つ た の を例 とす る の で あ る。 それ 故 に こそ, 説 かれ た限
りの す べ て を ま とめ るた め に,「最 後 身 の菩 薩 達 の」と 云 ふ の で あ る。
[57]
bodhisattvamatus
tadgarbhayah
(755, Tu
101b1)
次 の や う な 未 比 定 の 資 料 を 引 く。
「菩薩 の威 力 と神 神 の威 力 に よ る, 希 有 な る心 あ る人 の入 胎 」に 説 く。(以 下 韻 文) 母 は
安 楽 に して 心 に 煩 ひ な く, 来 世 へ の望 み を もた な か つ た。 住 処 の 四方 に は, 手 に武 器 を
持 つ た 神 々が, 護 衛 の た め, 所 狭 し とひ しめ い て ゐ た。
1)『法
然 学 会 論 叢 』第4号 所 収 拙 稿 参 照。
2)
婆 沙154冒 頭 に も引 か れ る。 『仏教論 叢 』第25号
3)
学 友佐 々木 閑 氏 の指 摘 を得 た。
4)
Cf. Waldschmidt:
Chinese Agamas,
Central
Asian
The Language
Sutra
所 収 拙 稿 参 照。
Fragments
and
of the Earliest Buddhist
their Relation
Tradition,
to the
Gottingen,
1980, p. 143.
5)
仏 訳p.
220, n2参
照。(仏
教 大 学 仏 教 文 化 研 究 所 助 手)
-465-