第7章「同時刻や同時性を確認する手段は光だけか?」

■アインシュタインの特殊相対性理論の前提に関する疑問点■ by 蒔苗昌彦
<第7章>
第7章「同時刻や同時性を確認する手段は光だけか?」
岩波文庫「相対性理論」において、 アインシュタインは互いに離れた場所(A、B)にそ
れぞれ置いてある時計どうしの時刻の一致を確認する方法を紹介した。そして、その手段
に「光」を用いた。このことは、当書18ページの下段(下から7行目から)で、「A、B
に共通な時間は、次のようにして定義される」と述べた後に続く次の文章にて知ることが
できる。
「光がAからBに到達するのに要する 時間 は、逆にBからAに立ち戻るのに必要な 時間
に等しい」【注1】
ちなみに、この考え方を前提として、最初の数式、tB - tA = t’A - tB が紹介される。
さて、光は極めて速く移動する上、真空中において、その速度は一定かつ直進するため、
直線上の2点間の信号のやりとりには有用である。だから、思考実験とはいえ、アインシ
ュタインが時刻一致を確認する手段として光を用いたこと自体は適切である。
しかし、光ほど優秀ではないかもしれないが、2点間の信号のやりとりが可能な手段は、
他にもある。たとえば音波がそうだ。実際、こうもりなどは、音波を巧みに使い闇夜でフ
ライトできる。潜水艦のソナーや漁船の魚群探知機なども音波を利用する。とはいえ、そ
の速度は光とは比べものにならないほど遅い。また、媒質の安定性を常に確保することが
難しいという短所もある。が、そうであっても光が使えない状況において有用であること
には違いない。
また、ローテクながら堅実な手段もある。それは鋼鉄製の棒だ。(以下、鉄棒と記す)
アインシュタインが求める同時刻の確認について、光だけでなく鉄棒も使う思考実験装置
も適用できると私は考える。その考えを次に紹介しよう。
<思考実験装置「同時刻の確認に鉄棒を使う装置」>
運動系座標に置かれた計測対象の剛体上のA点とB点に、文字盤が向き合う形で、時計を
置く(旧来型の時計で、針が時刻を示す時計)。以下、A点に置いた時計を「A時計」、
B点に置いた時計を「B時計」と呼ぶ。A時計の軸に、B点の直前まで届く長さの鉄棒を取
り付ける。そして、その鉄棒のB点側の先端に時計の針を取り付けておく。つまり、A時
計の軸と針がB点直前まで伸びているのと同様の状態にする。これにより、A時計の針が
1つ進むと、鉄棒のB点側の端に取り付けた針も1つ進む。もし、それと同じタイミング
で、B時計の針が1つ進むことがB点において確認できれば、二つの時計が同時刻である
ことが確認できる。
1/3
2014年7月6日 第2版
■アインシュタインの特殊相対性理論の前提に関する疑問点■ by 蒔苗昌彦
<第7章>
また、この方法では、静止系からは針の動きが分かりづらい、という指摘も出てくるかも
しれない。その場合には、B時計の針と、その真下に置いたA時計から伝わる鉄棒回転情
報を表す針に、LEDをつけるなどして発光するようにしておく、という方法を取ればい
い。
具体的には、両方の時計の文字盤を静止系の観察者たちのほうへに向けたうえ、A時計の
軸から伝わる力を直角方向へと変えるギアボックスAを設け、そのギアボックスAにB時計
の真下まで届く鉄棒を取り付け、そこでまた力を直角方向へと変えるギアボックスBを設
けて、A時計の軸からギアボックスA→鉄棒→ギアボックスBと伝わる回転情報を表す針
をギアボックスBの静止系側に取り付け、B時計の真下に位置させる。 そうすれば、静止
系にいる観察者からも針の動きがよく見えるようになる。
さらに、「運動系座標が超高速で移動しなければ実験目的にかなわず、その場合には、静
止系に鎮座する観測者たちの目の前を通り過ぎる時計の針を瞬時に見分けることが不可能
だ」との指摘が発生するかもしれないが、それならば第2章後半で紹介したようなストロ
ボとカメラを観測者たちの代わりに使えばよい。
以上の方法であれば、AB間の光の往復の時間差を使うアインシュタインの方法と異な
り、X軸方向の情報伝達の時差がないため、 tB - tA = t’A - tB という式は不要となる。
さらに、鉄棒という素材を使う方法は、白揚社「特殊および一般相対性理論について」の
「第9章:同時性の相対性」で紹介される、軌道堤と走行列車を想定した上で、二つの点
(A点、B点)に同時に落雷があった場合の事例に対しても有用である。
アインシュタインはこの思考実験で、A点とB点の雷光はその中間点に向けて進むとし
た。これは、A点とB点に、45度に傾けた鏡を置き中間点に向かって雷光が進むようにセ
ッティングした、と考えれば分かりやすい。その思考実験の結果、A点とB点に同時に雷
が落ちたにも関わらず、軌道堤(静止系)に立つ観測者にしてみると、軌道堤の中間点で
は同じタイミングで光が届き、走行列車の中間点では異なるタイミングで光が届く、との
結果をアインシュタインは示した。
一方、A点から中間点まで、B点から中間点までの、それぞれの情報を伝達する方法に光
を使わずに鉄棒を使えば、静止系から見たとしても、軌道堤、走行列車問わず中間点への
伝達タイミングは同じに見える。
2/3
2014年7月6日 第2版
■アインシュタインの特殊相対性理論の前提に関する疑問点■ by 蒔苗昌彦
<第7章>
具体的には、同じ仕様の鉄棒製のクランクを2本用意して、列車内のA点から中間点ま
で、B点から中間点までのそれぞれに同じように設置し、A点B点それぞれに、落雷があっ
たらそのショックを受けてクランクを回転させる仕掛けを作る、という方法だ。
こうすれば、A点B点に同時に落雷があった時、中間点でも同じタイミングでクランクが
回転し、A点B点の同時性が確認できる。こうやって走行列車内でクランクが回る様子
は、 X軸方向の情報伝達の時差がないため、静止系から眺めても、軌道堤、走行列車問わ
ず、中間点への伝達タイミングは同じに見える。
現実的に考えれば、二つの落雷がある位置をあらかじめ予想することは困難なので、クラ
ンクの長さを事前に特定できず、実験準備ができないとの指摘が出てもおかしくない。こ
の場合には、A点B点の上空にあらかじめ設置した同じ仕様のレーザー光線発射装置を設
置し、そこから同時に発射されたレーザー光線を雷光の代用にすればよい。なお、この鉄
棒のクランクを使う方法は、先に述べたAとBの時計の時刻の一致を確認する手段にも応
用できる。
なぜ、アインシュタインは光という手段に限ったのか? その理由の説明は見当たらな
い。が、いずれにしても、鉄棒という光以外の手段を使えば、 tB - tA = t’A - tB という式は
不要となり、特殊相対性理論はこれまでとは異なる理論へと変質する。
では、当章はこれにて終了し、次章「運動物体の観測手段は光だけか? 」へ移る。
【注1】
●日本語:光がAからBに到達するのに要する 時間 は、逆にBからAに立ち戻るのに必要な 時間 に等しい
●ドイツ語:um von A nach B zu gelangen, gleich ist der , Zeit", welche es braucht, um von B nach A zu gelangen.
●英語:light to travel from A to B equals the time it requires to travel from B to A.
<第7章は以上>
3/3
2014年7月6日 第2版