質問紙法と日誌法によるリアリティ・モニタリング・エラー経験の測定

質問紙法と日誌法によるリアリティ・モニタリング・エラー経験の測定 ◯中田英利子 1・森田泰介 2 1
( 大谷大学・2 東京理科大学理学部第二部) キーワード:リアリティ・モニタリング・エラー, 質問紙,日誌法 Reality monitoring error experiences assessed by questionnaire and diary
Eriko NAKATA1 and Taisuke MORITA2
1
( Otani University, 2 Tokyo University of Science)
Key Words: reality monitoring error, questionnaire, diary method
目 的 実際に起こった出来事を知覚したことに由来する記憶と,
自分の思考やイメージや夢に由来する記憶とを区別する過程
をリアリティ・モニタリング(以降,RM とする)と呼ぶ(Johnson,
Hashtroudi, & Lindsay, 1993; 中田, 2008)。そして,知覚や行為
に由来する記憶と自分の思考に由来する記憶との区別に失敗
してしまうことを RM エラーと呼ぶ。我々は日常生活場面に
おいて様々な RM エラーを犯し,そのことが時に重大な損失
を自他に与えることを経験する。そのため,日常生活場面に
おける RM エラーについて検討し,その防止に資する知見を
得ることは重要な研究課題である。しかしながら,これまで
日常生活場面における RM エラーを検討の対象とするための
方法が極めて限定されていたため,日常生活場面における
RM エラーの実態が十分明らかにされてきたとは言いがたい。
そこで,中田・森田(印刷中)は日常生活場面での RM エラー
経験を測定するための質問紙である RM エラー経験質問紙
(Reality Monitoring Error Experience Questionnaire: 以降
RMEEQ とする)を作成した。RMEEQ は 32 項目からなる質問
紙で,既にその基準関連妥当性や再検査信頼性が確認されて
いるものである。ただし,RMEEQ はあくまでも自己の日常
生活場面における RM エラー経験について回想的・内省的に
評定することを求めるものであり,RMEEQ によって測定さ
れた結果が実際の日常生活場面における RM エラー経験を正
確に反映したものかどうかは現在のところ確認されていない。
そこで本研究では,RMEEQ によって測定された個人差と,
日誌法により測定された,日常生活場面において実際に経験
される RM エラーの個人差との関連性を検討することにより,
RMEEQ の基準関連妥当性をさらに検討することを目的とす
る。また,本研究では実験室場面において観察される RM エ
ラーの個人差と,RMEEQ によって計測された個人差との関
連性についても検討を加える。質問紙が当該の記憶活動を正
確に測定できるものであっても,質問紙で測定される記憶活
動と実験室場面で測定される記憶活動とが乖離しているため,
常に相関が認められるとは限らない(Herrmann, Sheets,
Gruneberg, & Torres, 2005)。もし,RMEEQ が日常生活場面で
の RM エラー経験を正確に測定しているならば,RMEEQ 得
点と日誌法の RM エラー数との間に正の相関が認められるが,
RMEEQ 得点と実験フェイズでの RM エラー率,日誌法の RM
エラー数と実験フェイズでの RM エラー率との間には相関が
認められないと予測される。
方 法 調査対象者 大学生 60 名。そのうち男性 25 名(年齢 M=20,
SD=2,範囲:18-26),女性 35 名(年齢 M=20,SD=1,範囲:18-22)
であった。 質問紙フェイズ 調査用紙 RMEEQ は全 32 項目で,評定値の合計得点から
日常生活場面での RM エラー経験(例えば,得意な分野の事
柄について,実際に見たこと・聞いたことがないのに,既に
見たこと・聞いたことがあると思いこんだことがある等)の
頻度を測定するものである。 手続き 講義中に集団で調査を実施した。5 件法(4:非常に
よくある-0:まったくない)で回答するよう求めた。
実験フェイズ 刺激 アナグラム課題の実施手続きは Marsh & Hicks(1998)
に依拠した。アナグラム刺激は寺岡(1959)から 108 項目を
抜粋し,それらを正しい順序の文字を読む知覚条件,2 字の
順序が交換された単語を正しい順序に並べ替えて読む生成条
件,非呈示条件に 36 項目ずつ割り当てた。知覚条件と生成条
件の刺激 72 項目を A4 判の紙に 4 枚に印刷して記銘セッショ
ン用冊子を構成した。また,非呈示条件の 36 項目と記銘セッ
ションで呈示した 72 項目,計 108 項目をランダムに配置した
リストを作成し,A4 判の紙 6 枚に印刷してテストセッション
用冊子を構成した。
手続き 質問紙フェイズ終了後,集団実験を実施した。実
験者は記銘セッション用冊子を配布し,実験者が 3 秒に 1 回
の間隔で行う合図にあわせて,単語が正しい順序であれば読
むだけ,単語の 2 字の順序が交換されていれば,交換された
2 字を正しい順序に並べ替えて読むよう教示した。記銘セッ
ションから 1 週間後にテストセッションを実施した。テスト
セッション用冊子を配布し,呈示された単語が,記銘セッシ
ョンにおいて読んだだけのもの,2 字を入れ替えて読んだも
の,呈示されなかったもの,のいずれであったのかを判断さ
せた。判断のペースは 1 項目当たり 0.5 秒であった。
日誌フェイズ 調査用紙 日常生活場面での RM エラーを記録することが
できる冊子は中田・森田(印刷中)と同様のものを使用した。
手続き テストセッション終了後,冊子を手渡し,RM エ
ラーについて説明し,調査期間中に経験した RM エラーにつ
いて 9 項目の質問に回答するよう求めた。冊子を手渡しして
から 2 週間後に調査者が冊子を直接回収した。
結 果
全フェイズを通しての同一性が確認された者のうち回答漏
れがあった 4 名を除く 43 名を分析対象とした。RMEEQ 得点
と日誌法の RM エラー数,RMEEQ 得点と実験フェイズでの
RM エラー率,実験フェイズでの RM エラー率と日誌法の RM
エラー数の Spearman の順位相関係数を算出した。その結果
RMEEQ 得点と日誌法の RM エラー数との間に有意な正の相
関が認められたが(ρ = 0.31, p < .05),RMEEQ 得点と実験フ
ェイズでの RM エラー率,日誌法の RM エラー数と実験フェ
イズでの RM エラー率との間には有意な相関は認められなか
った(ρ = -0.04; ρ = -0.08,全て p < .10)。
考 察
本研究の結果から,回想的な自己報告を求める質問紙であ
る RMEEQ が日常生活場面での実際の RM エラー経験を測定
できるものである可能性が示されたと言える。今後は,
RMEEQ が日常生活場面での RM エラー経験を正確に測定し
ているのか否かを更に検討するために,質問紙への回答を歪
曲させる可能性のある要因,例えば社会的望ましさが RMEEQ
得点に影響していないか否かを検討する必要があるだろう。