第八回 質点系の角運動量 物理学講義 I 2014 年 6 月 10 日 ¶ 前回のポイント ³ • 衝突前後の運動エネルギーの比をもとにしてエネルギー散逸の度合いを表すことができ、 これを反発係数という。 • 2つの物体の非弾性衝突において衝突による力は内力とみなせ、それ以外の力(外力) の総和がゼロであれば運動量保存則が成り立つ。 µ • 2つの物体の弾性衝突においては、運動量だけでなく運動エネルギーも保存する。 ´ 多数の質点 i から成る剛体の角運動量について考えよう(図 1)。剛体がその重心まわりに回転 運動していると考え、回転中心 O からの質点 i の位置を ri 、速度を ri とすれば、質点 i の角運動 量は、 Li = ri × mvi = ri × pi (1) となる。ここで質点 i の質量を m、運動量を pi とおいた。 i O 図 1: 多数の質点 i から成る剛体。 この剛体全体の角運動量を、次の式で定義する。 ∑ ∑ L≡ Li = ri × pi i (2) i 剛体全体の角運動量が定義できれば、この剛体に働く外力のモーメントと合わせて回転運動の法則 が成り立つはずである。剛体に働く外力のモーメントを ∑ N= ri × Fi (3) i と定義すれば、剛体の回転の法則は、 dL =N dt 1 (4) と書くことができる。 式(4)は次のように証明できる。式(2)の両辺を時間微分すると、 dL dt = ∑ dpi dt vi × pi + ri × i = ∑ ri × i = ∑ dpi dt = ∑ (6) ri × (Fi + i ∑ Fi←j ) j ri × Fi + (5) ∑ i ri × i ∑ (7) Fi←j (8) j となる。 F 2 F1 2 F2<-1 F1<-2 1 図 2: 相互作用しながら運動する2質点系。 簡単のため図 2 のような2質点系を考えることにすれば、式(8)は r1 × F1 + r1 × F1←2 + r2 × F2 + r2 × F2←1 (9) となる。作用・反作用の法則より、F1←2 = −F2←1 となるから、式(9)は r1 × F1 + r1 × F1←2 + r2 × F2 + r2 × F2←1 = (r1 − r2 ) × F1←2 = 0 (10) となる(∵ F1←2 //(r1 − r2 ))。よって、 dL ∑ = ri × Fi = N dt i (11) となる。もし剛体に働く外力のモーメントが N = 0 であるなら dL dt ∴L = 0 (12) = const. (13) となり、角運動量は保存する。 例: 回転軸から距離 l を保ちながら、質量 m の質点が回転運動している。角速度を ω とすれば、 角運動量の大きさは L = mv × l = mωl2 2 (14) ω l 図 3: 回転軸まわりを回転する質点。 と表すことができる。ここで、腕の長さが l から l + ∆l(∆l > 0) に変化したとしよう。このときの 角運動量の大きさは 0 0 L = mω (l + ∆l)2 (15) となる。今、この系には外力が加わっていないので外力のモーメントはゼロ、すなわち角運動量は 0 保存する。従って L = L が成り立つから、 0 ωml2 →ω = ω m(l + ∆l)2 ml2 = ω m(l + ∆l)2 1 = ( )2 ω < ω 1 + ∆l l 0 (16) (17) (18) よって、腕の長さが伸びると角速度は小さくなる。 1 原点まわりの重心の回転と重心のまわりの回転の分離 i r ’i G ri R O 図 4: 重心 G まわりに自転しながら、回転中心 O まわりを回転運動する剛体。 重心 G まわりに自転しながら、回転中心 O まわりに回転(公転)する剛体(質量 M )の運動を 考えよう(図 4)。剛体を構成する質点 i の位置ベクトルは 0 ri = R + ri 3 (19) 0 と表すことができる。ここで R は重心の位置、ri は重心からみた質点 i の位置ベクトルである。 式(19)の両辺に質点の質量 mi をかけて i で和を取れば、 ∑ mi ri ∑ = i mi R + i = MR + ∑ ∑ 0 mi ri (20) i 0 mi ri (21) ∑ ∑ mi ri mi ri i R= ∑ = i M i mi (22) i ∑ ここで、 i mi = M を用いた。 一方で、重心の定義から なので、式(21)と式(22)から ∑ 0 mi ri = 0 (23) i となる。 この系の全角運動量を求めよう。式(1)の定義に従えば、全角運動量 Ltot は、 Ltot = ∑ Li = i ∑ ri × pi (24) i = ∑ i = 0 0 ˙ + r˙ )] (R + ri ) × [mi (R i R×( ∑ ˙ + mi ) R i = ˙ + R × MR ∑ ∑ (25) 0 ˙ +R× mi ri × R i ∑ i 0 0 ri × mi r˙ i 0 mi r˙ i + ∑ 0 0 ri × mi r˙ i (26) i (27) i ≡ 0 LG + L (28) となる。ここで式(26)において、式(23)の結果から第二項が 0 になる。また式(23)の両辺を ∑ 0 時間微分することで i mi r˙ i = 0 となることから、第三項も 0 になる。 式(28)において定義した LG 0 L ˙ ≡ R × MR ∑ 0 0 ≡ ri × mi r˙ i (29) (30) i は、それぞれ回転中心 O まわりの重心の角運動量と重心まわりの角運動量である。従ってこの系 の全角運動量は、重心まわりの自転の角運動量に、重心の公転の角運動量を加えたものになる。 最後にこの系に働く外力のモーメントについても計算してみると、 Ntot = ∑ ri × Fi (31) i = ∑ 0 (R + ri ) × Fi (32) i ∑ ∑ 0 = R×( Fi ) + ri × Fi i ≡ NG + N 4 (33) i 0 (34) となる。式(33)の第一項は ∑ Fi は外力の総和であるから、NG は回転中心まわりの外力のモー メントということになる。また、式(33)の第二項は重心座標系で見た外力のモーメントになって i 0 いるので、N は重心まわりの外力のモーメントということになる。 ¶ この回のまとめ ³ • 剛体(質点系)の角運動量と外力のモーメントを定義した。 • 剛体の角運動量と外力のモーメントの間にも回転運動の法則が成り立つ。 • 剛体の全角運動量は重心まわりの自転の角運動量に、重心の公転の角運動量を加えたも のになる。 • 剛体に働く外力のモーメントは、回転中心まわりの外力のモーメントに重心まわりの外 力のモーメントを加えたものになる。 µ ´ 5
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