抄録(175KB)

新近性効果の成立における環境的文脈変化と比の法則の関係
○漁田武雄
漁田俊子
静岡大学大学院情報学研究科
静岡県立大学短期大学部
Key words: recency effect, environmental context, free recall, ratio rule
新近性効果の大きさは,[IPI, interpresentation interval]
分を行い,符号化課題を行った。符号化課題は,PC我
/[RI, retention interval]に比例するという(比の法則
ratio rule)。これに対して Isarida & Isarida (2006) は,
見に提示された 3 個の項目を使って作文をすることで
あった。項目群は 12 秒表示し,「文を言ってください」
比の法則からは新近性効果が成立不可能と予測される条
件下(IPI = 30 秒,RI = 24 時間または 10 分)でも,符
という表示にしたがい,8 秒で作った文を口頭報告した。
符号化課題は 7 回行い,符号化と符号化の間に,9.5 分
号化時の複合場所文脈を十分に復元すれば,新近性効果
が生じることを見いだした。漁田・漁田(2007)は,比
間副課題を遂行した。符号化課題開始と副課題開始の合
図に 5 秒ずつ使ったため,各符号化課題は,10 分おき
の法則では新近性効果が成立する条件下(IPI = RI = 30
秒)では,複合場所文脈の変化によって新近性効果が消
に行ったことになる(IPI = 10 分)。
SC 群では,最後の符号化課題の後も 9.5 秒の副課題
失しないことを見いだした。
ただし,上記の実験では,IPI/RI 比と RI が交絡して
課題を行わせた。その後,自由再生の教示(30 秒)を
行い,1 分間の口頭自由再生を行わせた(RI = 10 分)。
いた。そこで,本研究は,IPI と RI が 10 分の条件で,
新近性効果が文脈に依存するか否かを調べた。
DC 群では,最後の符号化課題の後に,「第1セッ
ション終了」の表示を行った。その時点で,実験者はス
実験参加者
方 法
静岡大学生 52 名が参加した。
トップウォッチをスタートさせ,実験参加者を別の場所
に連れて行った。その場所につくと,その場所の副課題
実験計画 文脈条件(同文脈 SC,異文脈 DC: 実験
参加者間)×系列位置(1-7:実験参加者内)の2要因混
の教示を行い,開始させた。副課題は,ストップウォッ
チが 9.5 分を示すまで行わせた。その後自由再生の教示
合計画を用いた。52 名の実験参加者は,ランダムに SC
群と DC 群に割り当て,各群とも 26 名となった。
(30 秒)を行い,1 分間の口頭自由再生を行わせた(RI
= 10 分)。
材料 身近な対象物の名前 21 個を使用したさらに,
21 個の項目を 3 項目ずつランダムに7組に割り当てた。
結果と考察
文脈条件ごとの再生率を系列位置の関数として Figure
文脈 場所と副課題を複合させて操作した。
場所要因としては,場所AとBを使用した。2 つの場
1に示す。文脈×系列位置の分散分析の結果,系列位置
の主効果のみが有意であり[F(6, 300) = 4.38, MSE = 1.35,
所(A,B)は同一研究棟の同一階にあり,30 秒以内で相互
移動が可能であった。SC群の半数は場所Aで符号化と
p < .001],文脈の主効果と交互作用は有意でなかった
[Fs < 1]。Ryan 法の多重比較により,系列位置 7 の再生
テストを実施し,残りは場所Bで実施した。DC 群の半
数は,場所Aで符号化,場所Bでテストを実施し,残り
率は 6 よりも有意に高く,系列位置 6 は 5 よりも有意に
高かった。
は場所Bで符号化,場所Aでテストを実施した。
場所Aは,90 cm x 90 cm の実験ブースであった。3方向に
本研究の結果,IPI と RI が 10 分の条件では,環境
的文脈変化の操作によって(1) 新近性効果は消失せず,
グレーの壁があり,実験参加者の後方は開いていた。テーブ
ルと椅子および刺激提示用の 17 インチ CRT ディスプレイを
(2) 文脈の効果も生じなかった。これに対して,RI が
10 分でも,IPI が 30 秒では,環境的文脈変化の操作に
配置した。場所Aでは,実験者は着席した実験参加者の背
後から教示し,課題遂行中はブースの陰に隠れた。場所Aで
よって,(1) 新近性効果が消失し,(2) 文脈の効果が生
じた(Isarida & Isarida, 2006)。比の法則と環境的文脈
は,副課題として,ラッキーパズル(7 つのブロック片を用いて
シルエットの図形を作る課題)を解かせた。実験参加者には,
効果は,緊密に関わっているといえよう。
場所Bは 5.5m×5.2m のプレイルームであった。場所Bでは,
1.8m×0.9m のテーブルに 15 インチディスプレイを持つノート
PC を置いた。実験参加者の正面には窓があり,外の景色
(並木,町並 みなど)が見 えた。その他,幼児・児童用 の遊
具・玩具が散乱していた。実験者は実験参加者の横で教示
し,課題遂行中は退出した。場所Bでは,副課題として,漫画
の単行本を読ませた。実験参加者には,後で漫画の感想を
質問紙で調べることを伝えておいた。
手続き 実験参加者は個別に実験参加した。各条件とも,
符号化課題と副課題の教示(5 分)に続いて,副課題 5
0.7
Proportion Correct
問題用紙を渡し,課題図形が完成すると,それをデジカメで
撮影させた。
0.6
SC
0.5
DC
0.4
0.3
0.2
0.1
0
1
2
3
4
5
Serial Position
6
7
Figure 1. Serial position curves for SC and DC conditions.
(ISARIDA Takeo
ISARIDA Toshiko)