ON DIFFUSION PHENOMENA FOR THE LINEAR WAVE EQUATION WITH SPACE-DEPENDENT DAMPING 若杉 勇太 (大阪大学大学院理学研究科 数学専攻 博士後期 3 年) 1. 導入 本発表では,線形消散型波動方程式の初期値問題 { utt − ∆u + a(x)ut = 0, (t, x) ∈ (0, ∞) × Rn , (1.1) (u, ut )(0, x) = (u0 , u1 )(x), x ∈ Rn の解の漸近挙動について考える.ここで,ut = ∂u ∂t , utt = ∂2u ∂t2 , ∑n ∂2u j=1 ∂x2j .ま 2 −α/2 ∆u = た,u = u(t, x) は実数値の未知関数とし,a(x) = ⟨x⟩−α = (1 + |x| ) 1) とする.さらに,簡単のため,u0 , u1 ∈ C0∞ (Rn ) (0 ≤ α < かつ,適当な正定数 L に対し supp (u0 , u1 ) ⊂ {x ∈ Rn | |x| ≤ L} を仮定する.方程式 (1.1) は,摩擦の大きさが場 所によって変化するような媒質の中を伝わる波動現象を記述する一つのモデルである (波動方程式の導出,物理的な意味や,基本的な事柄については,[12] に詳しい解説 がある).目標は,(1.1) の解の t → +∞ における漸近形が,対応する熱方程式の初 期値問題 (1.2) { a(x)vt − ∆v = 0, (t, x) ∈ (0, ∞) × Rn , v(0, x) = v0 (x), x ∈ Rn の適当な解で与えられることを示すことである.このように,消散型波動方程式の解 が時間無限大において,対応する熱方程式の解に漸近する現象を拡散現象と言う. ここで,Fourier 変換を用いた拡散現象の直感的な説明をしてみよう.方程式 (1.1) で a(x) ≡ 1 とおいた定数係数の消散型波動方程式 utt − ∆u + ut = 0 (1.3) を考える.さらに簡単のため,初期値は u0 = 0 として,(u, ut )(0, x) = (0, u1 )(x) と いう初期値を考える. (空間変数に関する)Fourier 変換は ∫ F[u(t, ·)](ξ) = u ˆ(t, ξ) = e−ix·ξ u(t, x)dx Rn で定義され, [ ] ∂u (t, ·) (ξ) = iξj F[u(t, ·)](ξ) ∂xj √ という性質を持つ(ただし,i = −1).つまり,xj 成分での微分という(複雑な) 演算が,Fourier 変換を通すことにより,多項式 iξj の掛け算という(簡単な)演算 F に変化する. この Fourier 変換を用いて,まず熱方程式の初期値問題 { vt − ∆v = 0, (t, x) ∈ (0, ∞) × Rn , (1.4) v(0, x) = v0 (x), x ∈ Rn の解表示を求めてみよう.方程式 (1.4) に Fourier 変換を施すと,ξ をパラメータと する常微分方程式 vˆt + |ξ|2 vˆ = 0, vˆ(0, ξ) = vb0 (ξ) が得られる.これは簡単に解くことができて, vˆ(t, ξ) = e−t|ξ| vb0 (ξ) 2 という表示を得る. 一方,方程式 (1.3) に Fourier 変換を施すと, u ˆtt + |ξ|2 u ˆ+u ˆt = 0. という常微分方程式が得られる.初期条件は,u ˆ(0, ξ) = 0, u ˆt (0, ξ) = u c1 (ξ) となる. この常微分方程式は陽的に解くことができて, ( ) √ √ 1 2 2 u ˆ(t, ξ) = √ e−t(1− 1−4|ξ| )/2 + e−t(1+ 1−4|ξ| )/2 uˆ1 (ξ). 1 − 4|ξ|2 という表示を得る.この表示を用いて,t が十分大きいときの解の様子を調べてみよ う.まず,|ξ| が十分大きいときには,上式から,u ˆ(t, ξ) は t → +∞ で指数関数的に 減衰することが分かる.次に,|ξ| が十分小さいときには, √ 1 − 1 − 4|ξ|2 |ξ|2 √ = ∼ |ξ|2 2 1 + 1 − 4|ξ|2 となるので,u ˆ(t, ξ) は t → +∞ で u ˆ(t, ξ) ∼ e−t|ξ| uˆ1 (ξ) 2 とみなすことができる.この右辺は上で求めた熱方程式の解の Fourier 変換に他なら ないから,これより消散型波動方程式 (1.3) の解は t → ∞ で熱方程式 (1.4) の解に近 づくことが見てとれる. ここで関連する結果について述べておく.a(x) = 1 の場合には多くの結果があり, (1.1) の解が時間無限大において,初期値 v0 = u0 + u1 を持つ (1.2) の解に漸近する ことが知られている(例えば Nishihara による論説 [4] や [3, 5, 10] を参照.また,非 線形の問題については [6, 11] なども参照).また,Wirth [9] は,時間変数に依存す る摩擦項を持つ波動方程式 utt − ∆u + b(t)ut = 0 を考察し,摩擦が効果的,すなわち,粗く言って tb(t) → +∞ (t → +∞) かつ b(t)−1 ∈ / L1 ((0, ∞)) (典型例として,b(t) = (1 + t)−β (−1 < β < 1) がある)のときに,解 が時間無限大において対応する熱方程式 b(t)vt − ∆v = 0 の解に漸近することを示した. 方程式 (1.1) で α > 1 の場合には,Mochizuki [2] により,ある初期値 (u0 , u1 ) に 対し解は自由波動方程式 wtt − ∆w = 0 の非自明な解に漸近することが示されている(時間変数に依存する摩擦の場合の対応 する結果については [8] を参照). 方程式 (1.1) で 0 ≤ α < 1 の場合には,Todorova-Yordanov [7] により,解の L2 評価 ∥u(t)∥L2 ≤ C(1 + t)− n−2α 2−α +ε が得られている.ただし,ε は任意の正数とする.ここで,Rn 上の関数 f (x) に対 して,その L2 ノルム ∥f ∥L2 は, (∫ )1/2 ∥f ∥L2 := |f (x)| dx 2 Rn で定義される.彼らの証明と同様の方法で,熱方程式 (1.2) に対して,同様の評価 ∥v(t)∥L2 ≤ C(1 + t)− n−2α 2−α を示すことができる.ここで,減衰率 − n−2α 2−α は最適と思われる.実際, G(t, x) = t− 2−α e n−α |x|2−α − (2−α)2 t という関数を考えると,これは方程式 |x|−α vt − ∆v = 0 および ∥G(t)∥L2 = Ct− n−2α 2−α を満たす. 2. 主結果 我々の主結果は次で与えられる. 定理 1. u を初期値問題 (1.1) の解,v を初期値 v0 = u0 + 1 a(x) u1 を持つ方程式 (1.2) の解とする.このとき, ∥u(t) − v(t)∥L2 = o(t− n−2α 2−α ) が成り立つ. 注意 2. もう少し強く, ∥u(t) − v(t)∥L2 = O(t− 1−α n−2α 2−α − 2 +ε ) (ε は任意の正数)を示すことができる. 定理1の証明は,以下に述べる高階導関数に対する重み付きエネルギー評価を用 いることによってなされる.まず (2.1) ψ(t, x) = A ⟨x⟩2−α , 1+t A= 1 (2 − α)2 (2 + δ) とおく(δ は正定数で,後で定める).非負整数 k に対して,k 階の重み付き初期エ ネルギーを k ∑ e2ψ(0,x) u0 (x)2 + (|∂tj+1 u(0, x)|2 + |∇x ∂tj u(0, x)|2 ) dx ∫ Ik := Rn で定める.ここで,∂tj u = j=0 j ∂u ∂u ∇x u = ( ∂x , . . . , ∂x ) なる記号を用いた.このとき, 1 n 次のエネルギー評価が成立する. ∂ u ∂tj , 定理 3. 任意の ε > 0 に対して,ある δ > 0 が存在して,以下が成り立つ:関数 ψ を (2.1) で定義し,k を非負整数とする.このとき,ある定数 C > 0 が存在して,初期 値問題 (1.1) の解 u に対し,次の評価が成立する. ∫ n−α e2ψ(t,x) a(x)|∂tk u(t, x)|2 dx ≤ CIk (1 + t)− 2−α −2k+ε , Rn ∫ n−α e2ψ(t,x) |∇x ∂tk u(t, x)|2 dx ≤ CIk (1 + t)− 2−α −2k−1+ε . Rn 注意 4. Todorova-Yordanov [7] により,k = 0 の場合の評価は既に示されている.定 理 2 は,[7] の結果の高階エネルギーに対する拡張である. 今後の課題として,まず定理1の減衰率が最良なのかという問題が挙げられる.ま た,α = 1 の場合の漸近形を求めること(Ikehata-Todorova-Yordanov [1] により,解 の減衰率は求められている)や,非線形項を持つ場合,摩擦が時間変数にも依存する 場合など,基本的な問題がまだ多く残されている. References [1] R. Ikehata, G. Todorova, B. Yordanov, Optimal decay rate of the energy for wave equations with critical potential, J. Math. Soc. Japan 65 (2013), 183-236. [2] K. Mochizuki, Scattering theory for wave equations with dissipative terms, Publ. Res. Inst. Math. Sci. 12 (1976/77), 383-390. [3] T. Narazaki, Lp -Lq estimates for damped wave equations and their applications to semilinear problem, J. Math. Soc. Japan 56 (2004), 585-626. [4] K. Nishihara, Diffusion phenomena of solutions to the Cauchy problems for a damped wave equation (Japanese) , S¯ ugaku 62 (2010), no. 2, 164-181. [5] K. Nishihara, Lp − Lq estimates of solutions to the damped wave equation in 3-dimensional space and their application, Math. Z. 244 (2003), 631-649. [6] G. Todorova, B. Yordanov, Critical exponent for a nonlinear wave equation with damping, J. Differential Equations 174 (2001), 464-489. [7] G. Todorova, B. Yordanov, Weighted L2 -estimates of dissipative wave equations with variable coefficients, J. Differential Equations 246 (2009), 4497-4518. [8] J. Wirth, Wave equations with time-dependent dissipation. I. Non-effective dissipation, J. Differential Equations 222 (2006), 487-514. [9] J. Wirth, Wave equations with time-dependent dissipation. II. Effective dissipation, J. Differential Equations 232 (2007), 74-103. [10] H. Yang, A. Milani, On the diffusion phenomenon of quasilinear hyperbolic waves, Bull. Sci. Math. 124 (2000), no. 5, 415-433. [11] Qi S. Zhang, A blow-up result for a nonlinear wave equation with damping: the critical case, C. R. Acad. Sci. Paris S´ er. I Math. 333 (2001), 109-114. [12] 井川満『双曲型偏微分方程式と波動現象』,岩波書店,2006. E-mail address: [email protected]
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