宇宙線電子の伝播 - KOMORI, Yoshiko

神奈川県立衛生短期大学紀要Vol.27(1994)
宇宙線電子の伝播
古森良志子.
PropagationofCosmicRayElectrons
YoshikoKOMORI*
Non-localpropagationofcosmicrayelectronsisdiscussedintwomodels.TheLeakyBoxModelisusedfor
t
h
e
p
u
r
p
o
s
e
o
f
e
v
a
l
u
a
t
i
n
g
t
h
e
e
s
c
a
p
e
r
a
t
e
f
r
o
m
t
h
e
G
a
l
a
x
y
.
T
h
e
r
e
s
u
l
t
s
g
i
v
e
n
b
y
m
e
t
h
o
d
o
f
l
e
a
s
t
s
q
u
a
r
e
s
b
e
c
o
m
e
s
(
5
.
4
±
0
.
6
)
×
K
)
6
(
0
.
0
8
±
[
y
r
]
.
T
h
e
s
t
o
r
a
g
e
t
i
m
e
i
s
i
n
r
o
u
g
h
a
g
r
e
e
m
e
n
t
w
i
t
h
t
h
e
i
s
o
t
o
p
i
c
d
a
t
a
a
n
d
t
h
e
e
n
e
r
g
y
dependenceconsistentwiththevaluebelowseveralGeVobtainedbytheratioofsecondarytoprimarynuclei
components.ThenucleiresultocE-*aboveseveralGeVisdifferentfromelectron'sbutitcouldnotbe
s
e
r
i
o
u
s
・
b
e
c
a
u
s
e
t
h
e
e
n
e
r
g
y
s
p
e
c
t
r
u
m
a
t
t
h
e
h
i
g
h
e
n
e
r
g
y
s
i
d
e
i
s
i
n
d
e
p
e
n
d
e
n
t
o
f
a
e
s
c
a
p
e
r
a
t
e
a
s
e
n
e
r
g
y
l
o
s
s
e
s
a
r
e
dominant.
N
e
s
t
e
d
L
e
a
k
y
M
o
d
e
l
t
r
e
a
t
s
t
h
e
e
l
e
c
t
r
o
n
p
r
o
p
a
g
a
t
i
o
n
i
n
s
o
u
r
c
e
r
e
g
i
o
n
s
a
s
w
h
i
c
h
w
e
n
o
w
r
e
g
a
r
d
t
h
e
G
a
l
a
c
t
i
c
s
u
-
p
e
r
n
o
v
a
r
e
m
n
a
n
t
s
(
S
N
R
s
)
.
T
h
e
e
s
c
a
p
e
r
a
t
e
o
f
e
l
e
c
t
r
o
n
s
f
r
o
m
S
N
R
s
b
e
c
o
m
e
s
1
.
4
×
1
0
*
*
[
y
r
]
,
i
f
t
h
e
m
a
g
n
e
t
i
c
f
i
e
l
d
strengthinSNRsis10timestheGalacticmagneticfield.Intheestimationweusetheratiooftheamountofradio
e
m
i
s
s
i
o
n
f
r
o
m
a
l
l
t
h
e
G
a
l
a
c
t
i
c
S
N
R
s
t
o
t
h
a
t
o
f
t
h
e
b
a
c
k
g
r
o
u
n
d
r
a
d
i
o
e
m
i
s
s
i
o
n
i
n
t
h
e
G
a
l
a
x
y
.
1
.
4
×
1
0
*
[
y
r
]
i
s
g
o
o
d
agreementwiththeSedovphaselifetimeofSNRs,andtheindex0.3showsthatmanyhighenergyelectronscannot
leakoutofaSNR・ThebreakpointofelectronspectrumbyenergylossesinSNRsisin600∼700GeV,andindicates
t
h
a
t
t
h
e
e
l
e
c
t
r
o
n
p
r
o
p
a
g
a
t
i
o
n
i
n
S
N
R
s
i
n
f
l
u
e
n
c
e
s
t
h
e
c
u
r
r
e
n
t
e
l
e
c
t
r
o
n
s
p
e
c
t
r
u
m
o
b
s
e
r
v
e
d
u
p
t
o
2
T
e
V
.
は星間空間のイオン化した領域に閉じ込められていると
I序
ローバルな伝播を考える場合には,宇宙線を個々として
考えられる。実際その速度はlO-lOOlWs]となり,宇
宙線は銀河の中に長い間閉じ込められていると予想きれ
る[3]・宇宙線が閉じ込められている方法は現在のとこ
みるのではなく集団として取り扱う必要がある。集団と
ろはっきりとはわかっていないが,現象論的な閉じ込め
宇宙線は我々の銀河内に多く存在しているが,そのグ
してみた場合の速度は,個々の宇宙線粒子の速度に比べ
を扱ったモデルであるLeakyBoxModelでは,宇宙線は
てはるかにゆっくりとしており,伝播領域の磁場によっ
ハローガスを通ってゆっくり拡散していくし,
て散乱される頻度に依存している。銀河磁場は向きの
Convection-Diffusionのモデルでは,宇宙線は銀河風に
揃った磁場と,磁場の乱れのスペクトルつまりplasma
よってディスクの外へ輸送される。
wavesとして特徴づけられるランダムな成分とを含んで
この詩文では,LeakyBoxModelとそれを組み合せた
いる。磁場の乱れのスケール長と宇宙線のジャイロ半径
NestedLeakyBoxModelをつかう。これらのモデルの特
のスケール長が重なった所では,強いピプチ角散乱が起
徴を一言でいえば,宇宙線の存在している領域を考え,
きて,宇宙線は空間を等方的に拡散していくし,一方,
散乱の起きない所では宇宙線粒子は単に磁力線に沿って
その領域からエスケープする確率を求めるというもので
運動する。Wentzel(l974)によると,電離度が高く中性
ある。電子の場合は他の核種成分と異なり,エネルギー
損失が大きい。このため高エネルギー側のスペクトルは
水素原子密度が小さい場合,宇宙線の伝播速度はアル
エスケープ確率に依存しない。NestedLeakvBoxModel
フェン速度に等しくなり,中性媒体の中では大きくイオ
を使うことは以前にも述べたように,宇宙線電子の発生
源とみられる超新星残骸の強い磁場の領域と銀河磁場領
ン化領域では小さくなる。したがって,宇宙線の大部分
*物理学
−37−
域を区別することによって,発生源からのエスケープ確
率を求めることにある。この場合発生源を1つのLeaky
となる。姥の値は銀河全体の平均的磁場の強さ3│>G]
を採用すれば,約半分の値になる。6.7[/iG]という値
Boxとみなすが,電子が発生源内に閉じ込められている
は地球から極方向に測った電波強度から求めた値である
様子や,どのように銀河に放出されるかということはわ
から,言わば太陽系のまわりのローカルな値である。後
かっていない。しかしながら,このモデルの利点はその
に実際比較する観測値は太陽系近傍の値であるから,こ
ような詳しい物理が分からなくてもグローバルな伝播を
畿麓できることにある。
こではローカルな値を使った方がよい。
第2,3節では各伝播モデルの公式を求め,その特徴
LeakyBoxModelとは,銀河内磁場によって宇宙線は
ある期間閉じ込められるが,一方拡散により少しずつ銀
についてのべる。第4,5節では,実際に観測データと
河外にもれ出ていくとするモデルである。電子の場合は,
モデルを比較し,最小二乗法(修正Marquardt法)を使っ
加えて上で述べたエネルギー損失を考慮する必要があ
てエスケープ確率を求める。その際,エスケープ確率の
る。宇宙線電子は銀河内のどこかで生まれていると考え
エネルギー依存性については最も単純な形を採用してい
られ,銀河外からくることが不可能なことは他の宇宙線
る
。
より確実である。なぜならば.3K宇宙背景轄射は宇宙
全体に拡がっているから,それによる電子のエネルギー
損失はかなり強く,そのため数十MeV以上の宇宙線電
Ⅱ恥akyBoxM面elの公式
子は我々の銀河には到達できない[17]。したがってGeV
GeV以上の電子におけるエネルギー損失は,主にシ
以上の電子の伝播を扱う場合は,我々の銀河内で閉じて
ンクロトロン報射や逆コンプトン効果による。前者は銀
考えられる。宇宙線電子は銀河内のおそらくは超新星残
河磁場により電子が加速度を受け,電磁波を放出しエネ
骸から生まれ,エ永ルギー損失を受けつつ銀河内を伝播
ルギーを失う現象であり,後者はこれも銀河に存在する
し,やがて銀河の外へ抜けていく。こうした中で銀河内
星光や,宇宙に充満している3Kの宇宙背景輯射の低エ
は電子の数雌(卸についてある程度の定常状態が保た
ネルギーフォトンとの衝突によって,電子がエネルギー
れているとする。それはエネルギースペクトルの方程式
を失う現象である。,逆'とついているのは,通常コンプ
では次の様に表される。
トン散乱といえば.x線が電子による散乱のためエネル
今鵠十会等雌()]=(h(E)(2)
ギーを失う(波長が長くなる)現象を言うが,この場合は
逆にエネルギーを獲得する(波長が短くなる)からであ
ここで唖(句は電子の発生率を,1/で2(aは銀河から
る。実際,電子がこれらの理由でエネルギーを損失する
洩れていく単位時間当たりの確率を表している。で2(匂
割合は,銀河磁場の大きさを氏銀河のフォトン密度を
はエネルギー損失を無視できる場合には,銀河内滞在寿
Wphとすると,
命と見なすことができる。更に.Qz(),*2(。を次の
ようなEの乗べきの形で表す。
子=一睡
&()=QozE γ
'*()=rrfT"
&
[
G
e
V^
s
e
c^
]
=
1
.
0
2
×
1
0
"
噸
器
+
w
・
卿
)
[
e
V
/
c
c
]
と表される。それぞれのエネルギー密度は[eV/cc]で
表されている。磁場のエネルギー密度は
(
3
)
銀河における電子の発生率金()をこのようにおく根拠
は,宇宙線電子がSNR内のshock加速で創られ,それ
^
[
e
V
/
c
c
]
=
0
.
0
2
4
8
f
l
*
[
>
G
*
]
が乗ベキの形をもつと考えられているからである。また
創られた電子の電荷符号についてはよくわかっていない
で与えられ,銀河磁場を6.7[G]とすると.l.l[eV/cc]
となる。フォトン密度については,紫外線成分からの寄
与は無視し,可視光成分のフオトン密度を0.26[eV/ccL
赤外のフォトン密度を0.31[eV/cc]とし[2],3Kの宇
宙背景報射のフォトン密度を0.25[eV/cc]とすると,
が,ともかくここでは陰電子と陽電子の総和を取り扱っ
ているものとする。またで2(匂をエネルギーに依存し
て乗べきの形におくことは,物理的要請からくるもので
はなく磁場の乱れのスペクトルを乗べきで表すことから
現象誇的に仮定されている。
0.82reV/cc]程度となる。したがって,合計で約1.93
[eV/cc]程度となり,瞳の値はおよそ
以上のように仮定すると.LBModelの解が得られる
[
1
1
]
。
姥=2.0×10 '6にeV *sec i](1)
−38−
神奈川県立衛生短期大学紀要Vol.27(1994)
蝿
②
=
万
琴
零
*
'
0
1
露
γ
‘
ri()=roi-*>
−1+多−62
e
x
p
[
で
2
(
)
(
!
$
z
)] d 工 ( 4 )
LBModelによると,あるエネルギー範囲を考えたとき,
とおくと,単位時間にSNR領域から銀河空間にエスケ
ープしていく電子の数,即ち銀河領域での発生スペクト
ル唖(匂は
その中の電子の数はソースから加えられ,更により高い
。(。=砦号(6)
エネルギーの電子がエネルギー損失によってその範囲に
入ってくる。一方減少の方は,エネルギー損失と銀河か
で与えられる。
らのエスケープが考えられ,どちらの頻度が高いかは,
ここでSNR内でのNi(○は,加速源からの寄与,シン
注目しているエネルギーの値に依るはずである。エネル
クロトロンによるエネルギー損失,SNRからのエスケ
ギー損失の割合は助Eであり,エスケープ確率は,/で2
ープが釣合い定常状態になっているとおく。
である。この2つが等しい場合を境に,それよりエネル
‐筈号+去塔蝿⑤'=。⑤(7)
ギーの低い電子は銀河からのエスケープが効き,それよ
りエネルギーの高い電子はエネルギー損失が効く。この
境のエネルギーを昼と表すと,
曇
=
[
(
γ
−
1
)
姥
で
o
z
]
−
ユ
ノ
(
'
−
8
2
)
(
5
)
となり,この前後の電子のスペクトル指数は
ここで
&()=<3bi-γ
はSNR内での電子の発生スペクトルであり,SNRの爆
発後,粒子加速が続いて起こっており,一定の状態で電
子を供給し続けているものと仮定される。したがって爆
<易のとき
発後粒子加速が続いては起こっていないSNR(例えば
CAS-A[6])をleakyboxとみなすことには無理がある
雌()=&(勘で2(団匪E一(γ+62)
かもしれない。しかしここではSNRの総和を考えてい
>昼のとき
るので.1つのSNRが伝播モデルの時間レンジに比べ
て速く衰退しても,全体として一定性を保っていれば良
蝿
(
劇
=
(
鍔
"
。
。
E
(
蕨
・
”
と表される。すなわち電子スペクトルの指数は,折れ曲
い訳である。このNLBModelの解を得るには,(6)式の
Ai<匂にLBModelの解(4)式の添字2→lに変えたもの
がり点昼を境に,一(γ+62)から−(7+1)に変化
をとり,ソーススペクトルをfc(。とするLBModelの
することがわかる
解を計算すればよい。結果は
蝿
(
勘
万
亨
丁
哉
万
ァ
零
雰
↓
‘
錘
僻
“……簿p[-害志託蒜k
IDNestedLeakyBoxModelの公式
次に,NestedLeakyBoxModel(NLBModel)につい
て述べる。このモデルでは,銀河の1つの大きなleaky
boxに含まれるSNRの複数のleakyboxが存在する。宇
宙線高エネルギー電子はSNRの中でshockwaveにより
−1+毒−32
.
e
x
p
[
6
2
で
2
(
)
(
!
f
i
z
)
1
(
8
)
となり,具体的なパラメータの値が入力されれば,上式
加速されたものと考えられるが,nebulaの中には銀河
から数値積分によりNLBModelで計算した銀河内一次
磁場よりも強い磁場が存在し,電子はそれによりエネル
電子スペクトルが得られる。ところで,このNLBMod-
ギーを失う。そのエネルギー損失係数をhとする。電
elのスペクトルの特徴は,折れ曲がり点が2ヶ所に存在
子はSNRから銀河のleakyboxへと抜けだして(すなわ
ち見方を変えれば,これが銀河の発生スペクトルとなる)
することである。1つはSNR内でのエネルギー損失に
銀河内を伝播し,エネルギー損失を受け,やがてその銀
内におけるエネルギー損失による折れ曲がりで,これを
よる折れ曲がりで,これをdとおく。2つ目は,銀河
河からも抜け出していくという描像である。これを式で
<2とおく。
表すと以下のようになる。SNRに関する量は添字1で,
NLBModelの電子スペクトル変化は以下の様に.2
銀河に関する量は添字2で表している。
つの場合に分けられる。
SNR領域における電子のスペクトルをNi(E)dEとし,
SNRから電子がエスケープする確率をl/'i().
case1*<ciの場合
−39−
<a,^()-0i()'ziE)oc-<''+*>
発生源から銀河内へ電子がエスケープする確率が
高い,あるいは発生源での電子のエネルギー損失
1
a<<壁雌=>,竺釜-r"
の割合が/J、さい場合,各折れ曲がり点は以下の式
.c-<*-"一ざ'十62)
で表きれ,
昼,=[(γ−1)伽で]一〃('一"')
姥=[(γ−1)吃でoj−1/〔'一”
1
陸
く
旦
雌
(
動
=
(
γ
竺
釜
“
(
動
(
9
)
⑩
スペクトル指数の変化は,
(
γ
−
6
1
)
b
Z
E
O
C
E
(
γ
+
2
−
ざ
j
$
i
)
b
>
E
*
*
*
*
となる。
<*,Afe()^Qi()tMoe-^+'>
このNLBModelにおける電子スペクトルの変化をまと
めて図1に載せておく。またここで2,3の注意点を述
<
2
<
<
昼
恥
雌
(
)
7
鍔
嘩
嘩
直
(
'
判
’
鞄
く
昼
雌
(
劇
=
(
皇
幾
E
r
,
(
J
E
)
べておく。case1とcase2の場合では&2の式が少し
異なる[9]。これは折れ曲がり姥の起きる所での銀河
1
における発生スペクトルに差があるからである。図にみ
るように,case1の場合は発生スペクトルのべきはγ
1
(
γ
−
6
1
)
助
<
'
一
s
'
)
であるし,case2の場合はγ+l-d1である。したがっ
となる。一方,
て,LBModelの(5)式のγの所にそれぞれの値を入れた
case2EaK.Ea.の場合
発生源から銀河内へ電子がエスケープする確率が
の場合は最もエネルギーの高い領域でも一γ−1とな
少ない,あるいは発生源での電子のエネルギー損
てこの場合は,LBModelと同じスペクトル変化となる。
ものが上に示した昼2の値になっている。また6,=1
り,曇,でスペクトル指数の変化は現れない。したがっ
以上のようにスペクトルの変化の様子を調べることに
失の割合が大きい場合,各折れ曲がり点は
よって,NLBModelにおける物理的に重要な結果を得
島
,
=
[
(
γ
−
D
h
i
o
i
]
'
ノ
(
'
3
1
)
堅=[(γ−6ユ)ぬroJ−'/('一”
ることができる。1つは62が一次電子スペクトルの低
エネルギー側に関与しているのに対し,61は高エネル
ギー側に関与している点である。2つ目はそのSNRに
となり,スペクトル指数の変化は,
蛾
γ
l|→助l|→鮒
QlM
γ+61
γ
γ+1
γ+1−61
easel
γ+621γ+11
, ↑
雌
γ+2−61
︽雌
2
E 里 & ,
γ+621γ+1−6,+621 γ+2−6,
↑ 0
昼 , 単
図1NestedLeakyBoxModelにおける電子スペクトル指数の変化
−40−
神奈川県立衛生短期大学紀要Vol.27(1994)
おけるエネルギー損失によりスペクトルはLBModelの
場合より更に1-Siだけ折れ曲がる点である。
次/一次)組成比から求められているmeanescapelength
のエネルギー(又はRigidity)依存性については.B/C
を使ってlOOGeV以下の範囲で得られている結果から,
数GeV以下では0となりそれ以上では0.6の値となると
Ⅳ恥akyBoxM畝elと鑑則値との比較
いうのがおよそ一致した結果である[5][13][14]。つま
LBModelと観測値を比較して得られるパラメータの
り核種成分では62の値は数GeVにおいて変化している。
1つは,銀河の発生スペクトルである。すなわち2節で
電子も宇宙線核種成分と同じ様に銀河磁場に捕捉され散
調べたように,電子のスペクトルが折れ曲がり点島よ
乱を受けているとすれば,エスケープ確率も同様な形を
り大きいところでは,スペクトルのべきはγ+1で与え
とるかもしれない。したがって62が変化している場合
られるので,観測値の高エネルギー側のスペクトルを得
にはその平均値とみなすことにして一定であるとおく。
ることによってγが得られる。我々の30GeVから2TeV
までの観測値は3.3±0.1であるが,他のグループのデー
以上によりγ.b*o,S2をパラメータにして,銀河
の背景電波からのデータ,Golden.Tangらのデータ,そ
タは数十GeV付近の値がかなり高いので,それらを加
して我々のデータに最も良く一致する値を求めることに
えると結果はより大きな値になると考えられる。
する。股小二乗法のうちGauss-Newton法は最も簡単で
次にエスケープ確率は(3)式により与えられ,ここで
あるが,モデルの非線型性が大きい場合はよい結果が得
^02は電子エネルギーE=GeVにおける値である。電子
られない。それに対し,修正marquardt法はそのよう
の観測スペクトルが62の値に対しどれほどの情報を与
な場合でも収束が良く,しかもヤコピアン行列を解析;的
えられるか考えてみると,62の値が効いているのは折
に求めることができる場合に有効なので,この方法を使
れ曲がり点よりエネルギーの低い領域である。それより
うことにする隅]。ここでスペクトルの絶対値0)2はパ
高いエネルギーではエネルギー損失が効いてくるから,
62の値がどの様に変化してもスペクトルには影響しな
測値
ラメータとはしないで,エネルギーlOGeVの点での観
くなる。言い換えれば62に対して鈍い関数になって,
観測値は情報を与えない。一方,宇宙線核種成分の(二
W
(
l
O
G
e
V
)
=
2
7
0
±
3
0
[
m2
s
r
*
s
e
c*
G
e
V
勺
一一一一
103
2
0
1
一一一一一一一
● ● ● ● ● ● ● ●
fromradiodata
モ
Goldenetal.'84
'
*
Tangetal.'84
f
Ourdata.'93
thelinegivenbyleastsquares
γ=2.56
γ=5.4×106-*[yr]
一一一一一一一一
0
1
︵副ンの①︻1局︻IC①吻函1日︶め目×暑一望一g星
ー
I■■
1
0.1
1
1 0 i n *
Energy(GeV)
図2LeakyBoxModelと観測値との比較
−41−
1
0
3
104
に一致するように選んでいる。
や小さい。
結果は図2に示すように
この節では(8)式を使って,観測値との比較により最小
二乗法からエスケープ確率を求める。未知のパラメータ
γ=2.56±0.03
は沢山あるので,次のようにパラメータを選択する。
まず,SNRにおける電子の発生スペクトルγの値は,
ro2=(5.4±0.6)×10*[yr]
62=0.08±0.08
加速理鰭から理想的な場合には2.0であるが,SNRでの
となる。ソーススペクトル指数2.56という結果は,これ
まで考えられてきた値に比べてかなり大きいが,これは
衝撃波面は球面であること,衝撃波が定在的でなくある
期間しか続かないことを考慮すると2.1<γ<2.3と考え
Tangらの絶対値の大きなデータが効いていることによ
られている[1]。したがってここでは
る。彼らの結果は残差が小さいので,最小二乗法で求め
γ=2.2
ると影響が大きい。
次に,ro2はエネルギーがIGeVにおけるエスケープ
とおく。
確率の値であるが,これは(5武から求めた折れ曲がり点
また実際の計算に必要な値は,エスケープ確率にエネ
ルギー損失係数をかけた値である。そこでIGeVにおけ
Ec=25GeV
るこれらの比をαとおき,
よりかなり小さいので滞在寿命とみなすことができる。
.
^
f
t
│
T
o
i
(
i
G
e
V
)
^02の値は,宇宙線核種成分の同位体のデータから得ら
らで02(IGeV)
れている結果."Beによる8.4(+4.0,-2.4)×10*[yr]
と定義する。ここでαの値は,銀河内のSNRから放射
[19],15(+7,−4)×10[yr][15],また最近のデータ
されている電波量と銀河内に存在する背景頼射の電波量
"Beによる(2.9±1.0)×10*[yr],*Alによる(4.1±2.4)
の比較から見積もると,
X10*[yr]の値[18]に比べてやや小さいが,これは銀河
のグローバルな磁場の値3[//G]に比べてここで採用し
た太陽系付近の値6.7[*G]はかなり大きく,エネルギ
ー損失係数助の値が大きいことによると考えられる。
エスケープ確率のエネルギー依存指数62の値は,上
で述べた宇宙線核種成分の(二次/一次)組成比の値と数
α=0.05∼0.15
程度の値をもつことがわかる。これはNLBModelのス
ペクトルが3節のcase1の場合であることを示してお
り,壁く島'となっている。
SNRの方のパラメータはαを使って
GeV以下では一致しているが,それ以上ではかなり異
hri=biroi−61
なっている。しかし電子のエネルギースペクトルは高エ
=α・瞳^02ごび’
ぬで2=瞳r02-β2
ネルギー側ではエスケープ確率に依らないので,数
GeV以上で∼0.6となっていても観測値とは矛盾しない
と考えられる。
と表わす。
以上により,必要なパラメータはb2*"02i$2^1
となり,これらを最小二乗法のパラメータとして選ぶこ
VNestedLealw政xModelと蹴則値との比較
とにする。実際に計算を行なった結果は,γ=2.2,
NLBModelにおける最も重要なパラメータは,宇宙
α=0.05のとき,
線電子の発生源SNRからのエスケープ確率である。エ
蛇r02=0.18±0.06
スケープ確率が高ければ電子は発生後あまりエネルギー
($2=0.26±0.15
を失うことなく銀河に出てくるし,低いとなかなか出て
<$i=0.290.16
こない。このことを閉じ込めが,弱い,,,強い'という。
予想としてはSNRの中心部分のパルサー加速で生成さ
となった。その様子を図3に示す。またα=0.1,0.15
れたものはnebula内のエネルギー損失が大きくあまり
の場合も合わせて結果を表1に示しておく.
出てこれないだろうし,爆発のblastwaveにより加速
されたものはかなり出てくるだろう。Duricによれば,
SNR内における電子の滞在寿命のIGeV付近の値で01
は
パルサー加速による宇宙線供給率はblastwaveに比べ
ると数は多いが1つ1つの供給量は小さく全体としてはや
−42−
roi="(Hs/Hc^roz
神奈川県立衛生短期大学紀要Vol.27(1994)
表1NestedLeakyBoxModelから推定されるパラメータ
12
でて
γ=2.2
==α・でoi
=ro2
31
一け2
HJHg
α
2.88×
0.10
40
2.90×
0.15
100
2.82×
111
10
7
07
07
0
[
y
r
]
0.05
61
62
^02
昼2&1
foi
[yr][GeV][GeV]
0.260.29
4
1.4×10
4.18581
0.220.42
15006.91704
0.210.47
4207.09660
1
0
3
0
1
2
1
0
︵菌ンの①[1.扇[IUのm観I旨︶②国×堂一切目g胃角
fromradiodata
1
01
モ
Goldenetal・'84
心
Tangetal.'84
I
Ourdata'93
1
thelinegivenbyleastsquares
7=2.2
7
,
=
0
.
0
5
.
2
.
9
×
1
0
'
2
9
[
y
r
]
巧=2.9×107E-0.'"'[yr]
1
0
*
10
10*
1
0
4
Energy(GeV)
図3NestedLeakyBoxModelと観測値との比較
から得られる。姥IHgはSNRと銀河の磁場の大きさの
り,一方SNR内でのエネルギー損失による折れ曲がり
比である。α=0.05,SNRの磁場が70fiG程度ではで0,
&,は数百GeVのところにある。このことから電子の発
=1.4×10*[yr]となり,700uG(a=0.15)とすれば
生源でのエネルギー損失が現在の2TeVまでの観測範囲
に影響を与えていることがわかる。
roi=420[yr]程度に短くなる。SNRからのエスケープ
確率のエネルギー依存指数61の値は0.3∼0.5程度の値
である。このような61の範囲ならば,SNR内の電子の
Ⅵ 結 論
発生源分布の効果はlOTeV以下ではほとんど効いてこ
ないので,61はSNRにおける電子の伝播の仕方にかか
わるパラメータとみて良いだろう。また,銀河のエネル
ギー損失による折れ曲がり姥は数GeVのところにあ
この請文では電子の伝播モデルとしてLeakyBox
ModelとNestedLeakyBoxModelを考えてきた。最小
二乗法を用いて得られた結果は従来の結果とはやや異な
−43−
る部分があるが,全体として矛盾なく伝播を考えること
134,1973
ができる。まず,LeakyBoxModelから得られたソース
[
1
幻
S
e
w
a
r
d
,
F
.
D
.
,
S
p
a
c
e
S
c
i
.
R
e
v
.
,
(
4
9
)
3
8
5
,
1
9
8
9
スペクトルγ=2.56はこれまでの値γ=2.4±0.1に比べ
[
1
3
]
S
o
u
t
o
u
l
,
A
.
e
t
a
l
.
,
P
r
o
c
.
2
1
t
h
I
C
R
C
(
3
)
3
3
7
.
1
9
9
0
て大きいが,これはTangらのデータが効いている結果
である。低エネルギー側のスペクトル指数はγ+62=
2.65となり,宇宙線陽子のスペクトルの値と一致してい
[
1
4
]
S
w
o
r
d
y
,
S
.
P
.
,
e
t
a
l
.
,
A
p
J
.
,
(
3
4
9
)
6
2
5
,
1
9
9
0
[
1
5
]
Simpson,J.A.andGarcia-Munoz,M、,SpaceSci.
R
e
v
.
,
(
4
6
)
2
0
5
.
1
9
8
8
る。IGeV付近の滞在寿命で02=5.4×10*[yr]の値はや
[
1
6
]
Taira,T・etal..Proc.23thICRC.1993
や小さいが,これはローカルな姥の値が大きいことに
[
1
7
]
VanDerWalt、D.J.etal..SpaceSci.Rev.(47)1,
[
1
8
]
Webber,W.R.,Proc.21thICRC(3)393.1990
[
1
9
]
W
i
e
d
e
n
b
e
c
k
.
M
.
E
.
a
n
d
G
r
e
i
n
e
r
,
D
.
E
.
,
A
p
.
J
.
,
(
2
3
9
)
よると考えられる。62=0.08が高エネルギーまで続い
ているかという点は,宇宙線核種成分の結果(6=0.6
>5GeV)と異なっているかどうかという重要な問題で
1988
あり,今後別の方向から樹付が必要である。
L139,1980
NestedLeakyBoxModelから得られた結果は大変興味
深い。まず銀河のエスケープ確率はαが変化しても変わ
らないが,これは低エネルギー側のスペクトルから決め
られるので妥当な結果である。また,銀河内SNRの磁
場の大きさは平均して銀河磁場の10倍程度と考えられる
から,α=0.05程度が現実に近いと思われる。
この場合,SNRでのIGeV付近の電子の滞在寿命は10*
[yr]程度となり,これはSNRがSedovphaseにおいて
活動できる期間と一致している。また,SNRからのエ
スケープ確率のエネルギー依存指数6,の値は0.3程度と
なり,これは高エネルギー部分の閉じ込めがかなり強い
ことを表している。
参考文献
[
1
]
B
o
g
d
a
n
e
t
a
l
.
,
A
s
t
r
o
n
.
A
s
t
r
o
p
h
y
s
.
(
1
2
2
)
1
2
9
,
1
9
8
3
[
2
]
C
o
x
,
P
.
a
n
d
M
e
z
g
e
r
.
P
.
G
.
,
A
s
t
r
o
n
.
A
s
t
r
o
p
h
y
s
・
R
e
v
.
,
(
1
)
4
9
,
1
9
8
9
[
3
]
D
u
r
i
c
,
N
.
.
S
p
a
c
e
S
c
i
.
R
e
v
.
(
4
8
)
7
3
,
1
9
8
8
[4]Dejager,O.C.andHarding,A、K..Ap.J.(396)161.
1992
[
5
]
E
n
g
e
l
m
a
n
n
,
J
.
J
.
,
e
t
a
l
.
,
A
s
t
r
o
n
.
A
s
t
r
o
p
h
y
s
.
,
(
2
3
3
)
96.1990
[6]Green,D.A.,SupernovaRemnantsandtheInterstellarMedium.CambridgeUniv.Press.
[7]Milne.D.K.,Aust.J.Phys.(40)771.1987
[8]中川徹他最小二乗法による実験データ解折,東
京大学出版会,1982
[
9
]
N
i
s
h
i
m
u
r
a
,
J
.
,
p
r
i
v
a
t
e
c
o
m
m
u
n
i
c
a
t
i
o
n
,
1
9
9
2
[10]Nishimura,J.etal.,Proc、21thICRC.(3)213.
1990
[11]Silverberg,R.F.andRamaty.R.,Nature(243)
−44−