写真上の相対距離知覚は大きさ比に依存する 2

写真上の相対距離知覚は大きさ比に依存する 2
竹澤智美
(立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構)
キーワード: 知覚的相対距離,撮影距離,焦点距離
The perception of relative distance depends on the size-ratio in photographs 2
Tomomi TAKEZAWA
(Ritsumeikan Global Innovation Research Organization)
Key words: perceived relative distance, camera-to-target distance, focal length,
Rp: Perceived relative distance (cm)
写真上の奥行き方向の距離知覚が,画面上の対象の像の大きさに
式(3)は,客観的距離 Ro が一定の条件においても撮影距離Ao を小さく
依存すると仮定することは,妥当に思える。実際にレンズの焦点距離
すれば,大きさ比 r が小さくなることを示している(竹澤, 2008)
。
を長くすれば対象は大きく写り,対象がこちらに近づくように見える
さらに撮影距離 Ao と客観的距離 Ro が一定である限り,焦点距離 F
(松田, 2002; Takezawa, 2011)
。同様にして,遠近 2 つの対象間の隔たり
が変化しても大きさ比 r は不変といえる(松田, 2002)
。
(相対距離)もまた対象の像の大きさに依存して知覚されるならば,
知覚的相対距離 竹澤(2011)では,焦点距離 F に比例して近い
焦点距離を長くするとき,2 つの対象は互いに接近して見え,撮影
対象までの撮影距離 Ao を大きくしたため,
焦点距離を長くするとき,
時の客観的相対距離と焦点距離が一定のときには,カメラから対象
近い対象の大きさ S1(F / Ao)は不変のまま,遠い対象の大きさ比 r
までの撮影距離にかかわらず相対距離が不変に見えるはずである。
が大きくなった。Figure 1 には,客観的距離 Ro と近い対象の大きさ
しかし,知覚的相対距離は焦点距離が変化してもほとんど変化
S1 の別に,大きさ比 r にともなう知覚的距離 Rp の変化を示した。
せず(松田, 2002)
,撮影距離にともない小さくなる(竹澤, 2008)
。
知覚的距離 Rp は大きさ比 r の増大にともない直線的に小さくなった
昨年の報告(竹澤, 2011)では,2 つの対象の像の大きさ比が,焦点
ため,仮に定数 a と b を用いれば,つぎの式で表すことができる。
距離を操作するとき不変であり,撮影距離を操作するときに変化する
Rp = –a × r + b
(4)
ことから,
知覚的相対距離が大きさ比に依存する可能性を指摘した。 ここで,近い対象と遠い対象の像が同じ大きさ(r = 1)のとき,
そこで本稿では,撮影距離と焦点距離を操作するときの大きさ比
知覚的距離 Rp は 0 になる(Rp= 0)はずである。これらの値を(4)に
と知覚的相対距離を数式で表し,竹澤(2011)のデータを用いて
代入すれば b = a が得られ,これを式(4)に代入すれば式(5)となる。
この仮説を検証する。またこれに加え,知覚的相対距離は総じて
Rp = –a × r + a = a ( 1 – r )
(5)
過小であるが,撮影距離を小さくすれば,客観的相対距離に近づき
客観的距離 Ro と近い対象の大きさ S1 の条件の別に,知覚的距離 Rp
うることについて説明を加える。
に式(5)を適用し,得られた a の値を Figure 1 に示した。a の値は
実験の概要
大きさ比にともなう知覚的距離の変化の割合であり,知覚的距離が
課題 参加者は遠近二つの同じ大きさの対象を含む写真を観察し,
対
大きさ比にともない規則的に小さくなることを示している。このこと
象間の相対距離が写真と同じになるよう実際に対象を配置した。
実験者
から,知覚的相対距離は大きさ比に依存するといえる。
は配置された対象間の相対距離(知覚的距離)を cm 単位で記録した。
さらに式(3)と(5)より式(6)が得られる。
実験条件 撮影時に客観的距離(5)×焦点距離(5)×撮影距離(5)
Rp = a { 1 – Ao / ( Ao + Ro ) } = a { ( Ao + Ro – Ao ) / ( Ao + Ro ) }
を操作し,125 枚の写真の知覚的距離を測定した。客観的距離:撮影
= a { Ro / ( Ao + Ro) ) }
(6)
時の対象間の相対距離(客観的距離)を 35-200cm
式(6)は,客観的距離 Ro が一定の条件に
200
S1: Near target size おいても撮影距離 A を小さくすれば,
とした。焦点距離:35mm 判フィルム換算で 35-
o
0.25
200mm とした。撮影距離:50mm レンズを用い,
知覚的距離 Rp が大きくなることを示
150
0.5
近い対象から 35cm,50cm,70cm,100cm,200cm
している。
0.7
1
離れて撮影した。他の焦点距離条件では近い対象が 100
さて,知覚的距離は客観的距離に比
1.4
50mm レンズ条件と同じ大きさに写るよう,焦点距離 200 Ro: Actual
して総じて過小であったが(Rp < Ro)
,
50
relative distance
に比例して撮影距離を大きくした。
一部の大きさ比の小さな条件で知覚的
a
=
180.8,
175.1,
181.8,
200cm
150
195.3, 246.0
大きさ比と知覚的相対距離
距離が客観的距離に近似した
(Rp = Ro)
。
0
a
=
119.8,116.3,
113.7,
143.5, 189.0
対象の像の大きさ 対象の画面上の像の大きさは, 100
式(6)を撮影距離 Ao について解き,知覚
200
カメラから対象までの撮影距離に反比例して縮小し
的距離 Rp が客観的距離 Ro に等しい
(竹澤, 2005), 焦点距離に比例して拡大する(竹澤,
(Rp = Ro)と仮定すれば式(7)が得られ,
50
150
100cm
2008)
。したがって近い対象までの撮影距離 Ao(cm)
知覚的距離が客観的距離に近似する
200
と焦点距離 F(mm)を操作したときの近い対象の像 1000
ことが期待される撮影距離が求まる。
a = 87.5, 93.3, 103.5, 122.6, 169.4
の大きさ S1 は,仮に撮影距離が 50cm(Ao = 50)
, 150
Ao = a – Ro
(7)
50
焦点距離が 50mm(F = 50)のときの像の大きさを
つまりFigure 1 のaの値から客観的距離
70cm
200
1000
1 とすれば,つぎの式で表すことができる。
Ro を減じればよい。しかし客観的距離が
a = 75.6, 78.3, 93.5, 114.1, 157.2
S1 = ( 50 / Ao ) × ( F / 50 ) = F / Ao
(1)
200cm のときには客観的距離に比して
150
50
近い対象と遠い対象の間の客観的相対距離を Ro と
aの値が小さく
(a < Ro ゆえにAo < 0)
,
50cm
すれば,カメラから遠い対象までの撮影距離はAo + Ro 1000
実際には不可能な撮影距離が得られた。
a = 65.9, 80.9, 90.7, 108.1, 180.4
であるから,遠い対象の像の大きさS2 は式(2)で表せる。 50
以上を総合すると,撮影距離を小さく
S2 = F / ( Ao + Ro)
(2)
すれば,大きさ比は小さくなり(式(3))
,
35cm
0
大きさ比 式(1)と(2)より,近い対象 S1 に対する
知覚的相対距離は大きくなるが(式(6))
,
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
遠い対象 S2 の像の大きさ比 r は式(3)で表せる(北橋・
客観的相対距離が大きなときにはいか
r: Size-ratio
竹澤,2008)
。
Figure 1. Relationship between the size に撮影距離を小さくしても知覚的相対
ratio and the perceived relative distance. 距離は過小となる可能性がある。
r = S2 / S1 = Ao / ( Ao + Ro )
(3)