渡良瀬第2調節池の掘削土(粘性土)を用いた土砂改良試験 ~河道掘削土砂との配合による適正な盛土材料の検討~ 利根川上流河川事務所 沿川整備課 中濱 匡 1.渡良瀬遊水地の掘削土利用の経緯 当事務所管内では、首都圏氾濫区域堤防強化対策整備やその他の堤防整備に約800万 m3 の築堤材料が必要となり、河川内の良質土だけでは不足しているため、湿地を保全する ための掘削計画がある渡良瀬遊水地の細粒分の多い粘性土と河川内にある土砂のうち単 粒の砂を再利用する必要がある。 2.土砂改良試験の目的と改良ケース 渡良瀬遊水地の掘削土は、 「河川土工マニュアル」等に示される粒度分布範囲において は、クラックの危険性がある範囲に分布する(図1)。この材料に対して、コーン指数 qc が不足する場合には石灰を混合する等の対応により利用してきている。 (表1)今回、 渡良瀬遊水地の掘削土をより適正な築堤材料として利用するための検討と試験盛土によ る実証成果について紹介する。掘削土をそのまま利用する場合の問題点としては、含水 や細粒分が多すぎることによるトラフィカビリティ不足やクラックの発生が懸念される。 問題を解消する対策として、以下に示す砂分の混合と石灰添加による改良案を検討し、 無改良(掘削粘性土 100%)を含む 8 ケースによる検証を行った。 表 1 マニュアル適正材料と遊水地掘削土の比較 項目 土質 粒度 含水比 建設発生土利用 技術マニュアル (そのまま利用) 90 河川土工 マニュアル 礫質土~砂質土~粘性土 Fc=15~50% ・粒度分布が良い (締固め) ・細粒分が15%以上 (難透水性) ・細粒分が50%以下 (クラックが生じにくい) 40~80% (粘性土) 粘性土は、含水比の高くない ものが望ましい 40%程度 (施工性) コーン指数 400kN/m2以上 2.1 渡良瀬遊水地 掘削土 第2種~3種 ・敷き均し、締固めが容易 ・強度が大きい その他性状 ・圧縮性が少ない ・侵食に強い ・膨潤性が低い 100 粘性土 細粒分が50%以上 200kN/m2程度 ・できるだけ不透水性 ・十分な強度を有する ・締固めが容易 ・クラックが生じにくい ・有機物等を含まない 通 過 質 量 百 分 率 (%) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0.001 0.01 0.1 1 10 粒径(mm) 施工性の低さとクラックが懸 念される 図 1 渡良瀬遊水地の掘削土の粒度分布 砂の混合による改良 渡良瀬遊水地の掘削土に砂を混合することによって、粒度分布の改善、含水低下およ びコーン指数の増加が期待される。混合する割合は、渡良瀬遊水地の掘削土(粘) :砂質 土(砂)の割合が、①2:1(約 66.6%:33.3%)、②1:1(50%:50%)となる 2 パタ ーンとした。2:1ではクラック発生が懸念される範囲となり、1:1だと適正範囲の 分布となる(図2) 。砂の材料は、利根川本川の高水敷に分布する掘削土を用いた。 100 粘2:砂1 粘1:砂1 粒径加積曲線(番号:6) 90 混合した土 100 90 80 80 70 70 60 50 40 30 20 10 0 0.001 0.01 0.1 粒径( mm) 図 2 2.2 1 原土・砂 原土・粘性土 室内‐1日目 室内‐90日目 表土‐1日目 表土‐90日目 回転‐1日目 回転‐90日目 高水敷の砂質土 10 通過質量百分率(%) 通過質量百分率(%) 渡良瀬遊水地の 粘性土 粒径加積曲線(番号:4) 粘性土分が多く、 クラック範囲に入る 100 適正範囲に入る。 「河川土工マニュアル」 の適正範囲 60 50 40 30 20 10 100 原土・砂 原土・粘性土 室内‐1日目 室内‐90日目 表土‐1日目 表土‐90日目 回転‐1日目 0 0.001 0.01 0.1 粒径( mm) 1 回転‐90日目 10 100 掘削土と砂質土の混合土の粒度分布 石灰添加による改良 石灰を添加することによる改良の効果としては、固化反応での団粒化による粒度分布 の改善、含水低下およびコーン指数の増加が期待される。添加量として、10kg/m3 と 20kg/m3 の 2 ケースとした。 砂を混合しない掘削土と砂を混合した土砂材料 2 パターンに対して、石灰添加を行っ た。混合割合1:1については、砂混合による粒度分布改善によってクラック発生の懸 念はほぼ無くなることから、20 kg/m3 のケースは除外した。10 kg/m3 については、石灰 添加による経時変化やコーン指数への効果による施工時の効率化につながる影響の有無 を確認する目的から実施した。 3.試験盛土における実証 上記 8 ケースの材料を作成し、渡良瀬遊水地の掘削ヤードに試験的に盛土を施工し、 90 日間の経過観察をおこなった(表 2)。観察項目は以下の通り。 ①材料物性:粒度試験、含水比、コーン指数、②クラック状況:のり面観察、③植生 基盤評価:土壌pH 測定。 なお、混合工法については、現地において根茎除去用として“すきとり表土分別機” と“回転式破砕混合機”を使用しており、これらにより土砂混合と石灰混合が可能なこ とから、この 2 機を用いた検証をおこなった。 表 2 3.1 試験盛土経過観察工程 経過日数 0 1 3 7 28 60 90 観察日1 11/18 11/19 11/21 11/25 12/16 1/17 2/16 観察日2 11/19 11/20 11/22 11/26 12/17 1/18 2/17 材料物性 (1)粒度特性 粘性土と砂質土の混合による粒度分布特性は、図2に示す通りで、混合工法による違 いもほとんど生じない。 石灰改良においては、団粒化による粒度分布の改善が期待されたが、今回の添加量で は粒度分布への影響は現れなかった。 (2)コーン指数と含水比 コーン指数と含水比については、改良による効果がみられた。 コーン指数については、砂分が多くなると増大し、粘:砂=1:1(石灰無添加)に おいて qc≧400 を示した(図3) 。 含水については、砂分が多くなるにつれて低下し、粘:砂=1:1(石灰無添加)に おいて最も低下し、wn≒25%となった。 石灰なし 石灰多い 粘: 砂=1:0(L20kg) コーン指数(番号:3) 粘: 砂=1:0 ( L10kg) コーン指数(番号:2) 粘: 砂=1:0(無添加) コーン指数(番号:1) 粘性土分多い 2,400 2,400 室内改良 1,200 800 qc ( kN/m2) qc ( kN/m2) 回転破砕 2,000 400 1,600 回転破砕 1,200 800 400 0 20 40 60 80 100 1,600 1,200 800 400 0 0 回転破砕 表土分別 表土分別 1,600 室内改良 表土分別 室内改良 2,000 qc ( kN/m2) 2,000 2,400 0 0 20 40 養生日数 ( 日) 60 80 100 0 20 養生日数 ( 日) 40 60 80 100 養生日数 ( 日) コーン指数の経時変化図(粘:砂=1:0、石灰添加:0、10、20kg/m3) 粘: 砂=2:1(無添加) コーン指数(番号:6) 粘: 砂=2:1 ( L10kg) コーン指数(番号:7) 1,000 室内改良 800 粘: 砂=2:1(L20kg) コーン指数(番号:8) 1,000 1,000 800 800 400 200 600 400 室内改良 200 0 20 回転破砕 40 60 80 100 0 20 40 養生日数 ( 日) 60 80 600 400 室内改良 200 表土分別 0 0 qc ( kN/m2) 回転破砕 qc ( kN/m2) qc ( kN/m2) 表土分別 600 表土分別 回転破砕 0 100 0 20 養生日数 ( 日) 40 60 80 100 養生日数 ( 日) コーン指数の経時変化図(粘:砂=2:1、石灰添加:0、10、20kg/m3) 粘: 砂=1:1(L10kg) コーン指数(番号:5) 粘: 砂=1:1(無添加) コーン指数(番号:4) 室内改良 2,400 室内改良 2,400 表土分別 表土分別 2,000 回転破砕 1,600 qc ( kN/m2) qc ( kN/m2) 2,000 1,200 800 400 回転破砕 1,600 1,200 800 400 0 0 0 20 40 60 80 養生日数 ( 日) 100 0 20 40 60 80 100 養生日数 ( 日) 砂分多い コーン指数の経時変化図(粘:砂=1:1、石灰添加:0、10kg/m3) 図 3 3.2 混合および石灰添加によるコーン指数 クラック状況 試験盛土に生じるクラック状況を観察した。無改良の粘性土では、クラックが亀甲状 に多数発生し、幅 2cm 程度、深さ 30cm 以上のものとなった。粘1:砂1の混合土が最も クラックが少なく、これに石灰 10 kg/m3 添加したケースが更にクラックは少ない結果と なった。 粘: 砂=1:1(無添加) K-4 K-1 粘: 砂=1:0(無添加) 掘削土(石灰無添加) 図 4 粘1:砂1混合土(石灰無添加) 90 日後のクラック状況(H26.2 月撮影) 3.3 土壌pH 石灰添加によるpH 値の上昇と経時変化を観察した。石灰を添加することで、土壌pH 値が、10 kg/m3 添加で 11 程度に、20 kg/m3 添加で 12 程度に上昇する。高すぎるpH 値は 植生基盤としては適さないことから、時間を経ることによる低下具合を観察したが、90 日では 1 程度の低下であった。 3.4 まとめ 試験盛土による検証の結果、粘:砂=1:1となる混合土が、石灰の添加も必要がな く、最も施工効率の良い適切な材料といえる。 (クラックの観点からは、10 kg/m3 の石灰 添加がより良い結果を示している) 。また築堤材料として適した粒度分布範囲となる粘性 土:砂の配合比率が整理できた。また、改良設備による材料物性の違いを把握できた。 表 3 工法 番号 母材 配合率 石灰 粘:砂 添加量 S-1 1:0 S-2 ( す き 取 り記 表号 土S 分 別 機 S-3 S-4 築堤材料としての適否 ※1 混ざり具合 粒度組成 オーバー材 ヨシ除去 含水比 所見 コーン指数 粒度分布 クラック 土壌pH 0 - - × × × × △ 10 - - △ △ × × × 20 - - △ △ × × × ) 0 △ △ ○ ※3 △ ○ S-5 10 △ △ ○ ※3 ○ △ S-6 0 △ × △ × △ 10 △ × △ × × 20 △ △ △ × × 1:1 2:1 S-7 粘 性 砂 土 S C S-8 K-1 1:0 K-2 ( 回 転 式 記 破 号 砕 K 混 合 機 試験盛土の検証結果一覧表 施工性 △:93% ○ ○ ○ 0 - - × × × × △ ) 10 - - △ △ × × × K-3 20 - - ○ ○ × ○ × K-4 0 △ △ ※3 ○ ※3 △ △ K-5 10 ○ ○ ○ ○ × K-6 0 △ × △ × △ 10 △ △ △ × × 20 ○ △ △ △ × 1:1 2:1 K-7 K-8 △:94% ○ ○ ○ ※2 判断の目安 目視、触感 均質:○ 不均質:× 室内混合と 同等:○ 差異:× 10%未満:○ 20~10%:△ 20%以上:× 初期段階で 95%以上:○ 初期段階で qc≧800:○ 90~95%:△ Wn≦40% qc≧400:△ 90%以下:× qc<400:× 土工マニュアル 適材:○ 非常少ない:○ クラック発生範囲 少ない:△ 限界:× 多い:× クラック発生範囲 の中間:△ 90日試料 pH≦7:○ 7~9:△ 9≦pH:× 工法 材料 石灰配合により改良直後にqc>400kN/m2を示す。 クラック発生の危険性が高い粒度分布を示し、盛土にも クラックが発生している。石灰添加量が多くなるとクラッ 目視による混ざり具合およ クは乏しい。 び室内混合(手練り)と対比 土壌pHは9以上を示し、全般に高い。 して、粘性土と砂の混合は 遜色は無い。土砂混合機で 改良直後にqc>400kN/m2を示す。砂との混合により土工 はないが、本試験で用いた マニュアル築堤材料適性範囲に入る。表面クラックは発 ような土砂の混合は対応で 生するものの深部への連続は極めて乏しい。土壌pHは7 きる。 ~9を示す。 石灰添加量が20kg/m3にな ると、含水比、qc値に顕著 石灰20kg/m3配合でqc>400kN/m2を示す。 に効果が現れる。 クラック発生の危険性がある粒度分布の下限付近であ るが、盛土にクラックが多く認められる。石灰添加量が多 くなるとクラックは乏しい。 土壌pHは9以上を示し、全般に高い。 石灰配合により改良直後にqc>400kN/m2を示す。 クラック発生の危険性が高い粒度分布を示し、盛土にも クラックが発生している。石灰添加量が多くなるとクラッ クは乏しい。 石灰20kg/m3配合の場合、qc>800kN/m3を示し、クラッ 目視による混ざり具合およ ク頻度も少ない。 び室内混合(手練り)と対比 土壌pHは9以上を示し、全般に高い。 して、粘性土と砂の混合は 遜色は無い。本試験で用い 改良直後にqc=400~800kN/m2を示す。砂との混合に たような土砂の混合は対応 より土工マニュアル築堤材料適性範囲に入る。表面ク ラックは発生するものの深部への連続は極めて乏しい。 できる。 土壌pHは9以上を示す。 石灰添加量が10kg/m3で 含水比、qc値に効果が現れ 石灰10kg/m3配合でqc>400kN/m2を示す。 る。 クラック発生の危険性がある粒度分布の下限付近であ るが、盛土にクラックが多く認められる。石灰添加量が多 くなるとクラックは乏しい。 土壌pHは9以上を示し、全般に高い。 ※1 5cm フルイを通らない土塊 ※2 「H23 利根川上流堤防強化対策検討業務」 に基づく除去率判定基準 ※3 適正領域と礫分が入らないと適正領域にならない 範囲があるが(砂)、総合的には使用可能と判断する 4.今後の方針と課題 現行の渡良瀬遊水地の粘性土単体利用に加え、本川中~上流域の砂・砂質土との1: 1混合を積極採用することで、築堤材料としてより高い品質を確保することとする。ま た、試験盛土の法面観察を継続して行い、今年度施工予定の築堤法面を観察する予定で ある。 課題としては、混合機を使用しない築堤現場における混合方法の施工基準(手順)の 作成と根茎除去工程(根茎分断は必要)を省略した粘性土に対する混合効果の確認も有 効であるため、今後実施していきたい。
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