不動産のお役立ち情報 基礎知識:省エネによるコスト削減

不動産のお役立ち情報
2014 年 7 月 31 日
基礎知識:省エネによるコスト削減への第一歩
~まずは一次エネルギー消費量への換算から~
昨今、エネルギーコストの上昇が顕著だ。不動産関連のコストの中でも水光熱費が一定の割合を占め
ることから、省エネによるコスト削減の必要性がこれまで以上に高まっている。しかも、エネルギー単
価は今後も上昇し続ける懸念があり、省エネ対策は、中長期にわたって継続的な推進が求められる。
そこで今回は、省エネによるコスト削減を計画的に進める上での第一歩となる、現状把握の手法につ
いて解説したい。
■適切な現状把握の重要性
省エネによるコスト削減を進めるためには、対象物件の現状を適切に把握し、効果の高い対策が何か
を検討する必要がある。そして、この現状を踏まえた改善計画を立案・実行し、効果検証に基づく改善
を随時行っていく PDCA サイクルが重要だ。【図表1】
【図表1】省エネによるコスト削減 PDCA サイクルのイメージ
高効率機器への更新や、運用改善など
省エネによるコスト削減計画の立案
立案した計画の実行
効果検証の結果に基づく
必要に応じた計画の見直し
実行した計画によって得られた効果の検証
(出所)ザイマックス不動産総合研究所
最近では、改正省エネ法への対応により、保有している不動産のエネルギー消費量を年度毎に集計す
るなどの機会は増えてきた。しかし、法対応のためのデータ集計に留まっているケースが多いのではな
いだろうか。そもそも、不動産で利用されているエネルギーは多岐に渡り1、建物規模・使われ方や季節
などによって消費量も大きく変わるため、集計されたデータを単に並べただけでは現状を把握したとは
言えないだろう。
※当記載の内容などは作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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■現状把握の手法①:一次エネルギーへの換算
不動産で利用されるエネルギーは、電気・都市ガスをはじめ、重油・灯油などの油類や地域熱供給会
社から供給される熱など、多岐にわたっている。また、電気であれば「kwh(キロワットアワー)」、都
市ガスであれば「立方メートル」など様々な計量単位が用いられている。そこで、種類の異なるエネル
ギー消費量を、一次エネルギーという共通の単位へ換算して比較するのが一般的だ。一次エネルギーと
は、電気・都市ガスなどの二次エネルギーに転換される前の、自然から直接得られるエネルギーの投入
量を示すもので、「J(ジュール)
」という単位が用いられる。対象となるエネルギーの種類ごとに、一
次エネルギーへの換算係数が定められており【図表2】、これを用いた換算によって、異なるエネルギー
の消費量を同一の物差しで比較することが可能となる。
【図表2】一次エネルギー換算係数
一次エネルギー換算係数
備考
係数
電力
単位
9.76 MJ/kwh
LPG( プロパンガス)
50.80 MJ/kg
都市ガス( 13A)
45.00 MJ/m3
都市ガスは契約種別により13種類程度の分類あり
39.10 MJ/L
油類には、他にB・C重油、灯油、軽油など
A重油
地域熱供給
1.36 MJ/MJ
(出所)ザイマックス不動産総合研究所
サンプルビルのエネルギー消費量を、一次エネルギーに換算してみよう。
【図表3】掲載のAビルでは、年間の電力消費量が 1,635,000kwh、重油消費量が 200L となっている。こ
れに【図表2】の換算係数(電力は 9.76MJ/kwh、重油は 39.10MJ/L)を乗じることで、一次エネルギー
換算の年間消費量として、15,965,420MJ という数値が算出される。B ビルについても同様の計算を行
うことで、こちらの一次エネルギー消費量は 16,424,780MJ となる。
・Aビル 1,635,000kwh×9.76MJ/kwh+200L×39.10MJ/L=15,965,420MJ
・Bビル 1,178,000kwh×9.76MJ/kwh+109,500m3×45.00MJ/m3=16,424,780MJ
【図表3】エネルギー消費量事例
年間エネルギー消費量
用途
延床面積(㎡)
空室面積(㎡)
電力(kwh)
ガス(m3)
重油使用量(L)
Aビル
オフィス
9,000
0
1,635,000
0
200
Bビル
オフィス
12,000
3,600
1,178,000
109,500
0
備考
昼夜合計
都市ガス_13A
A重油
■現状把握の手法②:原単位への換算
前項で算出した2つのビルの一次エネルギー量を比較すると、Bビルのエネルギー消費量の方が総量
では多いものの、【図表3】の延床面積欄を見ると、BビルはAビルと比較して規模が大きいことが分か
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る。規模が異なる物件は、面積あたりの数値に換算して比較する。このように、エネルギー消費と密接
な関係を持つ値(面積、時間、生産数量など)あたりでの比較を行うことを、原単位比較と言う。【図
表3】の2物件について、面積あたりの原単位で比較してみると、以下のような結果となる。
・Aビル 年間エネルギー消費量:15,965,420MJ÷延床面積: 9,000 ㎡=1,774MJ/㎡・年
・Bビル 年間エネルギー消費量:16,424,780MJ÷延床面積:12,000 ㎡=1,369MJ/㎡・年
オフィスビル用途では、面積あたりの消費量を原単位として採用することが一般的だが、営業時間が
様々な店舗のような用途の場合は、面積あたりの消費量を営業時間で割って比較したり、売上高当たり
の消費量を原単位としたりすることも多い。
■現状把握の手法③:ベンチマーク比較
各物件の原単位を計算したら、他の物件と比較してみよう。複数の物件を保有している場合は、自社
内で比較することもできるが、ベンチマークとなる数値がいくつか公表されており、これらと比較する
ことも有効な手法だ。ザイマックス不動産総合研究所では、首都圏の「オフィスビルエネルギー消費量
及びコスト調査」を定期的に公表しており2、この中でベンチマークとなる数値も掲載している【図表4】。
オフィスビルのエネルギー消費量原単位は 1,711MJ/㎡となっており、Aビルの原単位が高い一方で、
Bビルは相対的にエネルギー消費量が少ないことが分かる。
【図表4】事務所エネルギー消費量・コスト・単価のベンチマーク例 2
エネルギー消費量
数値
オフィスビル
エネルギーコスト
単位
数値
1,711 MJ/㎡・年
エネルギー単価
単位
数値
3,936 円/㎡・年
単位
2.34 円/MJ
(出所)ザイマックス不動産総合研究所
しかし、これをもってAビルの省エネ・省コスト対策を優先すべきだと断ずるのは早計で、その用途
や稼働率にも着目する必要があるだろう。
【図表5】の通り、一般的にオフィスビルよりも店舗などの用途は消費量原単位が高くなる傾向にある。
【図表5】
エネルギー消費原単位 ※駐車場除く
(MJ/㎡・年)
件数
平均
最大値
中央値
最小値
百貨店
39
4,123
6,149
3,842
2,624
総合スーパー
12
3,140
3,760
3,017
2,668
ショッ ピングセンター
15
3,452
4,273
3,428
2,821
上記平均
66
3,572
4,728
3,429
2,704
(出所)商業施設の省エネルギー(一般財団法人省エネルギーセンター)
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また、稼働率が低ければエネルギー消費量も小さくなるため、これを加味した検討を行わないと、正
しく現状を把握することができない。なお、【図表4】のベンチマークは、空室を除いた延床面積を分母
とした原単位を採用している。
【図表3】の2物件について空室を除いた延床面積あたりの原単位を比較すると、以下の結果となる。
・Aビル 年間エネルギー消費量:15,965,420MJ÷(延床面積:9,000 ㎡×-空室 0 ㎡)=
稼働状況を考慮した後の原単位:1,774MJ/㎡・年
・Bビル 年間エネルギー消費量:16,424,780MJ÷(延床面積:12,000 ㎡-空室 3,600 ㎡)=
稼働状況を考慮した後の原単位:1,955MJ/㎡・年
■現状把握の手法④:コスト原単位の比較
本稿ではここまで、エネルギー消費量を原単位比較して現状把握を行う手法を紹介してきたが、これ
はコストや単価の水準を把握するにも有効だ。
面積あたりのエネルギーコストや、一次エネルギー消費量あたりの単価を算出し、水準を比較してみ
よう。対象物件がオフィスビルの場合は、【図表4】の数値と比較してみて頂きたい。
なお、電気や都市ガスなどのエネルギー契約は単純な従量制とは限らず、使い方によっては、消費量
が減っても支払料金は下がらないケースもあり、複雑だ。これらの仕組みについては、機会を改めて解
説したい。
■おわりに
省エネによる中長期のコスト削減を計画的に進める上での第一歩となる、現状把握の手法について見
てきた。本稿で紹介してきた一次エネルギー消費量への換算や原単位の考え方を用いて、自社物件間や
外部で公表されているベンチマークと比較してみよう。対象物件のポジションを把握し、平均よりもな
ぜ多いのか、またなぜ少ないのか、その原因を探っていこう。ここから、省エネによるコスト削減を進
める PDCA サイクルがスタートする。
2014 年 5 月 2 日付ビル経営ノウハウ集「ビルで使われるエネルギーの種別・用途・使われ方について」参照
http://www.xymax.co.jp/knowhow/pdf/140502.pdf
2 2014 年 6 月 19 日付ニュースリリース「オフィスビルエネルギー消費量及びコスト調査」参照
http://www.xymax.co.jp/report/pdf/140619_02.pdf
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