微生物生態を正または負に制御する新規技術の創出

微生物生態を正または負に制御する新規技術の創出
代
表
所属・職名
連 絡 先
メ ン バー
キーワード
池田 宰
工学研究科物質環境化学専攻・教授
TEL:028-689-1657 FAX:028-689-1657 E-mail:[email protected]
農学部:二瓶賢一准教授、工学研究科:加藤紀弘教授・諸星知広准教授・奈須野恵理助教
微生物、遺伝子工学、生物工学、天然物有機化学、Quorum Sensing、ペプチド、工農連携
背景および目的
微生物は、発酵、物質生産など、様々な分野で利用さ
れているが、その効率化、新規機能の創出などが、さ
らに求められている。一方、病原性、感染性、環境汚
染など、微生物への対策、抑制が強く求められている
分野も多い。これら微生物生態を「正」または「負」
に制御する技術は、これまで、培養やプロセス制御な
どの分野で個別に進められてきていたが、微生物の増
殖や酵素発現に伴う機能発現や物質生産などの解析
と、その結果に基づく新規制御素材の開発などには、
農学と工学、生物学と化学などの多様な分野での融合
研究が有効であることが明らかとなってきている。
そこで、本プロジェクトは、微生物の様々な生態や
機能を、正または負に制御する新規技術の創出を目的
として、「微生物生態学」、「遺伝子工学」、「生物
工学」、「材料工学」、「天然物有機化学」および
「超分子化学」などの融合領域の研究者のグループに
より実施するものである。研究・開発のターゲット
は、抗菌活性を有する有用物質生産の促進、病原性や
感染性の抑制、バイオフィルム形成制御などである。
プロジェクトの内容
●
細胞間情報伝達シグナル物質分解細菌の探索
細菌の生態の多くは、細胞間コミュニケーション機構
により、正または負の制御が行われている。これらの
機構の一つに細胞密度依存的情報伝達機構(Quorum
Sensing: QS)が存在する。QSではシグナル物質を用い
て周囲の細胞密度の増加を感知し、様々な遺伝子の発
現が活性化される。一方、環境中にはシグナル物質分
解能を有する細菌が存在しており、特にグラム陰性細
菌のシグナル物質であるアシル化ホモセリンラクトン
(AHL)分解細菌は、病原性細菌のQSに制御される病
原性発現を阻害可能であり、微生物農薬やプロバイオ
ティクスとしての応用が期待されていることから、本
研究では様々な環境中からAHL分解細菌をスクリーニ
ングし、QS阻害技術への応用を目指す。
●
細胞間情報伝達機構の制御素材の設計
低分子化合物をシグナル物質として利用する微生物の
QS制御技術に着目した新規材料の設計、合成を行い、
その機能性を評価する。QS機構のシグナル物質を加水
分解し不活化する酵素生産菌を包括固定した高分子ゲ
ルビーズ、高分子カプセルを調製する。QSシグナル物
質を不活化しQS機構を抑制するQuorum Quenching (QQ)
素材の開発を目指す。QS機構は感染症の発現、バイオ
フィルム形成など多様な生物機能を制御しており、QS
機構を負に制御する素材がもたらす微生物生態の変化
を追跡する。
QSシグナル
酵素分解
QQ 細菌
不活化
微生物間情報伝達機構を負に制御する単分散高分子カプセル
●
QSレギュレーターの分子設計
QS発現に関わるシグナル物質の有機化学的な研究は、
主にAHLおよびその類縁体を用いて行われている。し
かしながら、他のシグナル物質を使った構造-活性相
関研究はほとんど行われていない。そこで、パルミチ
ン酸やラウリル酸などの脂肪酸を主鎖とする天然シグ
ナル物質に着目してそれらの構造変換を行い、バイオ
フィルムの生産および植物病原菌の増殖などの正負の
生命現象を効率的に制御するQSレギュレーターの新規
開発を目指す。また、それらをバイオプローブとして
用い、QS発現のモレキュラーロジック解析を行う。
期待される効果・展開
本プロジェクトは、インキュベーション推進の前段階
として、異分野融合領域の新技術創成を目指してい
る。具体的課題であるQSの制御技術は、その基礎段階
から応用段階へと歩みを進めている。QSは、病原性や
感染性の発現、バイオフィルム形成など、その抑制技
術の開発が強く求められている分野と、物質生産など
我々にとって有益となり、その促進技術が求められる
分野のそれぞれに関連しており、QSを制御する技術開
発は、既存の手法にはなかった、微生物生態を正また
は負に制御する技術の開発を実現する。すなわち、本
プロジェクトの成果は、医療、農業、工業、環境な
ど、様々な分野で活用される可能性を有している。
宇都宮大学 地域共生研究開発センター イノベーション創成部門