From The FIXED INCOME Desk 2014年1月号

 本レポートは、英語による 2014 年 1 月発行「From The FIXED INCOME
Desk」の日本語抄訳です。内容については英語による原本が日本語版に
優先します。
2014 年 1 月号
コー・リアン・チュン
日興アセットマネジメント
アジア リミテッド
債券運用部ヘッド
FRB(米連邦準備制度理事会)は 12 月中旬に開催された FOMC(米連邦公
開市場委員会)において、量的緩和策(QE)における資産買い入れプログラム
の規模を、現行の月額 850 億米ドルから 2014 年 1 月より 750 億米ドルに減
額すると発表した。その影響により、米 10 年国債利回りは 2.74%から 3.03%
まで上昇した。資産買い入れプログラムの縮小は既定路線ではあったものの、
その時期が予想より早まったことを受けて、クレジットスプレッドは縮小した。
2013 年 12 月には、スプレッドの縮小幅を上回ってリスクフリーレートが上昇し、
アジアの高格付クレジットのリターンはマイナス 0.44%となった。2014 年 1 月、
アジアのハイイールドクレジットは、高いキャリー水準を主な要因としてプラス
0.8%のリターンとなり、高格付クレジットより堅調な推移となった。
FRB は QE の縮小開始に言及しただけであるが、日興アセットマネジメント ア
ジア リミテッドでは、2014 年は金利が上昇する年になるとの見方を維持する。
FRB による一歩踏み込んだフォワードガイダンスが示唆しているように、短期
金利が当面低位に据え置かれる状態が続けば、米国債のイールドカーブがス
ティープ化し続けると考えられる。デュレーションについては引き続き慎重な見
方を維持する。また、ファンダメンタルズが健全なアジア諸国の通貨を選好し、
対外収支が相対的に堅調な国が軟調な国をアウトパフォームするとの見方を
変えていない。
2014 年のハイイールド社債の予想リターンは一桁台半ばとなると予想され、
高格付クレジットの予想リターンは一桁台前半に留まると見込まれる。高格付
クレジットのリターンがプラスに転じると予想されるものの、アジア・クレジット全
体としては大きなリターンは期待しにくいと考える。2014 年のリターンがこのよ
うに楽観的とは言い難い背景には、リスクフリーレートの上昇に加え、スプレッ
ドの縮小が相対的に小幅になると予想されるためである。
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日興アセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 368 号
加入協会/一般社団法人 投資信託協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会
アジア諸国の
金利と通貨
堅調な経済見通
しを背景に、
資産買い入れプ
ログラムの縮小
は 2014 年 1 月
からスタート
„FRB が資産買い入れの減額を開始、政策金利のフォワードガイダンスを強化
FRB は、2013 年 12 月の FOMC で資産買い入れペースを月額 850 億米ドルから 750 億米ドル
へ「緩やかに縮小」することを決定した。2014 年 1 月から購入される債券の内訳は MBS(住宅ロー
ン担保証券)が月 350 億米ドル(これまでは月 400 億米ドル)、米国債が月 400 億米ドル(これまで
は月 450 億米ドル)となる。また、FOMC は、失業率が 6.5%を下回った後も、インフレ率が目標値
へ回帰するまで低金利政策を「相当期間」継続すると発表し、フォワードガイダンスを強化した。さら
に、今後発表されるデータが FOMC の期待に沿うものであれば、今後の会合において、慎重なが
らも資産買い入れペースを落とす可能性があると表明した。
„タイ首相、議会を解散、総選挙を表明
国内で政治的緊張が続く中、タイ首相はバンコク市内での街頭デモ沈静化のため、議会を解散し、
総選挙を実施する意向を明らかにした。しかしながら、反政府グループの勢いは収まらず、選挙手
続きの妨害を表明するなど、緊迫した状況が続いている。同様に、主要野党も選挙のボイコットを決
定した。このような政情不安を背景にタイバーツは売られ、2013 年 12 月は、対米ドルで 2%以上
下落した。
„インドネシア中央銀行は 2013 年 12 月には金利を据え置き
2013 年 11 月に予想外の利上げを行なったインドネシア中銀は、経常収支が安定化する兆しの中、
12 月は BI レート(政策金利)と FASBI レート(翌日物中銀預金金利)の両方を据え置いた。インド
ネシア中銀は声明の中で、この決定はインフレ率を 2014 年に 3.5~5.5%の目標レンジ内に抑制
し、経常赤字を健全な水準に縮小するという、現状の取り組みに沿うものである旨を表明した。また、
政府支出だけでなく、次回の総選挙によって追加的支出があることにより、消費の鈍化による悪影
響は相殺されるとインドネシア中銀では予想している。
„フィリピン中央銀行は政策金利を 3.5%に据え置き
フィリピン中銀は市場の予想通り、政策金利を維持した。また中銀は、インフレリスクは上振れ方向
であるものの、インフレ率は 3~5%の目標レンジ内にとどまると強調した。フィリピン中銀は 2013
年のインフレ見通しを 3.2~2.9%へ下方修正し、2014 年については 4.5%で維持した。また、世界
経済が困難な状況になる可能性を指摘しながらも、国内経済は堅調に推移するという見通しを示し
た。政府は 2014 年の経済成長目標を 6.5〜7.5%としている。
米国金利は徐々に
上昇する傾向にあり
デュレーションについ
ては慎重
„FRB が資産買い入れプログラムの減額を開始。デュレーションについては慎重な見方を継続
FRB が資産買い入れプログラムの規模縮小を決定したものの、2014 年の米国金利の基調は変わ
らないと考えており、米国経済が好転するのに従い金利も徐々に上昇するものと考えている。FRB
のフォワードガイダンスで再確認されているように、短期金利は当面の間、低い水準に据え置かれ、
米国のイールドカーブのスティープ化が続くと見ている。基本的なシナリオは、FRB 声明と記者会
見から導かれた、「今後、FOMC の会合の度に 100 億米ドルずつ資産買い入れ額が削減され、
QE3 は 2014 年の第 4 四半期ころに終了する」というものだ。資産買い入れプログラムの縮小に関
する懸念が過去のものとなった今、金利の変動は 2013 年に比べて穏やかなものとなるだろう。し
かし主要な経済指標の内容、特に雇用者数次第では金利変動が一時的に激しさを増すことも予想
される。これらのことから、全体的なデュレーションについては慎重な見方が妥当だと考えている。
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„短期の資産が好ましいと考えられるタイ。
タイでは政治が暗礁に乗り上げた状態が長く続いていることから、財政支出が中断され、混迷する
経済を浮上させるのに必要な公共投資も延期されると予想する。こうした事態は将来的に企業の景
況感や、海外からの観光客にも悪影響を及ぼし、経済成長率は潜在成長率を下回るようになる可
能性が高くなる。これらのことから、タイでは弱含む経済を下支えする為に金融緩和策が継続され、
金利引き下げ観測が強まるにつれ、短期債への資金流入が起こると予想する。
„アジア通貨間の格差
ファンダメンタルズが堅調なアジアの国の通貨を引き続きポジティブに考えている。韓国、中国、フィ
リピンといった対外収支が堅調な国は、インドネシアやタイといった対外収支が相対的に軟調な国
をアウトパフォームするとみている。更に、マレーシアやインドネシアといった、輸出の大半をコモデ
ィティが占めている国にとっては、コモディティ価格の低迷が重石となるだろう。また、タイのように、
政治的な行き詰まりや民衆の反政府デモが経済成長や投資家の信頼を落としているような国に関
しては、この先の政治動向を注視している。インドネシアも、今後 3~6 ヵ月の間に議会選挙と大統
領選挙を控えているため、注目している。
アジア・クレジット
高いキャリー水準が
主な要因となり、ア
ジアのハイイールド
クレジットが高格付
クレジットをアウトパ
フォームする見通
し。
„FRB による量的緩和策縮小の発表を受けてアジア高格付クレジットは低下
FRB は、2014 年 1 月から QE プログラムを 1 ヵ月当たり 850 億米ドルから 750 億米ドルに縮小す
るとの決定を発表した。米 10 年国債利回りは、1 ヵ月で 2.74%付近から 3.03%付近へ上昇した。
QE 縮小の時期は予想よりも早かったものの、その規模については予想通りであり、クレジットスプ
レッドは縮小した。12 月のアジア高格付クレジットは、リスクフリーレートの上昇幅がスプレッドの縮
小幅を上回ったため、0.44%低下した。アジア高格付クレジットのスプレッドは 0.18%縮小した。米
5 年国債がアンダーパフォームしイールドカーブのベアフラットニングが進んだため、中期ゾーンの
債券がアンダーパフォームした。アジアのハイイールドクレジット市場は、高い利回りが主に寄与し
て当月は 0.8%の上昇となり、高格付クレジットをアウトパフォームした。
„2013 年のアジア・クレジットは再び不振に陥った
2013 年のアジア・クレジット市場は何度か高いボラティリティに見舞われ、軟調な展開となった。さ
まざまな市場の懸念があったなか、QE プログラムの縮小を巡る警戒感が特に目立たった。QE 縮
小の懸念は、経常赤字を埋めるために投資資金の流入が必要とされる一部の新興国経済の構造
問題を浮き彫りにすることになった。アジアでは、インドネシアとインドが特に影響を受けた。両国で
は、それぞれの通貨が急速に下落するにしたがって、債券利回りの上昇とクレジットスプレッドの拡
大が一気に進んだ。中国国内の成長鈍化と信用状況の引き締めも関心を集めた懸念材料となった。
2013 年のアジアの高格付クレジットは、スプレッドは 2.14%から 1.96%へと 0.18%縮小したが、
米国債利回りが急上昇したため、総収益ベースでは 2.56%のマイナスとなった。アジアのハイイー
ルドクレジットは、スプレッドが 5.25%から 4.80%へと 0.45%縮小したのに加え、高い利回りによる
インカムゲインがリスクフリーレートの急上昇による打撃を一部吸収したため、4.31%のプラスとな
った。
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„リスクフリーレートのボラティリティが高まるなか新規発行は縮小
新規発行については、年末にむけ、取引が細っていくにしたがい減少した。高格付クレジットについ
ては、新たに 4 銘柄が発行され、その額は 23 億米ドルとなった。ハイイールドクレジットの新規発
行も減少し、新規発行は 1 銘柄で、発行額は 3 億 5,000 万米ドルだった。2013 年中の総発行額
の合計は約 1,150 億米ドルで、内訳は約 70%が高格付クレジット、30%がハイイールドクレジット
だった。
„依然逆風が吹くなかデュレーションと信用リスクの両面で慎重な姿勢を維持
アジア各国のマクロ経済の見通しがまちまちであることを踏まえると、2014 年も国やセクターによっ
てリターンに格差が生じる状況が続くことは必至であろう。FRB による QE プログラムの縮小を受け
て流動性が低下する状況においては、双子の赤字(経常赤字と財政赤字)を抱える国は今後も警
戒が必要だとみている。2014 年はインドとインドネシアで選挙が予定されており、アジアでは政治
的な不透明感が高まっている。更には、タイの政治的混乱も未だ収束していない。中国における経
済改革の取り組みも、多くの問題を伴なう可能性が高いと考えられる。信用拡大が抑制される結果、
金融情勢の逼迫、経済成長、企業の健全性に関する懸念が同時に高まってくると考えられる。
2014 年にはデュレーションおよび信用リスクについて、より一層慎重な見方を維持していく。
„金利上昇の可能性は高いとみられ、リターンを圧縮する公算が大きい
2014 年のアジア・クレジットは、高格付クレジットのリターンがプラスに転じる可能性が高いものの、
引き続き上昇幅はわずかにとどまると予想される。高格付クレジットのリターンは一桁台前半、ハイ
イールド社債のリターンは一桁台半ばになると予想される。2014 年のリターンに関してやや悲観的
な見方をしている背景には、リスクフリーレートの上昇と、低いスプレッド水準で新年を迎えたため
2014 年のスプレッド縮小幅は一段と限られるといった要因がある。量的緩和政策の縮小ペースは
労働市場およびインフレに関する FRB の見通し次第であるものの、FRB が異例の政策を解除する
方向に舵を切ったことを踏まえると、リスクフリーレートの上昇は続く可能性が高い。
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