開発事例

特集−金型関連企業が挑む !
次世代産業に向けた精密加工技術
開発事例 2
高性能フレネルレンズ用金型
および金型材料の開発
㈱野村鍍金 田口
純志*、嶋田プレシジョン㈱ 二俣
表題にあるフレネルレンズは、集光型太陽電池シス
圭吾**
欧米では CPV 開発プロジェクトの比重が増している。
テム(CPV ; Concentrator Photovoltaic)用集光レン
本稿では、CPV の重要部品の一つであるフレネル
ズのことで、平行光である太陽光を変換効率の高い太
レンズの高性能化と低価格化を目的に、経済産業省中
陽電池セルに効率よく光を集めるレンズのことである。 小企業庁の平成 24 年度戦略的基盤技術高度化支援事
想定しているフレネルレンズの有効サイズは 150×
業として採択された「高性能フレネルレンズ用金型お
150 mm、太陽電池セルサイズは 5×5 mm である。
よび金型材料の開発」プロジェクト(PJ)の成果を
CPV に使われる太陽電池セルは、多接合化合物太
報告する。本 PJ では、樹脂製フレネルレンズの射出
陽電池のように、可視光から赤外線までの幅広い波長
成形用金型の切削加工による製作・樹脂射出成形・フ
から高効率変換できる太陽電池セルで、例えば、シャ
レネルレンズ評価を嶋田プレシジョンと神戸大学大学
ープは 2013 年 6 月に集光型化合物 3 接合太陽電池セ
院工学研究科が担当し、また、金型用めっき材料の開
ルで世界最高の変換効率 44.
4%1)を達成している。
発を野村鍍金と大阪府立産業技術総合研究所が担当、
CPV は、有効日照時間が長いほど有利で、北米、
南欧、砂漠地帯では、結晶 Si 太陽電池システムの 2
倍以上の発電効率をもつと言われ、GTM Research
集光効率の高いフレネルレンズの開発を進めている。
射出成形によるフレネルレンズの作製
社の報告2)によると、CPV が有利な北米では、2012
金型用材料の開発から金型設計・製造、射出成形技
年頃から、CPV の発電コストが天然ガス火力のコス
術の開発、レンズ加工を行い、図 1 に示すフレネル
トを下回ると予測している。また、資源エネルギー庁
レンズを試作した。透明樹脂には、三菱レイヨン製の
の「太陽光発電システム等の普及動向に関する調査」
PMMA 材料 VH5−001(MFR=5)を使用した。射
(平成 25 年 2 月)
では、EIA
(US Energy Information
出成形時の製品の金型からの離型性を考慮し、レンズ
Administration)の資料を引用し、2011 年北米での
の垂直面側に若干の抜き勾配をつけている。今回 PJ
CPV の単位発電量当たりの製品価格が結晶 Si を 100
で試作したフレネルレンズの集光効率を測定したとこ
%とした場合に対して、セル価格が 36%、モジュー
ろ、88.
5% という値が得られた。集光効率の測定は、
ル価格が 80% とそれぞれ CPV が優位にあると報告
He−Ne レーザーとフォトセンサからなる評価装置を
している。コスト競争が厳しい Si 系太陽電池に対し
自作し測定した。自作評価装置の信頼性が心配された
て、競争力ある技術開発に注力すべきとの観点から、
ことから、集光効率の標準測定試料として、熱プレス
*
成形法による市販のフレネルレンズと比較評価したが、
Junji Taguchi:本社技術部 主任
〒555−0033 大阪市西淀川区姫島 5−12−20
TEL(06)
6473−1357
**Keigo Futamata:技術グループ ゼネラルマネージャー
〒612−8291 京都市伏見区横大路天王後 50
TEL(075)611−6405
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本 PJ で試作した射出成形品がより優れた集光効率を
示した。さらに、より正確な集光効率の測定のため、
信頼性の高いソーラーシミュレータ3)での計測を検討
している。