2014/3/5 連絡先 千葉工業大学惑星探査研究センター 大野宗祐 TEL/FAX:047-478-4732 / 047-478-0372 E-Mail: [email protected] 論文情報 • 掲載論文:Production of sulphate-rich vapour during the Chicxulub impact and implications for ocean acidification • 著 者:Sohsuke Ohno, Toshihiko Kadono, Kosuke Kurosawa, Taiga Hamura, Tatsuhiro Sakaiya, Keisuke Shigemori, Yoichiro Hironaka, Takayoshi Sano, Takeshi Watari, Kazuto Otani, Takafumi Matsui and Seiji Sugita • 投 稿 誌:Nature Geoscience (日本時間 2014年 3月10日午前3:00 オンライン版掲載) 1 2014/3/5 K/Pg生物大量絶滅 今から6550万年前の生物大量絶滅 恐竜だけでなく、全生物種の半分以上が絶滅=「K/Pg事件」 最新の大量絶滅: 現存する生態系の起源 「K/Pg境界層」という地層 ・この層の上下で見つかる生物 の種類が全く違う ・全世界的に見つかっている →中生代(白亜紀)と 新生代(第三紀)の境界 (=6550万年前の地層) グルジアの K/Pg境界層 [smit 1999] 衝突説 ・アルバレスによる提唱 (1980年) K/Pg境界層中の イリジウムの濃集を発見 ※イリジウムは地球の岩石には ほとんど含まれていない ※隕石中には豊富に含まれる → 地球外の物質の混入=衝突? 初めは賛否両論あった 2 2014/3/5 チチュルブクレーターの発見 チチュルブクレーター Chicxulub crater チチュルブクレーターの発見 重力データ 3 2014/3/5 衝突説で決着 ・チチュルブクレーターとK/Pg境界層の年代が一致 ・クレーターの近くではK/Pg境界層の厚さが厚い = クレーターからの放出物らしい ・放出物(らしきもの)とチチュルブクレーター内部の 岩石が似た組成のものである → チチュルブの衝突によりK/Pg境界層ができた K/Pg境界層の堆積時間が非常に短い=火山ではない 天体衝突でしか形成されない物質(衝撃変成石英など)の発見 K/Pg生物大量絶滅の原因は衝突で決着 [Schulte et al., 2010] 天体衝突と大量絶滅 現在コンセンサスが得られているのは ・「チチュルブ衝突によりK/Pg境界層が作られた」 ・「K/Pg境界層が堆積した時に生物が大量絶滅」 → チチュルブ衝突が大量絶滅の原因 でも本当は、チチュルブ衝突→環境変動→大量絶滅 ・チチュルブ衝突がどのような環境変動を起こしたか ・観測されている絶滅を説明できる環境変動とは? 現在の主な研究ターゲット、本研究の主題 4 2014/3/5 これまでの絶滅機構仮説の問題点 最初に提案された仮説:岩石の塵による日射遮蔽 塵により約数年間にわたり寒冷化・光合成停止 しかし、よく考えると・・・ K/Pg境界層の粒子サイズは大きい → すぐ落下する ほとんどの塵は数日、長くても数週間で落下 =短期間すぎて、大量絶滅は起こらない[Pope 2002等] 様々な仮説 山火事、温室効果、煤やエアロゾルによる衝突の冬 共通の問題:海で絶滅を起こせない 海は温度が変動しにくい(熱容量大きい) 海洋表層では非常に高い絶滅率 重要性:地域性小、データが詳細、他の大量絶滅と比べ特異 そこで、酸性雨に着目 衝突地点(メキシコ)には、硫黄を含む岩石(硫酸塩岩)が大量に 衝突時に大量に硫黄酸化物ガスが放出 → 強い酸性雨 他の説では難しい多くの絶滅パターンを説明できる?(特に海) 多くの地質記録と調和的 (地球化学的証拠、鉱物学的証拠) しかし、酸性雨説には致命的な問題点が残っていた 大量絶滅の主原因になるほど強いダメージを与えられたのか? 海洋のpHを大幅に下げるのには不十分か? [D’Hondt et al., 1994] 5 2014/3/5 硫黄酸化物の化学組成が重要 衝突で出る硫黄酸化物の種類に依り、酸性雨の降り方が異なる • SO2 (二酸化硫黄) ・大気中で少しずつ数年間かけて硫酸に変化 → 弱い酸性雨しか降らない • SO3 (三酸化硫黄) ・大気へ放出後直ちに硫酸になる → 短期間に集中して強い酸性雨 成層圏における硫黄酸化物の化学反応 SO2 → SO3 → H2SO4(硫酸) この反応に時間がかかる そこで本研究では、 衝突で生成する硫黄酸化物の化学組成の推定 室内実験(衝突蒸発・ガス分析実験) → 白亜紀末の巨大衝突 酸性雨が引き起こす環境変動の理論計算 ・酸性雨が降る期間の長さは? ・海洋がどのくらい酸性化したのか? 12 6 2014/3/5 衝突蒸発・ガス分析実験 大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高出 力レーザー(激光XII号)を用い、飛翔体を加速 四重極質量分析計を用いたガス直接測定 標的試料は衝突地点と同じ硫酸塩岩 衝突蒸気雲から放出される硫黄酸化物(二酸化硫黄、 三酸化硫黄)の組成を観測 宇宙速度での衝突蒸発・ガス分析実験に成功(世界初) 13 レーザー銃による飛翔体加速 SUS支柱 タンタル 飛翔体30μm CH燃料 50μm Anhydrite 金スペーサー200μm 7 2014/3/5 レーザー銃による飛翔体加速 タンタル 飛翔体30μm CH燃料 50μm Anhydrite 金スペーサー200μm レーザー銃による飛翔体加速 タンタル 飛翔体30μm CH燃料 50μm Anhydrite 金スペーサー200μm 8 2014/3/5 実験装置概要 SUS pole Spacer Flyer Aluminum Hollow sphere Laser beam Window Target Inhalation tube Valve Vacuum pump Vacuum Chamber Anhydrite Plastic ablator QMS TMP 実験装置内部の写真 18 9 2014/3/5 実験結果2:QMSマススペクトル S1_100215_shot2ts01e3_185.99-192.30sec ピーク30秒間積分値 a) 48-49-50 b) 64-65-66 c) 80-81-82 16 32 34 48 49 50 60 64 65 66 76 80 81 82 似たパターン ≒硫黄同位体比 10-6 SO+ a) SO2+ SO3+ b) c) 10-7 10-8 →48、64,80は 硫黄酸化物由来 10-9 16 32 34 48 49 50 60 64 65 66 76 80 81 82 19 最重要実験結果:SO3/SO2比 SO3/SO2 v-E-SO ピーク30秒間積分値 SO3/SO2比~100 = SO3が支配的 大気に放出された 硫黄酸化物は、 すぐに硫酸になる 10000 SO3-dominated 1000 100 10 1 0.1 0 500 1000 1500 Shock pressure (GPa) 2000 20 10 2014/3/5 大気中で硫酸はどうなる? ケイ酸塩粒子 直径~100μm 硫酸エアロゾル 直径~1μm ・硫酸は小さい液滴になる(硫酸エアロゾル) ・共存するケイ酸塩(K/Pg境界層の粒子)と一緒に落下 → 硫酸酸性雨に 理論計算結果1: 酸性雨の降る期間の長さ ケイ酸塩との付着 =数時間以内 地表に落下する量 ・一日後 ~50% ・二日後 ~70% 数日程度のごく短い 期間、非常に強い酸 性雨が集中的に降った 大気上端から入ってきた硫酸の総量 地上に降下した硫酸量 硫酸のみで 構成された 粒子 大気中の硫酸量 22 11 2014/3/5 理論計算 結果2: 海洋酸性化の深刻度(CO32- 濃度) 60m ex-max_60m aragonite c2ts06j 18:55:48 calcite =海洋酸性化は深刻。 →海洋の絶滅を説明す ることが可能 2- (炭酸イオン)濃度 海水中CO CO332- concentration 10-2 本研究の結果 炭酸塩は不飽和に ・期間:一年以上 ・飽和レベルの約一割 10-3 10-4 2006/02/27 60m in depth 酸性雨がゆっくり降った場合 アラゴナイト飽和 カルサイト 飽和 炭酸塩に不飽和な状態 本研究の結果 1 10 100 time [day] 1000 23 白亜紀末大量絶滅における意味 1 地質記録に残る、海洋の絶滅のパターン: 海洋表層に棲む炭酸塩の殻を持った浮遊性プランクトン 他のプランクトンと比べ圧倒的に高い絶滅率を示す 本研究の結果: 酸性雨による深刻な海洋酸性化が一年以上継続 → これまで、どの仮説でも全く説明できなかった、 海洋プランクトンの絶滅を非常に良く説明できる ※海洋プランクトンは広範囲に分布し食物連鎖の基底をなしてい るため、生物大量絶滅の指標として最も有効 酸性雨・海洋酸性化で海洋での絶滅を説明できる! 24 12 2014/3/5 白亜紀末大量絶滅における意味 2 白亜紀末の巨大隕石衝突・大量絶滅の地質記録 絶滅率は陸上・海洋表層で高く、淡水・海洋深層で低い 絶滅直後、酸に強いシダ植物が繁茂 ストロンチウムの同位体変動 酸と反応した微粒子の存在 これらすべて、酸性雨・海洋酸性化で説明できる 海洋をはじめ陸上や淡水中を含めた白亜紀末の生物大 量絶滅を、初めて包括的に説明することに成功 25 白亜紀末大量絶滅における意味 3 ・酸性雨・海洋酸性化の原因は、衝突地点の硫酸塩岩 ・硫酸塩岩は地球上の限られた場所にしかない →衝突地点が偶々ユカタン半島だったので絶滅がおこったが、もし 違う場所であれば同じ規模の衝突でも絶滅は起こらなかった可能 性が高い ※ チチュルブクレーターは地球上で見つかっているクレーターのうちで最大級だ が、他より圧倒的に大きいわけではない ・恐竜絶滅と酸性雨との関係性は不明であるが、おそらく酸性雨の 直接的な影響より生態系崩壊の影響が大きかったのではないか 26 13 2014/3/5 まとめ 白亜紀末の巨大隕石衝突では、硫黄酸化物が放出された 阪大レーザー研の激光XII号を用い、宇宙速度での衝突蒸発・ガ ス分析実験に成功 (世界初) その結果、放出されたのは三酸化硫黄であることが判明 衝突後数日以内に、非常に強い酸性雨が全地球的に降った その酸性雨により、深刻な海洋酸性化が起こった これまで説明不能であった海洋での絶滅をはじめ、白亜紀末の生 物大量絶滅を初めて包括的に説明することが出来た 27 どうもありがとうございました 14
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