ふっ素の簡易分析について 株式会社 イーエス総合研究所 ○佐藤 研、常松 哲 1.緒言 ふっ素は天然状態では主に地殻中で蛍石(CaF2)、氷晶石[Na3(AlF6)]、ふっ素りん酸灰石 [Ca5F(PO4)3]の形態で存在しており、地殻中のふっ素存在量は 0.02%∼0.08%と報告されてい る。天然水中では、海水中に 1.2∼1.4mg/L、淡水中に 0.1∼0.2mg/L 存在するといわれ、こ れら自然界のふっ素は無機化合物の形態で存在している。適量のふっ素は虫歯予防の効果 があると言われているが、過量では骨の発育阻害や斑状歯などを生じ有害性がある。この ため、 「水質汚濁防止法」 、 「水質汚濁に係る環境基準について」 、 「土壌汚染対策法」 、 「土壌 の汚染に係る環境基準について」 、 「下水道法」等で法的規制を受けており、ふっ素の分析 方法は、工場排水試験方法(JIS K 0102)や環境庁告示第 59 号付表 6 に掲げる方法が公定法 として採用されている。一方、現場での品質管理等では、公定法以外の簡易分析も利用さ れている。ふっ素の簡易分析法の一つであるパックテストは、公定法でも採用されている ランタン-アリザリンコンプレキソン法(以下 LAC 法)を原理としている。但し、LAC 法では Fe、Al、Ni 等の他の金属イオンが共存する場合、妨害を受ける為正確な分析が行えない。 LAC 法における妨害物質の挙動と簡易な共存物質の除去方法について、一つの知見を得たの でここに報告する。 2.実験方法および結果 ふっ素濃度が基準 値を超過(1.0mg/L)、 1.1 または基準値に適合 ふっ素初期値 1.0mg/L (Al,Cd) 1 標準溶液(和光純薬工 業製 NaF)に対して、 妨害となる金属イオ ン(Al、Cd、Fe、Ni、 Pb)を 0.05mg/L∼ ふっ素濃度 (mg/L) する濃度(0.6mg/L)の 0.9 0.8 0.7 0.6 20mg/L 含む試験溶液 0.5 を調整し、LAC 法で吸 0.4 光度 620nm の波長を 測定した。共存物質の 含有量に対するふっ 素濃度の変化を図 1 に示す。 Al Fe Pb 0.01 0.1 1 10 ふっ素初期値 0.6mg/L (Fe,Ni,Pb) Cd Ni 100 共存物質含有濃度(mg/L) 図 1 共存物質含有量とふっ素濃度の変化 Al、Cd を共存物質として含む試験溶液では、共存物質の含有量と共にふっ素の濃度は減少 した。Fe、Ni、Pb を含む試験溶液の場合は、Al、Cd とは逆に共存物質の含有量と共にふっ 素濃度が増大した。共存物質の影響は、Al では 2mg/L 程度の含有量で基準値超過の試料が 基準値以下と判定された。また、Fe、Ni では同じく 2mg/L 程度の含有量で基準値以下の試 料が基準値超過と判定された。 測定に正の影響を与えた Fe,Ni,Pb の吸収スペクトルを確認した結果、620nm 以外に極大 を持つピークが確認され、このピークの影響により 620nm 付近の吸光度が増加している事 が確認された。 そこで、これらの陽イオンの除去にイオン交換樹脂が適用可能か検討を行った。対象は 基準値以下の試料が基準値超過と判定された Fe,Ni とし、イオン交換樹脂は強酸性イオン 交換樹脂(東ソー製 TOYOPAK IC-SP)を用いた。 ふっ素 0.6mg/L に対して Fe、 Ni を 1.0、 2.0mg/L 含む試験溶液を調整し強酸性イオン交換を充填したカートリッジでイオン交換前後のふっ 素濃度を測定し効果を確認した。結果を表 1 に示す。 表 1 ふっ素 0.6mg/L に対して共存物質(Fe、Ni)を含む試料をイオン交換した結果 妨害物質 添加濃度 Fe Ni 1.0 2.0 1.0 2.0 イオン交換前 イオン交換後 ふっ素濃度 ふっ素濃度 0.6 0.7 0.6 0.9 0.6 0.8 0.6 0.9 単位はmg/L 強酸性イオン交換樹脂を含むカートリッジに試料を通す事で、Fe、Ni 等のイオンを除去 し、正しいふっ素濃度を測定する事が出来た。 3.まとめ ALC 法でのふっ素の測定で、共存する金属イオンの種類によって、正の影響を与えるイオ ン(Fe、Ni、Pb 等)、負の影響を与えるイオン(Al、Cd 等)がある事が確認された。正の影響 を与える Fe、Ni、Pb 等のイオンは 620nm 以外にピークを有する錯体を LAC と形成している と推察された。このピークの影響によってふっ素の測定波長である 620nm の吸光度が増加 し、正の影響を与えていたと考えられる。これらの金属イオンは強酸性イオン交換樹脂を 通す事で除去が可能であり、強酸性イオン交換樹脂を通した後の試料は正常な発色を示し た。パックテストにおいても同様に共存する金属イオンの影響を排除出来る事が確認され た。 本検討の結果、パックテストを用いたふっ素の簡易試験で、妨害物質が存在し正しい測 定が出来ない場合、強酸性イオン交換樹脂を通す事で一部の金属イオンは簡単に除去でき る事が分かった。
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