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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
カルセインを指示薬とするキレート滴定によるカルシウム定量法の
検討―I : 飲料水・海水を試料とする定量法
Author(s)
石原, 忠; 保田, 正人
Citation
長崎大学水産学部研究報告, v.17, pp.110-116; 1964
Issue Date
1964-09
URL
http://hdl.handle.net/10069/31593
Right
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カル セ イ ンを指 示 薬 とす るキ レ ー ト滴 定 に よ る
カル シ ウ ム定量 法 の検 討―I.
飲 料 水
石
・海 水 を 試 料 と
す
原 Determination
忠
of Calcium
Tadashi
田
of Calcium
Using
Determination
・ 保
Calcein
by
正
人
Chelatemetry
— I.
in Drinking
ISHIHARA and
る 定 量 法
Water
Masato
and Sea Water
YASUDA
The method of determining
calcium in drinking water by chelatometry
(Calcein as an indicator)
could not obtained
reliable
results
under the hitherto
employed condition,
pH at the titration
or the
concentration
of indicator
etc., because of the improvement
of reagent-purity.
It is necessary to adjust the pH of sample to more than 12.5 and
to dilute the concentration
of indicator as far as ten to fifty times
of it. For the adjustment
of pH in the sample, a solution of potassium
hydroxide was more suitable than sodium hydroxide solution used.
近 年 カル シ ウムの 定 量 に キ レー ト滴 定 法 が 数 多 く利 用 され,指 示 薬 と し て もDOTITE
-BT
,-PC,-TPC,-MX,-NN,-Calcein,-Calcon等
多種 類 の も の が 逐 次 研 究市
販 され て い る.こ れ らの 指 示 薬 に は それ ぞ れ一 長 一 短 が あ り,既 に歴 史 的存 在 と して 利 用
価 値 の 低 い もの も少 な くな い.著 者 等 は 飲 料水,海 水 等 の カル シ ウム含 量 を 多 数 の 検 体 に
つ い て 調 査 を 行 な う必 要 上,簡 便 な定 量 法 と してキ レー ト滴 定 を 採用,数 種 の指 示 薬 を 比
較 した結 果,種
々 の 点 で カル セ イ ンに利 点 を認 め た の で これ を利 用 して い る.し か し カル
セ イ ンを 使用 す る場 合,既 往丈 献 の方 法 で は 予 期 した 結 果 が得 られ な か った の で,定 量 条
件 の 検討 を行 な い,試 料 の種 類,試 薬 濃 度,pH等
多 くの 点 で従 来 の 方 法 が そ の ま ま定 量
に 使用 出 来 な い こ とを確 認 した.す なわ ち試 料 の 色調,含
試 薬 純 度 の 向上 に よる最 適 濃 度 と反 応pHの
有 金 属 イオ ンに よる妨 害 作 用,
移 動 等 を 認 め た.
本 報 に お い て は と りあ え ず 飲 料水 お よび海 水 の よ うな透 明 溶液 を対 象 とす る最 適 定 量 条
件 に つ い て報 告 す る.
石原・保田:カルセインを指示薬とするキレート滴定によるカルシウム定量法
111
をもって希釈しマクロ分析では1.Omg/ml,ミクロ分析では0.1mg/m1とした.
(2)滴定液:DOTITE硬度滴定液B(0.01M 2Na・EDTA同仁薬化学研究所製)
を希釈し,マクロ分析では0.01M,ミクロ分析では0.0025M溶液とした.
(3)指示薬:製造年月日の異なるカルセイン3,3’Bis〔N,N’一di(Carboxymethyl)一
aminornethyl〕一fluorescein)二種の一定量を1N KOH 25mlに溶解し,蒸溜水で100
mlに希釈し,液体指示薬として使用した.
指示薬A(新製品)は1963年1,月10日製造,指示薬B(旧製品)は1957年7月19目製造
のもので,入手時期はほとんど同時期であり,溶液の色調にはかなりの相違が認らめれ
た。また指示薬Bは,明らかに純度不良のため滴定終点の螢光完全消失は見られず.
Calceinの指示薬としての特徴が認められなかった.
2.定 量 方 法
カルシウム標準液1mlを50ml容ビーカーにとり,1N KOHにて所定のpHに調
製した液19mlを加え, Calcein指示薬0.1mlを滴下,2Na・EDTAで滴定定量を行
なった.滴定終点の判定は,指示薬Aでは黄緑螢光の消失により,指示薬Bでは黄緑色か
ら赤褐色の変色で行なった.
実 験 成 績
1.指示薬濃度の検討
カルセイン指示薬の調製法は,固体粉末状および液状に分けられ,種々の方法がある■)
2).液状指示薬としては,DIEHL2), YALMAN3)らは,2%CalceinのNaOH溶液を,
BELCHER4)らは1%溶液として使用している.著者らは当初この濃度範囲で実験を行な
ったところ,ミクロ分析では定量値の分散および理論値よりの偏差が著しく大となり,使
用に耐えないことを知ったので,マクロおよび,ミクロ分析において指示薬濃度を変えて
滴定値の分散および定:量:精度について検:討した.
(1)ミクロ分析法
上述の:方法で定量すると滴定理論量は1.Omlとなる.指示薬濃度は1,0.2,0.1,
0.02%の4種とし,滴定時の被野馬pHは12.8とした.
滴定終点の判定は,指示薬Aについてに,螢光が完全に消失する時と,被験液の背面に
白色板を置いた場合の螢光消失時とし,この場合白色板をのぞくと僅かに螢光が認められ
る.指示薬Bでは螢光を無視し,液色が黄緑色から赤色に変化する点で行なった.いずれ
の場合にも,直射光および螢光燈下での測定は判定が困難となる欠点がある.
上記の方法による各指示薬の濃度別の測定滴定量の分布を求めるとFig.1のようにな
った.
(2)マクロ分析法
上述の方法で定量を行うと滴定理論量は2,5mlとなる。指示薬濃度および滴定時被験
液のpHはミクロ分析の場合と同様にして行なった.結果をFig.2に示す.以上の結
果から,高純度の指示薬Aでは従来使用されている1%濃度では,ミクロ,マクロ両法共
に誤差が大きく,前者では滴定終点の方法をどのように変えても,理論量より遙かに低い
不定値となり,とうてい使用に耐えず,後者でも螢光の完全消失を判定すると常に理論値
112
長崎大学水産学部研究報告 第17号(1964)
●●● ● ●
り,同時に理論量に近ずき,
0.1,0.02%濃度では0.5%以
色板を背面に置いた状態で
は,0.1濃度ではなお2%以
では白色板の有無に全く影響
されずに終点を見ることが出
来た.一方マクロ法では0.2,
o
一2
一4
一6
O.920
.
s
一8
s;
一26 81
e,740
.
v
O,700
一 se細
.
0。1%濃度では理論値に対し
O.960
§蟹鬼
内の建値となったが,0.02%e
曹g︶<臼∩︻国.邸乞N!薯めαOO.O
(一
内の誤差で良く一致した,白
+2
一
コ
︸
測定値の分散の巾もせばま
+4
8ひ
1.000
@蟄
@璽
るにしたがってミクロ法では
@﹂
W⋮
@ @ @ @ った.指示薬濃度を低下させ
一
ロ
[
一
コ
@ @ @ @ り,測定値の分散も大きくな
一
880 乳﹃x菱×x
1,040
一
〇◎OOO 一
一
より2.5∼5%低い値とな
土0.8%程度の誤差に止まっ
O.660
一34
X●
た.
低純度の指示薬Bのミクロ
一 3B
O.620
の測定値の分散は1%以内の’
高値となり分散も少ないのに
対し,濃度を低くするにした
がって理論値との偏差がやや
高値に向い,かつ分散が大と
なる傾向を認めた.またマク
ロ法でも同様の傾向が見られ
た.このような結果を総括す
X●
法では指示薬濃度1%で,そ
一 42
O.580
1 O,5
O.2 O.1 O.05 O.02 O.Ol
指示薬濃度(%)
Fig.1. ミクロ分析における指示薬濃度の影響
●:指示薬Aを使用し螢光が完全に消失す
る時の滴定量
× 指示薬Aを使用し被験液の背面に白色
板を置いた場合の螢光消失時の滴定量
O:指示i薬Bを使用した時の滴定量
ると,指示薬純度が低い当時
に発売されたものでは,従来用いられている濃度は適当なものであったが,近年合成法の
改良によって著しく純度の向上がみられ,Calcein本来の螢光消失判定法を適用するため
には,遙かに低濃度のものを使用する必要があることを知った.これはpH 12以上では遊
離のカルセインは赤褐色,Ca・ヵルセインキレ・一トが黄緑色螢光を呈する2・5)とされてい
ることから,高純度のものでは低純度と同一量の添加によって,遊離のカルセインが多く
なり,特にミクロ法ではCa一カルセイン結合に比較して遊離のカルセインが多いため赤褐
色が強く現われ,滴定終点を理論滴定量よりも低い点で認める結果になったものと考えら
れる.
2.滴定時のpHの検討
従来のカルセインを使用する場合,滴定時のpHは12.0以上を必要とするとされてい
るが2・5)この条件では必ずしも満足する結果が常時得られなかったので,最適pHにつ
いて検討を行なった.
l13
石原・保田:カルセイソを指示薬とするキレート滴定によるカルシウム定量法
:被:験液Ca含量:0.1mg,
イ・2
O
鋭敏な終末点が得られず,定
2.30
量操作が未熟な場合には,図
i O.5 O.2 O.1 O,05
︵襖︶網離
では,螢光の消失が不完全で
o
2 ﹄ 略
すなわちpH 12.0∼12,3
A●●
はFig.3に示す.
o
霧
40
.“Zq∴≧.[O.O
の判定は前記1に示す二つの
方法と同様である.その結果
一◎一一,一一一一一●o・一ゆ“●一.一一一脚輯一剛一一隔一
● ● ●●●
て測定を行なった.滴定終点
(理論値)
怩藷
&
50
<臼Q㊤
用い,被:早臥のpHを変え
oo
.
2.
︵君︶
滴定液濃度0.0025Mの条件
下で指示薬Aの0.1%溶液を
O,02 O.Ol
指示薬濃度(%)
示の測定量より更に多量に
Fig.2.マクロ分析における指示薬濃度の影響
(符:号はFig.1に同じ)
滴定する可能性が強い.pH
12.4では平均値としては理論
量に近ずくが,なお分散の巾
1.060
がやや広く,更:にpHを12.6
以上に上げると±0.5%以内
一5
の精度で良く理論値と一致す
1.040
+4
るこ.とを知った.一方白色板
を使用した場合,測定値の分
D↓.
E.
@ @一
一
.﹂..
一
@聯
而旛
虹
∼一
...嘘
・+1
R
O v
嚢XX
x藁剛
XX XX罵
−1瓢
一2
×X
XX×
よっては共存する金属イオン
XX
O.980
﹂
● X●
X
X
● 9BO
● ● 一
曜
一
. ﹂.
ウム定量では指示薬の種類に
1.000
一
キレ・一ト滴定によるカルシ
●
影響
+2
●
一
3.共存Na, Kイオンの
X
囎
x
x
x一x
値が得られた.
1.e20
.一
よらず常に1∼2%程度低い
±3
x●●
傾向を示すが,pHの如何に
e︶く臼O国邸Z禦︼≧の囚OO,O
散の巾は前者とほぼ一致した
xx粟
(一
一3
による妨害がしばしぼ生ずる
ため,各指示薬について妨害
イオンの種類が検討されてい
る.このうち滴定操作として
避け得ないものとしてカルセ
12.0
12.5
13.0
13,5
滴定時のpH
Fig.3.滴定時のpHの影響
(符号はFig.1.に同じ)
インの場合にpHを調節す
るためKOHまたはNaOHが使用されるが, DIEHL2)GREENBLATT6)やYALMANら
3)はNaOHの使用をすすめ,上野5)はKOHの使用を指示している.一方海水を試料
とする場合にはNa, K塩は必然的に含有されており,特にNa塩の量が著しく多いのでe.
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長崎大学水産学部研究報告 第17号(1964)
+2
1.020
・ 10
],lOO
●●
A
v
・8
.
●●
1,060
.
e e :
e
ζ(理論値):
1,0eo
噛
守2
o
2
一−
e,gso
12.0 12,5 13.0 13.5
●●
● ●
t4
.
1,020
,6
●●
1,040
O ● 4
1,080
・・の判定困難︷
︵一冒︶<臼。国.邸Zd⊥≧ロり創OO.O
﹁b●﹄●●
0
︵獣︶網三
月
8●ひ.
⋮
一
●8↑。
吻
●3↑●
。齪。
一
︸
●●
鱗定 ︷
聯
鰯 蜘 彌
む む 9
0
0 ロ り
.郎宏囚1︼≧め90.○
穏 −・ o・ 0. O, O,
?jくO↑国
(一
O l O、2 0.5 0.1 1
}
K+(×1G一■mol)
Fig. 4.
Na+ (×10−imol)
:Na及びKイオンの影響
これらに対する影響を見るため,再蒸溜水に一定量のカルシウムを添加し,KCIと1N
KOH,またはNaClと1N NaOHを加えて被験液中のNa, Kイオンの最終濃度を一
定としたうえでそのpHを測定すると共に,指示薬Aの0.1溶液と0.0025M滴定液を用
いて滴定を行い,Fig.4の結果を得た.この結果Kイオンの存在では理論値に土1%の
範囲で一致したが,Naイォ
(a)指示薬濃度0.1% (b)指示薬濃度0.02%
ンの存在では滴定終点におい
斗2。5
1.025
定が困難でややもすると過滴
ゆ
(理論値)
1.000
て螢光の完全消失がなく,判
o
一8薗一 ’o『騨一冒一璽一”一
定になる危険性を認めた.こ
8 0
︵戦︶欄離
一 一
蜘
鍋 5
0
の危険性を除く為には,予め
Na塩を添加したカルシウム
標準溶液について終末点の見
当をつけておく必要があり,
特に海水を試料とする場合に
一7.5
は,数10倍に蒸溜水で希釈し
O OO OQ
螂
e
OOOO O
0
08
O●00000●O
○
OQOOQ ●● ● ● ●
蜘
● ●
OQ OO●O●●
0
幡
0◎OO●Q ●●●
0.
?j<臼Q国.06ZN⊥≧のαOO.O
(一
O,675
てミクロ法による定量が好都
一10
合である.
一.
P2.5
4.共存Mgイオンの影響
共存金属のうち,最も問題
視されているものは,Mgイ
一15 .e
O.850
2.5
0.1 0.5 1 2.5 〔},1 0t5 1
Mg+(xlO噛2mo1)
Fig.5. Mgイオンの影響
●:滴定時のpH13.3
0:滴定時のpH13.6
オンでDIEHLら2)も過剰の
Mgイオンの存在は三値を与
えるとしている.また上野は
Mgイオンの影響を避けるた
めにはpH 12∼13の間での
要
カ ル シ ウム の キ レ ー ト滴 定 に お い て,指
約
示 薬 と し て カ ル セ イ ン を 使 用 す る 場 合,最
度 の 向 上 に よ り,従 来 の 定 量 条 件 は 適 用 で き な い.飲
料 水,お
近純
よ び海 水 を 試 料 と す る 場 合
に は 次 の 条 件 で 定 量 を 行 な う と 好 成 績 が 得 られ た.
1.高
∼0,02%が
2.滴
純 度 の カル セ イ ンで は 一般 の 試 水 に 対 し て マ ク ロ法 で は0.2%,ミ
適 す る.
定 時 のpHは12.5以
上 に 保 ち,そ
の 調 節 はKOHに
よ る.
ク ロ法 で は0.1
3.Na,Mg,Kイ
滴 定 時 のpH13.3∼13.6,指
オ ンを 多 量 に 含 有 す る 試 料 で は 試 料 の 大 量 希 釈 を 行 な う と共 に,
示 濃 度0,02%,滴
定 液 濃 度0,0025M程
度 の ミ ク ロ法 で 行
な う.
4.滴
定 終 点 の 判 定 に は 直 射 日光,ま
た は 螢 光 燈 下 は さ け,間
接 光 の 下 で 行 な う.