【リーディング研究会 7 月 23 日発表】 発表担当:nt Keating, G. D. (2009

【リーディング研究会
7 月 23 日発表】
発表担当:nt
Keating, G. D. (2009). Sensitivity to violations of gender agreement in native and nonnative Spanish: An
eye-movement investigation. Language Learning, 59, 503-535.
※節番号は発表者による
Structural distance が読み手のスペイン語の gender の不一致の感度に及ぼす影響について検証した研究
1.1 Grammatical gender agreement in Spanish
■英語は代名詞のみ性差があるが、スペイン語は全ての名詞について男性・女性がある。冠詞や形容詞
そのものに性はないものの、修飾する名詞の gender によって原則以下の表のように変化する。
Determiner phrase (DP) では、冠詞・形容詞・名詞の性・数が一致する。
男性
女性
名詞
-o の接尾辞 (libro = book, chico = boy)
-a の接尾辞 (casa = house, chica = girl)
形容詞
-o で終わる (pequeno = small)
-a で終わる (pequena = small)
冠詞
el / un libro pequeno (the / a small book)
la / una casa pequena (the / a small house)
■英語母語話者にとっては以下の点が問題になる。
(1) 母語からの転移がない。
(2) 無性名詞に gender を付加することは、意味に無関係であるため恣意的で、冗長である。
(3) 名詞と形容詞が必ずしも隣接しているとは限らないので、local / long-distance の可能性がある。
(1a) Una casa pequena / cuesta mucho en San Francisco. Local 条件(名詞と形容詞が同一の DP 内)
A small house costs a lot in San Francisco.
(1b) La casa es bastante pequena y necesita muchas reparaciones. VP 条件(形容詞が主節の VP 内)
The house is quite small and needs a lot of repairs.
(1c) Una casa cuesta menos si prequena y necesita reparaciones. Sub-ordinate 条件 (形容詞が従属節内)
A house costs less if it is small and needs repairs.
■以上の例文において、a  c にかけて、徐々に必要とされる負荷が重くなっている。
・(1a) は、gender を名詞から形容詞までの、ほんの数百 ms の間、ワーキングメモリに保持すれば良い。
・(1b, 1c) は、名詞の gender を保持したまま、他の処理 (theta role, case assignment) をする必要がある。
→スペイン語を学習する英語母語話者は(1a)の不一致には気付きやすいが、(1b, c) は気付かないというこ
とが考えられる。
1.2 Native and nonnative processing
■The Shallow Structure Hypothesis (SSH: Clahsen & Felser, 2006)
・L2 処理は L1 の場合と根本的に異なっていて、成人の L2 学習者でも文理解において完全な統語理解を
することができない。代わりに、L2 学習者は語彙的・意味的・語用論的な情報に頼って処理する。
・SSH は全般的に、
「L2 学習者は Local な領域においては、母語話者と同様に、不一致を認識することが
できる」と予想している。ここでの Local な領域というのは、“between closely adjacent constituents”と大
きく定義されている。
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→本研究で、“closely adjacent”が節内だとすれば、熟達度の高い学習者は(1a)の条件で、不一致を母語話
者と同様に認識することができる。一方で、nonlocal が節外であるとすれば、(1b, c) の条件では L2 学
習者は母語話者と同程度のレベルには達しないと予想される。
■Sources of nonnative processing
・スペイン語の L2 学習者が (1a) のような gender の不一致には気づくものの、(1b), (1c) には気づかない
ことは、Clahsen & Felser (2006a ※SSH の後の論文) の文法の shallow processing に関する主張とも一致
している。L2 で shallow processing が起こる原因として 2 通り考えられている。
(1) parser を提供するはずの grammar が母語と異なることで、full parsing が失敗する。
→Failed functional features hypothesis と一致。
(2) L2 処理の際に適切な parsing を特定できないことで、full parsing が失敗する。
→VanPatten, Pienemann, 生成文法の研究者の一部と一致。
■本研究の予想
・L2 学習者が (1a) に成功していれば、(a) スペイン語の形容詞は gender を持っていて確認が必要である
こと、(b) その体系的な知識を使うことができるために、gender の抽象的な概念は把握できると考える。
・L2 学習者が (1a) に成功しても、(1b, c) は難しいと考えられる理由として、学習者の処理容量と、対
応する情報の距離が挙げられる。
→(1a) はすぐ隣なので、容易に gender 情報を保持できるが、(1b) では 1 つの VP によって遮られ、(1c) で
は 2 つ以上の VP などに遮られていることで、再度名詞の gender を確認する必要が生じる。
■Evidence for Shallow structures in gender agreement processing
・gender の一致の処理における距離の役割を検証した研究は少ない。
・Myles (1995) オフライン研究:フランス語を学ぶ英語母語話者を対象に、gender の不一致を直すタスク
を行った。協力者が、名詞と形容詞の距離が 4 種類の異なる条件 (NP 内、VP 内、CP 内、CP 外) で、
テキストを読んだ結果、NP 内>VP 内、VP 内>CP 内であった。
→オフラインではあるものの、学習者は名詞・形容詞の距離が近いと正確に gender 一致を特定できる。
・Sabourin (2003) オンライン研究:オランダ語を学ぶドイツ語・英語母語話者を対象に、gender の一致
が定冠詞と隣接した名詞、不定冠詞と隣接した名詞、名詞と DP 外の関係代名詞に含まれる文法性判断
課題を行い、ERP を測定した。
→英語母語話者 (L2 学習者) は、どの条件でも正確さ・ERP のデータ (P600) ともに、オランダ語母語
話者と同等の水準に達しなかったため、Failed functional features hypothesis を支持した。
・Tokowicz & MacWhinney (2005) オンライン研究:スペイン語を学ぶ英語母語話者を対象に、DP 内で冠
詞と名詞の gender を含む文法性判断課題を行い、タスク中の ERP を測定した。
→正答率は高くないが gender の不一致に対して P600 が現れていたため、L2 学習者でも暗示的には反
応が起こることが明らかになった。ただし、母語話者の統制群がなかった。
⇒距離が gender の一致にどのように影響するかという表面的な事象を研究しているにすぎず、体系的に
オンライン処理で、距離が gender の不一致に対する感度に与える影響について研究されていない。
2
2. The present study
■本研究はスペイン語の名詞と後置修飾する形容詞間の gender に対する感度について、スペイン母語話
者と L2 学習者を対象に検証する。
■L2 学習者は gender の一致に関しても Shallow processing を行う (= local domain でしか gender の不一致
に気づかない) かどうかを検証するために、視線計測を行った。RQ は以下の通り。
RQ1: DP 内にある名詞と形容詞の gender の不一致について、L2 学習者が母語話者と同様に気づくか。
RQ2: L2 学習者が性の一致について習得していた場合、名詞と形容詞が (a) 主節の VP にあるとき, (b) 従
属節にあるとき、gender の不一致について L2 学習者が母語話者と同様のパターンを示すか。
Method
■Participants:
・18 名のスペイン母語話者の大学生 (スペイン語圏の国でスペイン語を習得)
・44 名の L2 スペイン語学習者 (英語母語話者) を Advanced 群 (12 名), Intermediate 群 (14 名), Beginner
群 (18 名) に分割した。Advanced 群は大学院生 (成人後に習得)、Intermediate 群 (成人後に習得) と
Beginner 群は大学生。
■Materials:
・36 文で、名詞は最初の DP に現れ、形容詞が(1a) ~ (1c) のいずれかの条件に現れるもの。
(1a) DP 内で名詞と形容詞が隣接している、(1b) VP 内に形容詞が現れる、(1c) si = if か cuando = when
で導かれる従属節内に形容詞が現れる。
・3 条件にそれぞれ 12 文ずつ用意され、その内半数は文法的でないもの (gender が一致していない) で
Filler 文が 48 文混ぜられた。
・マテリアルの統制は以下の手順を踏んで作成した。
①バイアスを最大限にするために、全て、gender を表す接尾辞で終わる名詞・形容詞を用いた。
②gender を含んだ名詞のみを用いた。③母語に眼球運動が影響されないように、target の名詞と形容詞
は、英語と語源を共有している語以外を用いた。④事前にスペイン語の未知語の確認を行った。
・ターゲット文と Filler 文のあとに英語で理解質問を行う。半数は正答でもう半数は誤答。
→協力者は文法項目について明示的には習得しているので、文法性判断課題ではなく理解質問とした。
■Apparatus and procedure
・SR Research による Eyelink II を用いて個別実施で眼球運動を測定した。右目のデータのみ使用した。
・読解前に、文が提示される場所に fixation target が提示される。
・文は PC 上で 1 文ずつ提示されて、協力者は理解のために読解するように指示される。その後、理解問
題があるので、大体同じ意味かどうかを Yes / No でキーを押して解答するように指示される。協力者
から 15 秒間反応がなければ、次の画面に切り替わる。
・文の提示順序はカウンターバランスが取られている。 ・実験は全体で 45 分であった。
■Methods of analysis
・本研究では、ターゲットの形容詞のデータのみを分析対象とし、以下のデータを分析した。
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・first fixation duration:形容詞を最初に注視した持続時間。通常、1 回以上注視する。
・First-pass reading time:最初に形容詞を注視してから終えてどこかに視線が移るまでに、注視した持続
時間の合計(形容詞を 1 回しか注視しなければ、first fixation duration と同様になる)。
・Total reading time:2 回目以降を含めた注視時間の合計。
・Probability of a first-pass regression:形容詞の次の領域に進まずに形容詞から前に戻る割合。
→ ①形容詞から名詞 (冠詞を含む場合もある) に戻る場合
②形容詞と名詞の間のどこかに戻る場合 (VP, SP 条件に限る)
・Probability of a delayed regression:形容詞の次の領域 (約 1~3 語先) から左側部分に読み戻る割合。
→ ①最終的に形容詞に戻る場合
②名詞 (冠詞を含む場合もある) によってから、形容詞に戻る場合
③形容詞を見ずに名詞に戻る場合
・Probability of making regression:全体的な戻り読みの割合。
3. Results
3.1 Comprehension accuracy
・理解質問への解答の平均が算出された。Y/N 以外の解答については欠損値とした (全体の 1%未満)。
・項目分析の結果、5/36 題について、50%以上の協力者が誤っていた。これらは理解問題の作成に失敗し
ていたので、削除した。それ以外の 31 項目については正答率はどの群でも 8 割以上で高かった。
3.2 Reading times and regression proportions
・グループ間でターゲット文の処理に違いがあるかどうかを検証するため、3 要因混合計画の 3 (Distance:
DP, VP, CP = within) ×2 (Grammaticality: G, UG = within) × 4 (Group: native, advanced, intermediate,
beginning = between) の ANOVA を各観測変数を従属変数にして行った。
表1
ANOVAs や t 検定の結果
従属変数
グ ル ー プ ×
Grammaticality
の交互作用
first fixation duration
p = .136
p = .074
p < .001 **
First-pass reading time
Total reading time
Probability
of
first-pass regression
a
p = .067
Probability
of
delayed regression
a
p < .001 **
DP 条件
VP 条件
CP 条件
グループ p < .001 **
文法性 p = .001 **
交互作用 p = .004 *
t 母語話者・Advanced:
非文法的 adj > 文法 adj
グループ p < .001 **
文法性 p = .011 *
交互作用 p = .058†
t 母語話者:
非文法的 adj > 文法 adj
グループ p = .003 *
文法性 p = .001 *
交互作用 p = .113
t 母語話者:
非文法的 adj > 文法 adj
グループ p = .058†
文法性 p < .001 **
交互作用 p < .004 **
グループ p = .500
文法性 p < .001 **
交互作用 p = .181
グループ p > .160
文法性 p > .160
交互作用 p > .160
4
Probability of making
regression
p < .001 **
(total
regression
proportion)
t 母語話者:
非文法的 adj > 文法 adj
グループ p = .177
文法性 p < .001 **
交互作用 p < .001 **
t 母語話者・Advanced:
非文法的 adj > 文法 adj
t 母語話者:
非文法的 adj > 文法 adj
グループ p = .006**
文法性 p < .001 **
交互作用 p = .002*
t 母語話者:
非文法的 adj > 文法 adj
t 母語話者:
非文法的 adj > 文法 adj
グループ p = .455
文法性 p = .782
交互作用 p = .001*
t 母語話者:
非文法的 adj > 文法 adj
・グループ×Grammaticality の交互作用:網掛けの 3 つは、Grammaticality の主効果も有意ではなかった。
⇒first fixation duration, first-pass reading time, first-pass regression proportion では L2 学習者は文法性の効果
が見られるほど、gender の不一致に敏感でない。
・3 要因混合計画の ANOVA の下位検定として、4 (Group) × 2 (Grammaticality)の ANOVA が各距離条件
について行われた。さらに、多重比較として、Group と Grammaticality の主効果の結果に関係なく、対
応ありの t 検定を行った。従属変数は交互作用が有意であった、Total reading time, delayed regression
proportion, total regression proportion であった。
◇Adjectives in the DP
⇒advanced 群は DP 条件の gender の不一致に敏感に反応している。これは母語話者と同様に、文法な形
容詞よりも文法的でない形容詞に時間をかけて読み、また読み戻ることができるからである。
Intermediate 群と Beginner 群はどの要因に関しても、
母語話者と同様に処理することはできなかった。
◇Adjectives in the VP
⇒subsection のデータから、gender の一致の処理においては距離が役割を果たしていることが明らかにな
った。修飾する形容詞が主節の VP 節に置かれている場合、L2 学習者の gender の不一致の感度は NS
より劣る。
◇Adjectives in the CP
⇒句の区切れをまたいだ gender の一致の処理は、節の区切れをまたいだ gender の一致の処理と同様の傾
向を示しており、母語話者が主節外にあっても敏感に認識するのに対して、L2 学習者は認識しない。
3.3 Landing sites for regressions
■本研究の焦点は、読み手の戻り読みが ungrammatical sentence の最初の名詞の再固視につながるか
■First-pass, delayed regression の結果から、名詞への戻り読みは距離が離れているから起こるだけであっ
て、性の不一致を解決するために名詞を確認するわけではないことが示されている。
・First-pass regression:DP 内で一致が起こると、読み手は形容詞から名詞に必ず読み戻る (100%)。VP, CP
条件で形容詞の gender が不一致の場合は、大半の読み手が形容詞の 2 語手前などに読み戻っており、
形容詞が文法的な場合と同様の傾向を示している。
→形容詞から始まる読み戻りは、名詞が隣接していない限り、名詞の再固視につながらない。
・delayed regression:first-pass regression と同様のパターンを示しており、VP, CP に比べて DP 条件で名詞
へ戻り読む割合が高い。DP 条件では半数の協力者が名詞まで戻り読むが、VP, CP 条件では名詞の形容
詞の間の軌跡を飛ばして、形容詞一語にジャンプしている。
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4. Discussion
■結果のまとめ
・Advanced 群は母語話者と同様に、DP 内の性の不一致に敏感に反応できる。従って、性の一致は成人学
習者でも習得が可能である。
・Beginning 群と intermediate 群は DP 内の性の不一致に敏感でなかったため、性の一致の習得順序は遅い。
・母語話者は名詞と形容詞の距離によって影響はされなかったが、Advanced 群は影響されていた。
⇒ (a) 母語話者のような文法の性に関する知識は L2 学習者でも習得可能, (b) L2 学習者は性の不一致に
対する情報を母語話者のように処理するのは難しい。
■Representation and abstract gender
・Failed functional features hypothesis (Francheschina, 2005) に反する結果となった。FFFH では、文法の性
は L1 に存在しなければ成人以降は習得できないと主張されている。本研究では、advanced 群が NS
と同様の結果を示したので、これは支持されなかった。
・Advanced 群の結果は、文法の性のある言語の学習を対象にした先行研究とは対照的である。他の先行
研究では、スピーキングの産出、オフライン・オンラインの理解課題でも、L2 学習者は母語話者より
有意に劣るとされてきた。
→その理由として、本研究の Advanced 群は他の研究の L2 学習者に比べて、input, output 量が多いことが
挙げられる。また、それほど熟達度の高くない beginning, intermediate 群が DP 内の不一致を認識して
いなかったこともこれを支持する。
■Gender agreement and shallow processing
・本研究は、文法の性の一致に距離が重要だとする Myles (1995) のオフライン研究と一致している。ま
た、SSH を支持して、L2 学習者は DP 外では性の不一致に気づくのが難しいという結果が得られた。
これは、名詞と対応する形容詞との間にある情報をワーキングメモリ内で処理しながら、文法の性の
情報を保つのが難しいからである (特に、語彙アクセス)。
・Advanced 群でも、DP 外では母語話者のような理解はできないことが明らかになったが、個別のデータ
からは、Advanced 群の内 6 名はそれに近いことが可能であることを示していた。
■Limitation and Future research
・距離の効果が、線状の現象 (名詞と形容詞の間にある単語数など) なのか構造的な現象 (名詞に関連す
る形容詞の構造的な深さ・複雑さ) なのかは本研究で区別しなかったため、明らかにされていない。
・DP 外でも gender の異変に気付く L2 学習者もいるため、ワーキングメモリ容量なども含めた検証を行
う必要がある。
■Conclusion
・成人の学習者の結果から、Failed functional features hypothesis に反して、学習者は成人後に文法の性に
ついて習得することが可能であることを示した。
⇒本研究では、学習者がおかす nonlocal domain における文法の間違いについて、能力の問題ではなく処
理に失敗していることが原因であることが明らかになった。
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