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〈一般研究課題〉
酸化物半導体ナノロッドアレイを用いた
真に低環境負荷の太陽電池の実現
助 成 研 究 者 中部大学 山田 直臣
酸化物半導体ナノロッドアレイを用いた
真に低環境負荷の太陽電池の実現
山田 直臣
(中部大学)
Environmental Load-Reducing Solar Cells Fabricated
Using Oxide Nanorod Array
Naoomi Yamada
(Chubu University)
Abstract:
We report on dye-sensitized solar cells fabricated using oxide (anatase TiO2 and ZnO) nanorod
(NR) arrays as a working electrode. The oxide NR arrays were grown via soft chemical processes
including hydrothermal synthesis. Anatase TiO 2 -NR arrays were successfully grown on SnO 2 :F
based transparent electrodes. An optimized TiO2 -NR-based DSSC exhibit a conversion-efficiency
(η) of 3.5%. This value is one of the highest among literature values. On the other hand, DSSC
using ZnO-NR exhibited a poor η value of 0.19%. This is probably due to partial dissolution of
ZnO-NR surface during the dye-sensitization. Developments in fabrication process of DSSC using
ZnO-NR is required to achieve high conversion efficiency.
1.はじめに
現在,低環境負荷のエネルギー源として太陽電池が注目されており,高効率化に関する開発が盛
んである。しかし,現在主流の半導体p-n接合からなる太陽電池の製造プロセスは,人体に有害な
原料を用いるうえに,製造工程に大量のエネルギーを投入するために,真に環境負荷が低いとは言
い難い。そのため,製造工程のエネルギー投入量が少なく真に環境負荷の小さい太陽電池の開発が
進められている。その一つとして,色素増感型太陽電池(DSSC)が挙げられる 1)。DSSCは製造工
程のエネルギー投入量が小さいことに加え,その理論限界効率は33%2)と高く,シリコン系太陽電
- 103 -
池の理論効率(29%)と同等かそれ以上である。
従来のDSSCでは,透明電極上にアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)や酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子
(NP)を塗布した後に焼成し,それを作用極とする。この構成では,NPは透明電極上に「乗ってい
る」だけである。そのため,NP/透明電極界面で電子の輸送が阻害され変換効率の向上が妨げられ
る。また,NPの集合体では,NP間の界面が極めて多くなるので,この界面でも電荷輸送が妨げら
れ,変換効率の低下をもたらす恐れがある。
そこで我々は,透明電極上にTiO 2 やZnOのナノロッド(NR)を成長させてこれをDSSCの作用電
極に用いることを試みることにした。この方法であれば,酸化物半導体のNRを透明電極上に直接
成長させるので,NRと透明電極の間で良好な接触が得られることが期待できる。さらに,NRは単
結晶であることが多いので,NR内部での高速かつスムーズな電荷輸送が期待できる。酸化物半導
体NRは様々な方法で作製することができるが,我々は,低環境負荷のソフト化学プロセスを用い
ることにした。
2.試料作製および実験方法
2.1 酸化物半導体NRの成長
我々は,酸化物半導体としてアナターゼ型TiO2 とZnOを選択し,これらのNRの成長に取り組ん
だ。アナターゼ型TiO2 は,DSSCの作用電極半導体層の標準的な材料で,高い変換効率が得られて
いる。ZnOはアナターゼ型TiO2 よりも電子の移動度が大きい。したがって,TiO2 を用いた場合よ
りも高い変換効率が期待されており,DSSCへの応用が検討されている。
2.1.1 TiO2 -NRの成長
酸化スズ系透明電極上に,アナターゼ型TiO2 -NRを二段階のステップによって成長させた 3)。第
一のステップでは,テフロン内筒型オートクレーブ内で透明電極上にTiCl4 を凝集させた後に加水
分解し,非晶質前駆体をコーティングした。第二ステップとして,この非晶質前駆体を450℃で1
時間,大気中で熱処理をした。
2.1.2 ZnO-NRの成長
ZnO-NRは, 水 熱 合 成 法 に よ っ てZnO:Al(AZO)透 明 電 極 上 へ 成 長 さ せ た 4)。0. 1 mol/Lの
Zn(NO3 )2 水溶液と1 mol/LのNaOH水溶液を体積比2:3の割合で混合した溶液を出発原料にした。出
発原料に透明電極を入れ,反応温度50℃を18時間保持した。
2.2 DSSCの作製
成長させたTiO2 -NRあるいはZnO-NRをルテニウム錯体色素溶液(濃度は3×10−4 mol/L)に室温
下,24時間浸漬して色素を吸着させた。色素にはN719色素を用い,溶媒にはアセトニトリルと
4-t-ブチルアルコールを体積比1:1で混合した混合溶媒を用いた。
色素を吸着させた作用極とPtスパッタ膜がコーティングされたガラス(対極)を向い合わせ,ス
ペーサを挟んで貼りあわせた。その後,作用極と対極の間に電解液を注入しDSSCを作製した。な
お,電解液の調整はヨウ素2.54 g,ヨウ化リチウム2.67 g,4-t-ブチルピリジン13.5g,2-アミノ
-4-メチルピリミジン2.18 gを,3-メトキシプロピオニトリル200ml に溶解させた。
- 104 -
3.結果ならびに考察
3.1 TiO2 -NRの構造
図1は,加水分解温度 50℃で酸化スズ系透明電極上に作製したTiO 2 -NRの走査型電子顕微鏡
(SEM)写真である。この図からとわかる通り,径が数十nm,長さ2〜3 µmのNRが基板全面に均一
に成長していることが確認できる。X線回折
(XRD)測定により,このNRは単相のアナターゼ型で
一に成長していることが確認できる.X 線回折(XRD)測定により,この NR は単相のアナターゼ
あることがわかった
(図2)
。ルチル型TiO
2 やマグネリ相TinO 2n−1 等の不純物相は含まれていなかっ
一に成長していることが確認できる.X
線回折(XRD)測定により,この
NR は単相のアナターゼ
型であることがわかった(図 2)
.ルチル型 TiO2 やマグネリ相 TinO2n-1 等の不純物相は含まれていな
た。
型であることがわかった
(図 2)
.ルチル型 TiO2 やマグネリ相 TinO2n-1 等の不純物相は含まれていな
かった.
かった.
図1 加水分解温度50℃で作製したTiO
図 1 加水分解温度
50℃で作製した TiO
2 -NRのSEM像
2-NR の SEM 像
図 1 加水分解温度 50℃で作製した TiO2-NR の SEM 像
(TEM)にて観察すると,各々のNRは,直径10nm程度の結晶粒が
TiO
-NR を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察すると,各々の
NR は,直径 10nm 程度の結晶粒
TiO22-NRを透過型電子顕微鏡
TiO
-NR
を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察すると,各々の
NR
は,直径 10nm 程度の結晶粒
3, 5)
2
3,,本研究の
5)
密に詰まった構造をしていた
(図3)
。一般にTiO
2 -NRは単結晶であることが多いが
が密に詰まった構造をしていた(図
3)
.一般に TiO
,本研究
2-NR は単結晶であることが多いが
が密に詰まった構造をしていた(図 3)
.一般に TiO2-NR は単結晶であることが多いが 3, 5),本研究
アナターゼ型TiO
2 -NRは多結晶体であった。これは,図2のXRDパターンからも確認できる。
のアナターゼ型
TiO
2-NR は多結晶体であった.これは,図 2 の XRD パターンからも確認できる.
のアナターゼ型 TiO2-NR は多結晶体であった.これは,図 2 の XRD パターンからも確認できる.
種々の加水分解温度
(50, 80,
100℃)でTiO
種々の加水分解温度(50,
80, 100℃)で
TiO22-NRの作製を行ったところ,加水分解時の温度が高
-NR の作製を行ったところ,加水分解時の温度が高
種々の加水分解温度(50, 80, 100℃)で TiO2-NR の作製を行ったところ,加水分解時の温度が高
くなるにつれてNRの径が太くなっていくことがわかった。すなわち,加水分解温度が高くなると
くなるにつれて
NR の径が太くなっていくことがわかった.すなわち,加水分解温度が高くなると
くなるにつれて NR の径が太くなっていくことがわかった.すなわち,加水分解温度が高くなると
TiO2 2層の表面積が小さくなってしまう.したがって,加水分解温度
層の表面積が小さくなってしまう。したがって,加水分解温度50℃で作製したTiO
-NRを用
TiO
50℃で作製した TiO22-NR
を用
TiO2 層の表面積が小さくなってしまう.したがって,加水分解温度 50℃で作製した TiO2-NR を用
いて,DSSCを作製することにした。
いて,DSSC
を作製することにした.
いて,DSSC を作製することにした.
20
20
*
*
*
2000
2000
*
4000
4000
Anatase (101)
Anatase (101)
6000
6000
30
30
30
40
40
2240
 [deg]
[deg]
2 [deg]
* *
Intensity [cps]
Intensity [cps]
8000
8000
Anatase (200)
Anatase (200)
(200)
Anatase
Anatase (004) / SnO 2 (200)
Anatase (004)
Anatase
(004) // SnO
SnO22 (200)
(200)
10000
10000
Anatase *(105)
Anatase
(105)
Anatase
Anatase
(211)(105)
Anatase (211)
(211)
Anatase
Figure 2
50
50
50
60
60
60
図2 加水分解温度50℃で作製したTiO2 -NRの
図 2 加水分解温度
50℃で作製した
TiO -NR
XRDパターン
(*はSnO
2 :Fからのピーク) 2
図 2 加水分解温度 50℃で作製した TiO2-NR
の XRD パターン(*は SnO2:F からのピーク)
の XRD パターン(*は SnO2:F からのピーク)
図3 加水分解温度50℃で作製したTiO2 -NRの
図 3 加水分解温度
50℃で作製した TiO2-NR
TEM像
図 3 加水分解温度 50℃で作製した TiO2-NR
の TEM 像
の TEM 像
㻟㻚㻞㻌㼀㼕㻻㻞㻙㻺㻾 を用いた 㻰㻿㻿㻯
㻟㻚㻞㻌㼀㼕㻻㻞㻙㻺㻾 を用いた 㻰㻿㻿㻯
太陽電池の特性は,ソーラーシミュレータ―により AM1.5 の疑似太陽光(100 mW/cm)を照射
- 105 - AM1.5 の疑似太陽光(100 mW/cm)を照射
太陽電池の特性は,ソーラーシミュレータ―により
しながら,電流-電圧(J–V)測定を行い評価した.
しながら,電流-電圧(J–V)測定を行い評価した.
図 4 は,本研究で作製した TiO2-NR を用いた DSSC の J-V 特性である.この図から,本研究で
3.2 TiO2 -NRを用いたDSSC
太陽電池の特性は,ソーラーシミュレータ―によりAM1.5の疑似太陽光(100 mW/cm2)を照射し
ながら,電流-電圧(J–V )測定を行い評価した。
図4は,本研究で作製したTiO2 -NRを用いたDSSCのJ-V 特性である。この図から,本研究で作製
Current density [mA/cm2]
Current density [mA/cm2]
作製した
TiO2-NR を用いた DSSC は太陽電池として動作することが確認できた.その変換効率は η
したTiO
2 -NRを用いたDSSCは太陽電池として動作することが確認できた。その変換効率はη
作製した TiO2-NR を用いた DSSC は太陽電池として動作することが確認できた.その変換効率は
η
2 2
=3.53%であった(開放電圧
= 0.73
V,短絡電流密度sc J=sc9.25
= 9.25
mA/cm
,曲線因子 FF
= 0.53)
.こ
=3.53%であった
(開放電圧Voc V=oc0.73
V,短絡電流密度J
mA/cm
,曲線因子FF
= 0.53)
。こ
2
=3.53%であった(開放電圧 Voc = 0.73 V,短絡電流密度 Jsc = 9.25 mA/cm ,曲線因子 FF = 0.53)
.こ
こで得られた η は,これまで TiO
こで得られたηは,これまでTiO
2-NR を用いた DSSC で報告されてきた変換効率の中で,もっとも
2 -NRを用いたDSSCで報告されてきた変換効率の中で,もっとも
こで得られた η は,これまで TiO2-NR を用いた DSSC で報告されてきた変換効率の中で,もっとも
高い値に属する(表
1)
高い値に属する
(表1)
。.
高い値に属する(表 1).
10
10
8
6
4
2
0
8
6
4
2
0
0.4
0.6
0.8
1
0.4Voltage
0.6 [V] 0.8
1
Voltage [V]
図T4
TiO2-NR を用いた 特性
DSSC の J-V 特性
図4 iO2 -NRを用いたDSSCのJ-V
図 4 TiO2-NR を用いた
DSSC の J-V 特性
2
2
(AM1.5,
100
mW/cm
疑似太陽光照射時)
(AM1.5,100 mW/cm 疑似太陽光照射時)
(AM1.5,100 mW/cm2 疑似太陽光照射時)
しかしながら,TiO2 ナノ粒子を用いたDSSCでは,しばしばη > 10%が報告される。本研究で
しかしながら,TiO2 ナノ粒子を用いた DSSC では,しばしば η > 10%が報告される.本研究で作
作製したDSSCの変換効率はそれに比べて非常に小さい。それは,TiO
2 -NRで作製したDSSCのJsc
しかしながら,TiO2 ナノ粒子を用いた DSSC では,しばしば η > 10%が報告される.本研究で作
製した DSSC の変換効率はそれに比べて非常に小さい.それは,TiO2-NR で作製した DSSC の Jsc
が小さいことに起因する。J
scが小さくなるのは,TiO 2 -NRの表面積がナノ粒子層と比べて小さいた
製した
DSSC の変換効率はそれに比べて非常に小さい.それは,TiO
2-NR で作製した DSSC の Jsc
が小さいことに起因する.Jsc が小さくなるのは,TiO2-NR の表面積がナノ粒子層と比べて小さいた
めである。すなわち,表面積が小さいために色素吸着量が少なくなり,その結果,TiO
が小さいことに起因する.J
2 へ注入さ
sc が小さくなるのは,TiO2-NR の表面積がナノ粒子層と比べて小さいた
めである.すなわち,表面積が小さいために色素吸着量が少なくなり,その結果,TiO2 へ注入され
めである.すなわち,表面積が小さいために色素吸着量が少なくなり,その結果,TiO
れる電子の量が低くなるためである。TiO2 -NRの表面積を大きくする方法を開発することが今後の
2 へ注入され
る電子の量が低くなるためである.TiO2-NR の表面積を大きくする方法を開発することが今後の課
る電子の量が低くなるためである.TiO
課題であると考えられる。
2-NR の表面積を大きくする方法を開発することが今後の課
題であると考えられる.
題であると考えられる.
0
0
0.2
0.2
表1 TiO2 -NR用いたDSSCの特性比較
変換効率(%)
変換効率(%)
開放電圧(V)
開放電圧(V)
2
短絡電流密度(mA/cm
)
2
短絡電流密度(mA/cm )
曲線因子
曲線因子
TiO2-NR 用いた DSSC の特性比較
TiO2-NR 用いた DSSC の特性比較
本研究
参考文献 3)
本研究
参考文献 3)
3.53
2.1
3.53
2.1
0.73
0.67
0.73
0.67
9.25
5.05
9.25
5.05
0.53
0.6
0.53
0.6
参考文献 5)
参考文献 5)
3.0
3.0
0.71
0.71
6.05
6.05
0.7
0.7
3.3 ZnO-NRの構造
㻟㻚㻟㻌㼆㼚㻻㻙㻺㻾 の構造
㻟㻚㻟㻌㼆㼚㻻㻙㻺㻾
の構造
図5は,反応温度50℃,反応時間18時間で作製したZnO-NRのSEM像である。図を見ると,基
図 5 は,反応温度 50℃,反応時間 18 時間で作製した ZnO-NR の SEM 像である.図を見ると,
図 5 は,反応温度 50℃,反応時間 18 時間で作製した ZnO-NR の SEM 像である.図を見ると,
板上に,径が数十nmで長さが7〜8µmのナノロッドが密に成長していることがわかる。図6は,
基板上に,径が数十 nm で長さが 7~8μm のナノロッドが密に成長していることがわかる.図 6 は,
基板上に,径が数十
nm で長さが
7~8μm のナノロッドが密に成長していることがわかる.図 6 は,
ZnO-NR成長前
(AZO基板)
と成長後のXRDパターンである。成長前のピークは0001配向したAZO
ZnO-NR 成長前(AZO 基板)と成長後の XRD パターンである.成長前のピークは 0001 配向した
ZnO-NR 成長前(AZO 基板)と成長後の XRD パターンである.成長前のピークは 0001 配向した
AZO(ZnO:Al)からのものである.成長後のパターンをみると,ZnO の 0002 ピークのみが約 100
AZO(ZnO:Al)からのものである.成長後のパターンをみると,ZnO の 0002 ピークのみが約 100
- 106 -
倍大きくなっている.そのほかの面からの回折ピークは見られなかった.すなわち,ZnO-NR
は,
倍大きくなっている.そのほかの面からの回折ピークは見られなかった.すなわち,ZnO-NR は,
(ZnO:Al)からのものである。成長後のパターンをみると,ZnOの0002ピークのみが約100倍大き
AZO 透明電極に対してエピタキシャル成長しているということができる.約 50℃という低い成長
くなっている。そのほかの面からの回折ピークは見られなかった。すなわち,ZnO-NRは,AZO
温度で,高品質な結晶性を有する ZnO-NR を成長させることができた.
透明電極に対してエピタキシャル成長しているということができる。約50℃という低い成長温度
AZO 透明電極に対してエピタキシャル成長しているということができる.約 50℃という低い成長
で,高品質な結晶性を有するZnO-NRを成長させることができた。
温度で,高品質な結晶性を有する ZnO-NR を成長させることができた.
図5
図 5
AZO 透明電極上に成長させた ZnO-NR の SEM 像
図5 AZO透明電極上に成長させたZnO-NRのSEM像
AZO 透明電極上に成長させた ZnO-NR の SEM 像
106
ZnO(0002)
ZnO(0002)
106
ZnO(0002)
ZnO(0002)
Intensity
[cps] [cps]
Intensity
105
105
1064
1064
10
10
100倍
1053
1053
10
10
AZO
AZO
1042
1042 Glass
100倍
Glass
10
10
3
10
1031 AZO
AZO
101
10 Glass
Glass
2
1020
10 0
10
10
1
1 20
20
30
40
50
30
40
50
10
10
2θ [deg]
2θ [deg]
100
100
(左)
20
30(右)のXRDパターン
40
50
20 図6 AZO透明電極
30
40とその上にZnO-NRを成長させた試料
50
図 6 AZO 透明電極(左)とその上に ZnO-NR を成長させた試料(右)の XRD パターン
2 [deg]
2 [deg]
3.4 ZnO-NRを用いたDSSC
上記3.3で質の良いZnO-NRを成長させることができたので,これを用いてDSSCを作製した。
図 6 AZO 透明電極(左)とその上に ZnO-NR を成長させた試料(右)の XRD パターン
3.4 ZnO-NR を用いた DSSC
DSSCの作製は,TiO 2 -NRを用いた時と全く同じ手法を用いた。太陽電池の特性は,ソーラーシ
上記 3.3 で質の良い ZnO-NR を成長させることができたので,
これを用いて DSSC を作製した。
ミュレーターによりAM1.5の疑似太陽光(100 mW/cm2)を照射しながら,J–V 測定を行い評価した。
を用いた '66&
=Q215
DSSC の作製は,TiO
2-NR を用いた時と全く同じ手法を用いた。太陽電池の特性は,ソーラーシミ
図7は,本研究で作製したZnO-NRを用いたDSSCのJ–V 特性である。この図から,本研究で作
上記 3.3 で質の良い
ZnO-NR
を成長させることができたので,
これを用いて
DSSC を作製した。
ュレータ―により
AM1.5
の疑似太陽光
(100 mW/cm)を照射しながら,
J–V 測定を行い評価した.
製したZnO-NRを用いたDSSCは太陽電池として動作することが確認できた。その変換効率はη=
DSSC
2-NR を用いた時と全く同じ手法を用いた。太陽電池の特性は,ソーラーシミ
図の作製は,TiO
7 は,本研究で作製した
ZnO-NR を用いた DSSC の J-V 特性である.この図から,本研究で
0.19%であった
(Voc=0.61 V,Jsc=1.02 mA/cm2,FF=0.30)。ZnO-NRを用いたDSSCが太陽電池
ュレータ―により
の疑似太陽光
(100 mW/cm)を照射しながら, J–V 測定を行い評価した.η
作製した ZnO-NR AM1.5
を用いた
DSSC は太陽電池として動作することが確認できた.その変換効率は
として動作させることはできたが,得られたηは,TiO
(η=3.53%)と比べ
2 -NRをDSSC化した時
2
図 7 は,本研究で作製した
ZnO-NR
を用いた
特性である.この図から,本研究で
= 0.19%であった(V
Jsc = 1.02
mA/cmDSSC
, FFの= J-V
0.30)
.ZnO-NR を用いた DSSC が太陽電
oc = 0.61 V,
て1桁以上小さい(表1を参照)。その原因は,短絡電流密度JscがTiO2 -NRを用いた時よりも1桁小
作製した
ZnO-NR を用いた DSSC は太陽電池として動作することが確認できた.その変換効率は
η
池として動作させることはできたが,得られた
η は,TiO2-NR を DSSC 化した時(η =3.53%)と比
さいことにある。
2
=べて
0.19%であった(V
V, Jsc .その原因は,短絡電流密度
= 1.02 mA/cm , FF = 0.30).ZnO-NR
DSSC が太陽電1
oc = 0.61
1 桁以上小さい(表
1 を参照)
Jsc が TiOを用いた
2-NR を用いた時よりも
ZnO-NRを用いた時に,Jscが小さくなってしまう原因について考察する。このカギになるのは
池として動作させることはできたが,得られた
η は,TiO2-NR を DSSC 化した時(η =3.53%)と比
桁小さいことにある。
N719色素の構造である。N719色素の分子は2つのカルボキシ基を有している。すなわち,色素吸
べて 1 桁以上小さい(表 1 を参照)
.その原因は,短絡電流密度 Jsc が TiO2-NR を用いた時よりも 1
桁小さいことにある。
5
- 107 -
5
ZnO-NR を用いた時に,Jsc が小さくなってしまう原因について考察する。このカギになるのは
Current density [mA/cm2]
N719 色素の構造である。N719 色素の分子は 2 つのカルボキシ基を有している。すなわち,色素吸
着用溶液は酸性であることが推察される。よく知られるように,ZnOは弱酸でも容易に溶解する材
着用溶液は酸性であることが推察される。よく知られるように,ZnO は弱酸でも容易に溶解する材
料である。したがって,色素を吸着させるためにZnO-NRを色素溶液に浸漬させた時に,ZnO-NR
料である。したがって,色素を吸着させるために ZnO-NR を色素溶液に浸漬させた時に,ZnO-NR
の表面が溶解してしまい,色素の吸着がほとんどできなかったものと思われる。実際,色素吸着後
の表面が溶解してしまい,色素の吸着がほとんどできなかったものと思われる。実際,色素吸着後
の作用極の色は,TiO 2 -NRを用いた時と比べ,非常に薄いことが目視で観察された。同様の現象
の作用極の色は,TiO2-NR を用いた時と比べ,非常に薄いことが目視で観察された。同様の現象は,
は,ZnOナノ粒子を使用したDSSCについても報告されている 6)。ZnO-NRを用いたDSSCの課題と
ZnO ナノ粒子を使用した DSSC についても報告されている 6).ZnO-NR を用いた DSSC の課題とし
しては,①カルボキシ基の少ない色素の選定,或いは,②ZnO-NRの表面コーティングが必要に
ては,①カルボキシ基の少ない色素の選定,或いは,②ZnO-NR の表面コーティングが必要になっ
なってくるものと考えられる。
てくるものと考えられる.
1.0
0.5
0
0
0.2
0.4
0.6
Voltage [V]
0.8
1
図7 ZnO-NRを用いたDSSCのJ-V 特性
図 4(AM1.5,
ZnO-NR100
を用いた
DSSC の J-V 特性
mW/cm2 疑似太陽光照射時)
(AM1.5,100 mW/cm2 疑似太陽光照射時)
3.まとめと今後の展望
環境にやさしいソフト化学プロセスによってTiO 2 -NRとZnO-NRアレイを作製し,DSSC化し
まとめと今後の展望
㻟㻚㻌た。いずれの材料を用いても,作製したDSSCは太陽電池として動作した。
環境にやさしいソフト化学プロセスによって
TiO2-NR と ZnO-NR アレイを作製し,DSSC 化し
TiO2 -NRを用いた場合に得られた変換効率は,これまでに報告されている最も高い変換効率に匹
た.いずれの材料を用いても,作製した
DSSC は太陽電池として動作した.
敵するかそれ以上であった。しかしながら,その変換効率は,TiO
(変換
2 ナノ粒子を用いたDSSC
TiO2>10%)
-NR を用いた場合に得られた変換効率は,これまでに報告されている最も高い変換効率に
効率
と比べると,まだまだ小さい。TiO2 -NRを用いたDSSCの変換効率をより一層向上さ
匹敵するかそれ以上であった.しかしながら,その変換効率は,TiO
2 ナノ粒子を用いた DSSC(変
せるためには,TiO2 -NRの表面積を大きくする作製プロセスの開発が課題となる。
換効率
>10%)と比べると,まだまだ小さい.TiO
2-NR を用いた DSSC の変換効率をより一層向上
ZnO-NRを用いた場合は,TiO
(短絡電流密
2 -NRを用いた場合と比べ,1桁以上小さい変換効率
させるためには,TiO
-NR
の表面積を大きくする作製プロセスの開発が課題となる.
2
度)しか得ることができなかった。その理由は,色素を吸着させる際にZnO-NR表面が溶解してい
ZnO-NR を用いた場合は,TiO2-NR を用いた場合と比べ,1 桁以上小さい変換効率(短絡電流密
るためと考えられる。色素の検討とZnO-NRの表面処理によって変換効率を向上させることができ
度)しか得ることができなかった.その理由は,色素を吸着させる際に ZnO-NR 表面が溶解してい
るものと考えている。
るためと考えられる.色素の検討と ZnO-NR の表面処理によって変換効率を向上させることができ
以上の取組みにより,酸化物ナノロッドアレイを用いたDSSCの高効率化を図ることができれ
るものと考えている.
ば,真に環境負荷の小さい太陽電池につながるものと期待している。
以上の取組みにより,酸化物ナノロッドアレイを用いた DSSC の高効率化を図ることができれ
ば,真に環境負荷の小さい太陽電池につながるものと期待している.
謝辞
㻌
本研究の成果は,中部大学大学院工学研究科応用化学専攻の山口孝弘君,山口裕生君との共同研
究によるものである。ここに記して謝意を表する次第である。
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参考文献
1)B. O’Regan and M. Gratzel, Nature 353, 737 (1991).
2)荒川裕則:“色素増感太陽電池”,シーエムシー出版,(2007),pp.30-32
3)Liu et al., Chem. Commun. 48, 8565 (2012).
4)Song et al., J. Phys. Chem. 111, 596 (2007).
5)Liu et al., J. Am. Chem. Soc. 131, 3985 (2009).
6)Keis et al., Langmuir 16, 4688 (2000)..
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