2.6.1 緒言 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.1 Page 1 of 1 緒言 ソラフェニブ(BAY 43-9006、遊離塩基)は腫瘍細胞増殖及び腫瘍血管新生に関わる複数のキ ナーゼを阻害する抗悪性腫瘍薬であり、「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」及び「切除不能 な肝細胞癌」に対して医薬品製造販売承認を取得している。今回の医薬品承認事項一部変更承認 申請は、「局所進行又は転移性の甲状腺癌」に対する効能・効果の追加を目的としたものである。 用法・用量は既承認の用法・用量と同じである。 ソラフェニブトシル酸塩の化学構造、効能・効果(下線部が今回の申請効能・効果)、用法・ 用量等を以下に示す。非臨床試験では、ソラフェニブトシル酸塩を使用している。 化学構造: 化学名: 4-{4-[3-(4-Chloro-3-trifluoromethylphenyl)ureido]phenoxy}-N2methylpyridine-2-carboxamide mono(4-methylbenzenesulfonate) 分子式: C21H16ClF3N4O3• C7H8O3S 分子量: 637.03 換算率: トシル酸塩/遊離塩基の換算率:1.37 販売名(含量): ネクサバール錠 200mg 〔1 錠中、ソラフェニブ 200mg(ソラフェニブトシル酸塩として 274.0mg)含有〕 JAN : ソラフェニブトシル酸塩 治験成分記号: BAY 43-9006 トシル酸塩 (BAY 54-9085) 効能・効果: 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌 切除不能な肝細胞癌 局所進行又は転移性の甲状腺癌 用法・用量: 通常、成人にはソラフェニブとして 1 回 400mg を 1 日 2 回経口投与する。 なお、患者の状態により適宜減量する。 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.2 Page 1 of 薬理試験の概要文の目次 2.6.2.1 まとめ ........................................................... 2 2.6.2.2 効力を裏付ける試験 ............................................... 3 2.6.2.2.1 In vitro 薬理試験 .......................................... 3 2.6.2.2.1.1 RET 及びその下流シグナル伝達系路に対する阻害作用.......... 3 2.6.2.2.1.2 甲状腺癌由来細胞株に対する増殖阻害作用 ................... 4 2.6.2.2.2 In vivo 薬理試験 ........................................... 4 2.6.2.2.2.1 乳頭癌由来細胞株同所性異種移植モデル ..................... 5 2.6.2.2.2.2 髄様癌由来細胞株異種移植モデル ........................... 5 2.6.2.3 副次的薬理試験 ................................................... 6 2.6.2.4 安全性薬理試験 ................................................... 6 2.6.2.5 薬力学的薬物相互作用 ............................................. 6 2.6.2.6 考察及び結論 ..................................................... 6 2.6.2.7 図表 ............................................................. 7 引用文献一覧 ................................................................ 8 8 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.2 2.6.2.1 Page 2 of 8 薬理試験の概要文 まとめ 甲状腺癌の各組織型(2.5.1.3.1 参照)のうち、乳頭癌及び髄様癌では、グリア細胞由来神 経栄養因子の受容体である RET を恒常的に活性化させる遺伝子再構成(乳頭癌でみられる RET/PTC 融合遺伝子)や点突然変異(多発性内分泌腺腫症 2A 型及び 2B 型を含む髄様癌でみられ る RET 遺伝子の C634R/W 変異や M918T 変異など)が高頻度で認められる1,2)。RET 遺伝子に再構成 がない乳頭癌では BRAF 遺伝子や RAS 遺伝子(KRAS、NRAS、HRAS)に変異を認める場合がある 1,3,4) 。また、濾胞癌でも RAS 遺伝子に変異がみられることがある1)。RAS 及び BRAF は、RET の下 流シグナル伝達経路であるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の構成分子であ り、また、これら三つの遺伝子変異に重複がみられないことから、MAPK 経路の恒常的活性化が 甲状腺癌の発生に重要な役割を果たしていると考えられている。一方、未分化癌の癌化機構はま だ不明な点が多いものの、BRAF 遺伝子や RAS 遺伝子に変異を認める場合があること1)、並びに未 分化癌由来細胞株 FRO の BRAF 遺伝子を RNA 干渉法でノックダウンすると、MAPK シグナル伝達及 び細胞増殖が阻害されるとの報告(4.2.1.1.5 参照)があることから、未分化癌においても MAPK 経路の重要性が示唆されている。 ソラフェニブは、複数のキナーゼを標的とする抗悪性腫瘍薬であり、in vitro において腫瘍 細胞の増殖に関わるキナーゼ〔CRAF、BRAF、変異型 BRAF、KIT、Fms 様チロシンキナーゼ-3 (FLT-3)〕、腫瘍血管新生に関わるキナーゼ〔血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)-2、VEGFR-3、 血小板由来増殖因子受容体-β(PDGFR-β)〕に対する阻害活性を有し、in vivo において、腎 細胞癌及び肝細胞癌をはじめ、各種腫瘍の移植モデルにおいて抗腫瘍効果を示すことが明らかに なっている〔腎細胞癌を効能とした医薬品製造販売承認申請の添付資料(RCC-CTD) 2.6.2.2 (1.13 に添付) 、肝細胞癌を効能とした医薬品承認事項一部変更承認申請の添付資料(HCCCTD) 2.6.2.2(1.13 に添付)参照〕。ソラフェニブは、受容体型チロシンキナーゼや RAF ファ ミリー(CRAF、BRAF、変異型 BRAF)のキナーゼ活性を阻害して、MAPK 経路のシグナル伝達を抑 制し得ることから、MAPK 経路の恒常的活性化がその癌化機構に深く関わるとされている甲状腺 癌に対して有効であることが推察される。甲状腺癌に対するソラフェニブの有効性については、 それを支持する薬理試験成績が文献として複数公表されている。本項では、甲状腺癌に対するソ ラフェニブの薬理作用に関する公表論文の試験成績をまとめた。なお、これまで甲状腺癌とされ ていた細胞株の一部が、甲状腺由来ではないことを示した報告5)があることから、該当する細胞 株(ARO、DRO、NPA87)を用いて検討されている試験成績については、本項に記載しなかった。 ソラフェニブは、 in vitro で野生型、変異型及び融合型の RET の活性を阻害し、BRAF、 BRAFV600E 及び CRAF の活性も阻害する。また、RET 遺伝子の変異や遺伝子再構成により恒常的に活 性化している RET を発現しているヒト甲状腺癌細胞株や、それらの変異遺伝子を安定的に導入し た細胞において、RET(又は RET/PTC)の自己リン酸化及びその下流シグナル伝達を阻害し、更 に、細胞増殖を阻害することが示されている。In vivo においても、ソラフェニブは RET/PTC1 を発現している乳頭癌由来 TPC1 細胞株の同所性移植モデルにおいて腫瘍増殖を抑制し、RETC634W を発現している髄様癌由来 TT 細胞株の移植モデルにおいても RET 自己リン酸化を減少させ、腫 瘍増殖を抑制することが確認されている。 以上の in vitro 及び in vivo 試験成績は、甲状腺癌に対するソラフェニブの有効性を支持し ている。 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.2.2 2.6.2.2.1 2.6.2.2.1.1 Page 3 of 8 効力を裏付ける試験 In vitro 薬理試験 RET 及びその下流シグナル伝達系路に対する阻害作用 参照項目:4.2.1.1.1 Carlomagno F et al, J Natl Cancer Inst. 2006:98:326-334 4.2.1.1.2 Plaza-Menacho I et al, J Biol Chem. 2007:282:29230-29240 野生型及び変異型の RET、並びに融合型の RET/PTC に対するソラフェニブの阻害作用を表 2.6.2.2- 1に示す。ソラフェニブは野生型 RET 及び変異型 RET(V804L、V804M、C634R)並びに 融合型 RET/PTC3 のキナーゼ活性を阻害する(IC50 値は約 5~147nM)。また、ソラフェニブは変 異型及び融合型の RET 遺伝子を導入した細胞株、並びにそれらを発現している甲状腺癌由来細胞 株の RET の細胞内自己リン酸化を阻害する(表 2.6.2.2- 2)。 表 2.6.2.2- 1 RET キナーゼ活性阻害作用 Kinase IC50 (nM) Method Reference pGTKA RET/PTC3 47 4.2.1.1.1 pGTKA RETV804L 110 pGTKA RETV804M 147 pGTKA RETC634R 49 ELISA RETV804M 7.9 4.2.1.1.2 ELISA WT RET 5.9/5.3 pGTKA: poly-GT(poly-L-glutamic acid-L-tyrosine) phosphorylation assay in the presence of [32P]ATP ELISA: Enzyme linked immunosorbent assay WT: wild type 表 2.6.2.2- 2 細胞内 RET 自己リン酸化阻害作用 Kinase : Cell IC50 [nM] Reference RET/PTC3 : NIH3T3 20-50 4.2.1.1.1 RETC634R : NIH3T3 20-50 RETM918T : NIH3T3 20-50 RET/PTC1 : TPC1 < 100 RETC634W : TT < 100 Auto-phosphorylation were detected by using immunoblotting with anti-phospho RET/Y905 加えて、ソラフェニブは RET の下流シグナル伝達系路である MAPK 経路の構成分子である BRAF、 BRAFV600E 及び CRAF の活性を阻害することが明らかになっており、その IC50 値はそれぞれ 22、38 及び 6nM である〔RCC-CTD 2.6.2.2.1(1.13 に添付)参照〕。 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.2.2.1.2 Page 4 of 8 甲状腺癌由来細胞株に対する増殖阻害作用 参照項目:4.2.1.1.1 4.2.1.1.3 4.2.1.1.4 4.2.1.1.5 4.2.1.1.6 4.2.1.1.7 Carlomagno F et al, J Natl Cancer Inst. 2006:98:326-334 Koh YW et al, Endocr Relat Cancer. 2012:19:29-38 Henderson YC et al, Clin Cancer Res. 2008:14:4908-4914 Salvatore G et al, Clin Cancer Res. 2006:12:1623-1629 Kim S et al, Mol Cancer Ther. 2007:6:1785-1792 Preto A et al, BMC Cancer. 2009:9:387 ソラフェニブは、RET/PTC 再構成融合たん白及び変異型 RET を発現している乳頭癌及び髄様癌 由来細胞株の増殖を阻害する(IC50 値は 140~6,870nM)。また、未分化癌由来の細胞株の増殖に 対しても、おおむねμM レベルの IC50 値(1,000~6,000nM)で阻害する。細胞増殖抑制作用は、 RET/PTC3、RETC634R 及び RETM918T の遺伝子を導入した細胞株でも認められている。(表 2.6.2.23) 表 2.6.2.2- 3 細胞増殖阻害作用 Cell line/Origin Mutation RET BRAF IC50 [nM] Method Reference TPC1 PTC RET/PTC1 WT 140 MTT 4.2.1.1.4 TPC1 PTC RET/PTC1 WT <1,000 Count 4.2.1.1.1 TT MTC C634W <1,000 TT MTC C634W 170 MTT 4.2.1.1.3 MZ-CRC-1 MTC M918T 6,870a FRO ATC V600E ~1000 Count 4.2.1.1.5 C643 ATC WT V600Eb 2,000 – 6,000 MTT 4.2.1.1.6 Hth-74 ATC WT WT 2,000 – 6,000 K-18 ATC WT 2,000 – 6,000 TPC1 PTC RET/PTC1 WT Approx. 4,000 Count 4.2.1.1.7 8505C ATC V600E Approx. 4,000 C643 ATC WT WTc Approx. 4,000 NIH3T3:RET/PTC3 Transfected RET/PTC3 <1,000 Count 4.2.1.1.1 NIH3T3:RETC634R Transfected C634R <1,000 NIH3T3:RETM918T Transfected M918T <1,000 PTC: papillary thyroid carcinoma, MTC: medullary thyroid carcinoma, ATC: anaplastic thyroid carcinoma -: No information MTT: 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide assay (MTT assay) Count: Cell count a: IC50 for MZ-CRC-1 cell was higher than the IC50 for TT cells. The mechanism behind the difference in sensitivity in two cell lines may relate to other differences between the cells or RET mutants, because inhibitions of RET, ERK and AKT phosphorylation by sorafenib were similar. b: Wild type BRAF is also reported for C643 cells (4.2.1.1.7). c: C643 cells harbor RASG13R mutation 2.6.2.2.2 In vivo 薬理試験 乳頭癌由来細胞株 TPC1(RET/PTC1 発現)を移植したモデル及び髄様癌由来細胞株 TT(RETC634W 発現)を移植したモデルにおいて、ソラフェニブ経口投与の効果を検討した結果が報告されてい る。以下にその概略を記載する。 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.2.2.2.1 Page 5 of 8 乳頭癌由来細胞株同所性異種移植モデル 参照項目:4.2.1.1.4 Henderson YC et al, Clin Cancer Res. 2008:14:4908-4914 ヌードマウス(NCr nu/nu、8~12 週齡で入手後 1 週間以上飼育)の甲状腺に、ヒト乳頭癌由 来細胞株 TPC1 を移植し、移植 2~3 週間後からソラフェニブ 40mg/kg 又は媒体(Cremophor EL/ エタノール)が 1 日 2 回、週 5 日 3 週間経口投与された(試験は 2 回実施された)。腫瘍体積は、 投与開始 3 週間後に V=(L×W2)/2(L は腫瘍長、W は腫瘍幅)により算出された。 2 回の試験のいずれにおいても、ソラフェニブ投与群の腫瘍体積は、媒体投与群に比べ有意に 低値(1 回目の試験では腫瘍は検出されず、2 回目の試験でも顕著に低かった)であったことか ら、ソラフェニブ経口投与による腫瘍増殖抑制作用が示されている(表 2.6.2.2- 4)。 表 2.6.2.2- 4 乳頭癌由来細胞株 TPC1 同所性異種移植モデルにおける ソラフェニブ経口投与の効果 Treatment First experiment Tumor n Statistical volume (mm3) analysis Mean (Student’s [95%CI] t-test ) Vehicle Second experiment Tumor n Statistical volume (mm3) analysis Mean (Student’s [95%CI] t-test ) 101.5 [36.7 – 166.3] 7 Sorafenib 0 [0] 8 2.6.2.2.2.2 髄様癌由来細胞株異種移植モデル P<0.001 701.9 [590.7 – 813.1] 4 45.8 [20.3 – 71.3] 3 P<0.001 参照項目:4.2.1.1.1 Carlomagno F et al, J Natl Cancer Inst. 2006:98:326-334 雄性ヌードマウス(BALB/c nu/nu、4 週齡)の右背部皮下に、ヒト髄様癌由来細胞株 TT を移 植し、腫瘍体積がおよそ 70~80mm3 になった移植約 30 日後から、ソラフェニブ(60mg/kg/日) 又は媒体(Cremophor EL/エタノール)がそれぞれ週 5 日 3 週間経口投与された(7 例/群)。 腫瘍体積は、V=(A×B2)/2(A は軸長、B は直径)により算出された。また、試験終了後に腫瘍 を取り出し、その一部を用いて、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE 染色)並びに抽出したた ん白の抗 pY905 抗体及び抗 RET 抗体を用いたイムノブロットが実施された。 媒体投与群の腫瘍体積は、87mm3(Day1)から 408mm3(Day21)に有意に増加したのに対し、ソ ラフェニブ投与群の腫瘍体積は、72.5mm3(Day1)から 44mm3(Day21)に有意に減少したことか ら、ソラフェニブの腫瘍増殖抑制作用が示された(図 2.6.2.2- 1)。また、ソラフェニブ投与 群の腫瘍組織では、腫瘍壊死によると考えられる細胞減少がみられることが HE 染色で確認され ている。更に、腫瘍組織における RET 自己リン酸化の減少が、イムノブロット法により示されて いる。 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. Page 6 of 8 図 2.6.2.2- 1 髄様癌由来細胞株 TT 異種移植モデルにおけるソラフェニブ(BAY 43-9006) 経口投与の効果 A: <Effects on tumor growth>: Error bars represent 95% confidence intervals. P values (two-sided) were determined by repeated measures ANOVA and paired student’s ttest for changes within the treated (*:P = 0.018) or untreated (**:P <0.001).. B: <HE staining of tumor> C: < Immunoblotting using anti-RET/anti-pY905 antibodies> 2.6.2.3 副次的薬理試験 該当試験成績なし 2.6.2.4 安全性薬理試験 該当試験成績なし 2.6.2.5 薬力学的薬物相互作用 該当試験成績なし 2.6.2.6 考察及び結論 甲状腺癌では、遺伝子再構成(乳頭癌での RET/PTC 融合遺伝子)や点突然変異(髄様癌での C634R/W や M918T 変異など)による RET の恒常的活性化がみられる。また、RET 遺伝子にそのよ うな再構成や変異がみられなくても、RAS 遺伝子や BRAF 遺伝子に変異がみられることがある。 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. Page 7 of 8 RET、RAS、BRAF はいずれも MAPK シグナル伝達経路を活性化する分子であることから、MAPK 経路 の恒常的な活性化が甲状腺癌の発生に重要な役割を果たしていると考えられている。 ソラフェニブは、MAPK 経路の構成分子である RAF ファミリー(CRAF、BRAF、BRAFV600E)を阻害 することにより、効果的に MAPK 経路を抑制することが明らかになっている。また乳頭癌で高頻 度に認められる RET/PTC や髄様癌でみられる変異型 RET の活性を in vitro で阻害することが報 告されており、MAPK 経路の恒常的活性化が関与する甲状腺癌に対してソラフェニブが有効であ ることが推察される。これは、甲状腺癌異種移植モデルにおいてソラフェニブが抗腫瘍効果を示 すことを報告した公表論文の試験成績、すなわち、RET/PTC1 を発現している乳頭癌由来 TPC1 細 胞株の同所性移植モデル及び RETC634W を発現している髄様癌由来 TT 細胞株の移植モデルにおいて、 ソラフェニブが腫瘍増殖を抑制したことからも支持される。 また、甲状腺癌は他の固形癌と同様に血管新生の盛んな腫瘍であり、特に転移を伴う分化型甲 状腺癌(乳頭癌や濾胞癌)では血清中の VEGF 濃度が高くなっていることが報告されている6)。ソ ラフェニブは VEGFR や PDGFR-βの阻害を介して血管新生を抑制することから、甲状腺癌に対す るソラフェニブの抗腫瘍効果には、MAPK 経路の阻害に加え、血管新生抑制作用も寄与している 可能性がある。 更に、上述以外の機序の可能性を示唆する報告もある。甲状腺癌細胞株を用いた発がん機序に 関する最近の研究によると、BCPAP 細胞株(乳頭癌由来)では、変異型 BRAF が NFκB を介して TIMP-1 をアップレギュレーションすることにより、抗アポトーシス作用を誘導していること7)、 PCCL3 細胞株(乳頭癌由来)では、変異型 BRAF がミトコンドリアへ局在化し、グルコースの取 り込みを上昇させ、酸化的リン酸化を阻害することで抗アポトーシス作用を示すこと8)が報告さ れている。これらの報告において、ソラフェニブは BCPAP 細胞株では抗アポトーシス作用を阻害 するが、PCCL3 細胞株での BRAFV600E の局在化は阻害せず、抗アポトーシス作用を抑制しなかった ことが示されている。この知見から、腫瘍細胞によってはソラフェニブは変異型 BRAF による TIMP-1 アップレギュレーションを阻害することでアポトーシスを誘導する可能性も考えられる。 また、甲状腺癌細胞株では、腫瘍細胞自身に発現している VEGFR-2 がオートクリン機構で細胞浸 潤に関与していることが示唆されており、VEGFR-2 発現レベルが高い BCPAP 細胞株は、VEGFR-2 発現レベルが低い細胞株に比べ、VEGFR-2 阻害活性を有するソラフェニブに対して感受性が高い ことが報告されている9)。腫瘍細胞に発現する VEGFR-2 の阻害を介したソラフェニブの機序の可 能性も考えられる。 以上の試験成績は、甲状腺癌に対するソラフェニブの有効性を示唆している。甲状腺癌の癌化 機構は完全には解明されていないものの、MAPK 経路の活性化が重要な役割を果たしていると考 えられており、ソラフェニブが RET(融合型及び変異型)や RAF ファミリーの活性の阻害を介し て MAPK 経路の活性化を抑制することが抗腫瘍効果の主要な機序の一つと推察される。また血管 新生抑制作用も抗腫瘍効果に寄与している可能性がある。 2.6.2.7 図表 本文中に記載した。 2.6.2 薬理試験の概要文 Bayer Yakuhin, Ltd. Page 8 of 引用文献一覧 1) Borrello MG et al., Expert Opin Ther Targets 2013:17:403-419(4.3.1 に添付) 2) Lanzi C et al., Biochem Pharmacol 2009:77:297-309(4.3.2 に添付) 3) Caronia LM et al., Clin Cancer Res 2011:17:7511-7517(4.3.3 に添付) 4) Nucera C et al., Biochim Biophys Acta 2009:1795:152-161(4.3.4 に添付) 5) Schweppe RE et al., J Clin Endocrinol Metab 2008:93:4331-4341(4.3.5 に添付) 6) Tuttle RM et al., J Clin Endocrinol Metab 2002:87:1737-1742(4.3.6 に添付) 7) Bommarito A et al., Endocr Relat Cancer 2011:18:669-685(4.3.7 に添付) 8) Lee MH et al., J Clin Endocrinol Metab 2011:96:E19-E30(4.3.8 に添付) 9) Shaik S et al., J Exp Med 2012:209:1289-1307(4.3.9 に添付) 8 2.6.3 薬理試験概要表 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.3.1 Page 1 of 薬理試験: 一覧表 Test Article: <Sorafenib> Type of Study Test System Method of Admin. RET/PTC3, RETV804L, RETV804M, RETC634R In vitro RETV804M, Wild Type RET RET/PTC3:NIH3T3, RETC634R:NIH3T3, RETM918T:NIH3T3, RET/PTC1:TPC1, RETC634W:TT Testing Facility Report No. Location in CTD Universita di Napoli Federico II, Italy J Natl Cancer Inst 2006:98:326-334 4.2.1.1.1 In vitro Institute of Cancer Research, UK J Biol Chem 2007:282:29230-29240 4.2.1.1.2 In vitro Universita di Napoli Federico II, Italy J Natl Cancer Inst 2006:98:326-334 4.2.1.1.1 Primary Pharmacodynamics In vitro Kinase inhibition Cellular phosphorylation inhibition 4 2.6.3 薬理試験概要表 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.3.1 Page 2 of 薬理試験: 一覧表(続き) Test Article:<Sorafenib> Type of Study Test System Method of Admin. Cell proliferation inhibition TPC1, TT, NIH3T3(RET/PTC3), NIH3T3(RETC634R), NIH3T3(RETM918T) In vitro TT, MZ-CRC-1 Testing Facility Report No. Location in CTD Universita di Napoli Federico II, Italy J Natl Cancer Inst 2006:98:326-334 4.2.1.1.1 In vitro The Ohio State University, USA Endocr Relat Cancer 2012:19:29-38 4.2.1.1.3 TPC1 In vitro In vitro C643, Hth-74, K-18 In vitro Clin Cancer Res 2008:14:4908-4914 Clin Cancer Res 2006:12:1623-1629 Mol Cancer Ther 2007:6:1785-1792 4.2.1.1.4 FRO The University of Texas, USA Consiglio Nazionale delle Ricerche, Italy The University of Texas, USA TPC1, 8505C, C643 In vitro University of Porto, Portugal BMC Cancer 2009:9:387 4.2.1.1.5 4.2.1.1.6 4.2.1.1.7 4 2.6.3 薬理試験概要表 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.3.1 Page 3 of 薬理試験: 一覧表(続き) Test Article:<Sorafenib> Type of Study Test System In vivo PTC derived cell line orthotopic Tumor growth xenograft model MTC derived cell line xenograft Tumor growth, model Histopathological examination, Immunoblotting of extracted protein PTC: papillary thyroid carcinoma, MTC: medullary thyroid carcinoma Method of Admin. Testing Facility Report No. Location in CTD p.o. 80mg/kg/day p.o. 60mg/kg/day The University of Texas, USA Clin Cancer Res 2008:14:4908-4914 4.2.1.1.4 Universita di Napoli Federico II, Italy J Natl Cancer Inst 2006:98:326-334 4.2.1.1.1 4 2.6.3 薬理試験概要表 Bayer Yakuhin, Ltd. 2.6.3.2 効力を裏付ける試験 2.6.3.1 及び 2.6.2.2 参照 2.6.3.3 副次的薬理試験 該当なし 2.6.3.4 安全性薬理試験 該当なし 2.6.3.5 薬力学的薬物相互作用試験 該当なし Page 4 of 4
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