IS-001 精神疾患のジェネティクスとエピジェネティクス 企画シンポジウム

企画シンポジウム
第 1 日 9 月19日(木) 9:20~11:20
札幌コンベンションセンター 大ホールA
IS-001 精神疾患のジェネティクスとエピジェネティクス
司会者:太田 亨(北海道医療大学)
話題提供者:佐藤 大介(北海道大学)
話題提供者:堀家 慎一(金沢大学)
話題提供者:宮川 剛(金沢大学)
話題提供者:久保田健夫(山梨大学)
指定発言者:新川 詔夫(北海道医療大学)
指定発言者:安彦 喜裕(北海道医療大学)
ヒトの精神活動には、さまざまな因子が影響している。その個人の生まれ持った素質、すなわち遺伝
要因と、生まれてから経験した環境要因が複雑に関与し、個人の精神構造が構築されていく。遺伝要因
はよく知られているように、DNAの塩基配列に書かれた設計図である。DNAは正確に複製し、次世代
の個体や細胞にその情報を受け渡す。また、生まれつきヒトは数百個に一個の割合でDNAの塩基配列
の違いや、コピー数の違いを持っている。この違いが個人個人の違いを生み出す。個々の遺伝的情報で
構築された神経回路が、環境に反応し精神活動の個性や精神疾患を生ずる。また、相反する遺伝要因と
環境要因の間に存在するエピジェネティクス現象も神経の発達に深く関わっていることが明らかにされ
ている。
今回、分子神経遺伝学分野で活躍されている 4 名に、分子生物学、分子遺伝学からみたジェネティク
ス、エピジェネティクスの関与する精神疾患についてお話いただく。
:自閉症スペクトラム障害のコピー数多型解析
佐藤 大介(北海道大学)
自閉症は、
「対人関係障害」、「コミュニケーション障害」、
「常同的・反復的な行動、関心、活動」を主徴とする広汎性発
達障害で、現在はアスペルガー症候群等を含む自閉症スペクトラム障害として広く社会に認知されている。小児88人に約 1
人の割合で発症し近年世界中で増加傾向である。双生児研究や家族研究から発症に遺伝的要因が強く関与すると考えられて
いるが発症機構は依然大部分が不明である。
コピー数多型(CNV)はヒトゲノムの 1 割以上の領域を覆う多型でマイクロアレイで検出可能な微小染色体構造異常である。
CNVが遺伝子や遺伝子発現に関与する領域を含む事があり、CNVが自閉症等の疾患感受性に関与すると考えられている。
演者は自閉症障害の発症機構を解明すべく感受性遺伝子の同定を目的として、マイクロアレイを用いて全ゲノムCNV解析を
行ってきた。今回、自閉症障害のCNV解析を用いた感受性遺伝子同定についての発表を行う。
:自閉症発症機序におけるエピジェネティクス
堀家 慎一(金沢大学)
近年,シークエンス技術の発展により,自閉症患者で特異的なゲノムコピー数多型が様々な染色体領域で同定されるに至っ
ている。しかしながら,自閉症の発症に直接結びつくような原因遺伝子の同定に成功した例は非常に希で,自閉症患者で認
められるゲノムの欠失,重複により二次的に周辺の遺伝子の発現に影響を与えている可能性が示唆される。このことから,
我々はレット症候群や自閉症,脆弱性X症候群などの広汎性神経発達障害の原因の一つに,染色体構造の大きな変化や,
「染
色体ペアリング」といったグローバルな発現制御機構がそれらの複雑な臨床症状に寄与しているのではないかと考えている。
我々は以前,レット症候群の原因遺伝子であるMeCP2がゲノムの構造を変化させることで神経発達関連遺伝子群の発現を
コントロールしていることを見出した。また,我々は自閉症患者で最も頻回に認められるCNVs領域である15q11-q13のクロ
マチンダイナミクスに着目し,15q11-q13領域の核内配置が如何に制御されるかについて明らかにした。本シンポジウムでは,
以上のような神経発達障害の発症に関わるクロマチンダイナミクスの最新知見を紹介する。
:遺伝子・脳・行動:遺伝子改変マウスを用いた研究
宮川 剛(金沢大学)
演者らは知覚・運動機能や情動性・記憶学習能力・社会的行動などの行動のテストを含む「網羅的行動テストバッテリー」
を用いて、遺伝子改変マウスの表現型を解析している。これまでに90以上の研究室の共同研究として、160以上の系統の遺
伝子改変マウスの行動を評価してきた。この中で、活動性や作業記憶、社会的行動などの顕著な異常を示す系統を複数同定
することに成功している。これらのマウスの脳を網羅的遺伝子・タンパク発現解析、組織学的解析、電気生理学的解析など
各種の手法で調べたところ、ヒトの統合失調症患者の脳で報告されている現象と酷似した表現型が複数確認された。さらに、
海馬歯状回でほぼすべての神経細胞が未成熟な状態でとどまっている「未成熟歯状回」という表現型がいくつかのモデルマ
ウスで共通して生じていることを発見し、これと同様な状態がヒト患者の死後脳でも見られることを明らかにした。本講演
では、遺伝子改変マウスを用いた精神疾患の研究を例にとりつつ、遺伝子・脳・行動の関係について考えてみる。
:精神発達とエピジェネティクス
久保田健夫(山梨大学)
脳は、学習や精神ストレス等の外界の環境の影響を受けて変化する「可塑性」を有する臓器である。一方、DNAは「親
から受け継ぐ生涯変わらないもの」の代名詞のように扱われて来た。しかしながら、近年、DNA上に施され、遺伝子の調
節を担っている化学修飾は、環境の影響を受けて変わり得ることがわかってきた。すなわち、「脳に対する環境負荷→脳内
のDNAの修飾変化(エピジェネティクス変化)→遺伝子の働きの変化→脳機能の変化」という流れが判明し、これが脳の
可塑性の遺伝学的な基盤になっていると考えられるようになってきた。以上をふまえ、本講演では「環境がエピジェネティ
クスのメカニズムを介して、どのように小児や胎児の脳の発達に影響を及ぼすか」について概説する。また、エピジェネティ
クスが脳の機能発達やその障害の理解に貢献するだけでなく、「脳の良好な発達を促す環境」を探す際の物差しになりえる
可能性についても言及する。
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