第 49 回日本理学療法学術大会 (横浜) 5 月 31 日 (土)14 : 50∼15 : 40 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 基礎!運動生理学 1】 1100 異なるトレッドミル運動を行った時の乳酸閾値と心拍数について 高橋 尚,小原 謙一,山形 隆造,飯田 達也,大村 真悟,古我 知成 川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科 key words 乳酸閾値・心拍数・トレッドミル 【はじめに,目的】 乳酸閾値(LT)とは,段階的に運動負荷量を増加させた時に,急激に血中乳酸濃度が上昇するときの運動強度である。LT レベ ルの運動負荷は,耐久性向上を目的とした運動に適しており,身体へのストレスも少ないため高齢者や障がい者に推奨されてい る。屋内で使用可能なトレッドミルは,速度を段階的に上昇させることで負荷量を増加させることが可能で,LT の決定におい て有効である。しかし,走行が困難な体力の低下した人たちには不可能な場合がある。近年発売されているトレッドミルは,傾 斜角度を変化させることが可能なものもあり,段階的な角度増大によっても LT が出現することが予測される。本研究の目的は, 段階的な角度増大による運動負荷時の LT を明らかにすること,および速度上昇もしくは角度増大による運動負荷によって決定 された LT 時の心拍数について比較検討することである。 【方法】 対象は健常な学生(男性 7 名,女性 3 名) ,年齢は 20.8±0.5 歳であった。角度増大による運動負荷として(実験 1) ,トレッドミ ル速度を 4.5km! h,傾斜角度 0̊ でトレッドミル運動を 3 分間行った。運動後 1 分間の休憩をとり,耳朶から採血して血中乳酸濃 度を測定した。同時に手首式血圧計を用いて心拍数を測定した。休憩後は傾斜角度を 1.7̊ 増大させて運動を再開させた。これを 13.6̊ になるまで 8 回繰り返した。速度上昇による運動負荷として(実験 2) ,トレッドミル傾斜角度 0̊,速度 3km! h でトレッド ミル運動を 3 分間行った。3 分間のトレッドミル運動後に 1 分間休憩して,血中乳酸濃度および心拍数を測定した。休憩後はト レッドミル速度を 1.5km! h 上昇させて運動を再開した。これを 15km! h になるまで 8 回繰り返した。実験 1 と実験 2 は別の日に 行い,順番は無作為とした。LT の解析は乳酸値解析ソフトウェアを用いて 2 点法で行い,有酸素性代謝でエネルギーが供給さ れる LT1,無酸素性代謝によるエネルギー供給の割合が多くなる LT2 を決定した。心拍数は運動強度に比例することが報告さ れている。そこで,LT1 および LT2 前後の心拍数から回帰直線を計算して,LT 時の心拍数を決定した。また,決定した心拍数 から,カルボーネン法を用いて LT 時の運動強度を算出した。統計解析には IBM SPSS Statistics 21 を用いて行い,実験 1 と 2 の結果について,正規性の検定後に対応のある t 検定,Wilcoxon の符号付順位検定を行い比較した。また,相関について Pearson の相関係数または Spearman の順位相関係数を用いた。危険率 5% 未満を有意差有りとした。 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,演者所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した (承認番号:417) 。各対象者には事前に本研究の趣旨と目的を 文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名捺印を得た。 【結果】 角度増大による運動負荷 (実験 1) では,LT1 の時の傾斜角度は 4.2±1.3̊,LT2 では 9.4±1.7̊ であった。LT の時点での心拍数は, LT1 で 92.2±13.7bpm,LT2 で 119.8±19.2bpm であった。また,LT の時点での運動強度は,LT1 で 15.0±6.0%,LT2 で 36.6± 12.6% であった。一方,速度上昇による運動負荷(実験 2) では,LT1 の時の速度が 6.4±1.0km! h,LT2 で 10.7±1.6km! h であっ た。LT の時点での心拍数は,LT1 で 97.2±20.8bpm,LT2 で 139.3±24.0bpm であった。また,LT の時点での運動強度は,LT 1 で 15.7±10.8%,LT2 で 49.8±16.0% であった。実験 1 および実験 2 から算出された LT1 の時の心拍数および運動強度に有意 な差は認められなかった。さらに,LT2 の時の心拍数および運動強度は,実験 2 と比較して実験 1 で有意に低かった (P<0.05) 。 また,実験 1 と 2 における LT1 および LT2 に達した時の心拍数の間に有意な相関はなかった。 【考察】 運動負荷量の増加に角度増大を用いた場合にも LT1 および LT2 が認められた。したがって,歩行速度が一定だとしても,角度 増大を用いた負荷量の増加によって LT が出現することが明らかとなった。LT2 の心拍数および運動強度は速度上昇による運 動負荷と比較して角度を増大した運動負荷で有意に低かった。血中乳酸濃度が急上昇する原因として,有酸素性代謝と無酸素性 代謝への移行,交感神経活動の亢進,速筋優位な活動などが報告されている。したがって,傾斜角度を増大させると速度を上昇 するよりも低い運動強度で上記のいずれかが生じた可能性が考えられる。 【理学療法学研究としての意義】 LT は速度を一定とした歩行でも傾斜角度を増大させることで求められることが明らかとなった。さらに,角度増大による LT 2 の心拍数および運動強度は速度上昇時のものより低かった。したがって,走行が困難な人たちの LT を安全に調べることがで き,さらに LT 程度の運動負荷も従来の方法より身体へのストレスが少なく,効率的な耐久性の向上が可能となることが期待さ れる。
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