詳細 - 日本心理学会

日心第71回大会 (2007)
因子負荷の単純構造は実現されているか
―心理学の実データを用いて―
1
繁桝算男1
〇岡田謙介12
2
東京大学大学院総合文化研究科
日本学術振興会
Key words : 因子負荷, 単純構造, 実データの解析
因子分析は心理学の研究になくてはならないツールの一つ
である.Thurstone(1947) は各行が極めて少数の(できれば
ただ一つの)絶対値の大きな値と,多数の絶対値の小さな値を
持つような因子負荷量行列を実質科学的に価値のある「よい」
結果と解釈し,単純構造 (simple structure) と名づけた.この
ような特徴を持つ因子負荷量行列が得られれば,因子は各々
限られた観測変数にのみ影響を与えることになる.Varimax
回転,Promax 回転などの通常用いられる回転は,なるべく
単純構造に近い因子負荷量行列を得ることを主要な目的とし
たものである.
しかし,因子負荷量の単純構造が実際にどれだけ実現でき
たかを定量的に検証することは,これまでほとんど行われて
こなかった.そこで本研究では,心理学の代表的な質問紙の
因子構造を例にとり,因子負荷の単純構造がどれだけ実現さ
れているか,また本来ならさらにどこまで単純度が実現でき
たのかを,以下に説明する単純度指標 LS および LS を最大
化する因子回転によって調べる.
単純度指標 LS
因子分析モデルは次の式で記述される.
x = Λf + e
1
(1)
(2)
(3)
i=1 j=1
を求める.B の各要素が 0 もしくは 1 であったとき,w は最
大値 1 をとる.w を最小値(最も「複雑」であったときの値)
«10 1
«10 1
„
p
m „
X
X
m
m
1
1
−1 −1
+η
+η
=
(4)
s=p m
m
m
i=1 j=1
を使って次のように正規化し,指標 LS (Loading Simplicity
index) とする.この優越性は数値実験で確かめられている.
w−s
(5)
LS =
1−s
LS を最大化する因子回転
Okada et al.(2006) は,単純度指標 LS を直接最大化するよ
うな因子回転の方法を提案した.ここでは,Jennrich(2004)
の数値的射影勾配法を用いた最適化計算を行っている.
因子分析における回転は,一般にある目的関数
F (Λ) given Λ ∈ M
の最小化問題と見ることができる.M は直交回転のとき Λ と
同じサイズの列正規直交行列であり,斜交回転のときは Λ と
同じサイズで列が長さ 1 のベクトルとなる行列である.ρ(Λ)
を Λ から M への射影
1
1
を準備し,B = H − 2 ΛC − 2 とする.ここで
p
m
X
X
2
w = p−1 m−1
(b2ij + ε)10bij
回転結果
ρ(Λ) = Λ(diag(Λt Λ))− 2
ここで,x は p 要素から成る観測変数ベクトル,e は p 要素
から成る独自因子(誤差)ベクトル,f は m(≤ p) 要素の因子
得点ベクトル,そして Λ は p × m の因子負荷量行列である.
ただし x は中心化済みであるとし,通常の識別性のための仮
定をおく.
近年,Lorenzo-Seva(2003) は単純構造の度合いを定量的に
評価できる新しい指標 LS を提案した.まず,二つの対角行列
C = diag(Λt Λ), H = diag(ΛC −1 Λt )
Figure 1.
(6)
(7)
は F の Λ における偏微分(勾配,グラジ
と書し,また dF
dΛ
エント)行列とする.α > 0 を定めたとき,射影勾配法のア
ルゴリズムは次の 2 ステップを繰り返す.
を計算する
(1) G = dF
dΛ
(2) Λ を ρ(Λ − αG) で置き換え,(1) に戻る
射影勾配法は強力な手法であったものの導関数の導出が必
要という弱点があった.この問題を各点での数値微分によっ
て置き換え解消したのが数値的射影勾配法である.
実データの分析
Aluja et al.(2005) は NEO-FFI-R のスイスとスペインとに
おける因子構造を比較した.彼らは,主成分分析に Varimax
回転を適用した結果を示している (p.597, Table 2).本研究で
は,彼らの結果に Okada et al.(2006) の LS を最大化する因
子回転を再度適用した.結果を Figure 1 に示す.原論文の数
値からは十分な単純構造が得られているように見えた結果で
あったが,単純度指標 LS の値にすると原論文では最大値の
およそおよそ 9 割ほどの単純構造度合にとどまっていること
がわかった.
発表時には,さらに心理学のさまざまなデータについて,
一般論文でどれだけの単純構造が得られているかを検証する.
引用文献
Aluja, A., Garc´ıa, O., Rossier, J., & Garc´ıa, L. (2005) Personality
and Individual Differences, 38, 591–604.
Jennrich, R.I. (2004). Psychometrika, 69, 475–480
Lorenzo-Seva, U.(2003). Psychometrika, 68, 49–60.
Thurstone, L. L.(1947). Multiple factor analysis. Chicago, IL: University of Chicago Press.
Okada, K., Tahara, H., Hoshino, T. & Shigemasu, K. (2006) the
71st Annual Meeting of the Psychometric Society. #165
(OKADA Kensuke, SHIGEMASU Kazuo)