Page 1 Page 2 学位(専攻分野)” 博 士 (理 学) 学位授与の日付, 平 成 ー

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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新たな解析システムを用いたマウス反射性眼球運動にお
ける一酸化窒素合成酵素の役割に関する研究( Abstract_要
旨)
加藤, 明
Kyoto University (京都大学)
2000-01-24
http://hdl.handle.net/2433/181455
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
氏
名
か
加
とう
あきら
藤
明
学位 (
専攻分野)
博
士
(
理
学)
学 位 記 番 号
理
博
学位授与 の 日付
平 成 1
2年 1 月 2
4日
学位授与 の要件
学 位 規 則 第 4 条 第 1項 該 当
研 究 科 ・専 攻
理 学 研 究 科 化 学 専 攻
学位論文題 目
新 たな解析 システムを用 いたマ ウス反射性眼球運動 における一酸化窒素合成酵
1
3
6号
第 2
素の役割 に関す る研究
論 文調査委員
許
諾 )伊
藤維昭
鎗
教 授 平野丈夫
文
内
容
の
要
教 授 三木邦夫
旨
(
HOKR)と水平性前庭動眼反射 (
HVOR)は共 に種 を超 えてよ く保存 された反射性眼球運動であ
ORは頭部 の動 きと反対方
る。OKRは視覚刺激 の大 きな動 きに応 じてその動 きを追随す るよ うに生 じる眼球運動であ り V
水平性視機性眼球反応
,
向に生 じる眼球運動 であ り, いずれ も網膜上 の像の プ レを緩和す る機構である。視覚刺激および頭部 の動 きによる前庭器官
の持続的 な刺激 は,OKRおよび VORの強度 を変化 させ る適応現象を誘導す るOこの適応変化 は学習 ・記憶のモデルの一つ
であ り,感度および定量性 に優れているO マ ウスは遺伝子操作が容易な唯一 の噂乳類であ り,脳 の高次機能 を解析す る上で
有用 な動物種 である0 本研究 では前半でマウスにおける眼球運動 の測定解析 システムを構築 し,OKRの適応の誘導条件お
よび脳 の責任領域 を明 らか と した。後半ではこの実験系 を もちいて OKRの適応 における一酸化窒素
(
NO)の役割 について
解析 したO
まず, ター ンテー ブル, ス ク リー ンお よび赤外線 カ メ ラか らな る実験装 置 の マ ウスへの至適化 を図 り, HOKRお よび
HVOR ともに定量的 に測定 で きることを確認 した。C5
7BL/6系統 マウスにお けるそれ らの動特性 は,質的 にこれまで解析
されて きた他動物種 と変 わ らない ことを確認 した。「
網膜上の滑 り」が十分 に生 じると考え られ る条件 で持続 した視覚刺激 を
与 え ることによ り,C5
7BL/6マウスで HOKRに適応変化 を誘導す ることに成功 した。HOKRの適応 に関与す る神経回路
を検証す るために, イボテ ン酸 の投与 および電気的手法 によ り小脳片葉 を選択的 に破壊 したマウスおよび 3-アセチル ピリ
ジンの腹腔内投与 による下 オ リーブ核 を損傷 したマウスは,適応反応が消失す ることを観察 し, この適応反応が他動物種 と
同様 に下 オ リーブ核 ・小脳片葉回路 で制御 されていることを明 らか とした。 さ らに,遺伝子 ノ ックアウ トマウスの作製 に多
用 され る 1
2
9系統 マウスは,C5
7BL/6系統 に比べて低 い HOKRの利得 と位相 の遅れを観察 し,1
2
9系統 マウスが神経回路
に異常 を有す る可能性 を示唆 した。
反射性眼球運動 の適応 は小脳平行線維 ・プルキ ンエ細胞間 シナプスの伝達効率が長期間 にわた って低下す る長期抑圧現象
を細胞基盤 とす るとの仮説 が提唱 されている。 長期抑圧 には NOを介す る経路が あることが示唆 されているが,実験 システ
ムによ り結果の一致 を見 ていない。 例 えば, 小脳 における NO生成の主酵素 であると考 え られ る Ne
u
r
o
n
a
lNi
t
r
i
cOx
i
d
e
Sy
nt
h
a
s
e(
nNOS
)欠損変異 マウスにつ いて小脳長期抑圧 を解析 した論文で は,nNOS変異 マ ウスにおいて,小脳 スライス
での長期抑圧 は不全であるが, プルキ ンエ細胞 の分離培養 の実験系での長期抑圧 は正常であることが報告 されている。生体
内 での NOお よ び n
NOSの役割 を検証 す るた め に
NO合成 阻害剤 (
L型NMMA)の小脳 片 葉 へ の局所投 与群 お よび
nNOS欠損変異 マウスの反射性眼球運動 を解析 したoその結果,L型NMMA投与群 は HOKRの適応 を消失 した.一方で,
不活性異性体である D型NMMA投与群 にお ける HOKRの適応 は正常であ った。 また nNOS欠損変異 マウス も HOKR
の適応 の減弱を示 した。これ らの結果 に基づいて,HO
KRの適応 には小脳片葉 にお ける NOを介 した神経可塑性が必須であ
NOSであることを示唆 したO
るこ,
i, またその生成酵素 の主体 は n
,
,
グ リア線維性酸性蛋 白質 (
GFAP) の欠損変異 マウスは小脳長期抑圧 に不全 を示 し,瞬 目条件反射学習 に異常 を示す こと
-2
3
4-
が報告 されている (
参考論文 2
)
。 このマウスについて反射性眼球運動 を解析 した ところ, HOKRの動特性および適応 とも
に異常 を認 めなか った。 これ らの結果 に基づいて,慢性的な遺伝子欠損 のみな らず,薬理学的実験手法 などを用 いた急性阻
害の実験や生体か らの運動学習中の神経活動記録の必要性 を示唆 した0
1ではアス トロサイ トに特異的な中間径 フィラメ ン トの構成蛋 白質である GFAPの欠損変異 マ ウスを作製 し,
そのマウスの中枢神経系 の発達が異常 を示 さないことを明 らか と した。また,G
FAPがプ リオ ンの複製 に関与す るとす る仮
参考論文
説 を検証 し,明快 に否定 した。参考論文 2では同上 の変異 マウスの小脳 ス ライスで,小脳最期抑圧 に不全を示す こと, また
瞬 目条件反射学習 に異常を示す ことを観察 し,脳 の高次機能 におけるアス トロサイ トの関与を示唆 したo
論 文 辛 童 の 結 果 の 要 旨
(
HO鑑R)と水平性前庭動眼反射 (
HVOR)は共 に種を超えてよ く保存 された反射性眼球運動 であ
る。OKRは視覚刺激の大 きな動 きに応 じてその動 きを追随す るように生 じる眼球運動 であ り,V
ORは東部の動 きと反対方
水平性視機性眼球反応
向に生 じる眼球運動である。 いずれ も網膜上の像 の プレを低減す る機構 と して位置付 け られ る。視覚刺激および頭部の動 き
による前庭器官の持続的な刺激 は,OKRおよび VORの強度 を変化 させ る適応現象 を誘導す る。この適応変化 は学習 ・記憶
のモデルの一つであ り,感度および定量性 に優れた特徴 を持 っ
O
マウスは遺伝子操作が容易な唯一の嘱乳類であ り,脳の高
次機能を解析す る上で有用な動物種であ り,近年 その利用 は著 しく増加 している。 申請者 は, マウスを利用 した学習 ・記憶
機構 の解析 を目指 して,前半でマウスにおける眼球運動 の測定解析 システムを構築 し,HOKRの適応の誘導条件および脳 の
責任領域 について検討 し,後半ではこの実験系を もちいて HOKRの適応 における一酸化窒素
(
NO)を介 した神経可塑性 の
意義 を解析 した。
申請者 は,まず ター ンテーブル,スク リー ンおよび赤外線 カメラか らなる実験装置のマウスへの至適化を図 り,HOKRお
よび HVO
Rともに定量的に測定で きることを確認 した。 C5
7BL/6系統 マウスにおけるそれ らの動特性 は, 質的にこれま
,
で解析 されて きた他動物種 と変わ ら射 1ことを確認 した。さ らに 「
網膜上の滑 り」が十分 に生 じると想定 され る条件で持続
した視覚刺激 を与 えることにより,C5
7BL/6マウスで HOKRに適応変化 を誘導す ることに成功 した。HOKRの適応 に関
与す る神経回路を検証す るために, イボテ ン酸 の投与 および電気的手法 によ り小脳片葉 を選択的に破壊 したマウスおよび 3
-アセチル ピリジンの腹腔内投与 による下 オ リーブ核 を損傷 したマウスを作製 した。これ らのマウスでは,適応が消失す るこ
とを観察 した。 これ らの結果 はこの適応 の制御の責任領域が種 を超 えて保存 されていることを明 らか とした もので, マウス
を利用 して眼球運動 の学習 ・記憶機構の解析 をす る上で必須 な基礎的知見を もた らした。 さ らに, 申請者 は遺伝子 ノ ックア
ウ トマウスの作製 に多用 される 1
2
9系統 マウスを解析 し, それ らが C5
7BL/6系統 に比べて低 い HOKRの利得 と位相 の遅
れを示す ことを明 らか とした。 この結果 は 1
2
9系統 マウスが神経回路 に異常 を有す ることを示唆 している。 したが って, 申
請者 は遺伝子変異 マウスを利用 して眼球反射運動の解析 をす る場合 に,十分 な戻 し交配 による遺伝的背景の均一化 に配慮す
る必要があることを指摘 した。
反射性眼球運動の適応 は小脳平行線維 ・プルキ ンエ細胞問 シナプスの伝達効率が長期間 にわたって低下す る長期抑圧現象
Oを介す る経路があることが示唆 されているが,実験 システ
を細胞基盤 とす るとの仮説が提唱 されている。長期抑圧 には N
ムにより結果の一致を見ていないo例えば,小脳頼粒細胞 に豊富 に存在する Ne
u
r
o
n
a
l
Ni
t
r
i
cOxi
d
eS
y
nt
ha
s
e(
nNOS
)欠
損変異マウスにつ いて小脳長期抑圧 を解析 した論文では,n
NOS変異マウスにおいて,小 脳 ス ライスでの長期抑圧 は不全で
あるが, プルキ ンエ細胞 の分離培養の実験系での長期抑圧 は正常であることが報告 されている。同様の不一致 はN
O合成阻
害剤の投与 および C
a
g
e
dNOの投与実験 によって も観察 されている。 申請者 は眼球運動 の適応 に NOを介 した制御機構が
必須であるか否かについて, この研究で確立 した実験 システムを用 いて解析 した.用い た手法 は小脳片薫の局所へ のNO合
成阻害剤 (
L型NMMA)の投与実験 と nNOS欠損変異 マウスの利用である。その結果,L型NMMA投与群 はHOKRの
NMMA投与群 における HOKRの適応 は正常であ った。 これ らの結莱
適応 を消失 した。一方で,不悟性異性体である D型は HO
KRの適応が,その責任領域である小脳片葉 の場で NO産生を必要 とす ることを強 く示唆 した。また,nNOS欠損変異
マウスも HOKRの適応の減弱を示 した。 これ らの結果 に基づいて,HOKRの適応 には小脳片葉 における NOを介 した神経
可塑性が必須であると結論 した。 また この研究 は,小脳片葉で反射性眼球運動の適応反応 に利用 され る NO生成酵素の主体
が3
種類の NOS(
nNOS
,
e
NOS
,および i
NOS
)の内,nNOSであることを示唆 した点で新規性が高 い。
-2
3
5-
一方,小脳長期抑圧 に不全 を示 し,瞬 冒条件反射学習 に異常 を示す ことが報告 されて いるグ リア線維性酸性蛋 白質
(
GFAP)の欠損変異マウスについて解析 したところ,HOKRの動特性および適応 ともに異常 を認めなか った。瞬目条件反射
学習および反射性眼球運動の適応反応 ともに小脳最期抑圧 に依存す るとす る仮説 とは一致 しない結果であった.現在のとこ
ら,この矛盾が生 じる機序 は不明である。申請者 は,i
nvi
t
r
oと i
nvi
voの実験 システム間の差異 と慢性的な遺伝子欠損を導
入 した場合の問題点を指摘 した。今後の課題である。
本研究で確立 された新たな実験 システムは感度,定量性および再現性 に優れたものであり,マウスの遺伝学的解析手法の
発展 とあいまって今後の運動学習の分子機構の研究を加速するものとして評価できる。 今後の多角的な解析が期待される。
以上, 申請論文 はマウスにおける反射性眼球運動の測定 システムを確立 し,それを用いて水平性視機性反応の適応現象に
NO を介 した神経可塑性が必須であること,また,中心的役割を果たす酵素が nNOSであることを明 らかに した。本研究で
得 られた知見は小脳 に依存 した運動学習の分子機構の理解 に大 きく貢献 したと考え られる。 よって,本論文 は理学博士の学
位論文 として価値あるものと認める。
なお,主論文および参考論文に報告 されている研究業績を中心 とし, これに関連 した研究分野 について試問 した結果,合
格 と認めた。
-2
3
6-