太陽研連シンポジウム 2014.2.18 太陽フレアに伴う電離圏突然擾乱 (SID) - チュートリアル 小川 忠彦 (NICT) Cycle 24 Sunspot Number Prediction (2013.7) Average Daily Sunspot Area (% of Visible Hemisphere) 24 23 24 20 21 22 Year 2013 23 2013 太陽フレアにより X 線や極紫外線(EUV)の放射強度が急増すると、 地球電離圏の D - F 層中の高度 60 - ~400 km の電子密度分布が急増 し、特に VLF - HF (3 kHz - 30 MHz) 帯の電波伝搬に各種の擾乱 (電離圏突然擾乱:Sudden Ionospheric Disturbances : SID)が発生する。 HF 帯で発生するデリンジャー現象はその発見(1937年)以降、今でも 最も良く知られている現象であろう。また、電離圏全電子数(Total Electron Content :TEC)の突然増加は、急発展している GPS (GNSS) の 実利用に少なからず影響を及ぼしているはずである。 20 - 30 年前までは VLF - HF 帯電波は重要な通信・利用周波数帯 であったため、実利用的観点からも SID 現象は盛んに観測・研究されて いたが、今ではそうではないと言える。 ここでは、忘れ去られようとしている(?)各種の SID 現象について、 発生の仕組みと過去の観測例を概観する。 太陽フレア時に急増する X 線(1 - 90 Å)と EUV 線(90 - 1030 Å)が 電離圏に引き起こす各種の電離圏突然擾乱(SID)現象 SWF (Short Wave Fadeout) : 短波の突然消失(デリンジャー現象、1937 年) SFD (Sudden Frequency Deviation) : 短波周波数の突然変動 SITEC (Sudden Increase in Total Electron Content) : 電離圏全電子数の突然増加 SCNA (Sudden Cosmic Noise Absorption) : 宇宙電波雑音の突然吸収 SPA (Sudden Phase Anomaly) : VLF-LF 波位相の突然異常 SEA (Sudden Enhancement of Atmospherics) or SES : VLF-LF 波強度の突然増加 SFA (Sudden Field Anomaly) : LF波強度の突然変動(VLFに比べて複雑な時間変動) SFE (Solar Flare Effect) : 地球磁場強度の ”かぎ針” 型変化 (Geomagnetic Crochet ともいう) ….. フレアによる EUV と X 線の急増 電子密度急増 Altitude F 150 宇宙電波 GPS SITEC E HF SWF 90 D 60 km SFE SPA/SEA/SFA ELF,VLF,LF,MF SFD SCNA フレアに伴う受信強度の周波数依存性 D層(高度~ 60-90 km) 電子密度の急増加による 反射高度の低下 D層電子密度の 急増加による 電波吸収の増加 受信強度 増加 50~75 kHz 減少 ELF LF VLF HF MF 1 kHz 10 kHz 100 kHz 1 MHz 10 MHz (300 km) (30 km) (3 km) (300 m) (30 m) 周波数(波長) (Mitra, Ionospheric Effects of Solar Flares, 1974) “ http://www.spaceweather.com/solarflares/topflares.html “ 他 1975年以降の大きなX線(≧X9.0)フレア Average Daily Sunspot Area (% of Visible Hemisphere) ≧X9.0 24 Year 1982.6-7 (3B/X9.8, 3B/X7.1, …) 2013.5 (X1.2 ~ 3.2) No Ranking 1 22 33 44 55 66 77 88 99 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 1 2 2 3 4 5 5 6 7 7 8 9 9 9 9 9 9 10 10 11 11 11 12 12 13 13 14 15 15 15 Y/M/D Flare Class 2003/11/04 1989/08/16 2001/04/02 2003/10/28 2005/09/07 1978/07/11 1989/03/06 2001/04/15 1984/04/24 1989/10/19 1982/12/15 1982/06/06 1991/06/01 1991/06/04 1991/06/06 1991/06/11 1991/06/15 1982/12/17 1984/05/20 1991/01/25 1991/06/09 2003/10/29 1982/07/09 1989/09/29 1991/03/22 1997/11/06 1990/05/24 1980/11/06 1992/11/02 2006/12/05 X28.0 / 3B X20.0 / 2N X20.0 / ? X17.2 / 4B X17.0 / 3B X15.0 / 1B X15.0 / 3B X14.4 / 2B X13.0 / 3B X13.0 / 4B X12.9 / 2B X12.0 / 3B X12.0 / 1F X12.0 / 3B X12.0 / 4B X12.0 / 3B X12.0 / 3B X10.1 / 3B X10.1 / 3B X10.0 / SF X10.0 / 3B X10.0 / 2B X 9.8 / 3B X 9.8 / ? X 9.4 / 3B X 9.4 / 2B X 9.3 / 1B X 9.0 / 2B X 9.0 / ? X 9.0 / ? Impulsive 型フレアに伴う各放射線の時間変化 (Donnelly, JGR, 1976) Impulsive Component Normalized Solar Flux Components Source region : 104 - 106 oK ~ 5 min Related Slow Component Source region : (1 - 30) x 106 oK - 硬X線(< 1Å) D 層電離 - EUV(90 -1027Å) ・E, F 層電離 ・強度は最大で静穏時の数十 % 増 - マイクロ波電波 - 継続時間 ~5 分 - コロナからの軟X線(1 - 90Å) ・D, E 層電離 ・強度は最大で静穏時の約1,000倍 - EUV E, F 層電離 1 keV ~ 12.4 Å 1Å = 0.1 nm ほぼ同時に開始 - 主に軟X線(1 - 8Å)、EUV も Very Slow Component Source region : (1 - 30) x Time (min) 106 oK Slow 型フレアでは Impulsive 成分 は無く、5分以上の時間をかけて各 種放射線を徐々に放射。各放射成 分間に明確な対応関係は無い。 2013年5月14日の X3.2 フレアに伴う Hard / Soft X ray, EUV (Fe XI, Fe XVIII, He II Lyman Alpha), EUV-A, EUV-B, Hiraiso 2.8 GHz) 強度の時間変化 ・Impulsive 2.8 GHz Burst (Hiraiso) ・Impulsive Fe XI Very Slow Component EUV 300 Altitude (km) モデルフレアの Impulsive EUV 成分による電子の 生成率 (Donnelly, 1976) 200 (主に 90 - 911Å) Impulsive 成分による生成率 の高度プロファイルは、主に EUV 90 ~ 911Åによる E - F 層電離が卓越 この様なプロフィルは非フレア 100 時のそれと類似し、F 層では 非フレア時と同程度の生成率 107 になる 非フレア時の生成率 (Heroux et al., 1974) 108 109 Electron Production Rate (m-3 s-1) 300 Altitude (km) モデルフレアの Slow Xray / EUV 成分による電子 の生成率 (Donnelly, 1976) X Y Z 200 Impulsive 成分に比べて、 Slow 軟X線による D - E 層 の電離率は非フレア時に 比べて非常に大きい 非フレア時の生成率 (Heroux et al., 1974) F 層の電離率は非フレア時 100 のそれよりも低い 107 1-8Å 108 109 Electron Production Rate (m-3 s-1) 8 - 90 Å 1968/7/11-12 SCNA (0.5 - 8Å) 10 MHz SPA 9.34 kHz phase over 4,000 km path 1961/6/11 SID の例 (Davies, “Ionospheric Radio”, 1990) (Alaska) ATS-6 141 MHz (Boulder) 1974/7/4 TEC SITEC (~ 5 % of NT) 1936/11/26 (Dellinger, J. H., Terr. Mag. and Atmos. Elec., 1937) 2+ フレアによる Ne 分布 (Ottawa) 9.57 MHz SWF SID の例 1961/9/27 1 Hz SFD WWV 10 MHz D (Boulder) H SFE Z Terrestrial Magnetic Record (Cheltenham, Md.) “Geomagnetic Crochet” JJY 60 kHz (LF 帯) 伝搬に現れたフレア 効果(SFA, SPA) 福島県 大鷹鳥谷 (おおたかどや)山 40 kHz ~200 km 空間波 地表波 ・ 通常、60 kHz 回 線では地表波と電 離層 1 回反射波 (空間波)は同程 度の強度 ・ 40 kHz は地表波 のみ ・ フレア時には 60 kHz の空間波のみ が影響を受け、40 kHz は無変化 佐賀県 羽金 (はがね)山 60 kHz 受信点 NICT 非フレア時には時間変化 はほとんど無し 13 May 2013 弱い SWF ・ 軟 X 線の弱い増 加に伴う弱いSWF と 60 KHz 受信強 度の減少(SFA)及 び位相進み(SPA) ・ 軟 X 線は増加 しているが、 60 kHz 強度は急回 復し、位相のサイ クルスリップが発 生(前半の弱いフ レアではこのよう な現象は無い) 急峻なD層 吸収の発生後に 反射高度が急低 下したため、強度 増加とサイクルス リップが発生? ・ この時刻頃に 正常状態に回復 ・ SWF も徐々に 回復 X1.7 S M E 0153 0217 0232 SFA SPA SITEC (電離圏全電子数の突然増加)現象の例 “太陽フレアによる全電子数突然増加” 小川、大部 (電波研季報、1985; J. Radio Res. Lab., 1986 他) 太陽活動が非常に活発であった 1982 年 6 - 8月に、(当時の)電波研・平磯センター において多数(59 回)の SITEC 現象を観測 解析に用いた観測データ : ・ 静止衛星 ETS-II 136-MHz のファラデー回転(電離圏のTEC) : 平磯 ・ 9.5 GHz 太陽電波バースト: 平磯 Average Daily Sunspot Area ・ 外国からの短波回線 : 平磯 (% of Visible Hemisphere) ・ 地磁気水平成分 : 平磯 ・ 「ひのとり」衛星フレアX線モニター データ : ISAS SITEC 現象の抽出 ・ 太陽天頂角 < 90o ・ 米国静止衛星で観測された軟X線 (1 - 8Å)強度 ≥ M2 21 ・ フレア時に 9.5 GHz 電波バースト有り Year ・ SITEC 波形が電離圏固有の波動 1982.6-7 (3B/X9.8, 3B/X7.1, …) (TID 等)で乱されていないこと 例1 Impulsive 型 3B / X1.2 フレア (1982.6.14) ・ SITEC は impulsive 成分の開始とともに増 加し、この成分が止ん だ頃に最大になり、そ の後は軟X線などの slow 成分による電離と 電離圏の化学反応に 応じて変化 1 keV ~ 12.4 Å 10 keV ~ 1.24 Å 軟X線(1~12Å) ・ SITEC が最大に なる頃 SWF も最大 硬X線(<1Å) ・ フレア開始後に、impulsive 成分である硬X線と 9.5 GHz バーストが5分程 度継続 SITEC 例2 Impulsive 型 1B / X2.6 (1982.6.21) 例3 最大級 Impulsive 型 3B / X9.8 フレアランキング12位 (1982.7.9) 例4 Slow 型 1B / X3.6 フレア (1982.6.12) Slow 型フレアでは Impulsive 成分は無く、5分以上の時間 をかけて各種放射線を徐々に 放射。各放射成分間に明確な 対応関係は無い。 ・ フレア開始後に 9.5 GHz バースト強度は上昇 ・ SITEC は10 分遅れで開始 (impulsive 型フレアではこの ような遅れは無し) ・ SITEC, SWF, SFE の時間 変化は類似しており、impulsive 型フレアの場合と同じ 1979年3月 - 1983年8月に 観測された 188 のImpulsive 型フレアに伴うSITEC の最大 増加分(ΔNTS)と 9.5 GHz フラックスとの関係 80 ・ 9.5 GHz フラックスが 1,000 SFU を超えると SITEC が 確実に発生。 両者間に相関 あり ・ 下図で ΔNTS が低くなって いる理由は、EUV が太陽・ 地球大気で吸収されるため 80 1982/12/15 X12.9 / 2B ? 同じく、ΔNTS と 軟X線(1~8Å) 強度との関係 M2 X10 ・ 軟X線強度が X1 を超 えると SITEC が確実 に発生。 ・ 下図で ΔNTS が低く なる理由は、軟X線や EUV が太陽・地球 大気で吸収されるため X1 M2 まとめ フレアの時間発展 ・ Impulsive 型 : - フレア開始後 5 分以内に硬X線、EUV、9.5 GHz 波をほとんど同時に impulsive に放射 - EUV(90~1030 Ǻ)による E - F 層異常電離が Impulsive 型 SITEC を誘発 - Impulsive 放射が止んだ後に軟X線(1~90 Ǻ )を主とする slow 成分(slow EUV も含む)が最大に。この放射により SWF, SITEC, SPA, SEA, SFE, SCNA など の SID が発生 ・ Slow 型 : - Impulsive 成分が弱いか、無し - SITEC の立ち上がりは緩慢で5分以上(slow 型 SITEC) - 9.5 GHz バーストと SITEC の開始時刻は必ずしも一致しない - 強い slow 型 EUV により大きな SITEC が発生する場合がある - その他の SID も発生 両型フレアとも、EUV 放射の増加が弱いとか、フレア位置が太陽縁近く、あるいは 太陽天頂角が大きい場合には、SITEC などの SID が発生しない場合がある フレア規模と SITEC の関係 - Impulsive 型フレアでは軟X線強度と SITEC の大きさ(ΔNTS )には良好な関係。 9.5 GHz バーストと ΔNTS にも関係があり - 1982年 6~8 月では、 ΔNTS の最大値は背景 TEC の10 % 前後と推定される
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