当院における乳癌治療の現状(手術を中心に)

当院における乳がん治療の現状
富⼭労災病院外科 宗本 将義
はじめに
 乳癌の⼿術様式は拡⼤乳房切除術から胸筋合併切除術、胸筋
温存乳房切除術、乳房温存術、そしてセンチネルリンパ節⽣
検による腋窩郭清省略へと切除する臓器が減り、胸⾻傍リン
パ節、⼤⼩胸筋、乳房、腋窩リンパ節を切除しない⼿術と
なってきた。
 現在の乳癌の治療は術前化学療法をはじめとし、種々の抗癌
剤、ホルモン剤があり、複雑化してきている。
 当院における乳がんの治療⽅針を症例を交えて報告します。
診断
 乳癌の診断は、マンモグラフィ、超⾳波にてほとんどが診断可能です。
 触診では早期の癌に関しては発⾒できないことが多く、しこりとして⾃覚
するようになる場合はある程度おおきくなってからである。
 マンモグラフィーは乳がんの初期症状の⼀つの⽯灰化を映し出すことがで
きる。
 超⾳波は乳腺内のしこりを確認できる。
・乳腺の多くが脂肪に置き換わっている⼈、乳房が⼤きく深部まで超⾳
波が届かない⼈はマンモグラフィーが適している
・若年、強い乳腺症がある⼈は超⾳波が適している。
マンモグラフィー
基本は内外斜位⽅向撮影(MLO)
頭尾⽅向撮影(CC)をとる。
⼿術
 乳房切除
胸筋合併切除
胸筋温存乳房切除術
乳房部分切除(円錐切除、部分切除)
 腋窩リンパ節
腋窩郭清、センチネルリンパ節⽣検
⼿術法
★
腫瘍径2cm以下、N0の早期癌に対し、20年間⽐較検討(Veronesi)
乳房切除群
乳房温存⼿術+腋窩郭清+乳房照射
局所再発率
残存乳房再発率
2.3%
8.8%
しかし両軍間で遠隔転移等に有意差なし、⽣存率、死亡率でも有意差なし
★
腫瘍径4cm以下の乳がんを対象とした検討(Fisher)
乳房温存術
残存乳房再発 39.2%
乳房温存術+乳房照射
残存乳房再発
14.3%
以上より、乳房温存⼿術では残存乳房再発を乳房切除術よりも⾼く認めるものの両群
間で⽣存率に差はないことが確認された。
乳房全摘術
乳房部分切除
⼿術直前に腫瘍より2cmのマージンをとってジアグノグリーンを注⼊する。
術中迅速診断にて乳頭側、頭側、尾側、外側の断端を診断する
センチネルリンパ節⽣検(⾊素法)
⼿術直前にインジゴカルミンを
傍乳輪へ注⼊
染⾊されたリンパ節
すべてをセンチネル
リンパ節として術中
迅速診断へ提出
症例1 77歳(MMG)
市の集団検診で異常を指摘
外側
内側
MLO(内外斜位⽅向)
CC(頭尾側⽅向)
超⾳波
15mm×16mm⼤のmass
本⼈希望により
乳房全摘術+センチネルリンパ節⽣検
症例2 49歳(MMG)
右乳房腫瘤を⾃覚
外側
内側
MLO(内外斜位⽅向)
CC(頭尾側⽅向)
超⾳波
乳房部分切除術+センチネルリンパ節⽣検
術後残存乳房照射(2Gy×25回)
13mm×9mm⼤のmass
症例3 66歳(MMG)
右乳癌術後、左乳房腫瘤を⾃覚
外側
内側
MLO(内外斜位⽅向)
CC(頭尾側⽅向)
超⾳波
40mm⼤のmass
乳房全摘術+センチネルリンパ節⽣検
乳癌
病期分類
サブタイプ分類
乳癌は、ER、PgR、HER2、Ki-67indexによるサブタイプ分類される。
術後薬物療法アルゴリズム
ER+ PgR+ HER2+
ER+ PgR+ HER2-
ER- PgR- HER2+
ER- PgR- HER2-
乳癌に使⽤する主な抗癌剤
まずは、アンスラサイクリン系レジメン
その後、タキサン系レジメン
±ハーセプチン
乳癌に⽤いられるホルモン療法剤
分類
1)エストロゲン機能抑制
(抗エストロゲン剤)
a) SERM
b)
⼀般名
略語
商品名
備考
タモキシフェン
トレミフェン
TAM
TOR
ノルバデックス
フェアストン
閉経前後
閉経後
ファスロデックス
閉経後
ゾラデックス
リュープリン
閉経前
フルベストラント
SERD
2)エストロゲン産⽣抑制
a) 卵巣機能抑制
(LHRHアゴニスト)
b)アロマターゼ阻害薬
①⾮ステロイド
②ステロイド系
3)⻩体ホルモン療法剤
ゴセレリン
リュープロレリン
ZOL
LPR
アナスタロゾール
レトロゾール
エキセメスタン
ANZ
LET
EXE
アリミデックス
フェマーラ
アロマシン
酢酸メドロキシ
プロゲステロン
MPA
ヒスロンH
SERM:選択的エストロゲン受容体機能調整物質
SERD:選択的エストロゲン受容体機能抑制物質
閉経後
閉経前後
術後内分泌療法
転移、再発乳癌の治療アルゴリズム
症例1 77歳(MMG)
市の集団検診で異常を指摘
外側
内側
MLO(内外斜位⽅向)
CC(頭尾側⽅向)
超⾳波
15mm×16mm⼤のmass
本⼈希望により
乳房全摘術+センチネルリンパ節⽣検
<病理診断>
Invasive ductal carcinoma
11×10mm ER+、PgR+、HER2
Ki-67 index 5-10%
Stage
Ⅰ
score0
ホルモン剤内服中
症例2 49歳(MMG)
右乳房腫瘤を⾃覚
外側
内側
MLO(内外斜位⽅向)
CC(頭尾側⽅向)
超⾳波
乳房部分切除術+センチネルリンパ節⽣検
<病理診断>
Invasive ductal carcinoma
10×9mm ER+、PgR+、HER2
Ki-67 index 30%
Stage
Ⅰ
13mm×9mm⼤のmass
score0
術後残存乳房照射
(2Gy×25回)
ホルモン剤内服
症例3 66歳(MMG)
右乳癌術後、左乳房腫瘤を⾃覚
外側
内側
MLO(内外斜位⽅向)
CC(頭尾側⽅向)
超⾳波
35mm⼤のmass
本⼈希望により
乳房全摘術+センチネルリンパ節⽣検
<病理診断>
Invasive ductal carcinoma
50mm×20mm ERー、PgRー、HER2 score3
Ki-67 index 30%
Stage
ⅡA
術後化学療法開始
今後は
ハーセプチン追加
まとめ
 乳癌の診断に関しては以前と著変ないが、PET、CT、MRI等
の画像所⾒が発達するにつれてより詳細な病期分類が可能に
なってきた。
 現在、乳がんの⼿術に関してはセンチネルリンパ節を併⽤し
た郭清の省略、部分切除の⽅向へ進んできた。
 サブタイプ分類が出現し、より患者ごとの治療計画が⽴てら
れるようになってきた。
 抗癌剤、ホルモン剤の多様化により、⻑期の予後が認められ
るようになってきている。