あおい 第32号 平成 26 年6月 20 日 発行者:細谷 美明 (港区立御成門中学校長) 「考える授業」を考える② 前号で触れましたが、指導主事時代、教育研究員の総合的な学習の時間の部会を担当したと きに「課題」づくりだけで 1 年かけた学校があり、多くの学校に紹介したことがありました。 確かに、課題というのは、辞書を調べればすぐに答えが出てしまうものでは課題とはいえませ ん。簡単に言えば、誰もが取り組んだことのないものとか結論が出ていないものが課題と呼べ るものではないでしょうか?ですから、この学校では 1 年生のときに、課題の精選作業を行う ために何度も生徒と先生が面接を行っていました。そのときに、先生方が生徒に示したものが 前号の裏面で示した資料にある様々な「学習活動」です。今回はそのうち代表的なものを紹介 しましょう。 ひとつは「KJ法的な手法で課題を設定する」です。 「KJ法」とは、川喜田二郎氏が考案し た発想法で、川喜田氏の頭文字をとって「KJ法」と名づけられました。正式なものはかなり 本格的に研修しなければ使いこなせませんし、この発想法は商標登録され、正式な研修を受け た人でないと応用してはいけないため、生徒に行わせるものは簡略にした方法です。ですから 「KJ法的な手法」という表現になったのです。この「あおい」第 25 号で触れたことのある 社会科の事例で説明しましょう。社会科歴史的分野の「ヨーロッパ人との出会いと天下統一」 の単元で用いたものです。教材は「南蛮屏風図」でした。これを第 1 時の冒頭部分で生徒にス クリーンに大きな画像にして提示し、7 分間見せ、その後気付いたこと、疑問に思ったことな どを用意した名刺大の紙に書かせました。その際、書くことは「1 枚に 1 項目」 、必ず「いつ (when) 」「どこで(where) 」「誰が(who)」「何を(what)」「どういった理由で(why)」 「どういった方法で(how) 」の言葉を使って書くこと(5w1h) 、の 2 点をルールとしまし た。やりだすと生徒は止まりません。一人で何枚も書いていきます。たとえば、 「この絵の港は どこなのか?」 「この大きな船はどこからどういう経路で来たのか?」「この屏風図はいつの時 代を描いたのか?」 「この絵に書かれている黒人は白人の召使いのようだが、なぜこのような関 係なのか?」などです。次に、書いた紙を内容ごとにグループ分けさせます。 「船」とか「人物」 というように教師の方で項目を作ってもいいですし、生徒が班の中で話し合いながら似たよう な内容の紙をグループにしながら仕分けしてもよいのです。これがKJ的な手法です。グルー プ分けが終わったら、グループごとに班を編成し、作った課題をさらに精選していき1つの班 で2~3の課題に整理させます。そして調べ学習が始まります。この学習のねらいは、それぞ れの課題がヨーロッパ人が日本に来た背景(宗教改革、大航海時代、アフリカ・南米の植民地化 など)を調べ学習を通して発見させることにあります。そして、調べ学習の発表後、教師がま とめの話をして、次の「鉄砲の伝来」に移るという構成になっています。このように、 「KJ法 的な手法」は、たくさんの事象を整理することで課題を発見できるといった利点があります。 もう一つ紹介しましょう。 「ウェビング」です。これは、ブレーンストーミングの一種で、一 つの大きなテーマから自分の興味や経験に応じた課題を発見することができます。 「総合的な学 習の時間」を例にして説明しましょう。テーマを「住みやすい街づくり」とします。それを黒 板の中央に書き、そのあとはこのテーマを見て自由に思いついたことを発表させます(下図参 照) 。 犬 の糞 がよく 落ち カラスが人を襲う ている 道が狭い ごみをあさるカラスが多い 坂が多い ごみ出しの日を守らな 白い杖を持った人が多 く歩いている い人がいる 住みやすい街づくり 自転車の交通事故多い ごみを分別する種類が 多い リサイクル スーパーがない コンビニは多い こうしてある程度数がそろったところで、「枝」に着目させて課題について話し合わせます。 たとえば、左上の枝を選んだグループは「住みやすい街づくりのために-カラス対策-」とい う課題をつくりましたが、そこに教師が助言し「カラス対策に努力している自治体を調べよう」 とか「カラスの習性を調べよう」など調べ学習がしやすい課題をさらにつくらせればグループ の学習は軌道に乗ります。このように、自分の発言が課題に変化していくことを目のあたりに した生徒は意欲をもって学習に望むようになります。実は、このウェビングを使って行った授 業こそが前号で紹介した 14 年前の教育研究員の先生が実践したものです。その先生に私がウ ェビングを紹介したとき、彼は「私にできるんでしょうか?」という不安な声を漏らしました が、 「生徒が助けてくれますよ。 」とだけ言っておきました。授業は大成功でした。そのとき生 徒が発した言葉です。 「自分の思いついたことをそのまま授業で使ってもらえるなんて・・・・。毎 日こんな授業ならいいんだけどな!」その言葉とともにそのときの笑顔は最高の笑顔でした。 (つづく)
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