アセットマネジメント実践に基づく管路更新の取り組み

水坤
寄稿
アセットマネジメント実践に
基づく管路更新の取り組み
山崎勝博
西宮市水道局/配水課/計画チーム長 ■1.はじめに
す。平成 24 年度末の給水人口は 484,403 人で、一
日最大配水量は 167,340㎥となっています。
西宮市では、平成21年度に厚生労働省の支援フ
ァイル(JW-AMS)を用いてアセットマネジメン
■3.アセットマネジメントの実践
トを実施しました。今回は、この中から「管路」
のアセットマネジメント実践と、その後の配水管
3-1 資産の現状把握
更新の取り組みについて報告します。
本市は、平成20年度にマッピングシステムを導
入し、平成21年度より本格的に実施運用を行って
いたことから、管路の資産状況については、シス
■2.西宮市の概要
テムから個々の管路データを抽出し、布設年度別
西宮市は、兵庫県の南東部にあり、大阪湾北部
管路延長のグラフを作成し管路資産の状況を把握
沿岸に臨み、阪神地域の中央部に位置しており、
する事が出来ました。
市域面積は 100.18㎢で、北部の山岳部と南部の平
管路の総延長は約1,200㎞あり、布設年度別管路
野部に分かれています。本市の現状ですが、給水
延長のグラフでは、1984(昭和 59)年の 45.8㎞を
人口は微増し続けているにもかかわらず、節水器
頂点にピラミッド形となっています。この中で法
具の普及や業務用大口使用者の地下水利用などに
定耐用年数を過ぎた管路延長は、全体の 15.7% に
より配水量・給水収益とも逓減状態を示していま
あたる約 187㎞(年代不明含む)となっています。
35,655
30,974
図1
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
268
13,916
14,483
17,705
11,046
13,024
12,864
9,343
13,350
11,363
8,442
18,906
27,133
23,251
22,974
34,016
26,715
38,289
25,022
25,344
15,663
1975
1969
西暦年度
36
35,886
40,573
32,623
27,613
27,564
21,563
27,838
27,450
1973
19,942
12,899
12,711
1967
1963
1961
1959
1957
5,000
1955
0
0
623
781
836
930
1,073
1,670
5,550
7,067
1,885
2,282
8,009
7,417
1951
10,000
1953
0
1949
15,000
1965
20,000
0
23,145
19,471
30,000
延
長 25,000
m
28,985
25,750
35,000
1971
31,527
40,000
35,229
36,729
39,731
45,000
39,627
43,993
42,888
45,824
4 0 年を 経 過 し た 管
50,000
3-2 資産の将来見通しの把握
います。
(1)今後もし更新を行わなかった場合の資産の
健全度(劣化状況)
3-3 重要度・優先度を考慮した更新需要の算定
(1)更新基準の設定
管路の健全度
1,400
法定耐用年数で更新すると、図3のように膨大
1,200
な更新費用が必要となります。
1,000
管 800
路
延
長 600
km
400
そこで、法定耐用年数を超えても現実には多く
の管路が支障なく運用できていることから、破損
200
0
2010年
2015年
2020年
2025年
健全管路
2030年
2035年
西暦年度
経年化管路
2040年
2045年
2050年
等により大きな被害が想定される基幹管路とそれ
以外の管路を区分し、表1の様に耐用年数を延ば
老朽化管路
した更新基準の設定を行いました。
図2
ただし、老朽鋳鉄管や塩化ビニル管等の更新時
2025 年度には、健全管路は半分以下になり、
期については別途考慮する必要があります。
2050年度には、全ての管路が経年化管路および老
表1
朽化管路となることがわかりました。
更新基準
取・導水管及び送水管を幹線
φ 250 以上の配水管を配水本管
(2)法定耐用年数で更新した場合の更新需要
φ 200 以下の配水管を配水支管
幹線・配水本管(年)
60
配水支管(年)
80
管路更新工事費
25,000
更 20,000
新
需 15,000
要
百 10,000
万
円 5,000
(2)重要度・優先度を考慮した更新需要(2050
0
年度まで)
図4-2に示すとおり更新基準に基づいて更新
西暦年度
取・導水管
送水管
配水本管
需要費を検討した結果、2050 年までは、これまで
配水支管
図3
行ってきた年平均約7億円程度の投資で済む結果
2008年〜2010年は、過去に更新時期が来ている
となりましたが、図4-2青丸の期間 2046 年~
更新需要を含んでいるため、需要が大きくなって
2050 年のグラフが伸び傾向を示していることか
います。また、耐用年数が 40 年であることから、
ら、さらに2100年までの更新需要について検討し
2046年~2050年には再度更新需要が大きくなって
ました。
図4−1
図4−2
管路更新工事費
管路更新工事費
25,000
25,000
更 20,000
新
需 15,000
要
更 20,000
新
需 15,000
要
百 10,000
万
円 5,000
百 10,000
万
円 5,000
0
0
西暦年度
西暦年度
取・導水管
送水管
配水本管
配水支管
取・導水管
送水管
配水本管
配水支管
37
(3)重要度・優先度を考慮した更新需要(2100
この様な結果から、布設年度の古い老朽鋳鉄管
年度まで)
やしばしば漏水の発生している塩化ビニル管等を
結果は、2051年以降に全管路の80%を占める配
下図のようなイメージで更新基準より前倒しする
水支管の更新が本格化し、ピークとなる2066年~
こととし、管路更新費の平準化を図りました。
2070 年に必要となる更新需要費は約 150 億円/5
(4)重要度・優先度を考慮した管路の健全度(劣
年となり財政を圧迫することや、2100年までに必
化状況)
要となる更新需要費を平準化すれば更新需要費は
約 13 億円/年となることが明らかになりました。
前倒し平準化により、年間15億円で管路を更新
以上のことから、図5の更新基準に基づき更新
すると、2040年度で健全管路が40%まで減少しま
を続けると後年度に財政を圧迫することから、年
すが、以降は改善されて行きます。
間どの程度の額を管路更新費に投資できるか、財
この現象は配水支管の更新需要を80年と設定し
政上のシミュレーションを繰り返し行い、年間約
たため、経年劣化の基準となる60年以内に更新さ
15億円を管路更新費に投資することが可能との結
れない配水支管が存在し老朽化管路と診断されて
論を得ました。
いるためです。
管路更新工事費
25,000
更 20,000
新
需 15,000
要
百 10,000
万
円 5,000
年
年
20
91
20
96
年
年
~
~
20
95
21
00
年
年
~
年
~
20
86
年
~
20
81
年
年
20
76
20
90
年
20
85
年
20
80
年
20
75
~
20
70
~
年
20
66
20
71
年
年
~
~
20
65
20
60
年
年
年
年
20
50
20
55
20
56
20
61
20
41
20
46
20
51
年
年
~
~
年
年
20
45
20
40
~
~
年
年
~
20
36
20
31
20
26
年
年
年
~
20
35
20
30
年
年
年
年
20
25
~
20
20
~
年
20
21
20
16
20
08
20
11
年
年
~
~
20
10
20
15
年
年
0
西暦年度
取・導水管
送水管
配水本管
配水支管
その他1
その他2
その他3
図5
25,000
2009年度~2045年度は年間15億円の
更 20,000
新
需 15,000
要
範囲で前倒しでの更新を行う。
百 10,000
万
円 5,000
15億円/年のライン
前倒し更新
00
21
~
~
年
年
96
91
20
20
~
年
年
年
95
20
90
20
20
~
86
20
~
年
81
20
年
年
年
85
年
80
20
75
年
76
20
年
66
71
20
20
~
~
20
20
20
~
年
年
年
65
70
年
年
~
年
61
56
20
20
年
20
20
~
51
20
46
20
年
~
~
60
55
年
年
20
20
45
50
年
年
年
40
20
~
36
31
41
20
年
年
年
30
20
~
20
~
26
年
20
20
25
20
~
20
年
35
年
年
年
年
20
15
年
21
16
20
年
11
~
~
20
20
10
20
08
年
~
20
20
20
年
0
西暦年度
取・導水管
送水管
配水本管
配水支管
図6
図7−1
図7−2
管路の健全度
管路の健全度
1,400
1,400
1,200
1,200
1,000
1,000
管 800
路
延
長 600
km
400
管 800
路
延
長 600
km
400
200
200
0
0
西暦年度
西暦年度
健全管路
38
経年化管路
老朽化管路
健全管路
経年化管路
老朽化管路
図8
年間15億円で管路を更新して行けば80年を超え
ものの平準化した年間約15㎞(約15億円)を施工
る老朽化管路は出現する事はありません。
しています。今後もこの約 15㎞(約 15 億円)を目
標とし管路の更新を行っていく予定としていま
■4.アセットマネジメントの実践より
す。
アセットマネジメントの実践を行えたのは、マ
管約42㎞や塩化ビニル管約120㎞が存在しており、
ッピングシステムの導入が有り埋設管路の資産の
特に老朽鋳鉄管については、平成30年を目処に解
現状が詳細に把握できたことが大きな要因と考え
消に向けて取り組んでいます。
本市においては、漏水の危険性が高い老朽鋳鉄
ています。
また、このアセットマネジメントを実践するこ
とにより将来の管路更新需要や現状の更新計画で
6.おわりに
は将来に多大な負担を残すことも明確となり、今
今回、本市で実践したアセットマネジメントを
後の管路更新の方針も見えてきました。
紹介させていただきましたが、アセットマネジメ
給水収益が今後向上しない現状において、管路
ントを実践することにより、管路の資産状況が正
の更新需要費を正確に把握し、財政に負担となら
確に把握することができました。
ない計画を策定するうえで、アセットマネジメン
また、今後の更新計画にも役立つことはもちろ
トは大変重要なものだと実感しています。
ん、更新事業費が財政に与える影響など、見える
形での確認ができました。
■5.アセットマネジメント実践後の取り組み状況
今後は、平成30年度を目処に更新実績の評価を
アセットマネジメントの実践後、約4年が経過
により、さらに効率的で経済的な管路整備計画に
しましたが、上記グラフのように多少前後はある
役立てて活きたいと考えています。
行い、アセットマネジメントの見直しを行うこと
39