一般演題4 多発脳神経障害を来たした悪性リンパ腫1例の F-18 FDG PET/CT 所見 菅 一能、河上康彦、日山篤人、清水文め 安部鉄也※、春木明代※ はじめに 脳神経に悪性リンパ腫は起き得るが視神経に多 く、視神経以外の脳神経麻痺症状で発症した悪性リ ンパ腫の報告は稀である(1、2) 。今回、多発性脳 神経麻痺症状(Ⅶ、Ⅷ、IX、X、X1 神経)を来た した悪性リンパ腫の1例で F-18 FDG PET/CT 検 査を経験したので提示し、文献的考察を加える。 症例 70 歳代の女性で、3 ヶ月前より難聴、2 ヶ月前よ り顔面麻痺を来たし、その後、嚥下障害を来たすよ うになった。神経内科を受診し、多発性脳神経麻痺 (Ⅶ、Ⅷ、IX、X、X1 神経)が確認された。CT で、 縦隔リンパ節の腫大を認め、サルコイドーシスや悪性リ ンパ腫を疑われ F-18 FDG PET/CT 検査が行なわ れた。血液検査では、sIL2R が 753 U/mL に上昇 していたが、ACE は正常範囲であった。 FDG PET/CT では、右鼓室上部や左鼓室上部に 索状の FDG 集積亢進部が見られ、左頸動脈管~左 頸静脈孔にも FDG 集積亢進部を認めた。これらの FDG 異常集積部は顔面神経の膝神経節や鼓室部・ 乳突部の走行部にほぼ一致していた。また、左頸部 に多発性に FDG 集積亢進リンパ節を認め、胸部で も両側肺門 ・ 縦隔に多発性の FDG 集積亢進リンパ 節が見られた。造影 MRI では FDG 集積亢進部に 一致して造影効果を示す病変が見られたが、頭部単 純 MRI 検査では拡散強調像を含め明らかな異常所 見は指摘されなかった。 頸部リンパ節の生検では悪性病変は検出されず 診断がつかず、縦隔リンパ節から経内視鏡生検が施 行され、びまん性大細胞性 B 細胞性リンパ腫と診 断された。ステロイド治療が行われ、5 ヵ月後の FDG PET/CT 検査では、前回検査時に認めた頭頸 部と胸部の FDG 異常集積病変はいずれも消失して いた。造影 MRI でも FDG 集積亢進部に一致した 造影効果は消失し、脳神経麻痺症状も改善した。 考察 脳神経の悪性リンパ腫は視神経に多く、これまで に視神経以外の脳神経単麻痺症状で発症した悪性 リンパ腫の報告は、15 例(動眼神経 5 例,外転神 経 1 例,三叉神経 5 例,顔面神経 1 例,聴神経 1 例, 舌下神経 2 例)があるのみである(1、2) 。提示例 では、脳神経病変の組織学的診断は得られていない が、顔面神経の走行にほぼ一致した FDG 異常集積 セントヒル病院 放射線科 ※山口県立総合医療センター 神経内科 が認められ顔面神経麻痺症状を呈し、ステロイド治 療後には、びまん性大細胞性 B 細胞リンパ腫の診 断が得られている肺門 ・ 縦隔のリンパ節病変と伴に FDG 集積は消失改善したことから、脳神経の悪性 リンパ腫と考えられる。顔面神経麻痺症状以外の Ⅷ、IX、X、X1 神経にも多発性脳神経麻痺症状を 認めたが、FDG 異常集積部がこれらの脳神経の走 行部位の近くに存在しており、影響を及ぼしたか腫 瘍浸潤を来たしたと推測される。悪性リンパ腫で は、脳神経麻痺症状のある例では脳神経にも病変が 起き得ることに留意する必要があるが、FDG 集積 を来たし易い悪性リンパ腫病変では脳神経病変の 検出にも有用性が高いと考えられる。 脳神経の悪性リンパ腫の鑑別診断では、神経鞘 腫,Tolosa-Hunt 症候群,髄膜腫やサルコイドーシ スなどが挙げられる(1、2)。提示例では、頸部や 肺門 ・ 縦隔の多発性の FDG 集積亢進リンパ節が同 時に認められ、診断の手がかりとなった。MRI で は脳神経の悪性リンパ腫は、T2 強調画像で高信号 を示し,均一に造影されることが多いとされる。 脳神経の悪性リンパ腫の治療としては、メソトレ キセート大量療法が第一選択とされ、脳神経単発の 腫瘤では、ステロイドやガンマナイフ治療も行われ る(1、2)。提示例では、ステロイド治療が行われ、 FDG PET/CT で頭頸部と胸部の FDG 異常集積病 変の消失改善が確認されており、治療効果判定にも 有用であった。脳神経の悪性リンパ腫では、ステロ イドやガンマナイフ治療が一旦著効した場合でも、 他部位に再発することがあるとされ(1、2)、治療 後 の 経 過 観 察 は 重 要 で あ る が、 全 身 を 見 渡 せ る FDG PET/CT 検査は有用な手段と考えられる。 文献 1) 赤座実穂ほか;臨床神経 . 2009 ; 49:432―436. 2) Yamahata H, et al. Brain Tumor Pathol 2012;29 : 54–57. 図と説明文 FDG PET の MIP 像(A 図左)では、左頸部 の多発性 FDG 集積亢進リンパ節(SUVmax 3.5) があり、両側肺門 ・ 縦隔にも多発性 FDG 集積亢 進リンパ節(SUVmax 5.1)が見られる。頭頸部 では、右鼓室上部(SUVmax 4.5)や左鼓室上部 (SUVmax 5.9)に索状の FDG 集積亢進部を認め、 左頸動脈管~左頸静脈孔近傍にも FDG 集積亢進 部(SUVmax 7.3)が認められ、集積部は顔面神 経の膝神経節や鼓室部・乳突部の走行部にほぼ一 致している(A図右、B 図矢印) 。 (A) (B) テクニカルデータ 一般演題4 施設名:セントヒル病院 18 1.使用製剤 F-FDG 投与量 4.4 MBq/Kg 投与法 i.v. ・ その他 ( ) 2.使用機器 カメラ 解析装置 philips philips 社製 社製 GEMINI EBW PET ・ PET-CT (16 スライス) 3.撮像開始時間 投与後 60 分 4.遅延画像 有(110~120分後)・無 5.撮像条件 a) PET部 収集モード 2D ・ 3D 収集時間 2.5 分/bed bed数 10 スライス間オーバーラップ 0.5 スライス マトリクスサイズ 64 ×64 ・ 128×128 ・ 256×256 ・ 512×512 画像再構成法 OSEM(subset数 iteration数 ) その他( ) 減弱補正法 CT (管電圧( kVp) 管電流( mA) ・ Auto ) 外部線源(核種 、収集条件 その他( ) ) b) CT部(PET-CT装置の場合) 管電圧 120 kVp 管電流 100~150 mA 第51回 山陽核医学カンファレンス
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