東京農工大学学術機関リポジトリ Title Author(s) イネのヨウ素吸収・移行過程におけるヨウ素の化学形態 変化と輸送関連遺伝子に関する研究 Studies on changes of chemical forms of iodine and genes related to iodine uptake and translocation in rice (Oryza sativa L.) plants 加藤, 翔太 Citation Issue Date 2014-09-17 URL http://hdl.handle.net/10636/496 Type Thesis or Dissertation Textversion none 学 位 論 文 要 旨 イネのヨウ素吸収・移行過程における ヨウ素の化学形態変化と輸送関連遺伝子に関する研究 Studies on changes of chemical forms of iodine and genes related to iodine uptake and translocation in rice (Oryza sativa L.) plants 生物生産科学専攻 加藤 植物生産科学大講座 翔太 ヨウ素は脊椎動物の甲状腺ホルモンを構成する元素であり、人間の必須元素 の 一 つ で あ る 。 し か し な が ら 、 世 界 人 口 の 28.5%(18 億 8100 万 人 )が ヨ ウ 素 欠 乏状態である。人間のヨウ素欠乏対策として、作物のヨウ素を富化することは 有効な手段の一つである。しかし、高等植物に対するヨウ素の必須性が認めら れていないこともあり、植物のヨウ素吸収・移行のメカニズムは明らかになっ ていない。本研究ではイネの根周辺および植物体内におけるヨウ素の化学形態 変化から、イネにおけるヨウ素吸収・移行のメカニズムについて生理学的解析 を行った。さらに、イネのヨウ素吸収・輸送に関わるトランスポーター遺伝子 の単離同定を目指して逆遺伝学的な検討を行った。 1. イ ネ 根 に よ る IO3-還 元 活 性 の 解 析 水 耕 栽 培 し た イ ネ (日 本 晴 ま た は 五 百 万 石 )の 切 断 根 を I- ま た は IO3- 溶 液 (0.025 お よ び 0.25 µmol L-1)に 0(5 分 以 内 )、 1、 3 時 間 浸 漬 し 、 溶 液 の I-お よ び IO3-濃 度 を 分 析 し た 。 I-溶 液 に 切 断 根 を 浸 漬 し て も 、 3 時 間 後 も 溶 液 の I-濃 度 は 変 化 し な か っ た 。 一 方 、 切 断 根 を 浸 漬 し た IO3-溶 液 で は I-が 検 出 さ れ た 。 溶 液 の IO3-濃 度 は 時 間 の 経 過 に 伴 い 減 少 し 、 3 時 間 後 に は 添 加 し た IO3-の ほ ぼ 全 量 が I-に 還 元 さ れ た 。 こ の こ と か ら 、 イ ネ 根 が 溶 液 中 の IO3-を I-に 還 元 す る 生 理 作用を有していることが明らかになった。 栽 培 中 の IO3-処 理 濃 度 (0~100 µmol L-1)に 応 じ て 、 切 断 根 の IO3-還 元 活 性 (根 1g が 1 時 間 に IO3-を 還 元 し て 生 成 す る I-量 )は 増 加 し 、 活 性 は 無 処 理 区 に 比 べ 日 本 晴 (ヨ ウ 素 過 剰 耐 性 弱 )で 最 大 2.8 倍 、 五 百 万 石 (過 剰 耐 性 強 )で 最 大 1.6 倍 に 増 加 し た 。ま た 、I-処 理 (0~25 µmol L-1)に 対 し て も IO3-還 元 活 性 は 日 本 晴 と 五 百 万 石 と も に 処 理 濃 度 に 応 じ て 増 加 し た 。 日 本 晴 の 根 の IO3-還 元 活 性 は I-お よ び IO3-処 理 濃 度 の 増 加 に 応 じ て 増 加 し た の に 対 し 、 五 百 万 石 の 活 性 は 2.5 µmol L-1 以 上 の I-お よ び IO3-処 理 で 飽 和 し た 。 ヨ ウ 素 過 剰 耐 性 弱 (強 )で は 根 の IO3還 元 活 性 は 高 い (低 い )と い う 対 応 関 係 が 認 め ら れ た こ と か ら 、 根 の IO3-還 元 活 性の違いが、ヨウ素過剰耐性の品種間差の要因であることが示唆された。 2. イ ネ 植 物 体 に お け る ヨ ウ 素 移 行 形 態 の 解 析 5 週 間 水 耕 栽 培 し た 日 本 晴 と 五 百 万 石 に IO3- (0.25, 25, 250 µmol L-1)ま た は I(0.025, 2.5, 25 µmol L-1)を 24 時 間 (短 時 間 )処 理 お よ び 一 週 間 (長 時 間 )処 理 し た 。 I-ま た は IO3-処 理 後 、 導 管 液 を 採 取 し 全 ヨ ウ 素 と I-お よ び IO3-を 分 別 定 量 し た 。 IO3-処 理 し た 日 本 晴 お よ び 五 百 万 石 の 導 管 液 (短 時 間 ・ 長 時 間 処 理 )か ら I-と IO3-が 検 出 さ れ た 。 導 管 液 全 ヨ ウ 素 濃 度 に 対 す る IO3-濃 度 の 割 合 は 、 短 時 間 処 理 で 13~66%、 長 時 間 処 理 で 55~76%で あ っ た 。 IO3-処 理 濃 度 の 増 加 に 応 じ て 根 の I O 3 - 還 元 活 性 が 増 加 す る と 、導 管 液 の I - 濃 度 ( 全 ヨ ウ 素 濃 度 の 1 2 ~ 2 3 % ) も 増 加 す る と い う 対 応 関 係 が 認 め ら れ た こ と か ら 、 イ ネ は 水 耕 液 中 で IO3-か ら 還 元 さ れ た I-を 吸 収 し て い る と 考 え ら れ た 。 I-長 時 間 処 理 で は 導 管 液 全 ヨ ウ 素 濃 度 に 対 す る I-の 割 合 は 35~95%で あ っ た 。 ま た 、I - 0 . 0 2 5 お よ び 0 . 2 5 µ m o l L - 1 処 理 で は 日 本 晴 と 五 百 万 石 の 導 管 液 か ら I O 3 が 検 出 さ れ た (全 ヨ ウ 素 濃 度 の 3~24%)。 I-短 時 間 処 理 で も 、 日 本 晴 (0.025, 0.25 µmol L-1 処 理 )と 五 百 万 石 (0.025 µmol L-1 処 理 )の 導 管 液 か ら 、 IO3- (全 ヨ ウ 素 濃 度 の 8~ 15% )が 検 出 さ れ た こ と か ら 、I- か ら IO 3 - へ の 酸 化 は イ ネ 根 で 速 や か に 起 こ る と 考 え ら れ た 。 イ ネ 切 断 根 を I-溶 液 に 浸 漬 し て も 、 溶 液 か ら IO3-は 検 出 さ れ な か っ た こ と か ら 、 I-は 吸 収 後 に 根 の 内 部 で IO3-に 酸 化 さ れ る と 思 わ れ る 。 3. ヨ ウ 素 の 吸 収 ・ 輸 送 に 関 わ る ト ラ ン ス ポ ー タ ー 遺 伝 子 の 探 索 と 機 能 解 析 I - ト ラ ン ス ポ ー タ ー で あ る N I S ( マ ウ ス や ヒ ト ) や 、電 気 生 理 学 解 析 で は I - も 輸 送 す る シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 硝 酸 ト ラ ン ス ポ ー タ ー AtCLCa と 相 同 性 を 有 す る イ ネ の 遺 伝 子 を BLAST 解 析 で 探 索 し た 。 ま た 、 I-ま た は IO3-処 理 に よ っ て 発 現 が 増 加 す る イ ネ の 遺 伝 子 を マ イ ク ロ ア レ イ や 半 定 量 RT- P C R 解 析 で 探 索 し た 。 そ の 結 果 、 I- お よ び IO3- ト ラ ン ス ポ ー タ ー 候 補 遺 伝 子 と し て CLC family か ら AK101523、 硝 酸 ト ラ ン ス ポ ー タ ー 関 連 か ら AK067178、 AK121279、 AK065840、 発 現 解 析 の 結 果 か ら AK108161 が 挙 が っ た 。 上 述 の 候 補 遺 伝 子 の う ち A K 1 2 1 2 7 9 、A K 0 6 5 8 4 0 お よ び A K 1 0 8 1 6 1 を C a M V 3 5 S プ ロ モ ー タ ー で 過 剰 発 現 さ せ た シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ を 作 製 し た 。 I- (0.01, 0.1 mmol L - 1 ) 処 理 し た A K 1 2 1 2 7 9 過 剰 発 現 体 ( T 2 世 代 ) の 地 上 部・地 下 部 の 新 鮮 重 と 全 ヨ ウ 素 濃 度 は 対 照 の 植 物 (Col-0)と 同 程 度 で あ っ た 。 一 方 で 、 AK065840 過 剰 発 現 体 で は 、 0.01 と 0.1 mmol L-1 処 理 区 と も に 植 物 体 の 全 ヨ ウ 素 濃 度 は 対 照 と 同 程 度 で あ っ た に も 関 わ ら ず 、対 照 よ り も 強 く 生 育 が 抑 制 さ れ た こ と か ら 、AK065840 は 細 胞 内 の I-の 局 在 に 関 与 す る 遺 伝 子 で あ る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。 ま た 、 0.01 mmol L-1 処 理 し た AK108161 過 剰 発 現 体 で は 、 植 物 体 の 生 育 は 対 照 と 同 等 で あ っ た が 、根 の ヨ ウ 素 濃 度 は 対 照 よ り も 1 .6 倍 高 く な っ た こ と か ら 、AK 108 161 が 根 に お け る I-の 吸 収 ・ 輸 送 に 関 わ る 遺 伝 子 で あ る 可 能 性 が 示 さ れ た 。
© Copyright 2024 ExpyDoc