36 上流から下流に向けた神田川河川水中に含まれるヨウ素の化学形態

増田 英仁, 1
36
上流から下流に向けた神田川河川水中に含まれるヨウ素の化学形態別分析
Speciation analysis of iodine in the Kanda River water
from upper stream to lower stream
応用化学専攻 増田 英仁
MASUDA Hidehito
【緒言】
交換カラム (IonPac AS11-HC, DIONEX 社製) を用い、
ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成を担う必須微量元素
1)
として知られる 。ヨウ素の過剰摂取または欠乏によ
1)
溶離液は KOH 溶液を用いた。IC-ICPMS で観測され
たヨウ素のピークから分取する保持時間を決定した。
り甲状腺機能障害を引き起こす可能性がある 。河川
その後 IC を用いて分取し、凍結乾燥によって濃縮し
水は浄水場で消毒処理をされた後、飲料水として利用
た。濃縮した試料を用いて ESI-MS (JMS-T100LC,
されている。消毒処理の際、河川水中のヨウ素と消毒
JEOL 社製) 測定を行った。
剤が反応して、ヨウ素化消毒副生成物が生成すること
が報告されている 2)。さらに、ヨウ素化消毒副生成物
は塩素化及び臭素化した消毒副生成物よりも毒性が高
3)
【結果及び考察】
サンプリングした河川水試料とヨウ素化合物の混合
いことも報告されている 。そのため、河川水中に含
標準溶液 (I-, IO3-, Iohexol, Iopamidol and Diatrizoate) の
まれるヨウ素の化学形態を知ることは重要である。し
IC-ICPMS クロマトグラムを図 1 に示す。
かしながら、河川水中に含まれるヨウ素の化学形態の
5000
井の頭公園
IO3-
詳細は分かっていない。そこで、本研究ではイオンク
I-
計 (ICPMS) を結合させた IC-ICPMS, 及び ESI-MS
を用いて河川水中に含まれるヨウ素の化学形態別分析
127I
を行った。
Intensity (cps)
ロマトグラフィー (IC) と誘導結合プラズマ質量分析
【実験】
0
30000
三島橋
P2
P1
P3
0
15000
水道橋
河川水試料は神田川流域の井の頭公園 (源水)、三島
橋及び水道橋の計 3 地点でサンプリングした。
河川水
ーでろ過した後、塩濃度に応じて適宜超純水を用いて
希 釈 し た 。 全 量 分 析 は ICPMS (7500ce, Agilent
Technologies 社製) を用いて行い、化学形態別分析は
IC-ICPMS を用いて行った。全量分析の際、ヨウ素の
揮発を防ぐために水酸化テトラメチルアンモニウム
IO3-
Intensity (-)
サンプリングした試料は、0.45 μm シリンジフィルタ
0
Iohexol
Iodine
standards
Iopamidol
IDiatrizoate
127I
試料は、採水後直ちに電気伝導度及び pH を測定した。
0
5
10
15
20
25
30
35
Retention Time (min)
図 1 神田川河川水試料の IC-ICPMS クロマトグラム
図 1 より、
井の頭公園 (源水試料) では I- 及び IO3-
(TMAH) を pH 12 になるように加えて測定を行った。
が観測された。下水処理場より下流に位置する三島橋
IC (ICS-2000, DIONEX 社製) のカラムには陰イオン
及び水道橋では、I- 及び IO3- に加えて P1, P2 及び
40
増田 英仁, 2
P3 が観測された。P1, P2 及び P3 は標準溶液の保持
イオパミドール及びジアトリゾ酸が検出された。下流
時間からそれぞれイオヘキソール、イオパミドール及
へ行くほど海の影響を受けやすいため、I- 及び IO3-
びジアトリゾ酸だと考えられる。イオヘキソール及び
の濃度が増加したと考えられる。イオヘキソール、イ
イオパミドールについては ESI-MS による同定も行
オパミドール及びジアトリゾ酸は X 線造影剤として
ったため、ESI-MS による測定結果を表 1 に示す。
病院で使用されており 4)、三島橋の手前に下水処理場
表 1 イオヘキソール及びイオパミドールの ESI-MS 測定結果
Iohexol =
[Iohexol + H]+
[Iohexol +
影剤が下水処理場を通して神田川に放流されたと考え
12C 1H 127I 14N 16O
19
26
3
3
9
Na]+
[Iohexol + K]+
られる。
Theoretical Δ (ppm)
Found
の放水口がある。そのため、病院で使われた X 線造
821.90162 821.88813
16
843.88781 843.87008
21
859.86328 859.84401
22
【結論】
神田川河川水中から I-, IO3-, イオヘキソール, イオ
パミドール及びジアトリゾ酸の 5 つのヨウ素化合物
Iopamidol =
12C 1H 127I 14N 16O
17
22
3
3
8
Theoretical Δ (ppm)
Found
[Iopamidol + H]+
が検出された。I-, IO3-, イオヘキソール, イオパミドー
ル及びジアトリゾ酸を合計すると、河川水中に含まれ
777.89478 777.86192
42
るヨウ素全量のうち 30-90% が説明できる。また、下
[Iopamidol + Na]+ 799.87740 799.84386
42
[Iopamidol + K]+
流に行くほどその割合は高くなった。イオヘキソール,
44
815.85350 815.81780
イオパミドール及びジアトリゾ酸は、下水処理場を通
表 1 より、イオヘキソール及びイオパミドール共に
して神田川に放流されていることが分かった。
ただし、
実験値と理論値でよい一致 (<50 ppm) を示した。よっ
非常に安定な化合物であるので環境への悪影響は少な
て、河川水試料の IC-ICPMS クロマトグラムで得られ
いと考えられる。
たピーク P1 及び P2 は、それぞれイオヘキソール及
びイオパミドールと同定した。ジアトリゾ酸について
【参考文献】
は、河川水中に含まれる濃度が低かったため確実な測
1) Takaku, Y.; Shimamura, T.; Masuda, K.; Igarashi, Y.
定はできなかった。ジアトリゾ酸を ESI-MS で測定す
Anal. Sci. 1995, 11, 823-827.
るためには、更なる濃縮が必要だと考えられる。
2) Bichsel, Y.; Gunten, U. V. Environ. Sci. Technol. 1999,
次に、
サンプリングした 4 地点のヨウ素全量及び化
学形態別分析の結果を表 2 に示す。
33, 4040-4045.
3) Richardson, S. D. et al. Environ. Sci. Technol. 2008, 42,
8330-8338.
表 2 河川水試料のヨウ素全量及び化学形態別分析結果
4) Duirk, S. E. et al. Environ. Sci. Technol., 2011, 45,
6845-6854.
Sampling site
井の頭公園
三島橋
水道橋
Sampling day
(yy.mm)
14.06 14.10 15.06
14.04 14.09 15.06
14.04 14.06 15.06
Salinity (-)
0.13
0.13 0.13
0.18 0.15
2.1
0.63
-
I-
0.19
0.46 0.35
1.0
0.45 0.76
3.2
1.4
1.7
IO3-
0.18
0.20 0.34
0.17
0.12 0.40
n.d.
n.d. 0.65
イオヘキソール
n.d.
n.d.
n.d.
3.4
3.3
2.2
3.3
0.63 1.8
イオパミドール
n.d.
n.d.
n.d.
5.0
4.3
2.7
4.7
1.0
ジアトリゾ酸
n.d.
n.d.
n.d.
0.48
0.61 0.29
Total of I species
0.37
0.66 0.69
10.1
8.8
6.4
11.4
3.0
1.4
1.5
16.7 10.1
9.2
17.7
4.6 8.6
Total I
Recovery (%)
27
45
1.9
36
0.15
60
87
68
1.6
0.16 n.d. 0.12
64
65
5.9
68
(ng I mL-1)
-
井の頭公園 (源水試料) では I , 及び
-
出されたが、下流に行くと I ,
IO3-,
IO3-
のみが検
イオヘキソール、
【対外発表リスト】
1) 増田 英仁, 中澤 隆, 古田 直紀: プラズマ分光
分析研究会筑波セミナー, 2014, ポスター発表.
2) 増田 英仁, 中澤 隆, 古田 直紀: 日本分析化学
第 63 年会, 2014, , 広島, 口頭発表.
3) Hidehito Masuda, Takashi Nakazawa, Naoki Furuta:
2015 International Chemical Congress of Pacific Basin
Societies, Honolulu, Hawaii, USA, Poster.