東アジアの貿易自由化と環境負荷構造の変化に関する 多部門計量分析 伴 ひかり(神戸学院大学) 藤川 清史(名古屋大学) 報告要旨 東アジア,東南アジア,南アジアおよびオセアニア(以下,広域東アジア)においても 地域貿易協定の議論が活発化している.貿易自由化は,生産量,産業構造,エネルギー構 成等の変化を通じ,環境負荷構造にも影響を与える.したがって,地域貿易協定の効果を 評価する際,経済のみならず,環境への影響も考慮することは戦略的環境アセスメントの 面からも重要である.そこで,広域東アジアの貿易自由化が経済及び環境負荷(本研究では CO2 排出量)に与える影響について,GTAP-E モデルを利用した応用一般均衡分析(CGE 分 析)に産業連関分析(I-O 分析)を組み合わせて定量評価する. GTAP-E モデルは,エネルギー代替を含む多地域・多部門の CGE モデルで,エネルギ ー・経済活動・環境負荷の関連を分析することができる. 本研究では, McDougall and Golub 版の GTAP-E モデルと 2007 年経済対応の The GTAP 8.1 Data Base を利用し,広域東ア ジアにおける関税撤廃が経済及び環境負荷にどのような影響を及ぼすかを分析する.具体 的には,日中韓 FTA,東アジア FTA(東南アジアを含む),広域東アジア FTA,TPP(関 税撤廃のみ)についてシミュレーションを行う. また,シミュレーション前後のデータに対し,I-O 分析の手法を適用する.それにより, 生産物に直接・間接に含まれる CO2 の国際的取引(内包 CO2 貿易)の構造分析や CO2 排 出量の変化の要因分解(排出係数の変化,技術的変化,最終需要の変化)が可能となる. ただし,GTAP データはアイザード型国際 I-O 表ではないので,貿易データで按分する方 法でアイザード型国際 I-O 表を作成する. CGE 分析の結果,FTA は域内国には CO2 排出量増加,域外国には減少をもたらす傾向 があることがわかる.例外は,日中韓 FTA の中国,東アジア及び広域東アジア FTA のイ ンドネシア,広域東アジア FTA のインドである.日本に関しては,FTA によるエネルギ ー集約産業の生産増加やエネルギー価格の相対的低下が日本の環境負荷を悪化させるよう である.I-O 分析では,ほとんどの域内国で内包 CO2 輸出及び輸入の増加がみられる.中 国が FTA に参加する全てのシナリオで,中国の最終需要によって誘発される CO2 排出量 (消費基準の CO2 排出量)が減少することは興味深い.また,中国の環境負荷変化には技 術的変化(中間投入構造の変化)による効果やインドの環境負荷変化には CO2 排出係数の変 化による効果が重要であることが示される. キーワード:東アジア貿易自由化,環境負荷,応用一般均衡分析,産業連関分析 本研究は科学研究費補助金 2011-2013 年度 基盤研究(C) 23510042「東アジア共生時 代の環境経済政策-計量分析による政策評価-」 ,2014 年度 基盤研究(B) 26281061「中 国のエネルギー・気候変動政策の実施障壁と周辺エネルギー輸出国への影響」を受けた.
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