Kobe University Repository : Kernel Title 頭部外傷患者におけるBenton視覚記銘検査 Author(s) 山田, 大豪 / 山口, 三千夫 / 玉木, 紀彦 Citation 神戸大学医学部紀要=Medical journal of Kobe University, 61(4): 189-196 Issue date 2001-03 Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 Resource Version publisher URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00044709 Create Date: 2015-02-01 1 0 7 頭部外傷患者における Benton視覚記銘検査 山 田 大 豪 山 口 三 千 夫 玉 木 紀 彦3 1.広島県立保健福祉大学保健福祉学部 2 .神 戸 大 学 医 学 部 保 健 学 科 3 .神 戸 大 学 医 学 部 脳 神 経 外 科 連絡先広島県立保健福祉大学 保健福祉学部作業療法学科 干7 2 3 羽田 広島県三原市学園町 1 1 山田大豪 電 話 :0 8 4 8 6 0 1 2 7 5 FAX:0 8 4 8 6 0 1 1 3 4 (平成 1 3 年 2月1 9日受付) 【 要 約 】 【 緒 言】 実施に 2時間以上かかる場合もある Wechsler成人 頭部外傷に対する治療は最近までに著しい進歩を遂 知能検査 CWAIS-R)は注意や集中が持続しない症例 げ,以前ならば救命不能と思われた症例が社会に復帰 には負担になることがある。短時間で実施できる できるようになったl)。また種々の障害を残しつつも Benton 視覚記銘検査 CBVRT)は,頭部外傷患者に 家庭や職場に復帰したいという患者は増加している。 対して WAIS-Rを実施する前に,知的機能のスクリー 頭部外傷後の慢性期では,障害の程度により認知や記 ニングテストとして利用できる可能性があると考え, 憶の障害に対するリハビリテーションが行なわれる。 検討した。対象は自賠責保険や労災保険の後遺症認定 しかし機能障害の程度や内容が頭部外傷患者ごとに異 1例で, のために受診した重症頭部外傷 3 なっており, BVRTと リハビリテーションにおける到達目標を WAIS-Rを実施した。 BVRTは正確数から推定され 設定することが難しい場合も少なくない 2) 。実際はこ 正確数 I Q ),誤謬数から推定される IQC 誤謬数 るIQC れらの対応に平行して,障害による身体的,精神的, I Q )を求めた。正確数 IQと誤謬数 IQとの平均値を 社会的な苦しみを緩和するための対照的な手当や,後 Benton 推定 IQとした。 WAIS-Rは言語性 I Q,動作性 遺症に対する適切な補償を得られるよう援助すること IQ ,全検査 IQを算出した。結果は Benton推定 IQと が行なわれるが,これは社会生活を支えるうえで極め WAIS-Rの全検査 IQの両方が 8 0以上を示したのは 6 て重要である 3,4)。頭部外傷による障害で意識が回復 例であった。 5例は Benton 推定 IQ が8 0未満で全検査 しても患者の社会復帰を困難にするものは知能の障害, IQは9 0 1 2 0の間であった。他の 2 0例は Benton推定 前頭葉機能および注意の障害,記憶の障害などがあ IQと全検査 IQの両方とも 8 0 未満であった。 Benton推 るの。しかしいわゆる知能検査 CJapaneseWechsler 定 IQ が8 0 以上で WAIS-Rの全検査 IQが8 0未満は 1例 Adu1 tI n t e l l i g e n c eScale-Revised 日本版成人知 能検査法,以下 WAIS-R)6) は実施に 2時間以上もか 推定 IQが高い例は常に WAIS-R もなかった。 Benton 全検査IQも高いことを示し, これらは追加的にWAIS- かることは稀でなく注意や集中が持続しない症例には Rが必要でないと考える。もし Benton推定 IQが低い 負担になることがある。一方, Benton視覚記銘検査 例であれば追加的に WAIS-Rを行なう必要があると CBentonVisualRetentionTest:以下, BVRT)71 考える o WAIS-Rの実施は時間がかかり被験者も非 は,視覚認知・視覚記銘,および視覚構成能力を評価 常に疲れるので,知能低下が疑われた場合は, まず するために作られた臨床及び研究用道具であって,検 BVRTを実施して WAIS-Rの検査を追加することが 査時間が 1 0 分程度で実施可能である。これによって知 勧められると考えられた。 的水準の評価や加齢による知能の変化等を調べること ができる。事実,渡辺らは左右片麻捧患者を用いた検 キー・ワード:頭部外傷後遺症 Benton 視覚記銘検査成人知能検査 ( 18 9 ) スクリーニングテスト 1 0 8 討で WAISとBVRTとの聞に有意な関係があること 検を実施することは不可能であり,著者らは頭部外傷 を示している的。 患者のうちの生存者のみに調査研究を行ってきたもの そこで今回我々は,頭部外傷後に患者においても, である。 これらの二つの検査の聞に有意な関係があるかどうか これらについて BVRTとWAIS-Rを実施し,両検 を検討し,頭部外傷患者に WAIS-Rを実施する前の 査の内容や神経学的所見,臨床経過,画像情報,転帰 知的機能のスクリーニングテストとして利用できる可 等もあわせて検討した。 能性があるのではないかと考えた。頭部外傷後の患者 2 . 神経心理学的検査 にBVRTとWAISRの両方を実施し,比較・検討を ( 1 ) Benton視覚記銘検査 ( B e n t o nV i s u a lR e t e n t i o n T e s t:BVRT)7) : 勾 行った。すると一定条件下においては, BVRTの結 果と WAIS-Rの結果との聞に有意な相関が認められ これは Bentonによって視覚認知・視覚記銘, およ たのみではなく, BVRTの結果が良好な場合に限り, び視覚構成能力を評価するために作られた検査であり, WAIS-Rの結果も常に良好であることがも認められ 被験者が実施方法を理解しやすい内容である。また短 た。一方, BVRTからの Benton推定 IQが低いときは, 時間で実施できる。検査は 3つの図版形式(形式C・ D' WAIS-Rによる IQは4 0 1 2 0の聞に分布することを認 E)があり,それぞれ 1 0 枚の図版から出来ている。 めたので以下報告する o 枚の図版は 2枚が 1つの図形 0まで 構成されている。図版は図 1から図 1 【対象と方法】 1 0 8枚が 3つの図形から 3つの図 版形式を通じて互いに対応した同質のものであり,難 易度は同一であり,今回は形式Cを用いた。また施行 には A,B,C,Dの 4つの方式がある。 Aは,それぞ 1.研究対象 れの図版を 1 0 秒間提示して,被験者の記憶を基にすぐ 1 9 9 6年 3月から 2 0 0 0 年 3月までに自賠責保険や労災 1例 保険の後遺症認定のために受診した重症頭部外傷3 (平均年齢4 9 . 7: t1 6 . 3 歳 入 男 性2 3例,女性 8例が評価 被験者の記憶を基にすぐ再生する o Cは,被験者が図 再生する。 Bは,それぞれの図版を 5秒間提示して, された。受傷後の意識消失時間が 6時間以上の者を重 版を模写する。 Cは,それぞれの図版を 1 0 秒間提示し ennarelliの分類 9.10) 症頭部外傷とした。それらを G 5 秒経ってから被験者の記憶を基にすぐ再 て,その後 1 により,びまん性脳軸索損傷 ( d i f f u s e axonal i n j u r y 生する。今回は, Aの方式を用いた。それぞれの図版 以下 D AI),局所性脳挫傷 ( f o c a lcontusion 以下FC), 0 秒間提示して,直ちに再生させた。その結果の評 を1 およびその他に分けた。 Gennarelliの分類を簡単に 価については, BVRTのマニュア lレ7)を用いて,正確 封出損傷, 述べると,頭部外傷は,頭蓋骨骨折,びまんf 数,誤謬数を求めた。これら正確数から推定される および局所性脳損傷の 3つに,まず分けられる。びま IQ(以下,正確数 I Q )および誤謬数から推定される IQ 等によっても頭蓋内 ん性脳損傷とは,当初の頭部 CT (以下,誤謬数 I Q )をマニュアルに掲載された二つの に,ある程度以上の大きさの血腫や脳挫傷所見を認め 表を用いて求めた。そして正確数から推定される ないものである。びまん性脳損傷のうちで意識消失時 IQと誤謬数から推定される IQとの平均値を求め, 間が 6時間以下のものを脳震壷とし,意識消失時間が れを BVRTから推定された IQ(以下, Benton 推定I Q ) 6時間以上のものを DAIとしている。局所性脳損傷 とした。これらの推定は Benton自身が進めているわ こ したがって当初の頭部 CT 等において容易に認 けではなく,むしろ著者らがマニュアル中の表から逆 められる頭蓋内血腫や局所性の脳の挫減傷,すなわち にあえて算定したものである。したがって, ここにい 脳挫傷としている。今回の研究対象としたのは,上記 うBenton推定 IQとは決して真の IQではなく,むしろ のGennarelliの分類による DAI群 1 5例 , FC 群 8例で 便宜なスケールであると考えている。 とは, あり,その他 8例には硬膜外血腫や硬膜下血腫が含ま ( 2 )W e c h s l e r 成人知能検査法 ( J a p a n e s eW e c h s l e r れる。 DAIの確定診断として脳組織内での軸索の断 A d u l tI n t e l l i g e n c eS c a l e R e v i s e d:W A I S R ) 6 ): この検査は 6種類(知識,数唱,単語,算数,理解, 裂所見,すなわち Retractionb a l lの存在などを重視 5種類(絵画完成,絵画 する研究者もあるが, Gennarelliの分類で、は臨床症 類似)の言語性の下位項目 所見等を重視し 状,意識消失期間,および当初の CT 配列,積木模様,組合せ,符号)の動作性の下位項目 ているものである。今回,著者らが検討した症例は, を併せたものから構成されていて,我が国で現在最も すべて後遺症認定のために来院が可能であった症例で 1種類の下 広く使用されているものである。我々は, 1 あり,当然,死亡例や植物状態に至った症例は含まれ 位項目の検査を実施し,各下位項目の評価点から言語 ていない。事実,全ての DAIと考えられる症例に剖 性 IQ ,動作性IQ ,全検査 IQをマニュアルに従って算 ( 19 0 ) 1 0 9 出した。 110 3 . データの分析方法 100 [ D群] データの統計処理は S t a t V i e wVer .4. 1の基本統 BVRTの結果として正確数,誤謬数, Q ,誤謬数 I Q ,B e n t o n推定I Qを求め,また W 正確数 I A I S Rでは,言語性I Q,動作性I Q,全検査 I Qを求め た。これらの I Q聞の相関関係はスピアマンの順位相 •• • •a。 • . ・ ・ 。 ー 9 0 計を用いた。 [A群] . 0 • I 側帽障.繍1 関を用いて検討した。 [C群] [B群] 50 WAIS-Rの言語性と動作性の下位項目の評価点の 比較には M a n n W h i t n e yU t e s tを用いた。なお, B e n t o n 推定I QとWAIS-R全検査I Qがいずれも 8 0未満 のD AIの例数における DAI全例に対する割合と, B e n t o n推定I QとWAIS-R全検査I Qがいずれも 8 0未満 Cの例数のにおける FC全例に対する割合の比較に のF 却 40 伺 80 100 120 140 WAIS-R の全検査IQ 図1 . B e n t o n 推定 I QとWAIS-Rの全検査I Q ついては,二つの比率の差の検定を用いた。統計的有 B群. B e n t o n推定I Qと全検査I Qのいずれも 8 0未満で e n t o n推 定 I Qが 8 0以 上 で あ っ た 症 例 群 を C群 B WAIS-Rの全検査I Qが8 0未満であった症例群を D群 =0.05以下とした。 意水準はすべて P としてみたところ以下のような結果が得られた。 A群は 6例 ( D A Iが 4例. FCが 1例 , その他が 1例 ) , B 群は 5例 ( D A Iが 3例 , FC が 1例 , その他が 1例)であった。他の 2 0例は C群 ( D A Iが 8 例 , FC が6 例,その他が 6例)であり .D 群に該当 するものは 1 例もなかった。つまり. B e n t o n推定 I Q が8 0以上の 6例の A群は,常に W AIS-Rの全検査 I Q も8 0 以上の知的機能が保たれていることが認められた。 すなわち, B C両群は,共に B e n t o n推定 I Qが8 0未満 であるが, この両群の中に W AIS-Rの全検査 I Qが 4 0から 1 2 0まで分布していたわけである。すなわち, B e n t o n 推定I Qが8 0 以上の場合は常に W AIS-Rの全検 Qも8 0 以上であったが. B e n t o n 推定 I Qが8 0未満で 査I は. W AIS-Rの全検査I Qはいろいろな値をとりうる すなわち, 【結果】 1 . BVRTとW AIS-Rにおける各検査順位相関 表 1に示すように, B e n t o n推定I QとWAIS-Rの全 Q .B e n t o n推定I Qと言語性 I Q .B e n t o n推定 I Q 検査 I と動作性 I Q . それぞれに有意な相関が認められた。 表1. BVRTとWAIS-Rの順位相関 BVRT¥W AlS-R B enton推 定 IQ 正 確 数I Q 全 検 査I Q 言語性 I Q 動作性 I Q 0 . 6 9 6 0 . 6 6 9 0 . 6 6 2 * * * 0 . 6 7 * * * 0 . 5 9 4 0 . 6 2 9 場調融* 銀 謬 数I Q 0 . 5 9 9 *場 正確歎 0 . 5 6 4 銀穆歎 0 . 6 1 6 * * 本** 数 字 は ρ値. 傘測候 本** * * 副 幹 0 . 5 5 1 0 . 5 3 1 2 俳本 俳 調 0 . 5 0 3 場事 ことが認められた。 車場$ -0. 5 6 7 *本 * 0 . 5 4 2 3 . A群と B群の B e n t o n 推定 I QとWAIS-R全検査 I Q 0 . 6 0 9 ー * * * の検査結果 Pく0 . 0 1・ * p く0 . 0 0 1 ' 俳** 年齢,性別,診断名. B e n t o n 推定 I Q . WAIS-Rの 全検査 I Q ,W AIS-Rの下位項目の評価点を表 また正確数I Qと全検査I Q . 正確数 I Qと言語性 I Q, 2に示 正確数I Qと動作性I Q ,誤謬数 I Qと全検査 I Q,誤謬数 しf こ 。 I Qと言語性I Q ,誤謬数 I Qと動作性I Q . 正確数と全検 査I Q ,正確数と言語性 I Q ,正確数と動作性 I Q . 誤謬 数と全検査 I Q ,誤謬数と言語性I Q . 誤謬数と動作性 I Q . それぞれについても有意な相関が認められた。 つまり BVRT から推定される I QとWAIS-Rから得 Qとの聞に有意な相関関係が認められた。 られた I 2 .B e n t o n推定I QとWAIS-Rの全検査I Qとの関係 1例の B e n t o n 推定 I QとWAIS-Rの全検査 I Q 図 1に3 ( 1 ) A群と B 群の W AIS-Rの下位項目の評価点の比較 言語性の下位項目の評価点の比較では .A 群と B群 に有意な差を認めた。つまり . A 群に比べ, B群の言 語性の知的機能が高いことが認められた。しかし動作 性の下位項目の評価点の比較では . A 群と B群に有意 な差を認めなかった。 ( 2 ) 言語性の下位項目の評価点と動作性の下位項目の 評価点の比較 A群でも B群でも,これら下位項目の評価点には有 の散布図が示された。 ここで B e n t o n推定I QとWAIS-Rの全検査I Qのいず 0以上を示した症例群を A群. れもが8 , B群,それぞれ 意な差を認めなかった。つまり A群 B e n t o n推定 I Q が8 0未満で全検査I Qは9 0 1 2 0の間であった症例群を の言語性の知的機能と動作性の知的機能は変わらなかっ f こ 。 ( 19 1 ) 1 1 0 表2 . A群と B群の Benton推定 OQ ,WEIS-R全検査,下位項目の検査結果 Be n t o n WAIS-R A 1 7 D A I D A l D A I 女 B 20 男 A群 DAl F 5 7 男 その他 100 92 80 93 1 0 0 95 92 90 FC 80 102 119 81 E A U肝 苛 ム , ‘ . 句 E a・ 噌 'a-a-- 司 qrunuvn L109) 56 57 06 36 0 6 MM 必℃哨 DDDFLU 男男男男男 05755 75365 GHIJK B群 C 29 男 D 37 男 E 25 男 言悟性下位項目の評価点ω 動作性下位項目の評価点ω 推定I Q 全検査I Q 知自慢数唱単語算数理解類似 絵完成絵配列積み木組合せ符号 症例年齢性別診断名 1 1 7 7 1 1 5 1 2 1 1 1 1 1 0 9 7 2 9 9 6 1 1 1 5 4 5 8 7 9 12 7 8 12 1 1 15 5 9 1 2 1 0 9 1 2 1 3 1 0 言語性下位項目の評価点ω 8 12 1 0 15 13 8 9 9 13 12 1 2 13 1 6 13 16 9 1 2 1 2 1 1 14 9 8 8 ( a ) : p < 0 . 0 5v s( c ) . 7 7 8 15 1 0 1 3 1 2 13 5 8 10 14 8 1 1 1 1 7 1 1 12 5 1 1 1 1 9 1 1 12 1 1 10 7 8 1 1 15 13 12 8 4 6 9 5 動作性下位項目の評価点ω 9 9 8 91111 12 13 19 13 13 9 1 1 1 1 8 a ) : n . sv s( b ) . ( b ) : n . sv s(d). ( 7 8 15 6 5 12 10 7 7 7 ( c ): n . sv s( d ) . また,柄沢ら 14) は,老人の BVRTの成績とコース 4 . C群における DAI症例数と FC症例数との比較 WAIS-Rの全検査IQが8 0未満になる例数の出現す 立方体テストの成績において有意な相関のあること, る率は,表 3に示すように DAI群 1 5例 中 で は 8例 BVRTが老人において簡便な非動作性知能検査とし ( 5 3 . 3 % ),FC群 8例中では 6例 ( 7 5 . 5 % )であった。 て利用できるのではなし、かと述べた。これら精神疾患 しかしこれらの比較では有意な差は認められなかった。 や老年期痴呆の研究の他に,神経疾患でも研究がある。 言い換えれば, FC群では DAI群よりも有意に多く すなわち VonK erekja r t ol5) は , BVRTの再生時間 の知的機能低下例があるとは言えなかった。 を用いて多発性硬化症患者の急性期と寛解期の二群の 成績を分析して, これら二群を相互に比較した。そし Q 8 0 以下のD AIとF Cの例数の比較 表3 . WAIS-Rの全検査 I て,多発性硬化症患者の急性期と寛解期の両群で,対 WAIS-Rの全検査I Q 総数 照群に比べ再生に要する時間が明らかに遅かった。 また, VonK erekjartol6) は , BVRT,ベンダー・ 80以 下 の 例 数 D A I 15 8 ゲシュタルト検査, FC 8 6 DesignsT e s t )および WAISの積木模様問題を用い 合計 23 14 て,脳損傷のあるものと対照群の成績を比較し視覚 Z=1 .014 n . s . 図 形 記 憶 検 査 (Memory-for- 記銘検査が他の 4つの検査に比べて最も良い識別検査 1 7 ) は , BVRTの であると報告している。 L'Abateら 【 考 察 】 成績が,年齢・教育・職業身分,および言語知的水準 で比較できる対照患者と,脳障害患者を明らかに識別 今回我々は, BVRTが,頭部外傷患者に WAIS-R できることを見いだした。 を実施する前に,知的機能の指標となるスクリーニン つまりこれまでの研究では, BVRTと他の心理検 グテストとして利用できるのではないかという予測を 査との相関についての検討, BVRTと脳の損傷部位 たてた。 Randallら 1 1 ) は , 1 2 0 例の知的能力の低いも との関連についての検討,記憶に影響を与える疾患と のから優秀な知能までのものについて比較し, BVETに関する検討が多かった。しかし, BVRTが WAIS-R とBVRTとの聞の有意な相関を認めた。と 知能検査のスクリーニングテストとしての利用できる ころが, これらは全て精神発達障害の者から大学生の 可能性について検討した研究は,あくまで老人に対し ボランティア等について調べたものであった。これら ての報告のみであり,頭部外傷患者に対しての報告は は何れも,典型的な脳損傷のない者に行われたもので 全くなかった。頭部外傷後の患者は言語性の知能は比 ある o 較的保たれるが,動作性の知能が障害されているとの また, Radziw illowiczらω は,内因性うつ病 5 6例 考えがある。しかし個々の原因においてこれらの差は にBVRTおよびWAIS-Rを実施し,言語性と動作性 千差万別であり,むしろ著者らは頭部外傷後の患者に の学習の経過において両検査がうつ病の際に異常を示 特徴的なことは集中力,注意力,および記銘力の低 すことを認めた。 Arriaらゆは BVRTを用いてアル 下2) が重要と考えている。 コール依存症患者の記憶を評価し,記憶の障害が肝臓 の障害に関連していたと述べた。 推定 IQは , WAIS-Rの 今回の研究の結果, Benton 動作性 IQと高い相関があるだけでなく, WAIS-Rの ( 19 2 ) 1 1 1 全検蔽 I Qや言語性I Qとも相関が高いことが示された。 日VRT よりも関連が少ないのかもしれない。つまり B このことから B e n t o n 推定 T Qから知能検査の(簡を予測 VRTは,視覚認知や視覚構成能力だけでなく,視覚 することは妥当なことであると考えられた。すなわち, 性の短期記憶の条件が加えられる点で特異的であると BVRTは視覚認知や図形の構成などの機能だけでな 考える。これらのことから, く,知的ないろいろな指標とも深く関連している 8) と の動作性の下位項目では評価できない注意や集中ある BVRTはスクリーニングテストとしては いは視覚性の短期記憶の陣嘗が関連している ω と考え 考えられ, 十分なものであると考えられた。 しかし, B群の 5例は, WAIS-R られた。 BVRTとWAISRが相関を示すというこ なお B e n t o n推定I QもWAISRも8 0未満の C群は, 聞 闇 とだけでなく,著者らはこれら二検査について新しい 全般的な知能レベルの低下を伴うものが多く,外傷後 発見があったと考えている。すなわち B e n t o n推定 I Q 痴呆の状態20) を示す症例が含まれていると思われた。 が8 0以上である場合は,常に WAISRの全検査 I Qも 表 3に示したごとく, 8 0 以上告示した結果が,スクリーニングテストとして 障害者の発生曜に予言態な差はなかったが,知能の低下 利用できる指標になると考えるのは妥当であろう o そ はF C群の方に多く見られる傾向があり, のよに, B e n t o n推定I Qが8 0以 tであるか, あるいは 8 0未満であるかが,重要なポイントであることを強調 篤な後漉症が D AIに比較して, したい。 た事実と関連していると思われる 21 ) 。 “ DAI群と FC群での知的機能の DAIより F Cの方が重篤な状態という印象が得られた。これ まず,今回の研究で分かつてきたことの一つに, FC群の中に多かっ 神経心理学的なテストについては,多忙な脳神経外 B e n t o n推定I Qが8 0 以上の患者においては,知的機能 科医や救急陛学の医師がすべて行なうことは通常でき の概略を知るのみで十分な場合や,検査時聞に 2時間 ない。臨床心理士,首鵠聴覚:土,作業療法士などの協 以上かかる W AIS-R告実施すること 力がある場合は,主治医は主体的に検斎法を選択して にとって BVRTのみを行なったあ と,必ずしも追加的な W AIS-Rを行なう必要はない 検査を依頼すべきであろう 3) 。しかし, と考えている。 とも可能である。 大きな負担になる場合は, が複雑でないので,少し練習すれば主治医が行なうこ 8 0未満の B e n t o n 推定 I Qが見られたら場合 WAIS-Rの全検査I Qが商い患者も低い強者も られることから,追加的に W AISR長行なうことが 必要であると考えている。また D群,すなわち W A I S ω Qの8 0未満であるが, B e n t o n推定 I Qが8 0 Rの全検査I いずれにしても,頭部外傷患者の知的機能が,どの しかし, は , 聞 BVRTは評価 程度のレベルにあるかの概略を知りたいという労災判 定の実用的な嬰求に対しでは, WAISωRなどの 閉そ要する厳密なテストは必ずしも必要ではないと 思 d われる。 BVRTは,一定の限界をわきまえた上であ 以上というものは,全く存在しなかったことも重要で れば,簡便な知的機能の評価法として十分な利用価値 のスクリー あると考える。この事実から,逆に BVRT があるものと考える。一方,実施に簡便な長谷川式痴 ニングテストとして有用性が強く示唆されたと設える 呆スケールやミニメンタルスケール評価は老年痴呆の であろう。 スクリーニングには良いが,頭部外傷後遺症患者の能 B e n t o n 推定 I QとWAISωRの全検査I Qの両方が 8 0以 , B e n t o n推定 I Qが8 0未満で、全 上を示した 6例の A群 Qは9 0 -1 2 0の問であった 6例の B群における 検査 I 力会十分に評価するには不十分と考えられる。正しく 諮性の下位項目の比較では, A群に比べ, B群の 験者も非常に疲れることが多いので,頭部外傷の後に こ高かった。 B群で言語性の下位 性の知的機能が荷態 l 知能低下が艇われた場合は, の静価点が高いということは,知識,常識,概念, 璃解等に関連する陳述的記憶および数日間に関連す AISR などの精密な知能検査が盟ましいと考え はW 曲 AIS-Rの実施には時間がかかり被 られる O しかし W 後 , まず B VRTを実施した WAIS-Rの検査長沼加することが勤められると 考えている。 以上から,叢肱頭部外傷 3 1例において, 語性の短期記憶は保たれているのかもしれない 18)。し BVRTが か しB VRTの結果が良くないということは,視覚性 知的機能のスクリーニングテストとして利用できるか の短期記憶が障害されているのみならず注意力や集中 どうかについて検討したところ,以下のような結論を 力にも問題があると考えられた。 得た。 BVRTから推定される I Qが , 8 0以上であるか, 8 0 また A群と B群の動作性の下位項目の比較では, AIS-Rの動作性の なかった。これは W 未満であるかが,スクリ…ニングの指標になると考え 下位項目の検査は,視覚認知や視覚構成能力を必要と られた。 するが,視覚性の短期記憶の能力の必要性については, また, ( 19 3 ) BVRTから推定される I Qが8 0以上の重症頭 1 1 2 i nTBI,AustralianAcademicP r e s s,Bowen H i l l s,P105-1 0 6 .1 9 9 6 . 部外傷患者例では,常に WAIS-Rの全検査 I Qも高い ので,これについては,検査に時間がかかる WAIS-R 6) 品川不二郎,小林重雄,藤田和弘,前川久男:日 を必ずしも追加的に行なう必要はないと考えられた。 enton推 定 IQが 低 い 場 合 に は 追 加 的 な しかし B 本版成人知能検査法. 2版,日本文化科学社,東 WAIS-Rを行なうことが必要であろう。 9 91 . 京 , 1 7) Benton,A. L .,高橋剛夫訳:ベントン視覚記 銘検査使用手引.増補 2版,三京房,京都, 【謝辞】 1 9 6 6 . 8)渡辺俊三北条敬,大沼悌一,菅原英保,小野寺 本論文をまとめるにあたり有益な御助言をいただい 庚午,木村美津子:左右片麻痩患者における Be た神戸大学医学部保健学科関啓子助教授に深謝致しま nton 視覚記銘検査について.脳神経, 3 0 :3 7 7- す 。 3 8 2 .1 9 7 8 . 1年 3月の第2 2回日 この論文の要旨の一部は,平成 1 9 )重森稔:びまん性脳損傷ーその臨床病理学的概念 本神経外傷学会(福岡),平成 1 2年 9月の第 2 4回日本 1 :9 7 3-9 8 0 .1 9 9 3 . と分類 .脳神経外科, 2 2年 1 0月の 5t h 神経心理学会(東京),平成 1 I n t e r n a t i o n a l Neurotrauma Symposium (Garmisch-Partenkirchen. Germany)において 発表された。 【文献】 1) G e n n a r e l l i,T .A .,S p i e 1 m a n,G . M.,L a n g f i t t, 1 0 )G e n n a r e l l i,T .A . :Emergency d e p a r t m e n t managemento fhead 1 n j u r i e s . Emergency Med. C l i n .N o r t h . Am. 2 :7 4 97 6 0,1 9 8 4 . . M.,Dickson,A. L .,P1asay, 1 1 ) Randall,C M. T .:Ther e 1 a t i o n s h i pb e t w e e ni n t e l l e c t u a 1 f u n c t i o n and a d u l t performance on t h e BentonVisua1R e t e n t i o nT e s t .C o r t e x .2 4: 2 7 7-2 8 9,1 9 8 8 . T . W.,Gildenberg,P .L .,Harrington,T ., Jane,J . A.,Marshall,L .F .,M i l l e r,J . 1 2 ) Radziw i l l o w i c z,W.,Radziw i l l o w i c z,P . D.,P i t t s,L . H.:I n f l u e n c eo ft h et y p eo f Memoryp r o c e s s e si nendogenousd e p r e s s i o n . i n t r a c r a n i a l 1 e s i o n on outcome from .3 2:1 8 7-1 9 7,1 9 9 8 . P s y c h i a t r . Pol l l Ju r y . A mu l t i c e n t e rs t u d y s e v e r e head l 1 3 ) Arria,A. M.,T a r t e r,R. E .,Kabene,M. u s i n g a new c l a s s i f i c a t i o n s y s t e m . J . Neurosurg. 5 6:2 6-3 2,1 9 8 2 . A.,Laird,S .B .,Moss,H.,VanT h i e 1,D. H. The r o 1 eo fC i r r h o s i si n memory 2) Dale,F .T .,F r e d r i c k,E . M.,Daniel,C . f u n c t i o n i n go fA l c o h o l i c s . A1cohol .C l i n . Exp. R e s .1 5:9 3 2-9 3 7,1 9 91 . M.,岩崎貞徳,大橋正洋,松井亮輔,菊池恵美 1 4 ) 柄沢昭秀,小林充,矢富直美,老人における 子,池田扇,久保博康,高木美子,大漉憲一,近 Benton視覚記銘テストの臨床的意義.老年社会 科学, 2 :8 2-9 7,1 9 8 0 . 藤信一郎,吉光清,大木勉訳:脳外傷者のリハビ 8, リテーション.初版,三輪書庖,東京, P1-1 1 5 ) Kerekja r t o,M. Vo n . :Wahrnehmu n g s t e s t s z u rDiagnose undD i f e r e n t i a 1 d i a g n o s ed e r m u l t i p 1 e nS k 1 e r o s e .Z .E x p .Angew. Psychol . 1 9 9 8 . 3) 山口三千夫,関啓子,山田大豪,古川宏:頭部外 傷後遺症に対する治療法の進歩一精神心理学的ア 8 :3 6 9-3 8 0,1 9 51 . プローチー.脳脊髄外傷.高倉公朋,佐藤潔,斎 188藤勇編.初版,メジカルビュー社,東京, P 1 6 )K e r e k j a r t o,M.Von. :Untersuchungunder 1 9 3 .2 0 0 0 . d i eDiskriminierungskraftd r e i e rT e s t sz u r 4) Yamaguchi,M.,K i n o s h i t a,, . I Tsukamoto, Erfassung Z e r e b r a l e r Schaden. Ber 2 3 Y . . Ehara. K . . Tamaki. N.:Outcomeo f d i f f u s e axona1 i n j u r y which p a t i e n t s c o u 1 dresumet owork? AdvNeurotrauma Kongress d e r Deutschen G e s e l s c h a f tf u e r P s y c h o 1 o g i e . Goettingen,Hogrefe,1 9 6 2 . 1 7 ) L'Abat E .L .,Vogler,R. E .,Friedman, R e s . 5 :1 2 2-1 2 4,1 9 9 3 . 5)Yamaguchi,M.,Yamada,T .:S e q u e l a eo f WH., Chused, T . M. The d i a g n o s t i c u s e f u l n e s so f two t e s t so f brain damage. .1 9 :8 7-9 1,1 9 6 3 . 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Department of Occupational Therapy, Hiroshima P r e f e c t u r a lC o l l e g eo f Hea 1 th S c i e n c e s 2. F a c u l t yo fHea1 thSciense,KobeUniversitySchoolofMedicine 3 . DepartmentofNeurosurgeryKobeUriversity,SchoolofMedicine ABSTRACT h ementallyimpaireds u r v i v o r sa tt h e i rp 1 a t e a u1 e v e 1o fr e c o v e r yneed A f t e rs e v e r eheadl n J u r y,t t obee v a l u a t e dproperlyf o rt h e i rcompensation. AlthoughWAIS-Ri sane x c e l l e n tt o o 1t oe s t i m a t e p a t i e n t s 'i n t e l l i g e n c e,t h ee x e c u t i o no ft h i st e s tr e q u i r e s a1most 9 0 min o r more. S i n c e some s u r v i v o r s with traumatic brain l n J u r y (TBI )f r e q u e nt 1y comp1ain o f1 a c ko fc o n c e n t r a t i o n and f a t i g a b i l i t yduringperformingt h et a s k s,e a s i 1 ya p p l i c a b 1 et e s ti ss t r o n g l ye x p e c t e d .I nc o n t r a s t withWAIS-R,Bentonv i s u a lr e t e n t i o nt e s t (BVRT) canbecomp1eted w i t h i n1 0 min. We s t u d i e s whetherBVRTcanbeused a sas c r e e n i n gt o 0 1f o r TBI p a t i e n t sb e f o r ee x e c u t i n gt h e WAIS-R. Twenty-t h r e e ma1e and 8 female s u r v i v o r s,with mean age o f4 9 . 7 years were examined. Althought h emanualo ft h eBVRTdoesn o ti n d i c a t er e a 1IQbyt h eobtaineds c o r e so fBVRT,we daredt op r e d i c t IQ ( B I Q )i n v e r s e 1 y from t h e BVRT s c o r e s . Eighty p o i n t s or more have been o b s e r v e df o rbothFu1es c a 1 eIQfromWAIS-R andB-IQfromBVRTi n 6c a s e s . However,i n5 c a s e sBVRTshowed8 0p o i n t so r1 e s sa sB-IQfromBVRT,w h i 1 eFu1es c a 1 eIQfromWAIS-Rwere between9 0and1 2 0p o i n t s .I no t h e r2 0c a s e s,boths c o r e swere8 0p o i n t sorbelow. Noc a s e swhere B-IQfromBVRTwashigh and Fule s c a l e IQ from WAIS-R was 10w has been observed.Cases with high B-IQ a1ways showed high IQ by WAIS-R i n d i c a t i n g no a d d i t i o n a 1 WAIS-R may b e r e q u i r e d . BecauseBVRT needs on1y 1 0 minutes or 1 e s sf o re x e c u t i o n,we recommended t ou s e oa d d i t i o n a l l ye x e c u t e BVRTa sa s c r e e n i n gt e s tt ot h er a t h e rs e v e r e 1 yd i s a b 1 e dp a t i e n t s,and t WAIS-R,i fB-IQwas10werthan8 0 . ), keywords:Traumaticbraini n j u r y (TBI Bentonv i s u a lr e t e n t i o nt e s t (BVRT), Wechsleradu 1ti nt e l l i g e n c es c a l e -r e v i s e d (WAIS-R). Screeningt e s t ( 19 6 )
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