Agaricus Blazei Murill(ヒメマツタケ)抽出物の補給はラット において食事性肥満とインスリン抵抗性を予防する 栄養補助食品は、肥満やインスリン抵抗性および軽度炎症などの代謝障害への対処を助ける可 能性がある。本研究の目的は、Agaricus blazei murill(ABM)抽出物の補給はラットにおける 食事性肥満に影響を及ぼすか否かを検討することである。Wistar ラットに ABM 補給下もしく は非補給下で対照食(CD)または高脂肪食(HF)を 20 週間与えた。HF 食により誘発された 体重増加と脂肪量の増加を CD と比較した。また、HF 食を与えたラットは、高レプチン血症 とインスリン血症を発症しただけでなく、インスリン抵抗性と耐糖能障害も認められた。HF 食を与えたラットでは、内臓脂肪組織における炎症バイオマーカーの発現も認められた。HF ラットにおける ABM 補給は、体重増加と試験に関連するすべての疾患に対する予防効果を示 した。これは摂餌量の減少によるものではなく、HF ラットの摂餌量は ABM 補給の有無にか かわらず、対照にくらべて非常に多かった。ABM を補給した HF ラットでは、消化管内微生 物叢の組成にも変化は見られなかった。興味深いことに、ABM 補給によりエネルギー消費量 と自発運動量は増加し、これが食事性肥満予防効果の一因ではないかと考えられた。加えて、 ABM を補給したラットの空腸では膵リパーゼ活性の低下も認められたことから、脂質吸収が 低下したことも示唆された。これらのデータは、ABM が、中枢神経系の食物摂取への作用と は独立して、末梢標的で体重増加と関連疾患の予防に役割を果たしていることを浮き彫りにし ている。 Obesity (2012) doi:10.1038/oby.2012.139 緒言 エネルギーの恒常性は、エネルギー摂取とエネルギー消費の 2 つの因子によって精巧に調節さ れている(1)。これら 2 つの因子のバランスが崩れたときに起こる肥満とその関連疾患は、世 界中に蔓延している(2,3)。この大きな公衆衛生問題に対処するため、人々はさまざまな戦略 を用いてきた(4)。従って肥満の管理には、内科的・外科的介入、理にかなった流行の食事療 法、運動、さまざまな減量サプリメントなどが含まれている。栄養補助食品の使用は 1970 年 代から着実に増加してきた。なかには、体重の減少と身体組成に影響を及ぼすとされているも のもある(5-7)。しかし、ほとんどの栄養補助食品の減量補助剤としてのエビデンスは、説得 力に欠けている(6) 。本研究の目的は、担子菌類の Agaricus blazei murill(ABM)抽出物の補 給が、高脂肪食(HF)を与えたラットにおいて減量とインスリン感受性に影響を及ぼすか否 ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY かを検討することである。いくつかの研究で、健康において ABM が果たす役割の可能性が示 されている。これらの研究のほとんどは、ABM を強力な抗酸化剤(8,9)、抗炎症剤(10,11) 、 抗腫瘍剤(12,13)として検討したものである。実際、ABM はブラジルや日本で健康食として 伝統的に使用されており、その有益な作用の一部は酸化ストレスの抑制と関連づけられている (13)。臨床研究では、炎症性腸疾患患者による ABM 系薬用キノコの摂取は、血中の病原性 サイトカインおよび糞便中のカルプロテクチンの減少に伴い、興味深い抗炎症作用を示してい る(10)。また、最近証明されたように、ABM は正常 BALB/c マウスにおいて免疫反応を促進 する可能性もある(14)。これらのデータから、ABM の作用は抗酸化と抗炎症プロセスに関連 する可能性が示唆されるが、糖尿病や肥満において ABM の作用を検討した研究は非常に少な い。例えば、ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットでは、肺組織が酸化変化を示したが、ABM 治療は酸化ストレスを効果的に抑制し、組織の回復に寄与した(15)。また最近の研究では、 ABM の液体培養ブロスから得た半精製分画は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの血糖 値を下げることが示された(16)。この後者の研究のラットは糖尿病ではあったが、肥満では なかった。ヒトにおいては、臨床試験で ABM 抽出物の補給により 2 型糖尿病患者のインスリ ン感受性が改善することが示された。これは、ABM 抽出物 12 週間投与後の血漿アディポネク チン濃度の増加に関連していた(17)。われわれの知る限り、これらの 2 型糖尿病に関する研 究を除き、ABM が体重とインスリン感受性の両方を調節するか否かを検討しようとした研究 はない。従って、ラットにおいて、HF への ABM 補給が体重増加とそれに伴う脂肪組織の炎 症増加などの疾患と、それに関連するインスリン抵抗状態および耐糖能障害の促進に影響を及 ぼすかどうかを検討したいと考えた。そのため、通常食±ABM 抽出物または HF±ABM 抽出 物のいずれかを与えたラットを使用した。このモデルにおいて、グルコースおよびエネルギー の恒常性と脂肪組織の炎症マーカーを検討した。ABM の補給は、HF ラットにおいて、エネル ギー消費量と自発運動量を増加し、膵リパーゼ活性を低下させることにより、摂餌量に影響を 及ぼすことなく体重の増加を制限する予防効果があることが立証された。 方法および手順 動 物 すべての動物のケアおよび実験手順は、パリ・ディドロ大学の動物倫理委員会により承認され た。4 週齢の雄 Wistar ラットを Charles Rivers 社(フランス、リヨン)より購入し、正常明暗 サイクル、自由摂食・飲水下にて 21℃で飼育した。ラットには、数週間、通常食(URA A04; Safe France 社、フランス、リヨン:対照ラット:C)、または 45%HF(230 HF;Safe 社、HF ラット)のいずれかを与えた。別の実験系では、Agaricus Bio Super Liquid(AGSL;Atlas World 社、カリフォルニア州トーランス)を食餌に加えた(すなわち、対照食[CD]ABM または 2 www.obesityjournal.org ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY HF ABM、25 mg/kg)。全群において、体重と摂餌量を毎週 1 回、20 週間測定した(各群 10 匹)。 簡単に説明すると、AGSL の成分は下記の通り:認定有機 ABM の液体高圧抽出物(特許株 [patented strain]:H1X1)、野菜グリセリン、および精製水。細胞膜と細胞壁を通過させてよ り多くの栄養素をキノコの子実体から抽出するため、AGSL は 2 サイクルの加圧水抽出を行う ことにより調製される。この方法は、キチン質でできている A. brazei キノコの硬い細胞壁を 通過するために必須である。従って、液体高圧抽出法は ABM の広範な重要成分をより効果的 に採取することができる。 間接的熱量測定 ラットの総エネルギー消費量(kcal/時間)、酸素消費量/二酸化炭素産生量(VO 2、VCO 2、 V は容積)、呼吸交換率(RER=VCO2/VO2)、摂餌量(g)、自発運動量を、床敷、飼料、およ び給水を備えた熱量測定ケージ(LABMaster;TSE Systems 社、ドイツ、フランクフルト)を 用いて分析した。ガス比はオープンサーキット間接熱量計により測定した(18,19)。このシス テムは、tide ケージの換気用(0.4 L/分)吸気ポートを通過する容積により O2 および CO2 濃度 をモニターするもので、空のケージを標準として定期的に比較する。総エネルギー消費量は、 Weir 式の呼気ガス交換測定に従って算出する(19) 。事前にセンサーを、既知濃度の O2、CO2 混合気体(Air Liquide SA;フランス、Aulnay-Ville)で較正する。装置には自動オンライン測 定のための高感度の食餌および飲水センサーが連結されており、各ケージは赤外線ビームを用 いた活動量モニタリングシステムを備えたフレーム内に組み込まれ、総自発運動量を測定でき るようになっている。ガスおよび運動検知センサーは、明暗どちらのサイクルでも効果的に機 能し、連続記録が可能である。ラットは 1 匹ずつケージに入れ、明サイクル 07:00~19:00、22 ±1℃の温度下で飼育した。実験測定前 48 時間にすべての動物を馴化させた(72 時間以上)。 データは全実験期間中 40 分ごとに記録した。ラットは食餌または HF、水を自由に摂取できる ようにした。食餌および水の摂取とすべての自発運動を記録した。 データ解析は、VO2 消費量、VCO2 産生量(mL/時)、エネルギー消費量(kcal/時)の抽出生 データを用いて Excel XP にて行った。その後、Echo Medical Systems(EchoMRI 100, Whole Body Composition Analyzers;EchoMRI 社、テキサス州ヒューストン)分析から抽出した総体重また は除脂肪量のいずれかで表した。ラットの体重と実験開始時および終了時の身体組成を簡単に モニターした。身体組成(除脂肪量、脂肪量、自由水、総水分量)は、製造会社の指示に従っ て分析した(20)。無麻酔のラットの体重を測定後、ホルダーに入れ、MR アナライザーに挿 入した。身体組成の測定値は 1 分以内に得られた。 OBESITY 3 ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)とインスリン負荷試験 一夜絶食下のラットに OGTT(ブドウ糖 30%、2 g/kg)を実施した。血糖を確認する血清グル コース濃度は、0、5、10、15、20、30、60 分後に尾静脈から採取した血液 2 μL を用いて、血 糖測定器(AccuChek、フランス、Rabalot)により測定した。また同時に、インスリン測定用 (RIA;Diasorin 社、フランス、Les Ulis)の血液 20 μL を採取した。血液を直ちに遠心分離し、 血漿をインスリンアッセイ用に凍結保存した。ITT は 5 時間絶食下のラットで行った。インス リン(0.75 mU/kg)を腹腔内に注入し、0、5、10、15、20、30、60 分後に尾静脈から採取した 血液の血糖値を測定した。 また、基礎グリセロールおよびトリグリセライド濃度測定用の血液サンプルを、毎週 1 回採 取した (それぞれ、グリセロールアッセイキット;Cayman Chemical 社、ミシガン州アナーバー、 血清トリグリセライド測定キット;Sigma 社、ミズーリ州セントルイスを使用) 。 プロバイオティクス投与後の微生物分析 死後のラットから採取した盲腸の内容物を、-80℃に保存した。盲腸の内容物から、QIAamp DNA stool mini キット(Qiagen 社、ドイツ、ヒルデン)を用い、製造会社の指示と既報に従っ て(21)メタゲノム DNA を抽出した。全微生物、Bifidobacterium および Lactobacillus 属を検 出するために使用したプライマーとプローブは、16S rRNA 遺伝子配列に基づいた:全微生物 ( Bacteria Universal ) F-ACTCCTACGGGAGGCAGCAG 、 R-ATTACCGCGGCTGCTGG 、 Bifidobacterium 属 F-TCGCGTCYGGTGTGAAAG 、 R-Bifidobacterium 属 CCACATCCAGCRTCCAC、F-Lactobacillus 属 CCTTTCTAAGGAAGCGAAGGAT、R-Lactobacillus 属 AATTCTCTTCTCGGTCGCTCTA。検出は STEP one PLUS 装置およびソフトウェア(Applied Biosystems 社、カリフォルニア州フォスターシティ) により、MESA FAST 定量的 PCR MasterMix Plus for SYBR アッセイ(Eurogentec 社、ベルギー、ベルビエ)を用いて行った。アッセイは二 重測定で同時ランにて行った。各サンプルの cycle threshold を、希釈ゲノム DNA(5 倍連続希 釈) (BCCB/LMG、ベルギー、ヘント)により作成した標準曲線(三重測定で実施)と比較し た。データは盲腸の内容物の Log CFU/g で表した。 膵リパーゼ活性 リパーゼ検出キット(Abcam 社、フランス、Rabalot)を使用して、新鮮単離空腸由来の空腸 中膵リパーゼ活性を測定した。 「リパーゼ検出キット」のリパーゼは、トリグリセライド基質 を加水分解してグリセロールを産生する。従って、この酵素は OxiRed プローブ吸収(λ= 570 nm)の変化をモニタリングすることにより定量する。 4 www.obesityjournal.org ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY RNA の調製とリアルタイム定量的 PCR 分析 視床下部。RNeasy Lipid キット(Qiagen 社)を用いて、視床下部から全 RNA を単離した。残 存 DNA の混入を除去するため、RNA サンプルを DNAse RNAse-free(Qiagen 社)で処理した。 各サンプルから得た全 RNA 4 μg を、M-MLV 逆転写酵素(Invitrogen、Life Technologies 社、フ ランス、リヨン)40 U で、ランダムヘキサマープライマーを用いて逆転写した。プライマー の配列は下記の通り:NPY S GCCCGCCATGATGCTAGGTAA、Neuropeptide Y(NPY)AS GGGGTACCCCTCAGCCAGAA、proopiomelanocortin(POMC)S CCAGGACCTCACCACGGAA、 POMC AS GACGTACTTCCGGGGATTTTCA 。 ハ ウ ス キ ー ピ ン グ 遺 伝 子 は 、 rpl19 S GCTGAGGCTCGCAGGTCTAA、rpL19 AS CAGACACGAGGGACGCTTCA。リアルタイム定量 的 PCR 増幅反応は、LightCycler 480 検出システム(Roche 社)において、LightCycler 480 SYBR Green I Master(Roche 社、フランス、Dessinges)を用いて行った。逆転写した RNA 40 ng を各 反応のテンプレートとして使用した。すべての反応をテンプレートなしの二重測定で行った。 PCR の条件は下記の通り:95℃5 分、その後 95℃10 秒間 40 サイクル、60℃10 秒間、72℃10 秒間。mRNA 転写レベルは、rpL19 に対して正常化した。mRNA レベルを比較するため、Pfaffl ら(22)の報告に従って相対定量を実施した。Ratio=(Eff target) (Eff ref.) ΔCp ref (MEANcontrol-MEANsample) ΔCp target (MEANcontrol – MEANsample) / 。 脂肪組織。TriPure 試薬(Roche 社)を用いて、既報に従い(23)、全 RNA を調製した。逆転 写キット(Promega 社、フランス、Aulnay-Ville)を用いて、全 RNA 1 μg から cDNA を合成し た。定量的 PCR は、STEP one PLUS 装置およびソフトウェア(Applied Biosystems 社)を用い て既報(23,24)に従い実施した。標的マウス遺伝子のプライマー配列は下記の通り:インター ロ イ キ ン 6 F-TTGCCATTGCACAACTCTTTTC 、 R-ACAAGTCGGAGGCTTAATTACACAT 、 monocyte chemotactic protein-1 R-CCCAGCCTACTCATTGGGATCA 、 F-GCAGTTAACGCCCCACTCA induced nitric oxide ; synthase F-GCATGGACCAGTATAAGGCAAGCA 、 R-GCTTCTGGTCGATGTCATGAGCAA 、 COX2 F-TCCTCCTTGAACACGGACTT、R-CTGCTTGTACAGCGATTGGA。視床下部と同様に、ハウ スキーピング遺伝子は rpl19 とした。 統計解析 データは平均±SEM で示した。データはノンパラメトリック Mann-Whitney 検定により解析し た。P<0.05、0.01、0.001 を統計学的有意とした。 結 果 OBESITY 5 ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY 体重、身体組成、および食物摂取 図 1 に示した通り、HF は標準食にくらべて体重増加をもたらした(図 1a)。HF ABM 群の体 重増加は CD 群と同等で、HF 群よりも有意に低かった(図 1a)。脂肪量は HF 群で有意に増加 した(図 1b) 。体重増加と同様に、HF ABM 群では脂肪量の増加も小さかった(図 1b) 。除脂 肪量は 16 週目と 20 週目に HF 群で CD 群にくらべ有意に低下したが(図 1c) 、HF ABM 群で は CD 群にくらべて変化は見られなかった(図 1c) 。最後に、エネルギー摂取量は HF 群で CD 群のマウスにくらべて有意に増加した(図 1d)。ABM の補給は食餌にかかわらず、このパラ メータに影響を及ぼさなかった。視床下部の NPY および POMC の mRNA 発現は、CD ABM 体重(g) 脂肪量 (体重に占める%) 群で両 mRNA が増加したのを除き、全群で同等であった(図 1e、f)。 週 kcal/kg/日 除脂肪量 (体重に占める%) 週 週 累積摂餌量(g/kg) 週 POMC/rpl19 NPY/rpl19 週 図 1. ABM 補給ラットにおけるエネルギーの恒常性。 (a)対照食(CD)または高脂肪食(HF)を与え、Agaricus blazei murril(ABM)抽出物を補充もしくは補充しなかったラットの体重の経時変化。***P<0.001 vs. 全群。 §§§ (b)全群の脂肪量。***P<0.001 vs. CD±ABM; P<0.001 vs. HF。 (c)除脂肪量。**P<0.01 vs. HF。 (d) カロリー摂取量:**P<0.01 vs. CD。 (e)累積摂餌量:***P<0.001 vs. CD。 (f)20 週目における視床下部の NPY および POMC mRNA 発現量。***P<0.001 vs. CD。 6 www.obesityjournal.org ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY 間接熱量測定と自発運動量 図 2 に、間接熱量測定と自発運動量を示した。呼吸交換率は、HF 群、HF ABM 群で対照群に くらべて有意に低下した(図 2a、b) 。エネルギー消費量は暗サイクル中に HF ABM 群で全群 と比較して有意に増加した(~18%) (図 2c)。自発運動量は、日中は全群で同等だったが、夜 間は HF ABM 群で HF 群よりも増加した(図 2d)。 夜間 エネルギー消費量 (kcal/kg/12 時間) 日中 夜間 自発運動量 (カウント/12 時間) 日中 日中 夜間 図 2. ABM 補給ラットにおけるエネルギーの恒常性。(a、b)VCO2/VO2 比または VCO2/VO2/時間比で表し §§§ た 20 週目の呼吸率。***P<0.001 vs. 対照食(CD)。 (c)20 週目のエネルギー消費量。 P<0.001 vs. 高脂 §§§ 肪食(HF)。 (d)20 週目の自発運動量(カウント/時) 。 P<0.001 vs. HF。 血漿パラメータ、OGTT、および ITT 血漿レプチンおよびインスリン濃度は、HF 群で有意に増加したが、HF 群では ABM 補給によ りこれらのホルモン濃度はベースライン値に戻った(図 3a、b)。血漿アディポネクチン濃度 は、実験終了時、HF 群のラットで全群にくらべて有意に増加した(図 3c) 。血漿グリセロー ルおよびトリグリセライド濃度は、 HF ABM 群で HF 群にくらべて有意に低下した(図 3d、e)。 HF はブドウ糖負荷に対する耐糖能障害を誘発したが、ABM の補給はこの耐糖能障害を軽減し た(図 3f)。HF 群では、ブドウ糖負荷に対する高インスリン血症が CD 群よりも顕著であった。 HF への ABM の補給により、OGTT 中の高インスリン血症は正常化した(図 3g)。その結果、 OBESITY 7 ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY インスリン分泌指数(insulinogenic index;すなわちインスリン対グルコースの曲線下面積比) が HF 群で対照にくらべて増加し、HF ABM 群では正常化した(図 3h)。最後に、図 3f に示し た通り、HF を与えたラットはインスリン注入に対する感受性が低下したが、ABM の補給によ 血漿アディポネクチン (ng/mL) 血漿インスリン (pmol/L) 血漿レプチン(ng/mL) りインスリン感受性は改善した(図 3i)。 週 血漿グリセロール (mmol/L) 血漿 TG(mmol/L) 週 週 血糖(mmol/L) インスリン血症(pmol/L) 週 分 血糖(mmol/L) インスリン分泌指数 6 (10- ) 分 分 図 3. ABM 補給ラットにおけるエネルギーの恒常性。(a、b)ベースライン時の血漿レプチンおよび血漿イ §§§ ンスリン濃度。***P<0.001 vs. 対照食(CD) 、 P<0.001 vs. 高脂肪食(HF)。 (c)実験終了時(20 週目) §§§ の血漿アディポネクチン濃度。***P<0.001 vs. HF、 P<0.001 vs. CD。 (d、e)実験期間中の血漿グリセロー ルおよびトリグリセライド(TG)濃度。**P < 0.01、***P<0.001 vs. CD、§§P<0.01、§§§P<0.001 vs. HF。 (f、g)20 週目の経口ブドウ糖負荷(3 g/kg)に対する血糖およびインスリン血症の経時変化。***P<0.001 vs. CD。§§P<0.01、§§§P<0.001 vs. HF。(h)インスリン分泌指数(ブドウ糖負荷後のインスリンと血糖値の曲 §§§ 線下面積比)。***P<0.001 vs. CD、 P<0.001 vs. HF。 (i)20 週目のインスリン(0.75 U/kg)単回腹腔内(i.p.) §§§ 注入後の血糖値の経時変化。***P<0.001 vs. CD、 P< 0.001 vs. HF。 8 www.obesityjournal.org ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY 微生物分析と膵リパーゼ活性 HF により、全微生物数はわずかながら有意に減少した(図 4a)。加えて、HF 食は、Lactobacillus 属の数を顕著に低下させた(~100 倍)。この作用は、ABM 投与とは無関係であった(図 4b)。 Bifidobacterium 属は食餌条件の影響を全く受けなかった(図 4c)。膵リパーゼ活性は ABM を 補給したラットの空腸において有意に低下した(図 4d)。 Lactobacillus 属 細胞数(対数変換)/ 盲腸内容物 1 g 細胞数(対数変換)/ 盲腸内容物 1 g 総微生物数 膵リパーゼ活性(mU/mL/mg) 細胞数(対数変換)/ 盲腸内容物 1 g Bifidobacterium 属 図 4. 20 週目の盲腸内容物の微生物解析。 (a)総微生物数。*P<0.05 vs. 対照食(CD) 。 (b、c)Lactobacillus 属と Bifidobacterium 属。 ***P<0.001 vs. CD。(d)空腸における膵リパーゼ活性。**P< 0.01 vs. CD、§§P <0.01 vs. 高脂肪食(HF) 。 OBESITY 9 ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY 内臓および皮下脂肪組織の炎症バイオマーカー Monocyte chemotactic protein-1、インターロイキン 6、および induced nitric oxide synthase の mRNA 発現は、HF ラットの内臓脂肪組織において、対照の内臓脂肪組織よりも有意に増加し た(図 5a-c)。これらの遺伝子の mRNA 発現は、ABM 補給により正常化した。COX2 mRNA の発現は、群にかかわらず変化しなかった(図 5d) 。induced nitric oxide synthase および monocyte chemotactic protein-1 の発現は、HF を与えたラットの皮下脂肪組織においても(図 5e、f)対照 食にくらべて有意に増加し、ABM 補給により正常化した。 WATv における MCP-1 mRNA 発現量 任意単位 任意単位 WATv における IL-6 mRNA 発現量 WATv における iNOS mRNA 発現量 任意単位 任意単位 WATv における COX2 mRNA 発現量 WATsc における MCP-1 mRNA 発現量 任意単位 任意単位 WATsc における iNOS mRNA 発現量 図 5. 20 週目の(a-d)内臓および(e-f)皮下脂肪組織における炎症バイオマーカーmRNA の発現量。WATsc =皮下白色脂肪組織、WATv=内臓白色脂肪組織。***P<0.001 vs. 対照食(CD) 、§§§P<0.001 vs. 高脂肪食 (HF)。 10 www.obesityjournal.org ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY 考 察 本研究の主な結果は、A. blazei murill 抽出物の補給は HF により誘発される肥満を予防する効 果があるということである。これは、摂餌量の減少によるものではなく、エネルギー消費量と 自発運動量の増加(特にげっ歯類が活動的となる夜間)に加え、空腸の膵リパーゼ活性の低下 によるものであった。このような体重増加および脂肪量の減少の結果、HF ラットで CD 群に くらべて増加した血漿インスリンおよびレプチン濃度は正常値に戻った。ABM を補給した HF ラットにおける耐糖能とインスリンの経時変化により示された通り、グルコースの恒常性も改 善した。加えて、ITT 実験で明らかとなったように、インスリン感受性も増加した。最後に、 内臓および皮下脂肪組織における炎症バイオマーカーも HF ABM ラットで低下した。このよ うな ABM 補給の有用性は、盲腸内容物の微生物数の変化とは相関しなかった。本研究では、 過去にストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットで行われた研究に関連して、25 mg/kg の用量を選 択した(25) 。この用量はヒトに使用した場合も妥当と考えられる。25 mg/kg は、体重 70 kg の成人の場合 1.75 g となり、ヒトで行われた研究と同等である。例えば、Hsu らが行った研究 では、糖尿病患者に ABM 1.5 g/日が 12 週間投与された(17)。 前述のように、ABM 補給の主な効果は、HF により誘導される体重増加と脂肪量の増加を予 防することである。興味深いことに、これは摂餌量の減少とは関連しなかった。このことは、 少なくとも本研究のモデルでは、視床下部における食物摂取を調節する(1)主要な 2 つのシ グナルである NPY と POMC の mRNA 発現量からも示されたように、ABM は食物摂取を調節 している中枢神経系に大きな影響を及ぼさないことを示唆している。ただし、NPY と POMC の mRNA レベルの増加は、CD 食を与え、ABM を補給したラットの視床下部においても見ら れたことを指摘しなければならない。しかしながら、この群の摂餌量が CD 群と変わらなかっ たのは、食欲促進遺伝子の NPY と食欲抑制遺伝子の POMC が同等に増加したことが原因であ る可能性がある。薬剤投与に対する摂餌量の減少は初期のイベントである場合が多く、特にこ れが食事摂取を調節する快楽領域に生じた場合、摂食行動と食欲の大きな変化をもたらし、最 終的には摂食障害となることから、ABM 抽出物の補給が中枢神経系に影響を及ぼさなかった ことは妥当であろう(26,27) 。本研究のモデルでは、摂餌量に変化が見られなかったにもかか わらず、ABM を補給した HF ラットで体重増加が抑制された。その一因はエネルギー消費量 の増加である。実際、図 1d に示した通り、両 HF 群における摂餌量は~450 kcal/kg/日であっ たが、エネルギー消費量は ABM を補給した HF 群のほうが ABM を補給しなかった HF 群よ りも~100 kcal/kg/日多い(図 2c、両群間差:約 50 kcal/kg/12 時間)。この HF ABM 群のラット におけるエネルギー消費量の増加は、おそらく自発運動量の増加に関連している。ただし、こ れらのパラメータの変化だけでは体重増加の抑制を完全には説明できない。従って、栄養の変 化、特に ABM 補給により誘導された腸内酵素活性の変化に関連する脂質吸収の変化を除外す OBESITY 11 ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY ることはできない。実際に、血漿グリセロールおよびトリグリセライド濃度は HF 群で CD 群 よりも増加したが、HF ABM 群では正常化した。これは、過去に報告されているように(28,29)、 腸における脂質のバイオアベイラビリティの低下を間接的に反映している可能性がある。本研 究では、膵リパーゼ活性の低下が ABM を補給したラットで認められたことから、これも脂質 吸収の低下と体重増加の抑制を示唆している。 いくつかの研究で、プロバイオティクスとプレバイオティクスの混合物は、ウサギ(30)お よびラット(31)の消化管内微生物の生態および消化酵素活性に影響を及ぼすと報告されてい る。後者では、腸内プロバイオティクスおよびプレバイオティクス含有量に関連して、リパー ゼ、ラクターゼ、スクラーゼ、およびイソマルターゼ活性の変化が認められている(31)。集 積しつつあるエビデンスは、消化管内微生物叢が肥満、2 型糖尿病、インスリン抵抗性、軽度 炎症の発生において役割を果たしていることを裏付けている(32-34)。しかし、消化管微生物 叢の構成と消化管に存在する微生物の正確な役割は、未だ十分には定義されていない。われわ れは以前、HF 食が消化管微生物叢の構成を変化させることを立証した。興味深いことに、 Bifidobacterium 属と Lactobacillus 属の量は HF 食の摂取後に変化することが明らかにされてい る(32,35-37)。これらの微生物は、腸管防御機能と軽度炎症(inflammatory tone)に関連して いる。また、われわれは発酵性の非消化性炭水化物(例えば、フラクトオリゴ糖、アラビノキ シラン、キチングルカンなど)を用いることによる消化管微生物叢の変化は、これらの微生物 を選択的に増加させ、炎症マーカーと逆相関することを立証したことから(35,36,38) 、特定の 栄養素の標的を消化管微生物叢とすることは肥満と 2 型糖尿病との関連から興味深いといえ よう。 本研究において、盲腸発酵を減少させることが知られている HF 食は、わずかながら有意な 総微生物数の減少をもたらした。また、HF 食は Lactobacillus 属の著明な減少(約 100 倍)も 誘導した。この作用は ABM を補給しても変化しなかった。Bifidobacterium 属は食餌条件の影 響をまったく受けなかった。これらのデータは、ABM 補給に他の菌類で過去に示唆されてい るような消化管微生物群に対する有意な影響があるということを支持するものではない(37) 。 HF ABM ラットでは、耐糖能障害およびインスリン抵抗性の発現も予防された。血漿インス リンおよび肥満のシグナルとして知られる血漿レプチンの増加も見られなかった。これは、脂 肪量の増加が見られなかったことに一致する。加えて、ABM は内臓脂肪組織において HF に より誘発される軽度炎症(inflammatory tone)を予防するが、それは ITT により明らかにされ たインスリン抵抗性の欠如により説明できるかもしれない。同様に、最近実施された研究で、 ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットに粉末化した A. brazei(1 g/kg/日)を毎日経口投与する と、空腹時血糖値およびヘモグロビン A1c 値が低下することが示された(25)。このモデルは 肥満でないことを指摘しておく必要がある。それどころか、ストレプトゾトシン投与により体 12 www.obesityjournal.org ARTICLES INTEGRATIVE PHYSIOLOGY 重は減少した。これらの動物におけるグルコース恒常性の改善は、糖尿病における体重減少の 回復ももたらした(25)。液体培養ブロスの熱水抽出物から得た半精製分画は、ストレプトゾ トシン誘発糖尿病の Sprague-Dawley 雄ラットにおいてもグルコースの恒常性を改善している (16)。酢酸エチル分画は最も重要な活性があった(16)。酢酸エチル分画(400 mg/kg 体重) の血糖降下作用は、メトホルミン(500 mg/kg 体重)と同等であった。これらの研究において、 ラットは糖尿病であったが、肥満ではなかった。以上から、これらのデータは、本研究で示さ れたように、ABM の抗糖尿病薬および体重調節薬としての有望性を示している。ABM の抗酸 化作用は、さまざまな化合物と関連している可能性がある。A. blazei の子実体は高度に分岐し た 1,3-グルカンを主要な炭水化物成分として持っている(39)。β-グルカンの酸化/抗酸化活 性については議論がわかれているが、β-グルカン投与は TNF-α 応答の阻害を介して酸化損傷 を予防することが明らかにされている(40)。加えて、A. blazei には抗酸化酵素であるポリフェ ノール酸化酵素も含まれる(39)。A. blazei に豊富に含まれる銅、亜鉛、セレンは、ラジカル の産生予防に有用である可能性がある。 これらのことから、A. blazei murril 抽出物の補給は、ラットにおいて HF により誘発される 肥満および炎症状態、耐糖能障害、インスリン抵抗性などの関連疾患を予防する。これは摂餌 量の変化によるものではなく、エネルギー消費量と自発運動量の増加、空腸における膵リパー ゼ活性の低下が一因である。体重増加を抑制し、食物摂取の神経制御には大きな影響を及ぼさ ずにむしろ末梢に影響を及ぼすことにより、摂食行動を調節する中枢神経系を分子標的とする ことで誘発される副作用を回避することができるため、AGSL 補給は興味深い栄養補助剤とな る可能性がある。 OBESITY 13
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