体表脈波を用いた集中力判定に関する研究

体表脈波を用いた集中力判定に関する研究
12GB103 石引 純平
(主査 高田 一 教授)
A study on the determination of concentration by the aortic pulse wave
12GB103 Junpei Ishibiki
(Supervisor Prof. Hajime Takada)
This paper investigates the correlation with the index of Aortic pulse wave (APW) and concentration of human. In this study,
we determined the concentration by comparing the APW when people concentrated and don’t concentrate. The subjects
performed the task: they found the given number of 100 numbers and clicked. In this task for 30 minutes, we measured APW,
eye tracking, EEG and ECG. As a result, there is the correlation with one of the FFT analysis of the spectrum of APW and
subject’s concentration. The frequency depends on the subjects, they can be found by measuring the APW when they are
resting.
Key Words: < Aortic pulse wave > < Biological signal > < Concentration >
1. 研究背景・目的
ドライバが長時間運転することにより,疲労が生じ眠気や
集中力の低下が引き起こされる.そのような体調の変化によ
る事故を未然に防ぐために体調測定の研究はなされている
が,ドライバへの負担が大きいことや,装置が大がかりであ
るという問題点が挙げられている.ドライバへの負担が少な
く,簡便な装置として,背中から大動脈の様子が観測できる
体表脈波(以後APWと呼ぶ)が注目されている.APWは眠気
や飲酒の検出として利用されてきているが,他にも多くの情
報を持ち,さまざまな可能性が期待される.そこで本研究で
は集中力の低下に着目し,APWを用いて集中力の低下を検
出する手法を確立することを目的とする.
200Hz で測定した.脳波は国際 10-20 法に従って 5 か所に
電極を付け,インピーダンスが 10kΩ以下の状態で測定し
た.心電図は 3 点誘導法に従い測定したものから R 波の間
隔(R-R interval)を算出した.
2.2 実験用タスク
タスクには Fig.2 に示す数探索タスクを用いた.10×10
マスの中から目標となる数を探し,マウスでクリックする.
正解すると目標となる数が新たに設定される.また,マスの
位置を覚えてしまわないように 10 個見つけることにマスを
ランダムにリセットするようにした.練習では 1 分,本タス
クでは 30 分の制限時間内でできる限り多くのタスクをこな
すことを被験者に指示した.
2. 実験方法
2.1 実験概要
本研究では,集中力を維持させるようなタスクを継続して
行い,その間のAPWと集中力を判定する指標を測定した.
実験はタスク前後に安静状態を5分間,タスクの練習を1分間,
タスクを30分間行い,被験者は20~30代の男性10名に依頼
した.実験装置の概略図をFig.1に示す.
Fig.2 Finding the number task
3. 実験結果
3.1 LF/HF
本タスク中の被験者の心電図からRRIを算出し,さらに約
100秒間のデータからLF/HFを算出した.また,本タスク中
の結果を安静状態の平均値で除すことで正規化した.
Fig.1 Schematic of experiment device
実験では生理指標として APW,脳波,心電図,視線を測
定し,その他にタスク終了時に行った主観評価のアンケート
(NASA-TLX 等),顔画像を記録した.脳波,心電図は交感神
経,副交感神経との相関が確認されており,集中力を定量的
に示す指標として用いる.予備実験から集中力が低下した際,
視線の動きが単調となり,移動量が小さくなることが確認さ
れたため,集中度の指標として用いる.
APW は背部とシートの間に設置したセンサマットから
Fig.3 LF/HF of ECG
Fig.3から時間経過とともにLF/HFが緩やかに上昇してい
くのが確認でき,長時間の集中力維持によりストレス状態へ
と変化していったことが原因であると考えられる.この傾向
は被験者9名中8名に確認できた.安静状態よりLF/HFの値が
大きくなることで長期的なストレス状態など交感神経の活
性状態変化を捉えることができた.したがって,正規化した
LF/HFが1よりも大きければ集中状態にあると仮定できる.
3.2 視線移動頻度
1秒間のうち,視線移動速度が基準値を超えるデータ数の
割合を視線移動頻度として算出した.その結果をFig.4に示
す.タスク達成直前で瞬間的に視線移動頻度の値が瞬間的に
大きくなっているのが確認できた.視線移動頻度が突出した
タイミングでは集中できている状態だと考えられる.これを
検出するために視線移動頻度が本タスク中の平均値+標準偏
差以上の時に集中状態にあると仮定できる.
3.3 タスク達成前時間
本タスクを1秒ごとに区切り,次のタスク達成までの時間
をタスク達成前時間として算出した.タスクに集中すること
でタスク達成ができるため,タスク達成の直前では集中力が
上昇していると考えられる.本タスク中のタスク達成前時間
の下位25%に含まれる時間帯を集中状態にあると仮定した.
4. 集中力判定
4.1 三指標による集中力判定
LF/HF,視線移動頻度,タスク達成前時間の三つの指標を
用いて集中力の判定を行う.三つの指標の判定がすべて集中
と判定した時間帯を集中,すべてが非集中と判定した時間帯
を非集中として判定する.一つでも異なる判定した場合はど
ちらでもないとして本研究では扱わないこととする.
三指標によって集中と判定された回数と本タスク中の総
タスク達成回数の相関係数はR=0.67であり,相関関係は5%
水準で有意であるとされた(P=0.047<0.05).
Fig.6 The relationship of number of task achievement
times and judging “concentrating” times
4.2 APWとの比較
FFTにより抽出したAPWの成分時系列データと三指標に
よる集中力判定の結果を比較することで,APWの集中力判
定の指標としての有効性を判定した.本研究ではAPWによ
る非集中の判定として安静状態の平均値+標準偏差を用いて,
それ以上であれば非集中と判定した.被験者9名中4名は60%
以上の正答率を示すことができた.集中と判定された回数が
少なかった被験者に関しては低い正答率を示した.
Tab.1 The percentage of correct answers
Fig.4 The time up to task achievement
and the eye movement frequency
3.4 APW
本タスク中のAPWを約10秒間でFFT処理を施し,1秒ずつ
ずらすことで時系列データとした.周波数成分ごとに安静時
と練習タスク時の平均値の比を算出し,最も値の大きい周波
数成分を選択した.Fig.3にFFT処理後のAPWの1成分と脳
波のβ波のグラフを示す.1400秒付近でβ波が突出している
のが確認でき,この時間帯で座り直しやあくびなどの気持ち
を切り替える動作が確認できた.したがって,この手前の時
間帯で集中が切れていることが予想され,APWの値も大き
くなっている.このことから,集中力が低下した時間帯で
APWの値が上昇することが予想される.
Fig.5 The FFT analysis of APW(2.34Hz)
and β wave of EEG
A
percentage of
64.4
correct answers [%]
B
C
E
F
G
H
I
J
12.5
74.7
42.6
25.8
30.4
25.0
65.6
76.8
また,被験者ごとに時間遅れを考慮し,最も正答率が高く
なるように時間をずらした.被験者9名中8名に関しては15
~25秒程度遅らせることで正答率が上昇した.t検定より,
5%水準で有意差を確認することができたので,時間遅れは
考慮すべきであることが示唆された.
Tab.2 The percentage of correct answers
considering delay time
A
B
C
E
F
time lag [s]
20
25
20
15
0
percentage of
69.9 30.5 75.1 47.1 25.8
correct answers [%]
G
20
43
H
15
I
15
36.1 69.7
J
25
78
5. 結論
LF/HF,視線移動頻度,タスク達成前時間の三指標を用い
ることで集中力の状態判定をし,定量的な指標として有効で
ある可能性を示した.また,APWのFFT処理後の時系列データ
から集中力判定として有効であると考えられる成分を抽出
し,さらに時間遅れを考慮することで,より精確な指標とな
る可能性を示唆した.
6. 参考文献
1)内川竜一他:「APW(体表脈波)の超低周波成分を用いた運
転中の自覚眠気検出に関する研究」第45回人間工学会中国四
国支部大会P.112, 2012