Ge。ー。gic and ge。thermaー structure 。f the 。saka Pーain, S

島根大学地質学研究報告 13.23∼30ページ(1994年11月)
Geol.Rept.Shimane Univ.,13 p.23∼30(1994)
大阪平野の地下地質と温度構造(予報)
石賀裕明*・佐藤光男**・西川和史**
Geologic and geothermal structure of the Osaka Plain,
Southwest Japan(Preliminary Report)
Hiroki Ishiga,Kazufumi Nishikawa and Mitsuo Sato
Abstract
Since the first deep borehole in1960’s for assessment of the land subsidence in Osaka Plain,
Southwest Japan,few attempt of geologic borings reaching to the basement rocks and
examination of whole covering sediments of this region have not been done.However,recent
boom of the hot springs in this big city has brought a chance to obtain a valuable information
on the structure of the basement rocks(mainly of the Meso−Paleozoic rocks and the Ryoke
metamorphic rocks),stratigraphy of the overlying Plio−Pleistocenc sediments(mainly of Osaka
Group),and also geochemical and geothermal study of this plain.This paper presents recent
geologic examination on the borehole data and characteristic feature of the geothermal
distribution in the deep Part of the plain.
The Osaka Plain is divided into the eastem and westem blocks by the north−south trending
Butsunen’ji yama−Uemachi reverse fault,and the eastem block upheaved.The basement depth
of the westem part exceeds1300m and higher geothermal gradient occurs in along west of the
Butsunen’ji−Uemachi Fault.Large volume of hot water(several hundred tons/day),with a
temperature over35℃occurs in most spas,but hot water of each varies its characteristics.
Temperature of the horizon of1000m depth is usually over45℃,and spots of the higher
geothermal part occurred in a row of N−S trend.Geothermal gradient is usully over2.5℃/
100m,and characteristic is the higher gradient in the lowermost part of the Osaka Group,
mainly from1000m to1300m depth,attaining5℃/100m.This part consists of sediments of
lower geothermal conductivity and is supposed to play a effective role as a“Blanket”.The
investigation on the geologic data of the borehole in the Osaka Plain is apparently important
for an applicable development of hot springs for new and clean energy.
岩類を構成する先新第三系の地帯構造区分,地質構造の
は じ め {こ
解明にとって重要である(石賀・佐藤,1991).特に大阪
大阪平野では1960年代に行われた深層ボーリング(O
平野北部は丹波帯と領家帯の境界に相当するが,地表で
D計画)以降,1000mを超えるボーリングはなされてい
は基盤岩類の露出がなく不明な点が多い.
なかった.しかし,近年の温泉ブームにより,大阪平野
一方ではこれらの資料は,応用地質学的に,平野の地
などでも,“都市型の温泉” (平野下の地下深部に賦存
下深部における温度勾配,地下水の挙動などを解析する
する温泉水)の開発が進められている.これらのボーリ
上で貴重な資料となる.ここで大阪平野の水理地質学的
ングによって得られる地質学的資料は,大阪平野の基盤
特性を解明することは,今後の温泉開発を進めるうえで
も有効といえる.本論では,温泉ボーリングによって得
られた地質データーの一部をまとめ,大阪平野の地質構
* 〒690 松江市西川津町1060 島根大学理学部地質学教室
Dept.Geol.,Shimane Univ.,Matsue Japan
造と地温勾配,温泉の泉質,等について予察的に報告す
** 〒556 大阪市浪速区敷津西2−1−8 特殊フ。ラント工業㈱
る.なお,温泉のデーターについては布浦ほか(1993)
Tokushiu Plant Industry,Co.Ltd,.Osaka Japan
23
石賀裕明・佐藤光男・西川和史
24
により大阪府立公衆衛生研究所から公表されている資料
進社長には研究のご理解とご援助をいただき,また,温
を中心に,特殊フ。ラント工業㈱の未公表試料を用いてい
泉ボーリングデーターの公表を許可いただいた.
る.
島根大学黒田和男教授には原稿を読んでいただき,貴
謝辞 本研究は文部省の民間等との共同研究によって
重なご意見をいただいた.ここに感謝いたします.
進められたものの一部である.特殊フ。ラント工業㈱駿河
第1表
Nα
泉 源 名
湧 出 地
泉温
湧出量
℃
1/min
掘削深度
pH
残留物
m
Na+
Ca2+
Mg2+
K+
HCO3皿
Cl一
㎎/㎏
㎎/㎏
㎎/㎏
㎎/㎏
㎎/㎏
㎎/㎏
㎎/㎏
1
清春温泉
茨木市大字福井
28.3
165
1200
8.4
400
128.2
9.4
2.3
2.4
25.2
297.2
2
能勢アートレイク
能勢町野間
30.3
73.2
910
10.09
379
141.6
1.1
2.3
0.4
5.1
73.8
3
今宮温泉観音湯
美面市今宮
29.7
65.9
1000
7.6
7400
1985
751.1
18.8
14.9
4432
49.4
4
小野原平成の湯
箕面市小野原
27.2
96.8
1000
7.21
10000
3598
93.2
54.2
97.8
5638
710.2
5
鱒の荘
箕面市大字上止々呂美
26.7
62.9
1200
10.03
354
102.3
1.4
3.5
0.3
6.6
50.6
6
ニッショー呉服の湯
池田市呉服町
37.5
34.8
1005.2
6.6
36400
12050
545.7
461.8
350.9
19390
3146
7
大阪サンバレス
千里万博
34.2
52.3
1000
6.72
4590
1043
219.6
56.4
77.1
2005
563.2
8
千里の湯
吹田市千里丘
627.3
9
志保ノ湯
豊中本町
10
江坂温泉
吹田市江の木
11
星田温泉
12
吹田湯一トピア温泉
31
177.5
1005
7.4
7930
2379
169.3
64.1
137.5
4195
39.8
200
1300
6.85
34190
10996
605
112.2
724.2
19226
1838
37
220
1400
7.35
1620
458.6
55
12.1
17.4
609.5
469.6
交野市大字星田
24.8
50.8
1273
10.14
210
75.2
1.6
1.8
0.2
7.7
47.8
吹田市高浜町
37.5
162
1200
7.36
2360
705.8
80.8
15.7
54.9
1085
575.4
ミタカ(江戸堀)温泉
西区江戸堀
55.2
506
1500
7.1
19850
6460
577.6
148.2
219.2
11500
531.5
14
生駒山龍間温泉
大東市大字龍間
31.1
298
1500
8.68
506
172.2
4.1
0.5
0.4
6.1
425.9
15
志宜野華厳温泉
城東区天王田
40.5
132.7
935
7.32
5750
1827
301.2
35.6
59.2
431
236.7
16
湯一トピア温泉
中央区谷町
41.8
234.5
1003
7.2
6610
0883
321.6
88.8
134.5
3804
276.4
17
大阪温泉
東大阪市新町
37.5
300
800
7.8
920
202.8
16.6
10.4
4.9
10.6
624.2
18
なにわ温泉
西区江戸堀
39.2
430
1000
7.86
570
118.2
9.2
3.5
3.5
10.6
352.7
19
オーク200温泉
港区八雲町
46.8
499
1013.36
8
396
95.6
3
2.4
0.7
21.3
233.1
13
20
イゾルゾイス
中央区高津
44.6
170
1075.2
7.8
7580
2274
375.5
63.7
104.6
4403
260.5
21
南市岡田中温泉
港区南市岡
46.7
697.6
1200
8
689
186
5.4
3.3
1.5
132.2
295.3
22
なにわ七幸の湯
狼速区桜川
37.8
447
1000
8.2
272
63.7
1.8
1.7
0.7
2
175.7
23
桃谷御幸森温泉
生野区桃谷
43.4
316
1300
7.6
752
226
16.8
12.1
3.4
256.3
250.8
161.1
24
You・湯
東大阪市下小阪
49.8
560
1271
7.5
5010
1143
391.4
31.3
76.2
2626
25
龍宮温泉
港区港晴
53.9
425
1500
7.2
18700
6364
171.1
84.1
136.6
9707
1608
26
いのちの泉 源温泉
西成区梅南町
48
507
1300
8.2
400
118.9
2.5
2.7
0.5
17.1
292.9
27
田辺温泉
東住吉区田辺
53.4
369
1300
7.1
11330
3430
660
69.2
113.3
6677
224.5
28
大和川矢田温泉
東住吉区矢田
45.1
470
1200
7.6
2930
651.9
172.9
11
22.8
1270
217.8
29
松原黄金の湯
松原市別所
52.5
283
1405.7
7
35870
6256
4304
732.7
518.5
19370
120.3
30
大浜温泉
堺市大浜
48.2
728
1000
7.5
2360
661
131.1
22
16.8
1160
283.7
31
ミカタ温泉
堺市南野田
40.3
166.5
1000
7.45
11100
2586
1103
163.8
158
6488
127.5
32
羽衣天女の湯
高石市
45.6
283
1200
8.1
1109
312.2
23
73.1
3.8
385.7
358.2
33
はいから村
狭山市岩室
30.8
71.9
500
6.9
41400
9617
4277
111
729
24590
34
P L温泉
富田林市新道
25.6
33
600
8.1
6644
1524
553.7
29
128.3
3652
136.8
35
太子温泉
太子町大字山田
25.7
95
633.8
8.1
256
37.5
25.1
4.8
8.9
6.2
211.7
768.5
36
かつらぎ温泉
河南市大字白木
28.3
31.2
1205
8.2
981.2
355.4
5.2
3.2
4.5
112.8
37
光明の湯
堺市美木多上
30.4
218
701.7
6.99
26760
6016
2655
104.4
300
14950
71.4
38
千亀利の湯
岸和田並松
36.7
403
1300
8.21
258.4
69
6.4
6.2
0.7
16
177.6
39
奥天野温泉
河内長野市日野
29.2
109
531.6
7.3
440
78.9
29.3
11.7
10
30.1
309.4
40
ミカタ温泉2
泉佐野市湊
30
107
1000
7.5
1440
461.2
37.3
13.3
11.1
548.5
459.5
214.2
41
山野井 海会の湯
泉南市中小路
30.5
201
1000
6.8
380
92.3
12.1
2.9
4.3
61
42
箱作温泉
泉南郡阪南町
37.7
100
1020
7.4
17300
6518
23.7
11.2
5
2057
14260
43
ひらの台温泉
泉南郡阪南町
37.9
80
1500
7.2
5430
1710
133.7
11.7
5
2445
770.6
44
ひらの台温泉
泉南郡阪南町
40.4
37.7
1501
7.01
5420
1654
183.6
15.2
4.4
2534
636.4
大阪平野の地下地質と温度構造(予報)
25
/100mをもとに,40℃前後の泉温を期待して掘削してい
温泉開発の現状
るため1000m程度の掘削が多いといえる.泉質は掘削孔
大阪平野では“温泉の都”大阪と呼ばれるほど,急速
に温泉開発が進められた.平成3年8月までに,泉源数
における湧水部分の深度にも関わるが,10000ppmを越
える極めて塩濃度の高いものから,低いものまで様々で
は大阪平野で35本(うち大阪市内で13本)に達してい
ある。これは後に述べるように,大阪層群下部(層)か
る.このうち28本を特殊フ。ラント工業㈱で施工してお
ら湧出する場合には,単純泉が多いが,最下部層からは
り,豊富な地質学的資料が蓄積されつつある(第1表).
高濃度のNa−C1(Na−Ca−C1)泉となる場合が多いといっ
この表にはその後の温泉ボーリングの結果も含め45本の
た特徴がある.湧出量については基盤を構成する岩石か
データーが示されている.
ら湧出している場合は岩盤中からのれっか水をとらえて
温泉については37本のうち半数が40℃以上の温泉の開
おり,湧出量はすくない.大阪層群から湧出している場
発に成功している.掘削深度については1000m前後のも
合には,湧出量は200∼300(1/min)が多いが,500
のが多く,大阪平野で予想される平均的な地温勾配3℃
(1/min)をこすものもある.
20
25 田中元町
22
ね
│1わ
21オーク
港区 OD4
田中200なにわ
梅南イゾールゾイス
23
田中高津
26
上町台地
15
御幸森
東大阪八戸の里
志宜野
16 17
生野桃谷 華厳
24 東大阪
中央区谷町 OD’3 新町
Om
Om
大阪層群上部
アズキ火山灰層
500m
500m
30℃_大阪層群下部
30℃
十十◆十十十十十
5
立口 + ◆ + ◆ ◆ 噛 +
下+++◆+◆+
最+や↑◆+や+
群 +++や++
◆十十十十十
層 ++◆+++
阪 +++◆や
大 +◆÷↑+
十十◆十十
◆十十十十
◆↑φ◆十
◆十十十◆
◆十十十十
〇 +↑+↑++
℃↑◆++◆+
十 十 ◆ ← 十 十 十 十 十 や 十 十 十 十 十 十 ◆ 十 ◆ や や や や , 十 十 十 十 十 十 命 寺 ◆ 十 ◆ 十 十 十 十 十 ◆ 十 十 十
5
6
一一一一一一榊+一一→基盤岩類榊+一一一一榊一一+一
十◆十◆十十
℃
℃ ++++◆+
0 0 +++◆◆◆+
4 や や や や や や ゆ や や や や や や や や や や や や や や や や や や ゆ や や ゆ ゆ や や や や や や や や ゆ や や
十十◆十十十十
十十唖◆や十十
十十十や十十十
◆唖十や十十十
◆十十◆十十十
十 や十十◆十◆十
十 十十十や寺◆十
十 や十◆φ◆十十
◆十十や◆十十十十◇
十十◆◆十や十十十↑
十◆十十◆十十十◆十
十十◆◆十◆十十十十
◆ 十 十 ◆ 十 ◆ 十 ◆ 十 ◆ や 十 ◆ φ ← →・ 十 や ◆ ◆ 十 寺 十 ◆ ← 十 ← 十 十 ◆ ← ◆ 十 ◆ ◆ ◆
十 十十十◆十十十十
◆ ◆◆ 十◆十十◆十十
◆ や十 十 十◆十十◆
◆ 十 や 十 十 十 や
や十十 十十◆十十◆↑↑申
十◆十◆ 十十◆十◆十◆十◆
十 十十 十◆◆十十十十十◆
大飯層群最下部(鮮新世)
1500m
十 十十十◆十十◆十十十十
↑十十十十十十十十◆十十◆
一60℃
孤
1
や十十十十十◆◆十十十十
十十十十十◆十や十十噸十
寺十十十◆十十十 ◆十
福田火山灰層
一50℃
◆、.
⋮+:襲
噸噸噸
一40℃
1000m
1000m
1500m
十 ◆ 十 十 や 十 十 ◆ 十 十 十 ◆ 十 十 十 十 十 十 ◆ 十 十 十 ◆ ← や 十 十 十 十 十 や ◆ 十 十 十 十 申 十 ◆ 十 ◆ 十 十 十 十 十 十 ◆ 十 十 + 十 十 十 十 十 ← ◆ 十 + 十 十 十 ◆ 十 十 十 十 十 十 十 十 十 ◆ ◆ 噛 ◆ 十 十 十 十 十 十 十 十 十 や
2000m
十 十 ◆ 十 十 十 十 十 ◆ や 十 十 ◆ 十 十 十 + 十 ◆ ◆ 十 十 十 十 や 十 ◆ 十 十 十 十 十 ◆ 十 ◆ ◆ 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 ◆ 十 十 ◆ や 十 ◆ 十 ◆ 十 十 ◆ 十 十 十 ◎ ◆ 十 φ 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十
2000m
第1図 大阪平野の東西断面図.市原(1991)をもとに作成.ボーリング位置を示し、温度検層結果をもと
に,地温分布を等値線として示す.温泉のデーターは第1表を参照.
池田呉服町 豊中本町
45 尼崎戸内 47
19
尼崎次屋 OD−5 杭瀬
港区八雲町
Om
6
2南
梅
小野原断層群
6 9
30
堺大浜
Om
沖積層
大阪層群上部(更新世中期)
500m
アズキ火山灰層
500m
30℃
じし一畳 ム ム
・有馬層群’、^
大阪層群下部(更新世前期)
三・1丹波層群
超丹波帯,舞鶴帯
40℃
福田火山灰層
1000m
丹波帯…監護・歪.鐵…翻.r登÷昌.. .
@翼岩榊
十◆十十十十
十十◆十十十
十十◆十十
↑や十十十
十十◆や十十
+◆、つ+
.、類・
■■・一} @十 ◆ 十 十 →』 ◆ 十 →, ◆ や →■ 十 十 ◆ 十 ◆ 命 十 十 十
6 +家
1500m
㏄榊⋮蘇
■一■ @ 唖 十 噺 ◆ 十 十 ◆ 十 ◆ 十 ◆ ◆ 十 十 ◆ 十
◆十◆
十十十
十十
◆
十
十十
や十
↑十
十や
十十
十十
十十
十
◎
十や
◆十
十↑
十や十
◆十◆
十十◆
十十十
命令十
十十十
十命や十
◆◆十十
十十十十
十◆◆十
◆十◆十
◆十十
十十◆
◆や十
十◆十
◆十◆
十十十
十◆◆
◆◆◆
噺十十
●・■−』■−■曙一−一■■一■■一 ◆ 十 十 十 十 十
¥蕪
大阪層群最下部(鮮新世)
一一一・■一・一一●巾●●■一一■●一一一 十 十 十 ← ← や
1000m
50℃
2000m
1500m
2000m
第2図 大阪平野の南北断面図.市原(1991)をもとに作成.ボーリング位置を示し,温度検層結果をもと
に,地温分布を等値線として示す.温泉のデーターは第1表を参照.
石賀裕明・佐藤光男・西川和史
26
Om
●
大阪平野の地質構造
このような深層ボーリングデータの解析から大阪平野
200
山一上町台地一生駒山の東西断面図であり,第2図は豊
73
の地質図が公表されている(市原,1991).第1図は六甲
30
400
、,51
中一堺一岸和田をむすぶ南北断面図である.いずれもそ
の後の検討結果によって基盤岩類の深度と地帯区分につ
600
、、
A硲
いてここで修正・加筆している.上町断層西側の梅南で
19
は掘削深度1300mでも着岩せず,基盤までの深度は1500
04
mOO
mOO
1000
2・
くなっているが,これより東側の東大阪ではふたたび基
29
_
24
1200
62
盤までの深度が深くなり1500mをこすものと思われる.
j、
基盤深度が深くなっている.上町台地では基盤深度は浅
1/4
データーをあわせると,平野からさらに大阪湾に向けて
− 、
800
、.2
m前後の可能性がある.また,平野最西部の龍宮温泉の
南北断面では平野北部から漸次基盤岩までの深度を増し
ていくが,港弁天から梅南あたりでもっとも深くなり,
13
1400
1700mにも達すると予想される.
大阪平野北部の基盤岩類
160 P。℃
30℃
40℃
50℃
60℃
大阪平野北部は丹波帯と領家帯の境界をふくむが,最
第3図 大阪平野の深層ボーリングにおける温度勾
近の検討では丹波帯のより上位のナップをなす,超丹波
配.温泉のデーターは第1表を参照.
帯の構成岩類(ペルム系上部砕屑岩類,緑色岩類など)
が,ボーリングコアにみられる(石賀・佐藤,1991).従
変化するのか,深度そのものが温度勾配の変化と関係す
来,大阪平野北部の基盤地質についてはまったく知られ
るのか,後に述べる泉質との関係から考察する.
ていなかったが,舞鶴帯や超丹波帯の構成要素が確認さ
深度1000mにおける温度分布
れるに当たり(石賀・佐藤,1991)(第2図),領家帯の
なかでのこれらの岩石の存在も期待される.
断層などによって形成される地質構造と地温分布がど
深層ボーリングにおいて行われた温度検層をもとに地
のような関係を持っているか検討するために,深度
1000mにおける温度分布を第4図にまとめた.仏念寺山
断層,上町断層の西側で高く,東に低くなる傾向があ
下温度等値線を第1図,第2図に補入した.また温度検
る.また,北から池田,杭瀬,苅田を中心とする範囲で
層をもとに温度勾配をグラフに示した(第3図).基盤
47℃以上の高温を示す地域が認められる.また,苅田で
岩の深度を無視して,地下1000m前後における孔底温度
は高温を示す地点が西側にもあり,東西方向の分布を示
は40−50℃となっており,地表付近の平均温度を20℃と
す.温度勾配については平野西部の龍宮(第1図),梅南
して地下1000mまでの温度勾配を求めると,2.4−3.4℃/
など(第2図),温度勾配が高いものがある.これは先に
100mとなる.温度検層は温泉掘削後に測定しているも
述べた4∼5℃/100mの温度勾配を示す部分に相当して
のが多く,地表付近100mにおける温度が30℃前後もあ
いる.
ることになってしまっている.
大阪平野の東西断面(第1図)ではこれらの温度勾配
一般的には平野では1000mまでの地層は大阪層群の上
をもとに地質構造,温度勾配の両者を併せて検討する
・下部層となり(第1図,第2図),これまでの深度では
と,上町台地では相対的に温度勾配が高くなっている.
これらの温泉ボーリングの結果を平均すると,2.9℃/
平野西部では基盤岩と大阪層群との不整合面と等温線は
100mの温度勾配をもつことになる.
ほぼ平行である.一方,平野東部では等温線は平行であ
一方,1000m以深では大阪層群は最下部層となってい
るが,地質構造は背斜構造をなしており,両者は斜交す
る場合が多く,ここでの温度勾配については4∼5℃/
る.従って,平野の西部と東部では大阪層群内での温度
100mの温度勾配をもつ地点もある(第3図の松原別
構造はやや異なっている可能性がある.
所,梅南など).地層の岩相の違いによって温度勾配が
南北断面では(第2図)温度構造は北から南に低くな
温度勾配について
大阪平野の地下地質と温度構造(予報)
………父…籍i…i
ノ
有馬一高槻構造線
27
6
47℃
7
x 千里
宝塚
X
36.8℃
EXPO x
36℃ 8
46℃
豊凝iiiii
45℃
x片山
10
x江の木
尼崎次屋
X
43℃42℃
x杭瀬
47℃
神崎ノ〃
17
江戸掘
X
13
新淀ノ〃
X
X
15
x19 18
へ響
港町x21
X
25
梅南
23
42.3C
\
26x
圃先新第三系
x温泉ボーリング地点
)47℃1000mにおける温度
大和ノ〃
5km
…,……ii蕪…!鞭6
大浜西
x30
x28
29
4 。
松原別所
43.8℃
第4図 大阪平野の1000mにおける温度構造を類推した図.ボーリング位置を示し,温度構造を類推している.
温泉のデーターは第1表を参照.45,46については特殊プラント工業㈱の未公表試料に基づく.
石賀裕明・佐藤光男・西川和史
28
る傾向が認められる.この断面は平野の北部において作
2+
成しているため,梅南での特徴的な温度構造が示されて
4
10
Ca ppm
いる.また,平野北部の基盤岩における温度勾配より
■
■
も,大阪層群最下部層で温度勾配は急速に高くなってい
昌
103
闇
るようすがわかる.断面図最南部の堺大浜では基盤の花
■ ■
■ 層 ■
■巳
8 ■
崗岩類が高まっており,温度勾配も緩くなっている.
■
■ 一
2
考
10
■
8
口
察
■
■ 脚
8
口
■ ■
泉質について
■
鯛 ■
温泉の泉質について,地表水の影響を評価しやすい
10
薗
■咀
■
■ 口
■
■
CI−ppm
■
■
5
10
願
厘
1
■
2 3 4 5
■
1 10 10 10 10 10
■
鱈
HCO3ppm
■
104
第7図 大阪平野の温泉についてのCaイオンと
■
釦 胴
8 墨
■
■
暉
■
HCO3イオン濃度の相関を示すグラフ.温泉のデー
ターは第1表を参照.
口8
3
■ 圏
調
10
■
5
10
10
HCO3ppm
2
■
■
■
4
10
■
10
■
■
3
10
ロ ド
目 ■■ ロー 口 ■
1
0 10 20 30 40 50
North South
第5図 大阪平野の温泉についてのC1イオン濃度の
南北方向における変化.横軸番号は第1表の泉源の
番号に対応する.温泉のデーターは第1表を参照.
ロ ロ
ロ
ロ ロ
■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■■ ■ ■■ ■ ■
日 ■ ■
2
目 ■ ■
10
■
■
■ ■
鳳
10
O
HCO3ppm
10
20
30
North
lO5
50
South
第8図 大阪平野の温泉についてのHCO、イオン濃度
の南北方向における変化.番号は第1表の泉源の番
口
4
40
10
号に対応する.温泉のデータは第1表を参照.
■ ■
10
3
口
■
2
10
■ ■ ■■ ■
一画
■ ■
■■
鵬
甑 閣
■−■
■
巳
劃
CaおよびHCO、イオンを,そしてこれに対置して地表
水中ではもっとも多様なNaおよびC1イオンを取り上
口
露
■
口
げて温泉の特性について考察する.
布浦ほか(1991)で示されているように,大阪平野の
温泉には10000ppmをこえる高い蒸発残留物を持つもの
10
1
2 3 4 5
1 10 10 10 10 10
Cドppm
第6図 大阪平野の温泉についてのClイオンと
HCO3イオン濃度の相関を示すグラフ.温泉のデー
タは第1表を参照.
があり,このような温泉ではC1イオン濃度も数千から
10000ppmに達している.布施ほか(1991)ではこのよ
うな温泉の存在について,上町台地以西については海水
進入による地下水塩水化を上げている.また,内陸部で
の高C1イオンについては地層中の化石水に期待してい
る.しかし,これらのうちには明らかに海水よりも高塩
濃度のものがあり,これらの説明では不十分といえる.
大阪平野の地下地質と温度構造(予報)
29
56
泉温 (℃)
48
40
32
800
700
600
500
400
300
200
100
湧出量
01/min
∩V O
20000
泉質
15000
@ 匿翻単純泉
@ 圏食塩泉又は含土類食塩泉
1000
5000
689 396 570 272 400
2500
/1
752
920
iiiiiiiiiliii義iiii
0mg/1
459252119182226201615232417
Om
Om
上町断層
500m
一500m
一
1000m
1000
寺
:ii一『
大阪層群嚢1
φ 寺 ÷
1500m
宦@唖 ◆ や
や ◆
¥ 十 ◆ ◆
カ 十 ◆ 十
掾@◆ ◎ ◆
宦@や ◆ 尋
¥ ◆ 十 十
氈@◆ ◆ 十
氈@噸 十 噺
¥ 十 ◆ 唖
◎ ◆ ◆
¥ ◆ 唖 ◆
十◆ 十 “
宦@◆
@最下部層…・
氈@=一、
氈@◆ ◆
や ◆ 十 ◆ ◇ ◆
C◆ ◆ 唖
宦@や ◆
氈@◆ 十 十 〇 寺 ◆ 十 十
十“II
¥ 唖 十
氈@◆ 唖
氈@十 噺 ◆ 十 ◇ 十 十 ◆
掾@噛 + ’・ ◆ ◆ “
::::::::::::
F:::基盤岩:
竅@◆ ◆
¥ 寺 ◆
十 十 “ 十
氈@+ ◆ “ + ◆◆ + や + 寺 + ◆ ◆ ◆ +一
宦@十 ◆
宦@尋 十
唖 唖 ◆
氈@唖 や ◆ ◆ ◆ 十 十 ◆ 十
や や ◎ φ や 十 十 , 十 ◆ ◆ “
竅@十 十
黶@十 十
掾@十 十 ◎
氈@唖 ◎ 十 ◆ や ◆ や や 十
掾@唖 十 寺 今 や や 十 十 十 十 ◆ や
氈@十 ◆
氈@寺 や
氈@十 十 十
m
十 ◆
F::::十 や ◆ 十 十 十 噸 † や
F領家花こう岩類:::: 十 ◆ 十 † † ◆ や や 十 十 十 十
1500
m
2000m
2000
m
¥ 唖 十 十
¥ 十 寺 寺
¥ ◆ 十 十
¥ ◆ 十 ◆ ◆ 十 寺 十 ◎ ◆
竅@や ◆ 十 十 ◆ 十 尋 十 十 ◇ 寺 十
氈@十 響
¥ 唖 噛
第9図 大阪平野の上町大地を通る東西断面とそこに配列する主な温泉,湧出量,泉質を示した図.断面図上
の温泉番号は第1表に準ずる.
大阪層群では海成層が出現するのは下部層の中部以上で
あり,ここにいう化石水の可能性は考えがたい.第5図
オンの温泉が古くから知られていて,特に後者では
14500ppmもの高Clイオンが含まれている.周辺には第
に南北方向に各温泉を配列し,C1イオン濃度を示した.
三紀の火山岩が分布しており,これらの火山岩類に伴っ
横軸の番号は第1表の温泉を北から並べた番号に対応し
たマグマ性の温泉水が保存されている可能性がある.
ている.ここでは10000ppmに達する高C1イオン濃度
ClイオンとHCO,イオンについての相関は第6図に
を示すものが南北大阪平野の広い範囲にわたって分布し
示されるようにHCO,イオンはほぼ100−1000ppm前後
ていることが分かる.しかも,番号9,33を中心として
の含有量を示すのに対して,C1イオンは変化に富んでい
緩やかなピークをなしているように見える.33の温泉は
る.第7図には南北に配列したHCO、イオンの分布図を
500mと比較的掘削深度が浅いにも関わらず,25000
ppmにも達するClイオンを含んでいる.このような事
作成した.大まかな傾向として,平野の北と南で高く,
実は地下深部からのマグマの影響を考えざるを得ないと
の山地からの地下水が温泉水に混合している可能性が考
いえる.事実,富田林市甘南備,同伏見堂町には高C1イ
えられる.一般に地下水に含まれるHCO3イオンはCa
中心部付近で低くなっているようにみえる.これは周辺
30
石賀裕明・佐藤光男・西川和史
イオンと相関を持つと考えられる.そこで,両者の相関
削を停止している泉源では単純線となっているものが多
を見るためにグラフを作成した(第8図).このグラフ
い.泉質と地質構造の特徴として大阪層群最下部層から
で明らかなことは,Caイオン濃度が100㎎/1を境とし
は高塩濃度の泉質の温泉が湧出する可能性が高いといえ
て大きく2つの傾向をもつグラフに分かれることであ
る.
る.100㎎/1以下では正の相関をもち,これ以上では負
温度勾配のところで述べたように5℃/100mを越える
の相関を持っているようである.前者については,地下
温度勾配はこのような大阪層群最下部層中で起こってい
水中のHCO、に結びつく,Caイオンを,後者は高C1イ
るように見え,高塩濃度の温泉水の存在と最下部層が礫
オン濃度の温泉水に伴われるものと思われる.
岩を主としていることをあわせて考えると,この層が熱
を伝えにくく断熱効果を上げていることが考えられる.
泉質と地質構造について
大阪層群のこのような特性はキャップ・ック効果(ブラ
第9図に上町台地をとおる東西断面および,平野北部
ンケット効果)に似たものといえる.しかも,このこと
のデーターをも併せて示した.この図では水平距離につ
は前述の高C1イオン濃度の温泉とマグマ起源の地下水
の関係を考える上で興味深い.すなわち大阪平野下には
いては泉源を等間隔として示しているが,温度,湧出
量,泉質と地質構造の特徴の関係が把握できるようにし
温泉が存在し,現在は大阪層群によっておおわれている
ている.
と考えられる.
文
湧出量については東部のものに比較して,平野西部で
献
多くなっている.西部についてはいずれも3002/min以
上であるのに対して,東部では2002/minのものも多
市原 実,1991:大阪とその周辺の第四紀地質図.アー
い.地質構造からも明らかなように,基盤の深度が西部
バンクボタ,30,KKクボタ(大阪).
の方が深くなっており,東部の方で浅くなっていること
石賀裕明・佐藤光男,1991:深層ボーリングデーターに
による可能性がある.泉質については明瞭な特徴があ
り,掘削が大阪層群最下部層に達し,基盤まで到達する
よる大阪平野北部の中・古生界.地質雑,97,675−
ような泉源では,10000㎎/2をこえる高い塩濃度の温泉
布浦雅子・富島年男・田中栄次・足立伸一,1993:大阪
となっている.いっぽう,大阪層群最下部層に到着後掘
府の温泉.大阪府公衆衛生研究所報,193−229.
678.