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Journal Article / 学術雑誌論文
感染防御抗原とコード遺伝子 : 分子生物学
的解析研究の動向と進歩 : ムンプスウイル
ス (<特集 : ウイルス病の制圧とワクチン>)
鶴留, 雅人; 菱山, 美智子; 山田, 章雄; 伊藤, 康彦
TSURUDOME, Masato; HISHIYAMA, Michiko; YAMADA, Akio; ITO, Yasuhiko
日本臨牀. 1987, 45(10), p. 74-78.
http://hdl.handle.net/10076/13903
日本臨林第4
5巻・第 1
0号(昭和 6
2年 1
0月号)別冊
特集:ウイルス病の制圧とワクチン
ムンプスウイノレス
人彦
雅康
留藤
鶴伊
菱山美智子
山田章雄
7
4(
2
2
7
4
)
[1
1]ヒト病原ウイルスの感染防御抗原
感染防御抗原とコード遺伝子
一分子生物学的解析研究の動向と進歩
1.ムンプスウイノレス
鶴留雅人本
菱山美智子村
山田章雄料
伊藤康彦牢
はじめに
ムンプスウイルスはノ fラミクソウイノレス属に
属し,耳下腺炎や髄膜炎を主徴とする全身感染
との融合を指す)等の活性を示す. ウイノレスは,
HN蛋白の HA活性を介して細胞の受容体に結
合する乙とにより,感染を開始する.その後, F
蛋白の膜融合活性によりエンベロープと細胞膜
症の病原体である. ウイノレスの外被(エンベロ
との融合が起こり, ウイノレス核酸が細胞質内に
ープ)には 2種類の糖蛋白が存在し,病原性発
、 性の機能について
侵入する. HN蛋白の N A活
J
現に重要な働きをしている.また,生体の特異
は,まだ十分には明らかでないが,受容体を破
的感染防御反応は,おもに乙れらの蛋自に対し
壊する作用がある乙とから,細胞からのウイル
て向けられていると思われる. このウイノレスは,
ス放出およびウイノレスの自己凝集の阻止に関与
比較的古くから研究の対象として扱われてきた
すると考えられている.
が
,
f
也のノマラミクソウイ jレス,たとえばセンダ
イウイルス等に比べると,分子生物学的な解析
2
. 蛋白のコード遺伝子と一次構造
, H Nお
ムンプスウイルスのゲノム RNAは
は遅れているのが現状である.本稿では,両糖
よび F蛋白を含めて少なくとも 6種類の構造
蛋白について,今までに得られた知見を紹介し,
蛋白をコードしていると推定されるが,現在の
これらの機能について考えてみたい.
・
1.ウイルス糖蛋白 CHemagglutinin-Neura
minidase;HN蛋白と Fusion;F蛋白)
ところ,塩基配列の明らかになった領域はない.
S
e
r
v
e
rらのは, F蛋自に対するモノクロ一ナノレ
抗体を用いて F蛋白のアフィニティー精製を
行い, Flおよび F2サブユニットの N 末端の
1.一般的性状1)
アミノ酸配列を決定した.図 12) I
乙示すように,
HN蛋白は分子量 74
,
.
_
,8
0K で,赤血球凝集
Flサブ、ユニットの N 末端のアミノ酸配列を他
CHemagglutination;HA)活性およびノイラミ
のパラミクソウイノレスのそれと比較すると,極
ニダーゼ CNeuraminidase;NA)活性を示す. F
めて類似性の高いことがわかった.センダイウ
蛋白は分子量 65,
.
_
,7
4K で,宿主細胞由来の蛋
イノレス等で=よく解析されているように, 乙の部
.
_
,6
1K)および F2
白分解酵素によって FlC58,
分は疎水性が強く, F蛋白の溶血活性や膜融合
C
I
0
,
.
_
,1
6K)の両サブ、ユニットに解裂し,溶血,
活性の発現に重要な領域である.また, この疎
膜融合(本稿では,エンベロープと細胞膜との
水性領域は調べられたノずラミクソウイルスの F
融合を指す)あるいは細胞融合(細胞膜と細胞膜
蛋白の間でよく保存されており,乙れらのウイ
*Masato TSURUDOME,Yasuhiko lTo :三重大学医学部・微生物学
本*
Michiko HISHIYAMA,Akio YAMADA :国立予防衛生研究所・麻疹ウイルス
特集:ウイノレス病の制圧とワクチン
7
5(
2
2
7
5
)
1
0
ムンフ。スウイルス
2
0
1
5
Phe-Ala-Gly-I
le-Ala-lle-Gly-1Ie-Ala-Ala-L
eu-Gly-Vaト Ala
-Thr-Ala
-Ala
-G
ln
-Val-Thr-
Val-Val
Leu-Ala -
11
e -
Ala-11
e-
Gly-Val -
センダイウイルス 1
Phe -
Ala-Val
1
1e-11
e-
センダイウイルス 2
Phe -
Ala-Val
Thr-Ile -
-
センダイウイルス 3
Phe -
Ala-Val
Thr-Ile
-
SV5
Ala
NDV
← -
-
-
Val
Ala
Val -
Val
Ala
1
1e
Val
Ala
1
1e
Val -
Ser -
1
1e
Pro
図 1 ムンプスウイルスと他のパラミクソウイルスの F1サブユニットの N 末端のアミノ酸
S
e
r
v
e
rら2) による)
配列の比較(←線部はすべてのウイノレスで一致している )(
レスの存続にとって必要な領域であると考えら
j
イルス放出量は,親株に比べて格段に低下して
れている.
いた. 乙の変異株は, NA活性が強く細胞融合
3
. 蛋白の機能と病原性
活性のない親株とは異なり,細胞融合活性を示
センダイウイノレスやニューカッスル病ウイノレ
した.なお,いずれの株も多段増殖をした.
ス (NDV)の F蛋白は,その解裂と病原性ある
以上の知見から以下のことが考えられる.
いは膜融合活性とが密接に関連しているが,ム
1
) HN蛋白は, HA活性を介して細胞の受
ンプスウイノレスの F蛋白では,このような関連
容体に結合することにより, F蛋白による膜融
性は明らかで、ない.一方, Merzと Wolinsky3)
合に寄与するだけではなく, NA活性を介して
によると, NA活性の弱いウイルス株ほど細胞
F蛋自による細胞融合を修飾(抑制)するものと
変性効果が強く,中枢神経ζ
i対する病原性も強
思われる.
い傾向があるという.乙乙で細胞変性効果とい
2
) NA活性がなくてもウイルスの多段増殖
うのは,細胞融合(巨細胞形成)の乙とで,ウイ
は十分に起こる乙とから,膜融合は細胞融合と
ルス増殖の過程で合成された F蛋白による,
は異なり, NA活性による修飾は受けないと思
細胞膜と細胞膜との融合を意味する.彼らの用
われる.この乙とは,膜融合と細胞融合の機構
いた株は,細胞融合活性の有無比関わらず多段
の相違を反映しているのかもしれない.
増殖し,また,いずれの株も F蛋白が解裂し
3
) NA活性の低いウイノレス株は,一旦放出
ていることがその後発表された 4) 細胞融合活
されても細胞の受容体と再結合しやすいため放
性のない株に感染した細胞を蛋白分解酵素(キ
出量が少なく,その結果,蓄積したウイノレスに
モトリプシン)処理して,特異的に HN蛋白を
より細胞融合が起きやすくなるとも考えられる.
のぞいてやると,細胞融合が起こる乙ともわか
しかし,
った 5) 興味深いことに,この処理では,細胞
らかでない.また,ウイルスが細胞外から作用
乙の放出と細胞融合との関連はまだ明
からのウイノレス放出量には変化が認められな
して細胞融合を起乙す現象は,通常,濃縮した
かった. Waxhamと Wolinsky6) は
, NAの阻
多量のウイ jレスが必要とされる極めて人工的な
-deoxy-2, 3-dehydro-Na
c
e
t
yト
害剤である 2
ものであり,放出されたウイノレスが直接細胞に
neuraminic a
c
i
d(DANA)を用いて, NA活性
作用して細胞融合を起乙すことは考えにくい.
のない変異株を選別することに成功した.乙の
今後の研究に期待されるところである.
変異株を,低温でトリ赤血球に結合させた後,
4
. モノクローナル抗体 (MAb)による解析
温度を上げてウイノレスを放出させたと乙ろ, ウ
ムンプスウイノレスの HN蛋 白 や F蛋白に対
7
6(
2
2
7
6
)
日本臨林
4
5巻 1
0号(10,1
9
8
7
)
表 1 H N蛋白に対する MAbの抗体活性 (
U
r
v
e1
l7lより改変)
MAb
No.
抗
アイソタイプ
ELISA
HI
体
価
a
NI
Nlb
HLI
中和
つ
中
qJAτ
ム
ハ
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qJQU D
戸 A V
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<10
<10
<10
<10
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<4
<4
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IgG1
1
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1
05
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<5
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<4
<4
<4
2
8
0
1,
2
8
0
1,
1
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1
6
IgG1
IgG2a
IgG1
IgG1
IgG1
1
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1
06
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1
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6
IgG1
IgG1
IgG2a
1
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6
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3
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6
6
4
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6
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6
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1
2
8
、
っ
qL25
IgM
IgG2a
IgG1
IgG1
4
5
10
A
1
05
ノイラミニダーゼ、の基質としてフェツインを用いた.
ノイラミニダーゼ、の基質としてノイラミンラクトースを用いた.
a
b
表 2 F蛋白に対する MAbの抗体活性 (
O
r
v
e1
l7lより改変)
MAb
No.
1,
1
0
3
2,
0
4
9
1
0
9
2,
2,
1
1
7
1
5
5
2,
1
5
9
2,
3
6
9
5,
4
1
4
5,
4
1
8
5,
4
3
9
5,
5
1
9
5,
5
2
5
5,
抗体価
アイソタイプ
ELISA
IgG1
IgG1
IgG1
IgG2b
IgG1
IgG1
IgG1
IgG2a
IgG2a
IgG2a
IgG2b
IgG2a
5
1
0
1
04
1
04
1
04
1
05
5
10
1
05
1
06
1
06
1
05
1
05
106
HI
Nla
HLI
<5
<5
<5
<5
<5
<5
<5
<5
<5
<5
<5
<5
<4
<4
<4
<4
<4
<4
<4
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0
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0
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<1
0
中和
<4
<4
<4
<4
<4
<4
<4
<4
<4
<4
<4
<4
ノイラミニダーゼの基質としてフェツインを用いた.
a
する MAbに関しては,いくつかの報告がある
種類の抑制能の有無で,表 1のように 4つのグ
が
, Orve1
l7)によるものが代表的なものであろ
ループに分けられた.なお, (
3
)のグループに
, ウイノレスの生物活性に
う.彼の得た MAbの
は基質の違いにより NIを示さない MAbが含
対する抑制能(抗体価で表した)を,表 17)およ
3
)のグ
まれる. ウイノレス中和能は HIを示す (
び 表 27) に示す.なお, MAbの 量 は ELISA
ノレープの MAbが最も強く, ウイノレスの HN蛋
で の 抗 体 価 で 表 し で あ る . HN蛋自に対する
白と細胞の受容体との結合を阻害する乙とが,
MAbは
, HA活 性 の 抑 制 (H
I
)
, NA活 性 の 抑
有効な中和に結び、ついていると思われる.これ
),これら 3
制 (Nl)および溶血活性の抑制 (HLl
は HA活 性 を 持 つ ほ か の ウ イ ル ス の 場 合 と 同
特集:ウイルス病の制圧とワクチン
7
7(
2
2
7
7
)
様である. HIを示さず NIのみを示す (
4
)のグ
HN蛋白の NA活性が細胞融合を抑制する乙と
ループの MAb,また, HIも NIも示さない (
2
)
のグループの MAbも中和能を示した.これら
について述べたがi著者らは, MAbを用いて,
HN蛋白と細胞融合に関する別の所見を得た 8)
の MAbはウイノレスと細胞との結合を阻止でき
すなわち単層細胞培養において,すべての細
ないと思われるが,いずれも比較的強い HLI
胞が感染する濃度でウイルスを吸着させ,
を示すので,おそらく,結合後に起乙る膜融合
間後に培養上清中 KMAbを加えて,その後に
(F蛋自による)に影響するために,ウイルスが
起こる細胞融合を抑制するかど、うかを調べてみ
細胞に侵入できないものと想像される. F蛋白
た.その結果, HN蛋自に対する 6つの MAb
に対する MAbは,比較的弱い HLI以外には
のうち, 3つが細胞融合の抑制 (FI)を示した. F
I
ウイルスに対する抑制能を示さなかった(表 2
)
.
著者らの得た MAbl乙関しても,以上と同様
の結果が得られている 8) ととろで,前項では,
6時
の強さと, HI, NIおよび中和の強さとには関
連が認められなかった. F
Iが際だつて強い MAb
は Orve1
l7)の (
4
)のグループの MAbと似た'性
図 2 HN蛋自に対する MAbによるウイノレス感染拡大の抑制
(Tsurudomeら@による〉
a,b,c,:F1を示す MAb
,:F1を示さない MAb
d,e,f
7
8(
2
2
7
8
)
日本臨林
4
5巻 1
0号(10,1
9
8
7
)
質を持ち,中等度の NIを示した.細胞融合が
始まってからでも,この MAbを加えることで
融合の進行は抑制された.なお,
F蛋自に対す
る 3つの MAbを得たが,いずれも FIを示さ
なかった.次に,ウイルス感染の拡大に対する
MAbの効果を調べてみた.実験は,細胞約 10
個当たり 1個のウイノレスが吸着する条件でおこ
ない,ウイルス抗原の検出には直接蛍光抗体法
を用いた.図 28)に示すように, H N蛋白 ζ
l対
する MAbのうち, FIを 示 す 3つの MAbを
添加する乙とにより,ウイルス抗原は,最初に
感染した細胞のみに封じ込められ,近傍の細胞
への感染拡大が抑えられる乙とがわかった.
MAbを用いて得られた以上の知見からも,
H N蛋白が細胞融合という現象に積極的な役割
を果たしている可能性は高いと考えられる. H N
蛋白は,細胞融合を抑制する N A活性以外に
も,細胞融合に促進的に関与する未知の機能
(領域)を持っている可能性があり,特定の MAb
がこの領域の近傍に結合することにより細胞融
合を抑制するのかもしれない.
おわりに
以上のように,ムンプスウイノレスでは,
F蛋
白が担っている細胞融合活性に対して, H N蛋
白が促進的にも抑制的にも関与していると思わ
れる.他のパラミクソウイノレスでは, H N蛋白
が細胞融合を抑制するという例はない.センダ
イウイノレスの H N蛋 白 が 膜 融 合 や 細 胞 融 合 の
発現に重要な機能を果たすという報告が一部の
研 究 グ ル ー プ に よ り な さ れ て は い る が9H1),
一般ζ
iパラミクソウイルスでは,細胞融合にお
1
2
8
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9
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ける H N蛋 白 の 積 極 的 な 関 与 は 考 え ら れ て い
ない.ムンプスウイノレスが例外であるのか否か
は今後の重要な研究課題であると思われる.
参考文献
1)Wolinsky,J
.
8
. &8
e
r
v
e
r,A.C.:Mumps
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