地殻及びマントルの運動を考慮した津波伝播の数値解析 Numerical Simulation of Tsunami Propagation through the Sea on the Plate or over the Mantle 鹿 児 島 大 学 大 学 院 ・ 理 工 学 研 究 科 柿 沼 太 郎 (Taro KAKINUMA) * 鹿児島大学大学院・理工学研究科 吉川 諒 (Ryo YOSHIKAWA) * 東北大学・災害科学国際研究所 山下 啓 (Kei YAMASHITA) * * * Graduate School of Science and Engineering, Kagoshima University ** International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University 1. 研 究 の 背 景 ・ 目 的 従 来 実 施 さ れ て い る ,浅 水 方 程 式 系 に 基 づ く 遠 地 津 波 の 数 値 解 析 で は ,津 波 第 1 波 の ピ ー ク 到 達 時 刻 が , 実 際 の 到 達 時 刻 よ り 早 い 時 刻 と し て 算 出 さ れ る こ と が 知 ら れ て い る ( Inazu and Saito, 2013; 高 川 , 2013; Watada et al., 2014). 本 研 究 で は , こ の 原 因 を 地 殻 や マ ン ト ル に 求 め る .す な わ ち ,海 水 下 に あ る プ レ ー ト が 弾 性 体 と し て 運 動 し ,ま た ,そ の 下 方 に あ る マ ン ト ル 上 層 が 流 体 の よ う に 振 る 舞 い ,こ う し た プ レ ー ト や マ ン ト ル の 存 在 が ,津 波 伝 播 に 影 響 を 与 えると仮定する.そして,上記の走時差に関して,数値解析に基づき調べる. 2. 地 球 の モ デ ル 海 水 の 密 度 を ρ w と し , 静 水 深 h w が 一 様 で あ る 海 域 を 対 象 と す る . 図 -1 に 示 す よ う に , こ の 海 水 下 に 海 底 面 が あ り ,そ の 下 に 地 殻 が ,更 に そ の 下 方 に マ ン ト ル( 上 部 マ ン ト ル )が 存 在 す る .こ の う ち ,地 殻 及 び マ ン ト ル 表 層 か ら な る プ レ ー ト が ,水 平 ス ケ ー ル の 大 き な 一 つ の 弾 性 体 で あ り ,法 線 方 向 の 変 位 が 一 定 と な る 中 立 面 を 有 す る と 仮 定 す る .こ の と き ,プ レ ー ト の 運 動 は ,プ レ ー ト の 厚 さ を 考 慮 す る こ と な く 中 立 面 上 で 考 え る こ と が で き る .プ レ ー ト の 平 均 的 な曲げ剛性率を B とする.なお,ここでは,複数のプレート間の不連続性を考慮しない. 他 方 ,プ レ ー ト の 下 方 に あ る マ ン ト ル 上 層 が ,完 全 流 体 で あ る と 仮 定 す る .マ ン ト ル の 密 度 を ρm と し , マ ン ト ル 上 層 の 鉛 直 方 向 の 深 さ を hm と す る . そ し て , マ ン ト ル 上 層 の 下 面 が , 水 平な固定床であると仮定する. 以 上 の よ う に ,解 析 対 象 の 初 期 状 態 で は ,水 平 な 固 定 床 の 上 に ,マ ン ト ル 上 層 に 相 当 す る 深 さ hm の 流 体 が あ り , そ の 上 に , プ レ ー ト に 相 当 す る 厚 さ 0 の 薄 板 が 横 た わ り , こ の 薄 板 の 上 に , 津 波 が 伝 播 す る 深 さ hw の 海 水 が 湛 え ら れ て い る . 海 水 の 上 面 は , 自 由 水 面 と す る . 3. 数 値 解 析 手 法 上 記 の よ う な ,海 水 ,プ レ ー ト 及 び マ ン ト ル 上 層 の 連 成 モ デ ル を 対 象 と し た 数 値 解 析 の た め に ,多 層 流 体 と 大 規 模 薄 板 構 造 物 の 相 互 干 渉 の 解 析 の た め の 数 値 モ デ ル( Kakinuma et al.,2012) を 適 用 す る . 流 体 運 動 に は , 速 度 ポ テ ン シ ャ ル φ を φ (x,z,t) = f 0 (x,t) + z f 1 (x,t) + z 2 f 2 (x,t) と 展 開した,変分原理に基づく非線形波動方程式系を適用し,波の分散性を考慮する. と こ ろ で ,本 数 値 モ デ ル の 適 用 に 際 し て ,簡 単 の た め に ,マ ン ト ル 上 層 を 完 全 流 体 と 仮 定 す る こ と に な る .そ こ で ,マ ン ト ル 上 層 の 密 度 ρ m 及 び 深 さ h m の 値 を 変 え る こ と に よ っ て ,マ ン ト ル 上 層 の 不 明 確 な 流 動 性 や 流 動 範 囲 を 規 定 す る .例 え ば ,マ ン ト ル 上 層 が ,よ り 動 き に く い 状 態 を 想 定 す る 場 合 に は , マ ン ト ル 上 層 の 密 度 ρm を 比 較 的 大 き な 値 に 設 定 す る . 4. マ ン ト ル 上 層 及 び プ レ ー ト の 津 波 に 対 す る 影 響 図 -2 に , 時 刻 t = 2,000 s に お け る 水 面 形 z = η 及 び 海 底 面 形 z = b + h w の 計 算 結 果 を 示 す . こ こ で , B = 0.0 Nm 2 及 び ρ m = 3,300 kg/m 3 で あ り , h m = 1,000 m, 6,000 m, ま た は , 196,000 m で あ る . ま た , ρ m は , Dziewonski and Anderson( 1981) を 参 考 に し て 決 め ら れ て い る . 比 較 の た め に ,マ ン ト ル 上 層 と プ レ ー ト の 両 者 の 運 動 を 考 慮 し な い 場 合 の 1 層 問 題 の 津 波 の 水 面 形 z = η ( h m = 0 m) が 描 か れ て い る . マ ン ト ル 上 層 の 流 体 運 動 に 伴 い , 水 面 形 と 海 底 面 形 が 同 位 相 で 図 -1 地 球 の 構 造 モ デ ル 図 -3 時 刻 t = 2,000 s に お け る 水 面 形 及 び 海 底 面 形 ( B = 3.43 ×10 2 0 Nm 2 , ρ m = 3,300 kg/m 3 , h m = 196,000 m) 図 -2 時 刻 t = 2,000 s に お け る 水 面 形 及 び 海 底 面 形 ( B = 0.0 Nm 2 , ρ m = 3,300 kg/m 3 ) 図 -4 時 刻 t = 2,000 s に お け る 水 面 形 及 び 海 底 面 形 ( B = 3.43 ×10 1 0 Nm 2 , ρ m = 33,000 kg/m 3 , h m = 196,000 m) あ る 表 面 波 モ ー ド と ,逆 位 相 で あ る 内 部 波 モ ー ド の 二 つ の モ ー ド が 伝 播 す る .こ の う ち ,内 部 波 モ ー ド は , マ ン ト ル 上 層 の 深 さ hm が 大 き い ほ ど , 津 波 高 さ が 大 き く な り , 波 速 が 大 き く な る 傾 向 を 有 す る . そ し て , h m = 6,000 m の 場 合 , 内 部 波 モ ー ド よ り も , 表 面 波 モ ー ド の 津 波 高 さ が 大 き い が , 一 方 , h m = 196,000 m の 場 合 , 内 部 波 モ ー ド の 津 波 高 さ の 方 が 大 き い . 図 -3 に , ρ m = 3,300 kg/m 3 及 び h m = 196,000 m で あ り , 曲 げ 剛 性 率 を B = 3.43×10 2 0 N m 2 と し た 場 合 の 結 果 を 示 す . 表 面 波 モ ー ド の 波 速 は , 約 404.0 m/s で あ り , 対 応 す る 図 -2 の 場 合 よ り も , 約 4.0 m/s 大 き い . ま た , 図 -4 に , B = 3.43×10 1 0 Nm 2 , ρ m = 33,000 kg/m 3 及 び h m = 196,000 m の 場 合 の 結 果 を 示 す .マ ン ト ル 上 層 の 密 度 ρ m が 大 き い 図 -4 の 場 合 ,表 面 波 モ ー ド の 津 波 高 さが著しく低く,内部波モードの津波が津波第 1 波として襲来する.内部波モードの津波は, 波 速 が 約 192.0 m/s で あ り , 波 速 が 約 198.0 m/s で あ る 1 層 問 題 の 津 波 よ り も 遅 れ て 伝 播 す る . こ の 場 合 ,チ リ ・ 日 本 間 の 距 離 を 17,000 km,静 水 深 を 4,000 m と す る と ,チ リ 津 波 は ,1 層 問 題 の 津 波 よ り 45 分 程 度 遅 れ て 日 本 に 到 達 し , こ れ は , 従 来 の 計 算 結 果 よ り 30 分 ~ 1 時 間 30 分 程 度 遅 れ る 観 測 結 果 と 調 和 的 で あ る .こ の よ う に ,マ ン ト ル 上 層 及 び プ レ ー ト が ,あ る 条 件 を満たす場合,1 層問題の津波より遅れて伝播する,津波高さが相対的に大きな内部波モード の津波が存在する. 参考文献 高川智博: 水の圧縮性と地殻弾性を考慮した津波の分散関係解析:遠地津波予測の精度向上に向けて, 土 木 学 会 論 文 集 B2( 海 岸 工 学 ) , Vol. 69, No. 2, pp. 426-430, 2013. Dziewon ski, A. M. and D. L. And erson: Prelimin ary referen ce earth mod el, Ph ys. Earth. Planet. In t., Vol. 25 , pp. 297-356, 1981. Inazu, D. and T. Saito: Simulation o f distant tsun ami prop agation with a radial lo adin g d efo rmation effect, Earth Plan ets Sp ace, Vol. 6 5, pp. 835-842, 2013. Kakinu ma, T., K. Yamashita and K. Nakaya ma: Su rface and in tern al waves due to a mo vin g load on a very large floatin g stru ctu re, J. App lied Math ematics, Vol. 2012, Article ID 830530, 14 p ages, 2012. Watad a, S., S. Ku su moto, and K. Satake: Traveltime delay and initial ph ase reversal o f distant tsun amis coupled with th e self-gravitatin g elastic Earth, J. Geoph ys. Res.: Solid Earth, Vol. 119, Issu e 5 , pp. 4287-4310, 2014.
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