精巣腫瘍治療中に胎児型ヘモグロビン持続高値を認めた一例

精巣腫瘍治療中に胎児型ヘモグロビン持続高値を認めた一例
◎下元文太 1)、稲葉
山城安啓 3)
亨 1)、奥村敬太 1)、廣瀬有里 1)、下間雅夫 1)、南部 昭 1)、小森敏明 1)、藤田直久 1)、中村晃和 2)、
京都府立医科大学 臨床検査部 1)、京都府立医科大学 泌尿器科 2)、山口大学医学部保健学科 3)
【はじめに】胎児型ヘモグロビン(fetal hemoglobin; HbF)
【追加検査】1)摘出リンパ節免疫組織化学:明らかな HbF
は健常成人では Hb 分画の 1%以下に過ぎないが、βサラセ
陽性細胞集団を認めず
ミア等の先天性疾患や骨髄異形成症候群(MDS)、薬剤投与(特
点電気泳動:異常バンド(-), HbF 増加, HbA2 著明減少 4)
にハイドレア)、HbF 産生腫瘍等の様々な原因により、異常
Hb 遺伝子解析:βサラセミアを示唆する所見なし
高値を示すことが知られている。今回、我々は HbF 持続高値
【考察】当院入院時のスクリーニング検査として
を示した再発性精巣腫瘍の一例を経験したので報告する。
HbA1c(HPLC 法)測定時に、偶然発見された HbF 異常高値の症
【症例】30 歳代男性【家族歴・既往歴】特になし
例を提示した。HbF 高値の原因として、現在までの検討から
【現病歴】2010 年に某院で左精巣腫瘍と診断され、抗癌剤
はβサラセミアは否定的である。担癌患者であるが、HbF 産
治療にて一旦寛解となった。2012 年 2 月に腹部リンパ節腫
生腫瘍は否定的であり、ハイドレア投与歴もない。また、抗
大を認めたため、抗癌剤治療追加後に同年 6 月当院転院。
癌剤治療終了から 2 年以上経過後も HbF は持続高値を示し、
【入院時検査】RBC 398 万/μL(形態異常なし), Hb13.1g/dL,
一方で治療関連 MDS を示唆する所見もない。以上から、当該
MCV 97.5fL, WBC 4,100/μL(分画異常なし),PLT 20.9 万/μ
患者の HbF 持続高値の原因として、現段階では遺伝性持続性
L, 肝機能および腎機能異常なし,Glu 89mg/dL, HbA1C(HPLC
高 HbF 血症(hereditary persistence of fetal hemoglobin:
法)4.1%, HbF 16.4%, AFP および HCGβ基準範囲内, 腹部 CT
HPFH)の可能性が示唆された。
にて後腹膜リンパ節腫大(+)【臨床経過】後腹膜リンパ節摘
2)Hb 不安定試験:陰性
3)等電
HPFH は基本的に無症状であり患者に不都合は生じないが、
出にて組織学的に精巣腫瘍の転移を確認したが、他部位に病
当該患者では精巣腫瘍再発や治療関連 MDS 等による HbF 高値
変を認めず無治療経過観察とした。2014 年 7 月現在再発は
であれば予後不良と考えられるため、今後も慎重な経過観察
認めていないが、HbF 7-9%と持続高値を示している。
が必要と思われる。