修 士 論 文 の 和 文 要 旨

修 士 論 文 の 和 文 要 旨
研究科・専攻
氏 名
論 文 題 目
電気通信大学大学院 情報理工学研究科 先進理工学専攻 博士前期課程
菅野 雄介
学籍番号
1033033
Mn 吸着 GaAs(001)表面の原子配列および電子・スピン状態
要 旨
ハーフメタル薄膜としての可能性が期待される zinc-blende 型 MnAs 薄膜や GaMnAs 薄膜の,GaAs
基 板 上 に お け る 原 子 レ ベ ル の 成 長 機 構 を 理 解 す る 上 で , Mn 原 子 の 初 期 吸 着 位 置 の 決 定 と
well-defined な表面構造の同定は大変重要な鍵を握っている.これまで,GaAs(001)表面上における
Mn 初期吸着過程の解析は数多く行われてきたが,well-defined な Mn 初期吸着構造モデルが確定さ
れるにはいたってはおらず,基板表面上の Mn 吸着サイトや表面 dimer 種といった原子配列ついてはい
くつかの可能性を残したままである.
本研究では,作製条件に応じた GaAs(001)-(2×2)Mn(Mn=0.25ML)吸着表面の原子配列を明らかに
することを目的として,最表面 dimer 種がそれぞれ Ga-As,As-As,Ga-Ga で構成されるモデルについ
て,スピン密度汎関数理論に基づく第一原理計算を行った.
GaAs(001)-(2
2)構造 Ga-As,As-As,Ga-Ga dimer モデルについて,Mn 初期吸着位置を設定
し,最適化構造,エネルギーバンド図,STM シミュレーション像を求めた.計算はすべて Mn が強磁性結
合であることを仮定した.結果,どの dimer 種のモデルも Mn 最安定吸着サイトはすべて同じとなり,
Mn1 原子あたりのスピン磁気モーメントは 5.0μB となった.また,エネルギーバンド図から,Mn-3d 電子
は低いエネルギー帯で分散の小さいバンドとして現れたことも考慮すると,Mn は GaAs 基板や dimer の
Ga,As 原子の sp 軌道とは相互作用がないと考えられる.Ga-As dimer モデル最安定構造の Mn は,
最近接原子の As と原子半径和程度の原子間距離(2.8Å)のサイトに存在していたことから,Mn-As 化学
結合を形成していると予想される.Ga-As dimer 最安定構造に限っては,他の Mn 初期吸着位置に比
べて基板表面から 4 層目の Ga と 3 層目の As によって構成される As-Ga-As 結合がなすボンド角がバ
ルク GaAs の構造と比べて大幅に変化した.したがって,Ga-As dimer モデルの最適化構造は基板の
原子配列を再構成することによりエネルギー利得を得ていると考えられる.Ga-As dimer モデルの STM
シミュレーション像は filled state,empty state 共に実験結果をよく一致した.Ga-As dimer モデルを基
準とした表面エネルギー差を評価した結果,As-As dimer,Ga-Ga dimer モデルについても状態相図
から,dimer 原子のケミカルポテンシャル次第では析出しうる構造であることも示唆された.GaAs(001)面
における Mn 吸着構造を特定したことは,Mn 吸着サイトを制御し,ハーフメタル薄膜を作製するための
第一歩となる.